第七演目 【魔界でのエンターテイメントと言えば】
「ごめん……ゴードン。魔界に帰れなくしちゃって……
ボクが討伐されるから……その……好きに生きてくれ……」
世界にボクの存在が公開された。
これでもう、世界から狙われる存在になってしまっただろう……
魔王の代役はもう無意味だ。
ロルムがうなだれていると、ゴードンは少し困ったように答える。
「ロルム様。お気になさらず。公開されたのは名前だけなので、特に問題はないかと……」
「え……そうなのっ?姿とかはバレてないの……?」
「はい。我がロルム・ツィカーデを名乗り、勇者の相手をすることも可能です」
「あ、なんだっ!ボクまだ討伐対象じゃないんだっ!じゃあ会議の続きを……」
と、言おうとしたが、頭がボーっとする。
ロルムは、ドアのない入口の方へ目を向けた。
長方形の中を、宙を舞う雪が闇に溶けるように消えていく。
「いや、今日はもう遅いな。会議は明日にして、ゆっくり寝よう」
「それでしたら……姫様のためにコレを作ってみました」
セワスの後ろには、お姫様が眠っていそうな、カーテン付きのベッドが用意されていた。
え?いつからそこに?
部屋の1/3くらいはベッドで埋まっていた。
ちょっと。デカいよ……狭いよ……
それに――
「〝魔王様〟禁止って言ったけどさ……姫様呼びなの……?」
「執事たるもの、姫様に仕えることこそ誉れ!……そう耳にしましたので」
「まあ……いいか。そう呼ぶやつがいれば、魔王っぽくみえない……のか?」
「承諾いただきありがとうございます……では、私のことはじいじとお呼びください」
その発言を聞いたゴードンが、低い声で口を開いた。
「おい。執事殿……後で話がある……」
え。
何。怖い。
ゴードンがセワスに向かっていく。
魔王に対して不敬すぎて、ついにキレちゃったのか……?
たぶん、ボクのツッコミ待ちだぞ、セワス。
そして、ゴードンがセワスの横まで歩み寄ると――
「では、我のことはパパとお呼びください。ロルム様」
「――お前もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!?」
――こちらを向いて、セワスと一緒に一礼した。
くそっ!こいつらグルなのっ!?
いつの間にそんなに仲良くなったんだ……?
「ねぇ……ずっと礼し続けるのやめれる?呼ばないって……」
「そうですか……今、返答をいただきましたので、やめさせてもらいますね」
そう言ってセワスが姿勢を戻すと、ゴードンも姿勢を戻した。
けど……ゴードンがずっとセワスを睨んでるんだけどっ!?
何っ!?
「ゴ、ゴードン。どうしたんだ……?セワスを召喚したの嫌だったか……?」
「いえ、決してそのようなことはありません」
「そ、そうか……」
じゃあ、その顔やめてくれよぉぉぉぉ。
怖いよ!どうしちゃったんだ……?
「……あ、そうだセワスっ!このベッドデカすぎっ!狭いよっ!」
「そうですか……?では明日……この小屋を改築いたしましょう……」
「おお!そんなことまでできるの?助かるっ!」
「できませんよ。なんとなくでやってみたら、いい感じになるもので」
「え……」
いや、ボクの魔法もそうか。
『設定』ってなんか……できるようになるんだろう。
「あ、じゃあゴードンも何かできるようになったことってあるのか?」
「いえ、魔力が増えたこと以外は特に……」
「……そ、そうか」
気まずいって。
さっきまで「パパとお呼びください」
とか言ってたやつの顔じゃないって。
「まあ……もう眠さがすごいから、ボクは寝るぞ?」
すると、ゴードンの表情が明るくなった。
「はい、ロルム様。おやすみなさいませ」
「……?」
ロルムは、転生初日からの怒涛の衝撃に限界を迎える。
無駄にふかふかなベッドに倒れ込むと、数秒で眠りについてしまった。
その後、何が起こったかも知らないまま……
○ ○ ○
「ふぁ~あ……」
ロルムは朝日に照らされ、目を覚ます。
今日は晴れているようだ。
ベッドから降りると二人の姿が見えない。
小屋の外も少し探したが、見つからなかった。
「あれ……?ゴードンー!セワスー!」
「はい、ロルム様」
上から声がした。
ロルムはベッドの上を見上げる。
そこには、ベッドの屋根部分で起き上がるゴードンの姿があった。
「そこで……なにしてるんだ?」
「睡眠をとっておりました」
「なんでベッドの屋根……?硬くない?」
「執事殿が、ここにも睡眠スペースを作ってくれていたようなのです」
「あ、これ二段ベッドだったのっ!?この見た目で?」
カーテン付きの高級感あふれる赤紫色のベッド。
その屋根部分は――まさかの二段ベッドだった。
いや、スペース考えたら効率的かもしれないけどさぁ。
セワスが遊んだだけの可能性もあるんだよなぁ……
というか、主人の上で寝ることに対して何も思わなかったのか……?
ダメだ!今日はこういうこと考えてる暇はないんだ。
「セワスは?」
「ここにおりますよ」
ロルムは声のした方へ振り返る。
「むっ」
しかし、その先にはセワスの人差し指が待っていた。
こうして、ロルムの頬はむにっとつつかれた。
……はぁ。
よろしくない。
早く本題に入ろう。
このままツッコむと、時間を無駄にしてしまう。
――ボクにはとにかく時間が無いんだっ!
「おはよう……セワス。さっそく、劇団魔王会議を始めるぞ」
「承りました」
こうして、三人は席につく。
今回の議題は〝どうやって勇者を楽しませるか〟だ。
「そういえばゴードン。昨日、勇者を楽しませるアイディアがあるって言ってたよな?」
「はい。お笑い芸魔を召喚してみてはいかがでしょう?」
「すぅ――――……一応、それ何か聞かせてもらってもいい?」
「魔界でのエンターテイメントと言えば、お笑い。そのプロフェッショナルです」
「おーけー……」
うん。お笑い芸人だね。
魔界ってお笑いが流行ってるの?
確かにセワスもそんな感じある……なんか楽しそうな場所だなぁ。
ボクはいけないんだけど。
「でも、楽しませるのに、お笑いはアリかもな……」
「おすすめは『暗黒微笑』のお二人です」
有名なのかな?
でも、指定して召喚ってできるのか……?
まあ、魔力はいっぱいあるんだし、数撃ってみるのも手かな。
「じゃあ、そのあんこく……びしょー?ってやつを召喚してみるよ」
「暗黒微笑です。お願いしますロルム様」
ロルムは席から立ち上がり、小屋の空いている空間に向かうと――
「――よし、暗黒微笑……お前の『設定』を開始するっ!」
ブォゥンッ!
瞬間、世界が静まり返り、空間は色を忘れた。
ブォゥンッ!
そして空間は色を思い出し、世界は活気を取り戻した。
「ん?あれ……」
――気づけば、ロルムの前にはウィンドウが一つ。
〈デンッ!〉
[――――魔力が足りないため、召喚できません。――――]
「……なんだこれは?魔力ならこんなに……」
ロルムはステータスを開くと、魔力のバーがどこまでも伸びていく。
それに応えるようにウィンドウの文が変化した。
〈デンッ!〉
[――――設定用魔力が空のため、召喚できません。――――]
〈デンッ!〉
[――――設定用魔力が空になると、一定期間の設定制限がかかります。――――]
〈デンッ!〉
[――――次の使用可能は4日後です。使いすぎにはご注意ください。――――]
そう表示すると、ウィンドウは消えてしまった。
そういえば、朝起きた時は気分が良かったな。
一度寝ると、嘘みたいに疲れが吹き飛んでいた。
……で?
ロルムの体が、ぷるぷると震えだす。
そして、今までで一番大きく息を吸い込んだ。
すぅ――――――――――――う
「じゃあ、最初から説明してくれよっ!またこのパターンなのっ!?」
「[ご注意ください。]じゃないよっ!まず、注意をしてくれよっ!
[よろしいですか?]を聞いてくれよっ!この大量の魔力は、何に使えばいいんだよっ!」
「ボク、寿命6日だよ?もう遊んでる暇ないんだよっ!」
「そんなボクの命を、弄ぶなぁぁぁぁぁああああああっ!!」
――ロルムは今日も元気。そして、今日も疲れが溜まりだす。
――魔王の寿命はあと6日。




