第四演目 【こんな勇者一行は嫌だ。】
――Q〔勇者〕にどんなイメージがありますか?
弱者のために強者を討つ存在?
魔王を倒す存在?
世界を救うために戦う存在?
ボクもそんな感じのイメージだったよ。1分前までは……
〈デンッ!〉
[――――勇者の情報について。――――]
[――勇者。]
[――男。]
[――十六歳。]
[――名は、『メイト・ペングル』。]
[――身長176cm。]
ここまではいいんだよ。
問題はコレ――
[――――パーティメンバー全員を、抱きたいと思っている。――――]
事件ですか、事故ですか……?
事件だし、事故だよ。ボクの心が撥ねられたよ。
なんだ――この一文は。
――コイツを楽しませる……?
……嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
突然、部屋の隅で丸くなった魔王に、ゴードンは戸惑う。
「魔王様?どうされたのですか?ご気分でも優れませんか?」
初見じゃない体など忘れ、魔王は愚痴る。
「いや、ハーレム系主人公だったよ……現実で見ちゃうと、それはクズだよ……」
「……人間とはそういうものです魔王様。それに勇者の情報には、まだ続きがあるようです」
……続き?どうせろくでもないよ。
この負の印象から勇者が逆転できるなら、弁護士が強すぎるよ。
そうしていじけていると、「失礼します」と、
ゴードンに猫のように持ち上げられ、椅子に座らせられた。
魔王は、勇者のプロフィールの続きを、渋々読み始める。
[――勇者の戦闘スタイルは、伸縮自由な糸を変幻自在に編み、それを凍らせて形を作り、剣にも盾にもして戦う。]
……へぇ。なんかカッコつけてるなぁ。
[――魔法は氷、雷、驚の三属性を扱える。]
……驚属性ってなんだ?
[――九歳の時に、剣術学校で全生徒に避けられ、居場所がなくなる。]
……え?
[――そして、彼は人と関わる事を避けるようになり、その集落を離れる。]
…………。
[――その後は、誰に会う事もなく、一人でサバイバルして過ごしていた。]
……ずいぶん、ワイルドだね。
[――しかし、十歳になる日。彼に転機が訪れる。]
……ん?物語かな?
[――〝師匠〟と呼べる人物と出会ったのだ。彼はそれ以降、師匠と二人、旅を続けた。]
……おお、良かったじゃないか。
[――彼の師匠はエロかった。度々、夜の街へに行っては、その話を弟子に語った。]
……うん?
[――彼は人と関わろうとしない。しかし、六年間聞き続けた話に興味が湧いていた。]
……おい。
[――その湧いた興味を勇気に変え、師匠に
「パーティメンバー全員抱いてこいっ!」と送り出された勇者の旅が……]
[――今、始まるっ………………]
………………
「[――今、始まるっ…………]じゃ、ねぇぇぇぇぇ――――――よっ!!!」
勢いの割にあまりにもかわいい声が、ボロ小屋を揺らした。
うまいこと言ったみたいなのやめろ、何も始まってないよ。
むしろ終わったよ。勇者の中身が終わったよ。
だいたい、それは何の師匠なんだよ。
一体、ナニを教えたんだっ!
……いや、でもなぁ。
子供が悪い大人に誘拐されたかぁ。う――――――ん。
もやもや悩んでいると、後ろにはゴードンの不思議と熱い視線があった。
「魔王様、勇者は孤独だったようです。我はこの勇者を楽しませてやりたいです」
どこでノリ気なったんだゴードンっ!
さっき、人間はそういうものとか言ってたよね?
というか人間に情とかあるのか魔王っ!
「わかったよぉ……やるよぉ。とりあえず、勇者を楽しませる方向でいく。
このままだと、死んじゃうし。他のパーティメンバーの情報もみせてくれ。」
椅子に座ったまま、床に届かない足をバタバタさせながら、
ゴードンに命じてウィンドウを操作させる。
〈デンッ!〉
[――――盗賊の情報について。――――]
[――盗賊。]
[――女。]
[――十五歳。]
[――名は、『ルシュネ・キルシュ』。]
[――身長145cm。]
[――デバフ大好き盗賊。]
[――デバフの付いた敵にデバフをつける。]
[――さらにつける。]
[――もっと漬ける。]
[――浸す。]
[――デバフで動けなくなり苦しんでいる敵を、鑑賞する。]
[――その後、漬けたデバフの数だけ切れ味が増すナイフで……]
…………。
「……なぁゴードン、どう思う?」
「厄介ですね。本来、あまり苦しまずにすむところを、苦しんで倒されることになります。
デバフへの耐性をどれだけ鍛えれるかが、安楽死のカギになりそうです」
わぁお……まさかの冷静な分析。
……。
よし、えーっと。
――コイツの問題。
コイツと戦わせる魔族……というか勇者パーティにいるから、基本的に勇者との戦闘に配置する魔族が、苦しんで死ぬことになる。
罪悪感――――――!!!――おかえり。
これ、本当にどうしたらいいんだ?
『設定』でデバフ耐性付けたら、どうにかなるのかなぁ。
そもそも 『設定』ってどこまで万能なんだろう?
あれ?ボク今、プロフィール見てるだけだよね。
なんでこんなに疲れるんだろう――しかも、まだ半分だよ?
魔王は、未来を見据えた判断を下す。
「ごーどん、次を見せてくれ。」
「御意にっ!」
ゴードンは次の画面に切り替えた。
〈デンッ!〉
[――――魔法使いの情報について。――――]
[――魔法使い。]
[――女。]
[――十四歳。]
[――名は、『フルス・アードラ』。]
[――身長144cm。]
[――水・風・光魔法を得意とする魔法使い。]
[――魔法を常に発動し続けており、撃ち出すまでが異常に早い。]
[――周囲との実力差から、他人に期待ができず、その分自分に期待をする。]
[――負けず嫌いで、ギルドでは高い階級のクエストにしかいこうとしない。]
[――絶賛反抗期、親公認の家出中……。]
[――衣服に見えるものは、魔法で水と光を圧縮して纏っているだけで――]
[――実はほぼ着ていない。]
ス――ゥ
プロフィールってオチ付けないといけないものだったっけ?
最初はまともなんだよね。
なんかこう……途中から雲行きが怪しくなって――
あれ?人間ってこういう生き物なんだっけ。
人間やめたから、もう分からないや。
「ごーどん……次」
「御意に」
〈デンッ!〉
[――――――――僧侶の情報について。――――――――]
[――僧侶。]
[――女。]
[――十歳。]
[――名は、『ホルン・アイン』。]
[――身長133cm。]
[――聖魔法に愛された僧侶。]
[――どんな傷や病も治すことができてしまい、一部で神聖視されている。]
[――死霊術師のように戦うこともできるが、体力が致命的にない。]
[――通称〔神様〕。しかし、正真正銘の人間である。]
[――相手の要望をなるべく叶えてあげようとするので…………や、優しい。]
[――回復した時の快感が好きで、わざと傷つこうとする癖がある。]
[――なお、本人に自覚はない。]
ああ、やっぱりそうだっ!謎が解けたっ!
人間って、プロフィールでオチつけないといけないんだっ!
……いや~。すっきりしたぁ~。今日はゆっくり眠れそうだなぁ~。
「じゃ、ねぇぇぇぇ――――――よっ!!!」
魔王は爆発した。
「今のところ、クズ・陰湿・露出・奇人なんですけどぉっ⁉〝ボクの勇者一行〟これぇぇぇえ?」
魔王は悔しかった。
異世界は厳しかった。
こんな勇者一行は嫌だ。
魔王は目を閉じ、そう心の内で涙する。
でも、どんな現実でも受け止め、前に進まなくてはならない。
――だって、〝何もしないと死ぬ〟のだから。
仏のような顔で全てを受け入れていると、ゴードンから一報が届く。
「魔王様、勇者パーティはこれで全員のようですが、まだ続きがあるようです」
「まだあるの……?もういいよ。どうせオチでしょ?わかってるよぉ……」
このプロフィールを経て経験したこと。
だんだん読み進める度に、オチに向かう。
――その終わりにあるモノ?
オチがある以外に考えられない。
「ご覧にならないのですか?」
「いや、みる」
どのみち、魔王に選択権などないのだ。
〈デンッ!〉
[――――あなたの寿命は残り7日です。――――]
あれ?もう知ってる情報だ。
〈デンッ!〉
[――――勇者パーティが旅立つのは6日後です。――――]
ス――――ゥ
魔王は息を大きく吸い込むと、棺桶を叩き、両手を握り、上を見上げ――
――こう叫んだっ!
バンッ!
「――実質、1日しかねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
本日の演目、お楽しみいただけましたでしょうか。
それでは――拍手の代わりに、
お手元にあります ☆ を、この真っ暗な劇場に飾っていただけますよう
お願い申し上げます。
次の演目も、引き続きこの劇場にて上演予定です。
下の「次へ」よりご着席のままお待ちください。
ブックマークのチケットによる、またのご来場もお待ちしております。




