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第十演目   【勇者、お前を――】

 ゴブリンたちの漫才が終わり、劇団魔王は五角形の机を囲んだ。

 あれ?いつの間に五角形になったんだ、この机……。


 こうして、劇団魔王会議が再開される。

 

「ええか?まず、勇者へのネタは参加型の実戦形式でいくで」

「感情表現が苦手そうやもんな。せやから、予想を裏切りにいこうや」


「しかし、暗黒微笑殿。実戦形式と言っても、具体的にはどうするつもりだ?」


 ゴードンは、ちゃんと魔王役に徹してくれている。


「まずは、全力で警戒させるで」

「ワテらの能力で周囲5mの空間を真っ黒にするんや」


「黒い空間を引き連れた黒いゴブリンが、ゆっく~り近づいてくる」

「とんでもない様子の魔族がくるんや、人間は当然警戒するやんなぁ」


「そんでもって、急に勢いよく走りだすんや!」

「間合いギリギリまで走り込んだら、滑り込みながら土下座してまう!」


 土下座……?

 その文化、魔界にもあるんだ……


「参りましたぁ~、言うてな。警戒してる状態じゃ誰も笑わへん」

「これで掴みは完璧や。これだけのギャップがあれば、戦闘の空気を会話に切り替えてくれるやろ?お笑いと似たようなもんやな」


 なるほど。

 最初から笑わせようとするんじゃない。

 まずは、勇者と会話できる状況そのものを作る必要があるんだ。


「ほう。さすがは暗黒微笑殿だ。そこまで考えているとは」


「魔王様に褒められると、さすがに……こぼれてまうな」

「いや、真顔やん。笑みこぼれてないで?」


「違うで……涙が……や。キランッ」

「あ、感動したんか!ほな…………よかったなぁ!」


 そのやりとりを見たセワスの首が、グインっとゴードンの方を向く。


「あの、魔王様……私も褒めて頂けますか?」


 いやどういう流れ?

 会議進めさせてくれよ。


「執事殿もか……?毎日、美味しい料理を作ってくれて感謝しているぞ」


「ありがたき幸せ。ですが最近、姫様が美味しいと言ってくださらないのです。

執事になった初日は、あんなに喜んでくださったのに……。食事中は、

もうすっかり無反応になってしまって……。何がいけないんでしょうか……」



「おい、ボクへの愚痴こぼしてんじゃないよっ!

お前が一向に食器を渡さないからだろっ?毎回、あーんされる身にもなってくれよ!

そのくせ美味いから、文句言えないのっ!あと、張り合わなくていいから!」



「やるやん執事はん」

「ワテらも負けてられへんなぁ」


「だから張り合わなくていいから!会議進めるよっ!あれ?なんの話だったっけ、

もうっ!」


 その答えをくれたのは、なぜか険しい顔をしたゴードンだった。


「土下座で会話に持ち込んだ、そのあとの話です……な」


「せや、この勇者を笑わせるんは簡単やないで、まず楽しませなあかん」


 いや、それでいいんだけど……

 笑わせるのが手段で、楽しませるのが目的なんだけど。


「そのためには参加型の漫才にして、とにかく会話することやな」


「参加型っていうと、ボクの時みたいな?」


「せやなぁ。まずは軽く、

〝人間はん許してください!目からのビームは勘弁してくださいっ!〟ちゅうてな。そしたら人間が〝そんなことはできない〟って感じの簡単な問答から始めるで」


「勇者をツッコミ役だと気づかせずに、自然とツッコませるわけやな。あとは、その場で合いそうな漫才考えてぶつけるだけや」


 ……。


 え?終わり?


「ってことは、アドリブのみで行く気なのっ!?さすがに、ちゃんとしたネタを考えといたほうがいいんじゃ……」


「本人の様子みながらネタ考えたほうが、絶対ええんや任せとき!」

「ワテらに笑わせられない生き物はおらへんで!それに――狙いは僧侶(プリースト)やっ!」


 おお、心強い自信……


 でも、僧侶(プリースト)?

 勇者を笑わせないとボク死んじゃうんだけど……

 仮に勇者パーティが楽しんだとしても、勇者が楽しまないと意味ないよね……

 たぶん。


「姫さん、なんで僧侶(プリースト)を?って顔してはるなぁ」


 え、ボクそんな顔に出てた……?

 そういえば、この体になってから感情がでやすい気がする。

 元の役を知られていないっていうのが、やっぱ大きいのかな。


「理由は簡単やで。誰かが笑えば、ここは笑ってええ場所なんやって、

この勇者にも伝えられるやろ?」


「この勇者、普段からあんま笑わへんのとちゃうかな」

「というよりは、笑うタイミングが分からへんって感じやと思うで」


 ゴードンが感心したように頷く。

 ロルムも、思わず目を輝かせた。


「ほう。お前も、笑っていいんだぞ。そう教えてやれるということか……」


「なんか、すごいなっ!笑いのプロって感じだ!」


「カカッ!せやろ?まあ、明日は任せときや!」

「笑いの花ぁ、咲かせて来るで」


 こうして、第一回劇団魔王会議は幕を閉じた。

 暗黒微笑は頼りになる。成功してくれるかもしれない……

 それに……もし失敗したとしても、ボクなりの奥の手は残ってる……

 

 ロルムは、二人への期待と、拭いきれない不安を抱えながらベッドに入った。


 

  ○ ○ ○



 ――魔王の寿命の最後の日。


 ドアのない入口から朝日が差し込み、ロルムのベッドを照らす。

 光を感じ、ロルムは体を起こして伸びをした。

 

 いやぁ~。寝れなかったな。

 当然だけど。

 さすがに余命1日で熟睡できるほど、メンタル強くはないよね……

 ロルムはベッドから降り、小屋の外に出て日を浴びる。


 やっぱこの雪山、朝だけは吹雪が止むんだな。


 小屋の前には、不自然なほど平らに切り取られた雪山が広がっていた。

 押しつぶしたV字のような斜面に朝日が差し込み、雪面が白くきらめいている。

 ロルムはその光景を前に目を閉じ、顔を上げた。


 そして、右手を強く握りしめる。


 ボクが死なない方法――そのために今日やらなきゃいけないこと。



「勇者、お前を――――ぜったい楽しませてやるっ!」


 

 背後では、ゴードンが片手を胸に当て、静かに控えていた。


「はい、ロルム様。必ずや、楽しませてやりましょう!」


 少し気持ちが軽くなる。

 ゴードンは別に何かするわけでもないのに……

 なんでだろうね。


 さらにその後ろに、ゲートが出現する。

 出てきたのは、一人の老人と二人のゴブリン。


「おや、姫様。お早いですね。そうそう、明日の朝食は何がよろしいですか?」


「まだ眠かったんやけど、目ぇ覚めましたわ!」

「姫さん。ええ笑顔するなぁ!なんかええことあったんか?」

 

 笑顔……?

 ロルムは自分の頬に触れる。


 ほんとだ。笑ってる。

 こんな状況でよく笑えるな、ボク。

 そもそも、この世界に来てから笑ったことなんてあったっけ……?


 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


 なんだろう……この感じ。

 今なら、なんでも成功しそうだ……


 そうだよ。

 やりたいように演(や)っていいんだった。


 カチリッ。

 ロルムはみんなの方を向き、太陽を背に両手を広げる。

 


「幕は上がった――準備はいいか、劇団魔王」

 


 みなは一様に頷いた。

 

 ――では、最高の演目を始めるとしよう。

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