第三演目 【全裸はしもべだよね】
――どんな顔をしていいのか分からない。
こんなこと、地球にいた頃は無かった。
相手の意図を汲み、求められた役で対応する。
そうするだけで良かった。
しかし…………やはり分からない。
最後まで、相手の考えを汲み取るんだ。
そのために、状況を客観視してみよう。
えーっと?
【――現在、魔王の目の前に、全裸の魔王が佇んでいます。】
「おまわりさ――んっ!ここで――――すっ!110ば――――んっ!」
……どうすればいい?
呼んだよ?
確かに呼んだよ。召喚したよ?
でも全裸は聞いてないよぉ……
なんでそんなに見つめてくるの?
なんで動かないの?なんで服着てないの……?
真顔だよぉ……
怖いよぉ……
闇のオーラ纏ってるから、他は纏わなくてOK!みたいなこと?
――隠せてないよぉ~。ご立派だよぉ。
状況の処理しきれない少女に対し、やられ役の魔王は頭を垂れる。
「この度、〔魔王階級〕を授かりました。魔王、『ゴードン・アクトーヴァ』。
召喚に応じ、参上いたしました。」
「我の使命は、魔王様の代わりに魔王城にて勇者を待ち、〝討伐される〟こと。
御意に」
……自己紹介、ありがとう。
でもね、情報が左から右に流れていっちゃうんだ……
――お前、〝裸〟で行くつもりなのかっ!?
「あ、うん。……えっと。あの~。」
なにか、言葉を返そうとするが、上手く喋れない。
おかしい……いや、そういえば――
――この〝魔王少女〟、どう喋るのが正解なんだ?
あまりのことに、変な意図を汲んで叫んじゃったけど……
どんな〝役〟を演じればいいんだ?
はっきり決めてなかったな。
目の前の全裸はしもべだよね。
――そして、俺は魔王。
あぁなんだ……役はすでに配られているじゃないか。
俺よ。
お前がこの〝瞬間〟に、この〝役〟に立っているのなら。
この〝魔王少女〟はどんな言葉を口にする。どんな〝行動〟をとる。
――見せてみろっ!お前がずっと〝閉じ込めてきたもの〟をっ!
そして魔王は、口を開く。
「――おい、変態。服を着ろ……」
「…………御意に」
そう言い残して、やられ役の魔王はゲートのようなものを作り、速やかにその中に消えていった。
……。
――俺が、ずっと〝やりたかった〟こと。
自分の口で。
場面に合わせて。
そうできたなら、一番楽しい役を演じる……
――できたっ!長年内に閉じ込めてきたものがっ!
ようやく外に出せたっ!
けど……
「なんか違うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう~~~~~!」
……このシーンじゃないだろ。
感動がないよ。
こみ上げてくるはずのものが来なかったよ。
でも……
――これから、ずっと魔王役ができる。
かつて自分が出来なかった……自分以外という役が。
最初が、変だっただけだ。
うん……
――さしあたって、この役の〝一人称〟はどうしようか。
俺?ではかわいくないし。
私?だと普通の女の子すぎるかな。
――僕? 〝僕〟か。
これは俺が、〝俺〟の前に使っていた一人称。
高等部に上がる際に、僕から俺へこっそりと変えてみた。
といっても半年前のことなんだけどね……
――そうだなぁ、じゃあ〝新しい自分役〟ってことで……
棺桶を倒し椅子代わりにして、座って待っていると……
変態魔王改め、ゴードンが服を着てゲートのようなものから帰ってくる。
少し傷のついた、赤い上着に黒紫のベスト。
異世界のファッションにとやかく言うつもりはないけど、
極道と貴族を足したような格好だな。
「魔王ゴードン。お互いに魔王だが、お前は〝ボク〟のしもべってことでいいんだよな?」
「はい、魔王様。表向きには我が魔王として存在しますが、この世界の魔王は貴方様です。」
――ボク。
うん、しっくりくる。これでいこう。
大人しい僕じゃなく、キャラクターとしてのボクだ。
ついでに設定もちゃんと機能してるみたいだ。
「時にゴードンよ。ボクの代わりにしねと命じたわけだが……」
隠しきれない愛らしい声を抑え、なるべく怖い感じをイメージして問いかける。
正直、コイツの本心を聞かねば信用ならない。
変態だし。
「これにたいして、どう思っている?本心を隠さずにいえ」
「本心……と言われましても、ここで倒されたところで、本当に死ぬわけではないですし、分かりやすくありがたい……」
「えっ!?死なないのっ!?」
思わず、素がでた。
それを取り繕うように、質問を続ける。
「コホンッ。ゴードンよ。ボクにはこの世界の知識がまるでない。全ておしえろ。まずは、お前が死んだらどうなるんだ?」
〝忠実なるしもべ〟を召喚した理由の一つ。
この世界の一般常識が知りたい。
「御意に。我が聖界で倒されれば――魔界に戻されます」
「……?なんだそれは?」
ゴードンはなにかに納得した仕草をすると――
またゲートを作り、エスコートするように手を伸ばしてきた。
「では魔王様。魔界に行ってみましょう」
「ん……?え、ああうん。…………えっ!?」
魔王は足をふらふらさせていた棺桶から立ちあがる。
「なぁ、魔界に行くのか……?じゃあ、魔王が二人もいるここはどこなんだ……?」
「聖界ですね」
なるほど。世にも奇妙だ。
きょとんとしている魔王に、ゴードンは手を伸ばす。
「では、魔王様。お手を――」
|ゴードンに引かれるまま、魔王は魔界へのゲートに足を踏み入れた――
……と思った。
バチンッ!――ドゴンッ!
ビュウゥゥゥ――――――――――
気付けば、辺り一面真っ白だった。
磁石のように反発し、魔王は魔界のゲートに吹き飛ばされる。
それも――ものすごい勢いで――吹雪の中を――ヒの字で。
「え……」
――ガシッ!
銀世界の中、翼を広げ飛んできたゴードンに空中でキャッチされる。
「と――このように〔魔王〕は魔界には入れません。弾かれてしまいます。我は入れるようですが……」
「おぉいぃっ!なんでやらせたっ?!死ぬかと思ったよ!」
「これが一番理解しやすいと、判断させて頂いたのですが……」
「いや、分かったよ?これ以上なく、分かりやすかったよ?だって実体験だもんねぇっ!」
……魔王は抱えられてボロ小屋に戻るまで、文句を言い続けた。
――ボロ小屋に戻ると、石壁に人型の穴が開いていた。
寒くはないけど、これ雪も風も入ってきちゃわない?
風雪はさすがに凌ぎたいよ?
おいこれ、どうするんだ……?
魔王は半目の視線を送る――それに応えるべくゴードンは頷くと、
「魔王様。――この世界には二つの次元が存在します。【聖界】と【魔界】
――【聖界】には、主に人間が、【魔界】には、魔族が暮らしています」
説明を続けた。
……おい。半分お前のせいだぞと。
いや、十割お前のせいだぞと。
……とはいえ、この世界の情報は聞きたいので、抑えることにした。
「これら2つの次元は〝魔王様が存在している時〟のみ、魔族は自由に行き来が可能になります。また、魔族は聖界で死亡すると――魔界に魔力を削られた状態で戻されます」
魔王のしっぽがピンと立つ。
「なら、ボクも死なないのかっ!?」
「いえ、歴代魔王は消滅した……と伝わっております」
「ああ……そう…………いいよ、続けて……」
魔王のしっぽは垂れ下がり、棺桶に腰を下ろした。
「なので魔族である我も、聖界に戻されるわけですね」
――魔族ってことは、ボクの能力は魔界から召喚するタイプなのか。
じゃあやっぱり、コイツは変態か……気を付けなきゃ。
「魔族は、魔王様の使命を果たすことで、魔界で安定した暮らしが約束されます」
「暮らし……?随分、社会的だね……魔族。安定した暮らしのために、言うこと聞いてくれるってこと?」
「はい、魔王様。詳細としましては、富。名声。力。これらが手に入ります」
だいぶ、ひとつなぎだなっ!
ボクの命令ってそんなに価値があるのか……?
「そのため、魔族は魔王様の使命を達成することが喜び、となるわけです」
ゴードンは胸元に手を添え、恭しく頭を下げる。
――ふむ……魔族たちは、聖界なら、死んでも死ななくて。
――むしろ、死ねと命じてもらいたいくらいだと。
本当にそうなら、設定した魔族が勇者に倒されても、少しは気が楽だけど……
「……わかった。他の説明はまた後でいい。ゴードン。お前にみせたいものがある。意見をくれ。」
しもべを召喚したもうひとつの理由は、相談役だ。
魔王はウィンドウを開いて、ゴードンに見せた。
[――――あなたの寿命は残り7日です。――――]
召喚され、魔王に裸を見せつけ、その魔王の余命宣告を一緒に見る。
コイツ……今一体、どんな感情なんだろう……
「これは。なるほど……魔王様が存在するためには、勇者に笑いの提供をし続ける必要があるようですね」
「飲み込みはやいなっ!なんかこうっ……まあいいやっ。何か案はあるか?」
「情報不足でまだなんとも言えません……ので、この勇者の情報を拝見してもよろしいでしょうか?」
「……へっ?」
慌てて、画面内のゴードンが指を指す場所を見る。
……なんということでしょう。
そこには堂々と書かれているではありませんか。
――[勇者パーティ詳細]と。
「ああ…………かまわんぞっ!」
そんなのあったの?……なんて言えるわけもなく。
初見ではない体で話を進めた。
――勇者パーティのタブを開くと、一人一人のプロフィールが書かれているようだった。
これなら案外、簡単に楽しませれるかもしれないな。
魔王たちは、勇者の情報を見ることにした。
〈デンッ!〉
[――――勇者の情報について。――――]
[――勇者。]
[――男。]
[――十六歳。]
[――名は、『メイト・ペングル』。]
[――身長176cm。]
…………
[――――パーティメンバー全員を、抱きたいと思っている。――――]
…………。
「は?」




