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第五演目   【食べるのですから、口に運べばよいのです。】

 勇者を楽しませるために動ける時間が、1日しかない。

 そう知ってしまった魔王(少女)は――



 ――〝7日という短い寿命を待たず、死にかけていた。〟



「うぅ……死……死ぬぅぅぅ……」


 地面に転がり、何かを求めるように手を伸ばす魔王(少女)。


 そう、問題はすでに起きていた。

 何もない小屋。

 外は、先が見えないほどの吹雪。

 いるのは、少女とおじさんの二人のみ……

 

 ――そこには、食(・)料(・)が無かった。

 

「安心してください、魔王様。我々魔族は、魔力がある限り餓死することはありません」


「……お腹は空くんだよっ!!!」


 人間だった頃以上の空腹。もはや、渇きに近い飢え。

 こんな空腹の状態で、他人を楽しませることなんて考えてられないぞ……

 この異世界……結局、サバイバルはしなくちゃいけないの?


「なぁゴードン……お前、魔界から食料とってこれたりしないのか?」


「もちろん。可能でございます」


「できるのかよっ!頼む、とってきてくれぇ……大至急だ」


「御意に」


 すると、ゴードンは魔界のゲートを作り出し――

 ――魔界へ一人、旅立っていった……


 ……と思った。


 バチンッ!

 ――ビュンッ――グチャァ!

 

 ゴードンの体は目にも留まらぬ速さで、小屋の石壁に叩きつけられた。

 巨大なトマトを壁に叩きつけたような惨状。地上波なら、全面モザイク必至である。

 

「ゴードンッ!?」


 血だらけのまま彼は、こちらに震える手を伸ばす。

 魔王(少女)はその手をグッと掴んだ。

 

「……なるほど……どうやら……我も……魔界に入れなくなった……ようです……」


「おい、死ぬなゴードンッ!こんなところで一人にしないでくれぇ……!」


「大丈夫です魔王様。死にません。もう治りました」


 噴き出した血はゴードンに吸い込まれ、傷も見当たらない。

 そして、何事もなかったかのように立ち上がった。


 ……。

 ああ、異世界ってそうだよね。

 ちょっと頭が冷えた。

 

「ゴードン。どこかに食料ありそうな場所知ってないのか?」


「そうですね……この辺の地理に詳しくはないですが、一狩りしてきましょうか?」


「で、できるのか!?」


「はい。魔王様のご命令とあらば」


 そうして、ゴードンは吹雪の中に入って行った。

 お腹を空かせて、待つこと10分……


「魔王様。狩ってまいりました」

 

 ドスンッ!


 大きな物音と共に、ドアの無い入口からの光が、何かに遮られる。

 

 どすん……?

 魔王(少女)は入口の外にでた。


「……なぁゴードン。こ(・)れ(・)、どうすればいいんだ……?」


 大型トラックを優に超える巨体が、小屋の前に横たわる。

 水色の体毛で覆われた……猪(いのしし)……なのかな。

 そんな、化け物の死体が置かれていた。


「ふむ……では、我が料理をいたしましょう」


「『炎の魔法(グルート)』」

 

 ボォワァァ――――フッ……

 猪が一瞬にして業火に包まれる。

 そして、火は消えた。


「完成しました魔王様。どうぞお召し上がりください」


 こんがりと焼けた。

 しかし、中まで火が通っていないであろう刹那の丸焼き。


「一応、聞いていいかな……?どうやって?」

 

「食べるのですから、口に運べばよいのです。猪(ボア)はお嫌いでしたか?」


 ……。

 

 はぁぁ――

 ――すぅぅぅぅぅぅ


 

「お口にあわんわぁぁぁぁぁああああああ――――っ!」



 もう転生して何度目か分からない叫びが、吹雪の中に溶けていく。

 

「文字通りだよ!サイズだよ!お(・)口(・)が(・)小(・)さ(・)い(・)んだよっ!」

 

「なるほど……では――」


「『風の一刀(ルフト・クリンゲ)』」


 スッッッパ――――――――ンッ!

 

 猪は半分に両断された。

 ついでに、周囲の吹雪が少しの間――モーセのように両断された。

 さらに言うなら、奥に見えた雪山が両断された。


 ――結論。


「ゴードンっ!ボクに許可なく、魔法、禁止ねっ!」

「……御意に」


 料理している最中に平気で山を割らないでくれ。

 頼むから……


「交代だ……ボクがやる」


 え?……どうやって?

 

 空腹過ぎて変なこと言っちゃったよ。

 切れたとはいえ、大型トラックが半分になっただけだよ?

 

 後ろからのゴードンの「お手並み拝見」感がすごいよ。

 それ、まともに料理できるやつがやってくれよ。


 いやでも、ボクだって魔法を使えるんだ。

 器用にやれば、料理くらいできそうじゃないか……?

 えーっと。


 さっき見た、風の魔法をイメージして。


 魔王(少女)は猪に向かって手刀のような仕草をすると――風の刃が走った。

 その魔法は一部の肉を切り落とし、切り分けに成功する。


「お皿は……っと」


 なんとなくで氷の魔法が使えたので、それを風魔法で削り、皿にする。

 こうして、辞書くらいのサイズの生肉を盛り付けることはできた。


「ふぅ~。これ、すごい神経使うな……」


「お見事です。魔王様」


 後ろから拍手の音が、吹雪に混じって聞こえてくるような……

 いや、気にしちゃダメだ。集中しないと。

 次は、焼けばいいんだよな。


 ボォウ!


 小さな火の玉を作り出し、切り分けた肉に近づける。

 ……

 ……あれ?全然焼けないや。


 その調理場は極寒の中だった。

 この程度の火では、逆焼け石に水である。


 ああ、そうだった。

 体感温度がおかしいだけで、地獄みたいな環境だもんね。


「よし、集中……!」


 魔王(少女)は自分の顔を両手でぱちんっと叩く。

 火が強くなりすぎないよう慎重に制御しながら、少しずつ出力を上げていく。

 肉とそれにかざした手の間の炎が、一回りずつ大きくなる。


 そして、火加減の揺らぎが完全になくなったころ――

 

「ふぅ………………完成」


 肉を焼くことに成功した。

 上側の一部分だけ。

 下は生のままで諦めた。皿ごと溶けちゃいそうだし。

 後で切り分けて何とかしよう。


 でも、かなり魔法のコツをつかんだ気がする。

 もう少し小さいサイズで切れれば、完璧に焼けそうだ。


 この感覚を忘れないうちに、一気に料理しちゃいたいな。

 よし、お腹いっぱいになる分、作ってしまおう!


 そうして、魔王(少女)が肉を切るため、風の刃を生み出した時だった……


 色んな工程をすっ飛ばした料理。

 一本の猪の毛が風に乗って――魔王(少女)の鼻を掠(かす)める。



「へっ……へくしゅんっ!」



 ……そこに生まれたのは、一つのくしゃみ。


 

 ……そこから失われたのは、一つの山だった。

 



 ドッパァァァァァァァァァァァァアアンッ!!!


 


 目の前から何もかもが消し飛ばされる。

 風魔法の暴発……

 

 ゴードンが両断した雪山は、主人(少女)により無事証拠隠滅された。

 何かに切り取られたように広がる空間。

 あとには、スッパリと綺麗な岩肌の地面が広がっているのみ。


 そして数秒後……全ては雪に包まれる。



「……………………」



 魔王(少女)は後ろに振り返り、残された小屋の中に無言で入っていく……

 しもべも、主人の後を無言で追い、中に入っていった。

 

 ――そして、その小屋の入り口からは、赤い閃光。

 それと、ボソッとこんな言葉が紡がれる。


「……『設定(キャラクリ)』を開始する」


 ブォゥンッ!

 

 何故、初めから気がつかなかったのか。

 ご飯が食べたい。

 だから、食料を探して料理する。


 ……ではなく。

 

 食料の確保。料理。その他諸々……

 ――その全てができるやつを、設定すればいい。


 もうこんなことをしなくてもいいように。

 ・ボクの身(・)の(・)回(・)り(・)の(・)全(・)て(・)の(・)お(・)世(・)話(・)をしてくれる存在で。

 

 ・ボクの執(・)事(・)。

 

 これだけでいい。

 もう環境破壊はしたくない……

 

「……『設定(キャラクリ)』を完了する」


 ブォゥンッ!


 魔王(少女)は限界だった。

 魔王(少女)の胃は悲鳴をあげていた。

 魔王(少女)の心は泣いていた。

 

 ……楽になりたい。

 

 魔王(少女)は目を閉じ、そう願う。

 魔王(少女)はやすらぎを求めていた。

 魔王(少女)が目を開くと、そこには……

 

 ――見覚えのある光景が広がっていた。


 疲れきった魔王(少女)には苦しい現実。

 頼むから休ませてくれ……

 そう思いながら、抑えることができない衝動……


 

「なん……で……なんで、また……」



「なんでまた、裸(・)なんだよぉぉぉぉぉぉぉおぉぉおおおおおおおっ!!!」


 

 そこにあったのは、召喚された全裸の老人の姿だった……



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