第十三演目 【いや、必要ないよ。】
ここは……?
……夜?
頭上には、青く澄んだ揺らめく星空。
足元には、鏡のような地面が広がり、果てしない星の海をそのままに映し出す。
彼方の水平線には青白く輝き、空と地面の境界さえ曖昧にしていた。
……絶景とはこのような場所を言うんだろう。
「来たな。……『メイト・ペングル』」
背後から声がした。
メイトはすぐに距離を取り、周囲を警戒する。
「……?」
が、声の主らしき人影は見当たらない。
見渡す限りの青い水平線。あとは、金色の炎が一つ浮かんでいるくらいか……?
「それだっ!その『金色の炎』っ!」
喋った。
……新種の魔族。なのか?
この空間もアレの仕業なんだろう。
ということは、アレを倒せば元の場所に帰れるな。
「……『氷の魔法』」
「あぁ!ちょっと待っ……」
メイトは金色の炎に斬りかかるために、魔法で氷の剣を造り出そうとした。
「……?」
しかし、何もおこらなかった。
魔法が発動しない。
――ふむ。どういうことだろう?
メイトは曲げた人差し指を口元に当て、深く考え込む。
「……ぁ……おぃ」
魔力は感じる。しかし、体の外に出すことができない。
……なにか妙だ。
よく見ると、自分の体が透けて見える。それに、軽い。
「ぉぃ……聞こぇ……ぇ無視……」
意識もはっきりとしないな。もやがかかったようだ。
この曖昧な感覚には、覚えがある。
そして、唐突に見覚えのない場所にいることも含めると……
ああ、なるほど。そうか僕は――
――夢を見ているのか。
「ちょっとは、話を聞いてくれよぉ!なぁ!?」
じゃあ、あの敵対する様子のない炎はなんなんだ……?
話しかけられてる……のだろうか?
いや、どうだろう……。
僕が何かに話しかけられる夢を見るかな?
「ずっと話しかけてるよなぁ!?どう考えてもお前によぉ!」
……うるさいな。
メイトはいったん思考を中断し、無視し続けていた金色の炎と向き合う。
どうやら、変な夢を見てしまっているらしい……
「夢じゃないって言ってるよなぁ!頼むから会話してくれよ!始まらないんだよ!」
「いや、夢じゃないとは言われてないよ。どうして嘘を吐くのかな?」
「えっ!細かっ!いやもう話聞いてくれるならなんでもいいんだけどよ……」
夢じゃない……か。
もしそうなら……ここは……?
「ここは【夜界】。まあ、勇者を決める場所だと思ってくれていい」
ふむ。この炎は僕の心が読めるようだ。
厄介な能力だけど、利用もできそうだな……
(僕は、勇者になるのか?)
「お前……心読めるって分かったら喋らなくなるのな。まぁいいけどよ。そうだ、
お前は――勇者に選ばれた」
――〔勇者〕。
そういえば、100年周期くらいで魔王が誕生すると聞いたことがある。
その魔王を討伐するために選ばれるのが勇者……だったはずだ。
でも、前回は確か……
「ああもう、時間切れになっちまったじゃねぇか!……とにかくこれから、お前は――勇者だ。絶対、面白くなるから、ちゃんと旅に出てくれよ?」
そう言い残し、金色の炎は消えてしまった……
アレの言ってることが本当なら、僕は勇者をやらないといけないのか……?
〈ガチャンッ!〉
――――――――――――――――――――――
「――あなたの〖独り〗の全てを禁じます――」
――――――――――――――――――――――
……!?
急に耳元で囁かれる。
メイトは咄嗟に前方へ跳び、距離を取った。
振り返るとそこには、『銀色の炎』が浮いていた。
気配がない。……それに今、何をされた?
何かが僕の体の中に入り込んできたような……
この銀色の炎も心が読めるのだろうか?
喋ることはできるのだろうか?
ふむ。
まあ、色々試してみることにしよう。
「聞いてもいいかな……?君は、さっきの金色の炎の……」
ブォゥンッ!
視界が真っ白に染まる。
○ ○ ○
――そして、メイトは目を覚ました。
時は魔王誕生の2日前。
「ここは……?それに、さっきのは……」
状況を整理していると、下の方から声がした。
「おい、いつまで寝てやがる」
シャキンッ!
突然、ふわっと体が宙に浮いたような感覚になる。
ドサッ!
その後、全身に衝撃が走った。
メイトは木々に吊るしてあったハンモックの紐を切られ、地面に落下した。
体を起こして顔を上げると、深紫の髪をした目つきの悪い男が、頭を掻きながらこちらを見下ろしている。
ああ、師匠か。
落下した衝撃で、意識がはっきりとした。
ここは【森林区域】の林の中だ。
さっきのは、夢……だったのだろうか?
いや、夢にしては……
……。
〖勇者〗……か。
とりあえず、師匠に伝えてみようかな。
「師匠。僕、勇者になったみたいだ」
「あ?なに言ってんだ?」
「……?師匠。僕、勇者になったみたいだ」
「聞こえてねぇわけじゃねぇよ!……おう、そうか。お前が……」
師匠は顔つきを変え、そのまま何かを考えだしてしまった。
メイトは意に介さず尋ねる。
「師匠。勇者って魔王を倒せばいいだけなのか?」
「うん?ああ――だが、魔王は並の魔族とはわけが違う。まだお前にゃ無理だ」
「分かった。師匠の基準は当てにならないから、とりあえず倒しに行ってみるよ」
メイトは、魔王の城へ向かう準備を始める。
後ろで師匠が何か言っている気がするが、無視した。
すると、次の瞬間――師匠に蹴り飛ばされていた。
ボゥンッ!
メイトは空中で1回転した後、地面に着地する。
「オイ、クソ弟子……無視してんじゃねぇぞ?大人の話はちゃぁんと聞くもんだって散々教えたよなぁ!」
「確かに言われたことがある。僕が間違っていたよ。で、師匠。何の用かな?」
「チッ……まず、なんでお前、一人で行こうとしてる?」
「そのほうが――効率的だから」
ハァァ――
師匠は大きなため息を吐いた。
「あのなぁ。代々、勇者はパーティを組んで魔王城に向かう決まりがあんのっ!」
「いや、必要ないよ。一人でいい」
「ダメだ。拒否するなっ!そろそろお前も、俺以外と関わる時が来たんだよ」
そうかな?
確かに、もう6年くらい師匠以外の人と関わっていない。
直接会ってすらいない。
する必要がないからね。
だから本当は、師匠とも関わる必要はないと思うんだけど……
「そうだメイト。勇者になったんなら、『勇者の能力』がもらえるはずだが――使えるのか?」
「能力?……ああ、これのことかな」
今までに無かった感覚。
その感覚をたどるように、メイトは意識を集中させた。
すると、メイトの前にウィンドウが展開される。
〈デンッ!〉
[――――あなたは〖勇者〗です。――――]
〈デンッ!〉
[――――勇者の固有能力『驚』を習得しました。――――]
ふむ。驚……か。
よく分からないな。
他にも色々書いてある。
この宙に浮く半透明な紙に触れれば、操作できるようだ。
メイトはウィンドウの様々な箇所に触れ、操作を試していく。
〈デンッ!〉
[――――〔聖王〕に王城へ招待されました。――――]
〈デンッ!〉
[――――明日の12時丁度、王城内部に転移します。――――]
これは、どうしようもない……かな。
メイトの表情が曇る。
「師匠……本当に一人で魔王討伐しちゃダメなのか?」
「観念するんだな。それに、さんざん会話の仕方は教えてやっただろ」
「師匠の言うことなんて、半分くらいしか信じてないよ」
バキッ!
ドンッ!
メイトは近くの木まで蹴り飛ばされ、幹に激突する。
ふぅ……僕もここ数年で、受け身が随分と上達したな。
メイトは幹を蹴り、地面に降り立った。
――人と関わるしかない……
敬語の使い方、会話の仕方、女性の扱い方。
確かに師匠から教わったような気はする。
一人で考え込みだしたメイトに、師匠はからかうように声をかけた。
「お前、女に興味ありそうだったじゃねぇか。それとも、ビビってんのか?」
僕が失敗を恐れている……そうみえるのか。
ふむ。
考えてみると、少し失敗したのは子供の頃の話だ。
それから周りの人を不幸にしたくないから、人との接触を避けるようになった。
――けど、今ならどうなんだろう?
僕は学習できる。
だから、同じ失敗は繰り返さないようにすればいいだけだ。
実戦経験が一番自分を成長させることも知っている。
いい機会……なのか?
師匠の嘘みたいな話も、本当なのか少し試してみたい。
それに、どうせいつかは多少なりとも人と関わる必要がある。
いや、どのみち聖王に強制転移させられる。
逃げようがない。
メイトはとりあえずの方針を固めた。
「そうだね……じゃあ、女性のパーティメンバーがいたら、抱いてみるのを目標に、人と関わってみることにするよ」
「お、おう。そう……だな!その意気だっ!パーティメンバー全員抱いてこいっ!」
――この時、〝勇者〟は知らなかった。
『抱く』という言葉に、ハグする以外の意味があることを……
師匠と呼ばれる男が、とんだほら吹きだったことを……
人を避け、野生で生きようとする独りの少年。
――彼と関わり続けるため、その嘘がどんどんエスカレートしてしまったことを。
キャラデザ変更による、挿絵の修正が間に合いませんでした。
後から挿絵を追加をします。少々お待ちを。




