第一演目 【死ぬよ?普通に。】
目を開けているはずなのに、完全な暗闇。
不自然なまでの静寂。足の裏には柔らかい感触。
何も見えないけど――今、立っている。
「いや……まさか……ね。いやぁ……?」
脳裏によみがえるのは、空を覆うほどの巨大な影――落ちてくる隕石。
あれ……?なんだこれは?死んだ?
と、思っていたら。
俺は、上も下も夜空に挟まれた夢のような空間にいた。
そこで、『金色の鬼火』と出会う。
意識がふわふわする感覚がある。ああ、さっきのは夢だったんだ。
よかったぁ。
そうだよね。地球が突然、ジョークみたいに終わるわけないもんね。
何かしら、警報とか鳴るもんね。
とか、思っていたら。
金鬼火は、「夢じゃないぞ」「お前は――託された」「異世界転生」
「とにかく生きてくれっ!」だのと言う。
いやいや、何を言ってるんだ。この鬼火は。
夢でしょ?第一、鬼火は喋らないよ。
そう決めつけ、挙句の果てに楽しみだしていたら。
――目を覚ますと、何も見えない聞こえない暗闇の中だった……と。
…………。
え――――っと?
だから……
「どういう状況?」
理解できない中、現代的な通知音が鳴る。
それと同時に、暗闇に慣れた瞳に突如として光が差し込んだ。
〈ピコンッ!〉
「わっ、まぶしっ!?」
でも、今の音は……!スマホっ!?
俺はまだ生きている。
あれは全部、悪い夢。
今は……そのあと、誰かに誘拐されているだけ。
そんな希望が、蜘蛛の糸ほど細く、かろうじて吊るされていた。
……その画面を見るまでは。
〈ピコンッ!〉
[――――右手を思い切り前に。突き出してください。――――]
プツンッ。
俺の希望が落下していく。
光に馴染んだ眼が映したものは、異世界の定番。宙に浮く光るウィンドウ。
俺が好きだった『転生モノ』で、現実は構成されてしまっていた。
「……うわぁ。これっ…………うわぁ」
ついでに、ウィンドウの明るさによって周囲も照らされる。
どうやら赤いクッションのような壁の狭い空間に、閉じ込められているようだ。
〈ピコンッ!〉
[――――右手を思い切り前に。突き出してください。――――]
〈ピコンッ!〉
[――――右手を思い切り前に。突き出してください。――――]
〈ピコンッ!〉
[――――右手を思い切り前に。突き出してください。――――]
…………
「うわっ、うるさっ!わ、分かった分かったよ!すぐやるからっ!」
スタ連……?スマホですか?意思あるだろ、このウィンドウ。
右手を思い切り前に……ね。
こう?
――俺は目の前の赤い壁に、勢いよくパーを叩きつけた。
ボンッ!――――――ズザァァァ!
ビュウゥゥゥ――――――――ゴォォォォ……!
「へっ?」
そして右手を前に突き出した姿勢のまま、フリーズする。
右手で勢いよく押し出した赤い壁が、地面を滑っていく。
どうやら俺は、立てられた棺桶の中に閉じ込められていたらしい。
棺桶の外の景色は、薄暗いボロボロな部屋の中だった。
ドアのない入り口から微かに光が差しこむ、窓のない部屋。
割れた石畳に、ひびだらけの石壁。ミシミシと音をたてる木の屋根が今にも――
――ってそんなことは、どうでもよくて。
問題は――
――ドアのない入り口の向こう側……視界を白く染め上げる猛吹雪と、鳴りやまない暴風音。
――空気は全身の体温をガリガリと削り取っていく。
つまりは、
「寒い寒い寒い寒い寒い寒いっ!?」
極寒の冷気が肌に触れては通り過ぎていく。
目を開けているのが辛い。
息を吸うと、体温が急激に下がる。
え?
いや、遭難なんですけどぉっ!?
震えが止まらないんですけどぉ!?むしろ、永久に止まりそうなんですけどっ!?
「とにかく生きてくれっ!」ってこういうことなのっ!?
まさかのサバイバル系?――思ってた異世界転生とだいぶ違うんですけどぉっ!!
このままだと、5分も経てば氷像と化してしまう。
体をジタバタさせながら、生き残る道を模索する。
……!
あ、そうだっ!さっきのウィンドウ!
何かヒントが書いてあるんじゃないか?暗闇からの脱出方法をしつこく教えてくれたわけだし!
藁にもすがる思いで、そこに書かれているものに目を向けた。
〈デンッ!〉
[――――チュートリアルは終了しました。ここからは自由にしてもらって構いません。――――]
「いや、かまってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇっ!!!」
「指示一つで終わりっ!?死ぬよ?普通に。
というか、異世界のチュートリアルって何っ!?
あるならあるでいいから、ちゃんと助けてよっ!生きてほしいんじゃないのっ!?」
……はぁ、はぁ。いったん落ち着かなきゃ。ツッコんでる場合じゃない。
ぱっと思いつく暖を取る手段……?
――火。
ボォウッ!
「アッツゥゥッ!?」
頭に火をイメージした瞬間、宙に掌サイズの火の玉がいくつも現れた。
漂う火球のいくつかは、反応できない速度で身体に吸い込まれた。
すると、体の内側からじんわりと暖かくなっていった。
「わっ!ってあれ?――熱くない。…………もしかしてこれ、俺の魔法なのでは?」
試しに人差し指をすっと動かす。
すると、火の玉がその軌跡をなぞるように動いた。
「え、なにこれ楽しい」
すごい!火が伸ばせる!
色を変えたりすることもできるんだっ!
……こうして、火で遊ぶこと15分が経過。
気づけば、快適すぎるほどに体が暖かくなっていた。
たぶん、さっきの体に入ってきた魔法のおかげかな?
……見える景色と体感の温度の差が酷いけど。
「というか、なんだこの服?」
緊急事態が終わり、後回しにされていた情報が脳に入ってくる。
転生後の自分の姿か。
気になるけど、この部屋に鏡なんて……ん?
そこに転がるのは――押し出した棺桶の蓋。
これで……作れるんじゃないか?
まずは、炎で遊んでたときにノリで成功しちゃった〝水を生み出す魔法〟。
これを集め、棺桶の蓋の内側に注いでいく。
チョロチョロチョロ~♪
あ、これもっと高めの位置から注いだら、いい音鳴りそう。
水の魔法を高めに上げてみた。
ジョロ……ビチャチャチャチャチャチャチャ!
ビュウゥゥゥ――――――ゴォォォォ……!
そこに風が吹いた。
辺りは水浸しになった。
当然、自分にも水がかかった。
石畳に散った水は、少しずつ氷に変わっていく。
……。
……俺はそっと水を注ぐ高さを低くした。
コホン。
――そんなこんなで蓋に水を溜めて完成した、〝水鏡〟。
姿が分からないと、どういう役やったらいいか分からないからね。
四つん這いになって、水鏡を覗き込めるように構える。
そして、鏡の上にひょこっと顔をつきだした。
「えっ……かわいい///////」
水鏡の中の美少女とバチリと目が合い、思わず本音が漏れた。
サラサラの白い髪に、ちょこんと生えた角。
驚きで見開かれた紫水晶のような瞳。
鏡の少女は立ち上がって、その場で色んなポーズをとる。
身には、如何にも異世界。それどうなってるの?な紫色の服とスカートを着ていて。
ゆらゆらと揺れるしっぽの先には、宝石のようなものが付いている。
なるほど。
――どうやら、人間ではないらしい。ついでに男でも。
……まあ、予想はしてたよ?
声、明らかに高いし。どうみても男性の服じゃないし。
体の感覚が違う部分あるし。なんなら、しっぽ見えてたし。
「異世界転生……かぁ……」
――じゃあ、あれは現実で起こったことで、死んじゃったんだよね。
……ふぅ。
いつも通り、当社比冷静な俺は、顔を上げる。
というか普通にかわいかったな……と。
もう一度、自分の姿を見回した。
――その後、魔法を使った感覚とは別の何かが、自分の中にあることに気づいた。
大体こういうのって、自分の『能力』とかだよね。
「こう……かな?」
なんとなくで、手を前に出して意識を集中させてみた。
すると、目の前に再びウィンドウが表示される。
〈デンッ!〉
[――――あなたの寿命は残り7日です。――――]
「……え――――――っと?」
表示されたのは、余命宣告。
おいもうやめてくれよ。脳の処理が追いつかないよ……
画面を呆然と見つめ続けていると――
――救いの言葉が目に入った。
タブの表記は――[寿命の延ばし方について]。
「あるじゃんっ!」
さすが異世界、医学よりも魔法である。
寿命はね……延ばせるらしい!
どうにかして、画面の操作を試みる。
――そして、[寿命の延ばし方について]というタブに触れた瞬間――
〈デンッ!〉
[――――あなたは〖魔王〗です。――――]
〈デンッ!〉
[――――あなたの寿命の延ばし方について。――――]
〈デンッ!〉
[――――〖魔王の影響によって、勇者が魔王討伐の旅をどれだけ楽しんだか〗――――]
[――――それにより、あなたの寿命は決定されます。――――]
「…………はいぃ?」




