第二演目 【固有能力 『設定』】
まずは現状の確認から。
――俺は、異世界転生して〖魔王〗になりました。
それも飛びきりかわいい、美少女魔王に。
よくあるチート特典は――たぶん、この馬鹿みたいな魔力量。
ステータス画面からバーがはみ出して、部屋の壁も貫通して、どこか遠くまで伸びている。
はみ出しちゃダメだろ……ステータス。
そして――
――〖魔王の影響により、勇者が魔王討伐の旅をどれだけ楽しんだか〗
それで、自分の寿命が決まるらしい……
……。
「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!?」
魔王は嘆いた。
敵対関係じゃないのっ!?
いやぁ?……敵対関係だよねっ!?
だって、魔王討伐の旅に出ちゃうもんねっ!?
Q.じゃあ、勇者が旅に出なければ、魔王は生き続けれますか?
A.いいえ、勇者が旅に出なければ、寿命で勝手に死にますっ!
「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ――――っ!倒しに来てぇぇぇぇぇぇぇ――――!」
でも、殺さないでぇ…………
こんなに無害なのに!悪いことしないのにっ!
――そして、それを踏まえての、このもう一文。
〈デンッ!〉
[――――勇者が死ぬと、あなたも死にます。――――]
…………。
「生きてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
ある程度楽しませて、寿命を伸ばした後、〝返り討ち〟にして余生を過ごす。
魔王の勝ち。
……みたいなルートは無いの?
保護しなきゃじゃん。戦えないじゃん。負けしかないじゃん。
なんだ、これは。
そもそも旅の終わりに、殺されることが確定してるよね?
どんな気持ちで勇者を楽しませればいいの……?
吹雪の中の小さなボロ小屋。
一通りの理不尽を、実にキュートな声で叫んだ後。
いや、待てと。
すぅ――はぁ――
深呼吸をする。
そうだった。俺はいつでも当社比冷静になれる。
魔王は落ち着き、流れで、ウィンドウに目を向ける。
[――――あなたの寿命は残り7日です。――――]
「んー……セミかな?」
いやぁ……?セミの方が地中で長く生きている分、これはひどいよ?
短いよ。考える暇がないよ。
セミだって地中で何年も、地上に出たらどう鳴こうかなぁ~ぐらい考えてるよ?
そんな、〝ただの一般男子高校生だった俺〟が。
〝見ず知らずの相手〟に。
〝エンタメを届ける〟?
〝命がけ〟で?
「いいねぇ……演ってやろうじゃん!」
カチリッ。――自分の内の〝演者スイッチ〟が音を立てる。
本来ならもう少し、だらだらと文句を言ってやりたい所だが……
[これを使って、勇者を楽しませろっ!]
ステータスには、そう言わんばかりのわくわくする記載があった。
――固有能力 『設定』 と。
恐らく、自分で設定したキャラクターを創作れるんだろう。
そんな感じの感覚がある。
俺が今まで何体のキャラクターを創作ってきたと思っている。
そして、そいつらを召喚できて、共に勇者の旅を演出する……か。
「なんだそれは……めちゃくちゃ面白そうじゃないか……!」
この世界でなら……自由に表現ができるかもしれない。
でも、ちょっと問題があって……
――まず、死にたくないよ。
勇者を旅を続けさせたら、いつかは魔王の元につくよね。
そしたら、勝っても負けても死んじゃうよね。
でも旅の目的は変えられそうにない……しなぁ……
「……魔王が倒されればいいのでは?」
あぁもちろん、俺じゃないよ。
あれだけ魔力カンスト……というよりオーバーしてるんだ。
魔王くらい、創作れそうじゃないか……?
でも、さすがに可哀想かなぁ。
せっかく生まれてきてくれたのに、
「これから貴方には、死んでもらいます」
ってなるもんなぁ。デスゲームの主催者みたいになっちゃう。
……う――――――ん。
「いや、それも設定しちゃえばいいのでは……?」
――道と腹は決まった。
「――よし、やられ役の魔王……お前の『設定』を開始する!」
ブォゥンッ!
瞬間、世界が静まり返り、空間は色を忘れた。
目の前には、歯車のような二重の赤い魔法陣が展開された。
「……おっ、静かになった。」
この状態で設定を思い浮かべればいいのかな?
思考を巡らせる。
――えーっと、一応魔王やってもらう訳だし。
・冷徹で威厳があって。
・俺の次に強くて。
――あとは~そうだな。
・勇者に倒される運命にある。
・完全に魔王の代わりを演じ、俺の事を世界から隠す。
・死後、弱体化して好きなタイミング、好きな場所で復活できる。
こうしておけば、こいつへの罪悪感も少しは無くなる……といいんだけど。
なるべく感謝を持って、接しよう。
細かい設定を終え、最後の設定を思い浮かべる。
・〖魔王の忠実なるしもべ〗っと。
とりあえず、こんな感じでいいかな。
最初だし。
「よし、召喚!設定完了っ!」
ブォゥンッ!
世界は音と色を思い出し、設定中の異質な空間は歪んで消え去った。
騒ぎ出す吹雪の音。
赤い魔法陣の上に佇むシルエット。
徐々に薄れて消えていく魔法陣。
魔王は、召喚されたもう一人の魔王の姿をただ見上げる。
魔王は思う、魔王としてのオーラが違うと……
濃紺の荒々しく伸びた髪に赤い瞳、その長身に纏うは黒きオーラ。
彼は、闇のオーラを纏い放っていた……
魔王の力で、召喚されたもう一人の魔王。
整った筋肉を、尖った牙とともに見せつける魔王。
我こそが魔の王、夜の王と……鋭い眼差しをこちらに向ける魔王。
――開口一番。彼はこう口にした……
「サ゛ム゛イ゛……………………」
逆に言おう。
――彼はオーラしか纏っていなかったのである。




