第六演目 【ボクの名は】
「お初にお目にかかります。魔王様」
「なぁ……やっぱり裸で挨拶するのか……?」
眼前には全裸の老人。
魔族って変態しかいないのか……?
老人は自分の状態を確認した後、魔王を見る。
「……?ほう……魔王様は裸体がお好き。と」
「ねぇ……そんなわけないよね?」
「……ではなぜ、裸で召喚を……?」
「え……?」
「……はて?」
いやいやいやいやいや。
待って欲しい。
――ボクが裸で召喚した?
そんな設定はしていない。
ん……?設定はしていない?
いやいやいやいやいやいやいや。
…………。
……うん。
「と、とりあえず、服……着てきてもらえる?」
「……承りました」
そうして、全裸の老人はゲートを作り、その中に消えていった。
そして魔王の視線は、その場にいるもう一人に向けられる。
「ゴードン……正直に話してくれ。お前は全裸でボクの前に現れようとしたか……?」
「いえ、しかし我は魔王様の趣味を否定する気はありません」
「……分かった。それは違う。訂正しておいてくれ……」
はぁ。
魔王は棺桶にぐったりと腰をかける。
ゴードンは仕えるように、その少し後ろに立った。
今までの全裸……ボクのせい?
そうして頭を抱えていると、再び魔界のゲートが開く。
そこから帰って来たのは、白髪を包帯で束ねた、ただならぬ雰囲気の老人。
白い燕尾服を着たその姿は、執事というより白衣を着た闇医者にしか見えない。
「よく来た執事。……えっと、名前は何というんだ……?」
「私は見ての通りミイラでございます。ミイラは個人名を持ちませぬ」
見ての通り……って言われても……
なんか所々に巻いてる包帯のこと?
薄くない?ミイラ要素。
「……そ、そうか。……名前が無いのは不便だよね……よし、お前の名前を決める」
「では、ありがたく賜らせていただきましょう」
執事は恭しく会釈をする。
正直……執事の名前なんて一つしか浮かばないんだけど。
でも、ありきたりすぎるのもなぁ……
まあ、ボクの世話役なんだから、もじればいいか。
「よし、ミイラ執事。――お前はこれから、『セワス・チャン』を名乗れ。」
「……承りました。では、セワスとお呼びくださいませ」
「うむっ!では早速、頼みたいことがあるのだが……」
「何なりと」
セワスは、包帯をハチマキのように額に巻く。
そして魔王は、心の底からの願いを叫んだ。
「飯を食わせてくれぇぇ――――!」
○ ○ ○
「魔王様。お食事の用意ができました。」
セワスが、高級フレンチ並に美しく盛り付けられたステーキを運んでくる。
テーブルや椅子は、いつの間にやら用意されていた。
無駄にふかふかのクッション付きである。地球で売ってたら高そうだ。
「本日のメニューは、
極寒猪のハチャメチャ巻き~メチャクチャゴチャゴチャ焼き~
……にございます。
すごく栄養価が高いと耳にしましたので、焼いてみました。
この神々しいまでに美しい色つやは、それはもう魔王様のようでございます」
「……ん?なんて?」
「本日のメニューは、
極寒猪のハチャメチャ巻き~メチャクチャゴチャゴチャ焼き~
……にございます。
すごく栄養価が高いと……」
「ストップ……いや、やっぱ何でもないや」
多少の気になる事など、後回しでいい。
経験したことのない、異常な飢え。
目の前には光ってみえる香ばしいお肉たち。
それはもう――
――待てないよね。
魔王は肉を食べようとすると、強制的に手が止まる。
「あれ……?セワス、これ何使って食べればいいんだ?」
「はい。魔王様こちらを」
セワスの手には、フォークとナイフが握られていた。
よかった、ちゃんとあるじゃないか。
「なんでテーブルに置かないんだ?はやく渡してくれっ!」
「……それはできませんな」
「なっ……!」
口が開くのを待っていたかのように、セワスは電光石火で肉を切り分け、
フォークに刺した一切れを魔王の口元へ差し出した。
「うぷっ!」
口の中に肉汁が広がる。
飢えという最高のスパイスがかかった、まさに極上の味。
温かい……
今までの心の疲労が、嘘のように和らいでいく。
あれ……なんか視界が滲んできた……
魔王は幸せを噛み締めていた。
しかし、どうしても気になる点がある。
――なんで老人にあーんされているんだ……?
「どうです魔王様。舌を巻く美味しさでしょう」
くそっ!もうどうでもいいかっ!
――魔王は老人に抱きかかえられながら、極上肉を口いっぱいにほおばった。
○ ○ ○
全員が食事を終え、セワスに作ってもらった三角の机を囲む。
周囲は暗くなり始め、覚えたての光の魔法で机の中心を灯す。
6日以内にエンタメを考え、最後の1日に実行する。
失敗すれば、命はない。
そこでは――〝第一回劇団魔王会議〟が行われようとしていた。
「お帰りなさいませ。魔王様」
セワスがゴードンを出迎える。
ゴードンはボクの破壊した雪山の様子見に行ってくれていた。
「うむ。ところで、魔王様。我より、勇者を楽しませるアイディアがあるのですが……」
「……なぁ、ちょっと待ってくれ。おかしい……と思わないか?」
「はい、さすがです魔王様。あの規模の魔法を発動させながら、微塵も魔力が減っていないとは……」
「自慢してるんじゃないんだよ。え、そう聞こえた?」
「そうじゃありませんよ……魔王様。」
ゴードンが拍手をする中、セワスがその右肩にポンと手を置いた。
ゴードンが振り返ると――「むっ」その手の人差し指が立てられており、頬をつつく。
セワスはにっと笑った。
何してんだ……こいつら。
「魔王様。ご心配なさらず。私は魔王様の可愛らしいお口に料理を運ぶのが、楽しいと感じておりますので」
「おいっ!お前はどういう解釈をしたっ?あれ、お前が食器渡さなかっただけだよねっ!?」
「はい。私のせいですね。分かっておりますとも」
「自分が大人の対応しました、みたいな動きやめろっ!ボクが子供に見えるじゃないかっ!」
駄目だ……コイツ。
見た目はすごいできそうな感じはあるのに……
歴戦の猛者でなんでもできそうな感じあるのに……
実際、頼んだらなんでもしてくれるのに……
――ボケたおし続ける、親戚のおじさん感が否めない。
早くなんとかしないと……
……って、今はそうじゃなくて――
「魔王様の事だよっ!魔王二人もいるとごちゃつくよね?」
ゴードンが何かに気付いたような表情で、顎に手を当てる。
セワスはうんうんと、首を縦に振った。
コイツ……わざとやってたな。
「確かにそうですね……それでは、魔王様。ご芳名を伺ってもよろしいでしょうか?」
――あ。
魔王も何かに気付いたような表情になる。
ボクの名前?
鹿田 真面目ですが?
でもこれは、地球での名前であって……
――〝ボク、名前ないじゃん〟。
……でも、名前かぁ。
――魔王という役で。
――セミのような寿命しかない女の子。
あれ……?魔王役……演じられてる……?
なんとなくやってはみてるけど、なんかほとんど演じれてないぞ?
おかしいな。前世ではこんなことにならなかったのに……
でも、こいつらがボクにどういう役を求めてるか分からないから、
どういう風に演じればいいか、掴めないんだよなぁ……
まあ、せっかく異世界に来たんだ。
――やりたいように演ってみよう。
「よしっ、決めたっ!」
魔王は突然、机に手をつき立ち上がる。
そして、高らかに名を宣言した。
「ボクの名は、『ロルム・ツィカーデ』!これからは、魔王様禁止だっ!セワスもなっ!」
「御意にっ!」
「承りました」
二人は心臓に手を当て頭を垂れる。
魔王ロルムか……
うん。我ながらいい名前だ。
でも、表向きには幹部ロルム……とかになるのかな?魔王役はゴードンだし。
――魔王が名前の宣言を終えると、ウィンドウに新しいタブが増えていた。
ん?なんだこれ?
ロルムは、特に何も気にしないまま、確認する。
〈デンッ!〉
[――――魔王の名前が設定されました。――――]
〈デンッ!〉
[――――あなたは『魔王ロルム・ツィカーデ』になりました。――――]
〈デンッ!〉
[――――これより、世界に魔王の名を公開します。――――]
そうしてウィンドウは勝手に閉じた。
ロルムは静かに天井を見つめる。
「………………なぁ、異世界」
「よろしいですか?を聞けぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇええッ!!!!」
小屋に積もった雪が、地面にボトリと落ちた。




