↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

第十二演目  【演出魔王】

 ウィンドウには、頭部を失った暗黒微笑の二人が消えていく様子が映っていた。

 遠距離から放たれた高速の水魔法。それにより、暗黒微笑は殺された。


 魔族は聖界で死ぬと、〝魔石〟を残して肉体が消え、魔界へと帰っていく。


 ロルムたちは、その姿をただ見守る事しかできなかった……


「暗黒微笑殿……クッ……」


 ゴードンが拳を握りしめる。


 会話すら、させてもらえなかった。

 この世界の理不尽さは、知っていたはずなのに。

 何も対策してやれなかった……

 

「あの魔法使い(メイジ)がやったんだよね……ちょうどいいや……」

 

 本当は、あまり使いたくなかった奥の手。

 思いついてしまった、最低な作戦。

 でも、勇者のプロフィールには、こんな記載があった。


[――パーティメンバー全員を、抱きたいと思っている。]


 師匠に吹き込まれたとはいえ、勇者が変態であることは間違いない。

 そして、そっちに容赦が無いのなら、こっちも手段を選ぶつもりはない。


 ロルムは『設定(キャラクリ)』の準備をする。


 この作戦のS魔力の消費は――残量のすべて……か。

 この設定が失敗したら、もう召喚ができなくなるな。

 でも、変態の楽しませ方は知っているし、これで決めれば問題はない!



「設定(キャラクリ)開始――バブルウォッシュスライム」


 

 

 映像に、一匹のスライムが現れた。


 ピンクの石鹸のようなフォルムで、地面を滑るように移動するスライム。

 召喚場所は、勇者一行の進路上――約30m先。コイツを隠す気はない。

 スライムは魔法使いを捉えると、急加速して突進していく。


 ビュ――――――ンッ!


 そして、魔法使いに対し高速で接近し、心臓目がけて飛び跳ねる。



 ――パァンッ!

 


 しかし、砲弾のような水魔法により、空中で迎撃されてしまった。

 スライムの体が花火のように弾け、飛び散った体液が魔法使いに降りかかる。

 

「よし。当たった!」


 それは、奥の手の成功を意味する。

 魔法使いの肌に、スライムの飛び散った体液が一滴だけ付着した。


 ――すると、魔法使いの服は水となり、バシャッと地面に落ちる。

 彼女は、何が起こったのか理解できないまま、晴天の平野にその生身を晒した。


 ボクがバブルウォッシュスライムに設定したもの。

 ・体を洗うことに特化したスライム。

 ・体を洗うために邪魔な障害は取り除く。

 ・体を素早く洗うために高速移動が可能。

 ・体液が体に付着した相手は、魔法を3秒間使えなくなる。

 

 本来なら、服を消すため全身を駆け巡らせる必要があると思っていた。

 しかし、魔法使いの服は好都合にも魔法できている。


 つまり一滴でも、体に付着させれれば――

 ――勇者に裸を見せられる。

 

 そして3秒後には、また自分で服を着れるはず……

 勇者が変態じゃなかったら、まず思いつかない策。

 そして思いついてもやりたくない奥の手……


 だが、これは仇討ちだ。


「ボクの寿命の為、悪いけど犠牲になってもらうっ」

 

 ロルムは悪い笑みを浮かべて結果を確認する。

 映像では、じっくり裸を観察していた勇者が、服を造りなおした魔法使いに

近くの木まで水魔法で吹き飛ばされていた。


「よしっ!」

 

 ――勇者は確実に見たっ!

 ――それは、確実に楽しんだってことだ!


 ロルムはさっと自分の寿命を確認する。


[――――魔王の寿命はあと12時間11分。――――]



「へっ……!?」



 延びて……いない?

 いや、一時間だけ延びている。


 たった一時間?

 それとも、勇者はあまり楽しんでいなかったのか?

 でも勇者は、確かに見ていたはずだ。楽しんでいないわけがない。


 その一部始終を見ていたゴードンは、ロルムの奇行を理解できないでいた。

 

「あの……ロルム様。さっきのスライムはいったい……?」


「奥の手だよ。勇者は変態だろ?だから女性の裸を見せると、楽しいと感じて、

ボクの寿命が延びる。そういう必勝の策。のはずだったんだけど……」


 ロルムは心底不思議そうな顔でゴードンを見つめ返す。

 すると、後ろからポンポンと肩を叩かれた。どうせ、セワスだ。

 人差し指が立てられていると踏んで、振り返らずに会話をする。


「姫様。さすがに、楽しいは無理があるのでは?」


「なんでだ?情報だと、勇者は変態なんだぞ?」

 

 ……。

 しばしの沈黙。

 顔を見合わせる男たち。先に動いたのはゴードンだった。

  

「……ロルム様が〝変態〟にどういうイメージをお持ちかは分かりませんが、

他者の裸をみて感じるのは、楽しさよりも羞恥や気まずさではありませんか?」


「……そんなことは分かっているよ。召喚時、ボクがどれだけ裸を見せられてきたと思ってるんだ」

 

 しかし、それはボクが変態ではないことの証明で。

 変態は女性を裸にして楽しむ生き物のはずで。

 なのにどうして、寿命が一時間しか延びないんだ……?


 ……。

 いや、そんなことを考えている場合じゃない。



 ――結果として、ボクは失敗した。



 仲間を二人、失った。

 S魔力も、空っぽだ。

 もうキャラクターは創作(つく)れない。


 そうか、ボクはこの世界の理不尽に負けてしまったのか……


 ロルムは、ペタッとその場の床に座り込んだ。


「なにしてるんだろうな……ボクは」


 無意識に小さく呟(つぶや)いた。


 ほんと、なにしてるんだろう。


 突然、隕石が降ってきて、たぶん死んで。

 異世界に連れてこられて、魔王だって言われて。

 寿命が7日しかないだの、勇者を楽しませろだの。

 舞台は雪山、ヒロインは無し、能力は制限だらけ。

 そして、やることなすことに理不尽が付きまとう。


 ははっ……相変わらず無茶苦茶な設定だ。

 

「……ロルム様、まだ時間はあります。次の策を……」


 ゴードンが目線の高さを合わせて、励まそうとしてくれている。


「次かぁ……もう『設定(キャラクリ)』が使えないんだ。何もできないよ……」


 あとは寿命を待つだけ……か。ロルムは天井を見あげる。ボロボロな天井を。

 木々の隙間から風が鳴き、梁(はり)には霧氷(むひょう)が覆っている。


 ……。視界が少し潤んできた。


 謎のもやもやだけが、胸の内に積み上がっていく。

 長い瞬きを一つ。

 目を開けると、不謹慎なほど不敵な笑みを浮かべるセワスが、上から覗き込んでいた。


「うわっ!」


「『設定(キャラクリ)』が使えないだけ、でございますよね?」


「……はぁ、お前ほんとすごいな。キャラクターが作れないボクに何しろっていうんだ?」


「ふっふっふ。何しろもなにも、姫様はまだ何もしてませんよね?」

 

 コイツ、今まで何を見てたんだ?

 ゴブリンを召喚して、勇者に送るも失敗して。

 スライムを召喚して、勇者に送るも失敗したじゃないか。

 

 ……ん?


 ……あれ?



「ボクの要素って、何も……ない?」



 パッっと、前世の記憶がフラッシュバックする。

 相手の望む『自分』を演じ続けた少年。

 心の中ではこうしたい。そう思っていても『役』を演じ続けた少年。


 ――今回も同じだ。


 ゴブリンたちに、演出をすべて任せきりにした。

 スライムでは、変態(勇者)の求めるであろう演出をして、楽しませようとした。



 やりたいように演(や)ると言っておきながら、結局ボクは、相手に合わせていただけだった。



 ――ボク自身のやりたい演出は、まだ何も試していない。



 思い込んでた……『設定(キャラクリ)』で役を創作(つく)ることだけが、ボクの全てだって。


 どうせ……いつかは寿命で死ぬんだ……

 せめて、やりたいことを演(や)ってから死んでやる……!

 それに、『設定(キャラクリ)』が使えなくたって、ボクに残されているものはある。


 そうだよ。命懸けだけど、せっかくやりたい役を自由に演じられる異世界に来たんだ。

 何もしないで死ぬだけなんて、もったいないじゃないか。



 勇者パーティ(お前ら)全員……いや、この世界を彩ってやる……!



 凍えた瞳に、また火が灯る。

 そしてロルムは腰を上げると、仲間の姿を真っ直ぐに見た。


「ごめん、まだイケそうだったよ。それで……できるか分かんないんだけど、

ちょっと手伝ってほしいことが……」


「御意に」「承りました」



「まだ何も言ってないんだけどっ!?……ははっ、まあ、頼むよ……!」



 こうして、この異世界劇場の幕があがっていく。


 暗黒な笑顔に包まれた三人の魔族が仕掛ける、勇者へ、世界への大演出。


 ボクがこの世界で演じたい役は、ただの魔王じゃない……




 ――この異世界を楽しさで満たす、〝演出(エンタメ)魔王〟だ。




ここまでご観劇いただき、ありがとうございます。

発光する系の泡です。

まだ本編が始まってもいないのに、ここまで見て頂いた皆様には、

本当に感謝しかありません。


以上を持ちまして、魔王の幕前編は終了となります。

この先の演目は、劇場の幕開け編に続くのですが、


――その前に、この劇場にはもう一人の主人公が存在します。


次演では、勇者の幕前編が開演いたします。

本当にあのプロフィールは正しいのでしょうか。


ぜひ自分の目でお確かめください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。