第十一演目 【ほなな!】
〈デンッ!〉
[――――勇者が旅を開始します。勇者の様子を見れるようになりました。――――]
魔王の寿命はあと12時間。つまり、決戦の日の正午。
吹雪に包まれた小屋の中に、通知が表示された。
ロルムがそれを開くと、勇者パーティの映像が映し出される。
「いや、遅いよっ!もうあと12時間しかないよっ!」
はぁ……。
実質1日どころか、半日しかないんだけど。
ちょっと理不尽すぎない?この異世界。
というか、まだ旅出てないし。早く街から出てきてよ。
ウィンドウには、王城らしき建物の中が映っていた。
赤い絨毯の上に立つ男が一人と、その横に三人の少女。
ということは、あの金髪でラフな格好をした男が勇者なんだろう。
なら、横にいるのが勇者パーティか。それぞれ職業を思わせる服装をしている。
ウィンドウをスワイプすると、映像の視点が動かせた。
広間の奥には玉座があり、そこに老人が座っていた。
じゃあ、このお爺ちゃんが王様か……
ん?
赤い上着とズボンを身につけたお爺さん。
白くもっさもさの顎ひげに、ふくよかな体つき。
頭には、赤いナイトキャップの上から王冠をかぶっている。
「サンタさんっ!?」
確かに改めて見ると、王様って言われても若干納得できる服装だけどっ!
さらに、その後ろには筋肉ムキムキの二足歩行トナカイが腕を組んで立っていた。
なんなんだ……この場所。カオスだ。
他にも視点を動かしてみたが、広間にはその5人と1匹だけだった。
「あの、娘殿。サンタさんとは……?知り合いです……かな?」
ゴードン。やっぱりボクへの魔王の演技だけ、なんかぎこちないよね?
頑張って演じてくれてはいるんだけど……
もしかして、もういらなくないか?この設定。主にボクとセワスのせいで。
「知り合いというか……皆知ってるというか……。あれが王様なんだよね?」
ロルムは王を指さし、ゴードンに尋ねた。
「あれは聖王……だ。最強の人間と言われていま……すね」
……なんとサンタさん、最強でした。
やっぱ変だよ、この異世界。
しばらくすると、勇者パーティは王城を出て、街の外壁に向かっていった。
「この方角だと……東門からですかな。姫様、あれの準備を」
ロルムは勇者に先回りするように、映像の視点を東門の外へと移した。
街の外壁を抜けた先には、【平原区域】と呼ばれる一帯が広がっているらしい。
実際に見てみると、点々と木々が生え、緑豊かな丘陵が遠くまで続いている。
空には、小さな浮遊島がいくつも漂っていた。
おぉ……何気に初めて雪山以外のこの世界を見たな。
いいね。
異世界っぽい。すごく。
ボクも、こんな平和な場所を冒険してみたかったよ。
でもそれだと、すぐ人間に見つかって殺されちゃうんだよね……魔族だし。
じゃあ……まあ、いいのか。この雪山で。
そんなことを考えていると、ゴブリン達が部屋の隅に立って準備を終えていた。
「この金髪の兄ちゃん笑わせれば、ワテらの使命達成っちゅうこっちゃな!」
「姫さん。ワイら、ここに立っとればええんか?」
暗黒微笑が待っているのは、ボクの6日間にわたる魔法練習の副産物。
『再召喚』と名付けた魔法だ。
仮に雪山で召喚して、勇者を楽しませられる作戦を一緒に考えたとする。
でも、勇者まで遠すぎない?移動距離おかしくない?7日以上かかるよね?
そんな問題に、テレポート的なことできないかな?という発想で生まれた魔法。
――やってみたら、できちゃった。
ボクが設定した者なら、見えている場所へ呼び直せる。
近場でセワス使って散々実験したんだ。距離が関係ない……はず。
要するに、召喚先をウィンドウ越しでもイメージできればいい。
ロルムは手をあげ、ゴブリン達に確認をとる。
「じゃあ、飛ばすよ?」
「あいよ姫さん。いつでもええで!」
「……いや、姫さん。やっぱワテだけは、もうちょいここに残っといた方がええ気がするわ」
「え……?なんで?」
「ああ!せやな。ワイらゴブリン同士は、離れてても自由に会話できるんですわ」
「二人行ってまうと、勇者の行動見れへんくなるやろ?念のためや」
「ほな、ワイだけ先行って、ええ感じの場所探しとくわ」
「そ、そうなんだ。じゃあ、えっとスズキさん?の方だけ飛ばすよ?」
「あい、頼むで。ほなな!」
スズキの足元と頭上に、青い魔法陣が展開した。
「『再召喚』」
バシュンッ!
そして閃光が弾け、スズキの姿はそこから消失する。
え、成功したよね……?だいぶ遠いけど、大丈夫だよね……
感覚的にはいけている。しかし、映像でスズキが見当たらない。
「お。スズキから連絡きたで。なんか暑すぎて死にそうや言うてる」
ふぅ。
あ、見つけた。草むらの中で横たわり、ジタバタしている。
……暑いのは、寒さ対策として召喚のときにかけた、暖房魔法のせいかな?
ロルムは映像のスズキに手をかざし、魔法を解除した。
「なんや、急に涼しくなって風邪引く言いだしたで。頭おかしくなったんか?」
……。
そうだ、勇者の様子を見ないと。
ウィンドウの視点を勇者へ戻すと、ちょうど外壁を出たところだった。
距離的には、10分後くらいにスズキのいる草むらに着きそうかな。
ロルムたちは映像を注視し、その時を待った。
そして――
「そろそろだ……!頼んだぞ……」
「あいよ。任せときや!」
バシュンッ!
もう一人のゴブリン、タカハシもスズキの元へ再召喚した。
タカハシ曰く、すでにスズキがええ感じの場所を見つけてあるらしい。
勇者の様子はというと、何故か僧侶の小さい子を肩車していた。
何してんだ、コイツはコイツで……
もうすぐ、寿命が決まる。
いざその時が近づいてくると、平静を装っていたロルムの手は震えていた。
そんな手を、それに気づいたゴードンがそっと握ってくれる。
「大丈夫ですロルム様。暗黒微笑は、どんな魔族だって笑わせてきました」
「う、うん。そうだよねっ!大丈夫だよねっ!」
ロルムが祈るように手を合わせる。
やがて、ウィンドウの中で勇者一行と暗黒微笑が、同じ画面に収まった。
そして、暗黒微笑の舞台が、開演する――
○ ○ ○
暗黒微笑は、勇者の行く道の先に潜んでいた。
距離は100mほど。
道の両端は木と草むらで覆われていて、身を隠すにはちょうどいい。
「キタで。勇者や」
「ほな、そろそろ始めるとしよか」
二人は、道脇の草むらからゆっくりと姿を現し、道の中央を並んで歩き始めた。
タカハシが、『色変化』で周囲の草や地面、さらには二人の体までも黒く染め上げる。
スズキは、『質変化』で空気の質を変え、怪しげなBGMを鳴らし、地面の光沢を失わせていった。
あきらかに異常な光景。
奇妙なゴブリンたちを中心に、球状の空間が黒く染まっていく。
恐怖を感じさせる魔族が、遠くから勇者に一歩ずつ近づいてくる。
その様子を確認した勇者一行は、その場で足を止めた。
(ええ感じや……めっちゃ警戒しとるでぇ)
(今、80mちょいってとこか?そろそろ走り始めてもええ距離ちゃう?)
(せやな。ほな、やったろか!)
ゴブリン達が勇者を見据えたまま会話をし、互いに呼吸を合わせる。
ピッタリと合う歩幅。盛り上がる不協和音。
今まさに、走ろうとした時だった。
――パァンッ!
風船が弾けたような音が、タカハシの耳元で鳴った。
(な、なんやっ!?)
勇者たちの様子をうかがうが、特に変化はない。
魔法使いらしき女の子が、手を前に掲げとるくらいか?
(おい、スズキ!今の音は……)
語りかけても、反応がない。
今、勇者から目を離すんは危険なんやけど……
仕方なく、タカハシは音の鳴った方を見る。
――そこには、頭部を失ったスズキの体だけが残っていた……
(な、なんやとっ!?この距離で攻撃されたんか?何も見えへんかったで!?)
不協和音のBGMが鳴り止む。
黒く染まった地面にも、少しずつ光沢が戻り始める。
まずいで……いや、問題あらへんっ!
一人になっても、ネタがウケんでも、アドリブでどうにかするんが暗黒微笑やろ!
見てるか、姫さん。まだ終わってへん!下向かず、目ぇかっぽじっときや!
「魔界のお笑い見せたるで、人間ッ!」
タカハシは勇者に向けて、一人でも走り出す。
――パァンッ!
その頭部を空中に置き去りにして……




