第九演目 【どうも~、暗黒微笑ですー!】
二人のゴブリンが、ステージの左右に分かれて立つ。
やがて、出所不明の出囃子が鳴り始める。
二人は手を叩きながら、舞台中央に置かれたマイクまで歩み出た。
「 「どうも~、暗黒微笑ですー!」 」
「あい、お願いします!」
「いや、ちょぉ待ってんかって。ワテら、さっきまで裸やったよな?」
「せやなぁ。裸でステージ立たされるとこやったなぁ」
「危なかったわ~。姫さんの趣味で裸にされるとか、どんな魔王城やねん」
「せやかて、このスーツもらえてよかったやん」
「よかったけども!見てよコレ」
青い蝶ネクタイの方が、金のジャケットを脱いで背中をこちらに向ける。
そのワイシャツの背には――
『姫♡』
と、アイドルの応援うちわみたいな文字が、デカデカと刺繍されていた。
「ええやん。似合っとるで」
「いや、強制ファンクラブか!なんで脱がされて用意されたもんがオタクグッズやねん」
「この隠されたお宝感がええと思うけどな。ワイのは気に入っとるで」
「……?お前のはなんて書かれてたん?」
「イケてるもんが描かれとったでぇ~?コレみてみぃ」
赤い蝶ネクタイの方が、金のジャケットを脱いで背中をこちらに向ける。
そこには――
『四角形や五角形』
が、複雑ながらも、妙に規則的な配置で並んでいた。
「地図ッ!!!」
「ええやろ?これで道に迷わへんですむわ」
「見れへんやろ。だいたい、何処の地図やねん」
「知らんで」
「じゃあ結局、迷子やないかい……」
「そうか?でも、お前の地図はちゃんと迷子にならなそうで羨ましいわ」
「何言うてるん?ワテの『姫♡』のどこが地図なん?」
「誰に付いていけばいいか分かるやん。これで迷わずにすむなぁ」
「あ、これ〝人生の地図〟だったんやっ!?」
「…………。」
「おいなんか言えや。ちょっと恥ずいわ」
「ほんまごめん。なんて返せばいいか……迷ってた」
「笑いまで迷子になっとるやん!ほら、ワテの地図みてみぃ。なんて書いてある?」
「ひ……姫♡///////」
「なんでちょっと照れとんねんっ!」
「いやでも大丈夫や!意味は理解したで!そういうことやったんやな!」
「せやっ!よっしゃ、行くで!」
ゴブリン達はステージを降りて、並ぶ三つの客席の真ん中。
ロルムの席の目の前までやってくる。
そこに一本のマイクとゴブリン二人が陣取った。
あまりの近さに、ロルムの表情は困惑に変わる。
「…………え?」
「というわけで――姫さんのために今から漫才やるで?」
「姫さん、準備はええか……?」
「いや、まだ始まってなかったんか――――――――いっ!!!」
ロルムは立ち上がり、手のひらを斜め45度に突き出してツッコミを放った。
「お、やっぱ姫さんええツッコミしますわ。ほな、一緒に……」
「って長い長い!もうええわっ!」
「 「ども、ありがとござましたー!」 」
……巻き込まれちゃったよ。
というか――
「セワス!あのスーツなに?ネタにされちゃってるんだけどっ!?」
「はて?私は普通の金スーツを用意したはずですが……」
「せやで姫さん、ほれみてみい」
ゴブリン二人は再び金のジャケットを脱ぎ、背中をこちらに向ける。
そこには何の模様もなく、ただの真っ白なワイシャツがあるだけだった。
「……あれ?さっきの刺繍は?」
「ワイらの能力でそう見えるようにしたんや」
「暗黒微笑はいつどんな時でも、即興ネタを作れるのが売りなんやで」
「ワイ、兄でボケ担当『スズキ・サトウ』が『質変化』で」
「ワテ、弟でツッコミ担当『タカハシ・サトウ』が『色変化』ですわ」
ちょっと待ってくれ。情報が多い。
……これは――ボケ?
佐藤さんなんだけど。名前が日本人なんだけど。
なんなら、名前も苗字も苗字なんだけど。
いやでも、たぶん普通に本名……だよね。ボケてる感じしないし。
ツッコむのは失礼……だよね。
「あらら、姫さん固まってもうたで」
「ワテらの能力が分からんのちゃう?いっちょ見せたろやないかい」
青い蝶ネクタイのタカハシが手を上げる。
すると、二人の足元から、床が円形に白く染まっていく。
それに続いて、赤い蝶ネクタイのスズキも手を上げる。
次の瞬間、白く染まった床が、白いふかふかの絨毯へと変わっていった。
「おお、タカハシッ!これみてや!5mくらいまで届くようになっとるで!」
「せやな!魔王様からもらった魔力のおかげや!芸の幅広がるなぁ!」
盛り上がっている……
『設定』の影響で強化されているらしい。
でもこの能力、演出に結構使えそうだな……
二人が手を下ろすと、床は徐々に元の石畳へと戻っていった。
そもそもコイツ等、即興であのネタを作ったのか?
ボクはすっかり巻き込まれちゃったけど、
ゴードンは顔には出さなかったけど、プルプル震えていたし。
セワスにいたっては、「ふっふっふっ」と楽しんでいた。
これは期待できる。
笑いのプロらしいし、素直に聞いてみよう。
「二人は、どうやれば勇者を笑わせられると思う?」
「おぉ!姫さん動き出したで。ワイら能力分かったみたいやな」
「確実に笑わせるならまずは情報収集やな!人間相手のネタなんて初めてやし」
「情報……ね。一応あるにはあるんだけど……見る?」
「なんでもったいぶっとんのや!見るに決まっとるやろ!」
「いや、タカハシ……これ見ない方がええやつちゃうか?」
「なんでなん?どう考えても見た方がええやろ」
「あの姫さんの出す情報やで?勇者の裸の情報とか出てきたらどうする気や」
「…………確かに。それは、気まずいな」
「普通の情報だよっ!……ふつ……うの……」
「……なぁ、やっぱり裸体写真集とか出てくるんちゃうか?」
「自信なさそうやで?盗撮なんとちゃう?」
ロルムは、もう問答無用でゴブリンの目の前にウィンドウを表示した。
くそっ……なんでボクが変な目で見られないといけないんだ……
中身が悪いのに……あと、セワスが悪いのに……
ゴブリン達はしばらくして、勇者パーティの情報を読み終えると――
「こりゃまた、ギャグみたいな勇者やなぁ……一本作れてまうで」
「でも、方針は決まったな。ナイスな情報やったわ、姫さんっ!」
二人は自信満々に顔を見合わせる。
そして――この勇者を必ず笑わせるという、必笑の作戦を語り始めた。
本日の演目、お楽しみいただけましたでしょうか。
それでは――最後に、皆様からの拍手を。
……の代わりに、
下に星を飾り付けて、この会場を彩っていただけないでしょうか?
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