第4話 佐藤由汰VS水撫奏子②
◇佐藤由汰 HP 5000
◇水撫奏子 HP 2850
水撫は次のターン、確実に強力な上位エレメントを召喚してくるはずだ。ならば、そのまえにどれだけHPを削れるかが勝負の鍵となる。
盤面を確認する。
俺のエレメントは1体のみ。
栄光の騎士団
光属性/BP 1150
対する水撫のエレメントは3体。
蒼魔獣・ライゴール
水属性/BP 1000
水蝶の剣士・メルル
水属性/BP 1200
占晶石の双子・リディア&リビティ
水属性/BP 1700
盤面は不利だが、俺の手札には逆転のカードがある。このターン、俺は水撫のエレメントを全滅させて、さらに強烈なクリティカル・ダメージを叩き込む。俺を本気にさせたこと、後悔するんだな!
「俺は、手札から〈ゲイルストライカー〉を召喚する!」
ゲイルストライカー
風属性/BP 1200
大剣を構えた鉄仮面の剣士だ。その刀身には緑色の旋風が巻きついている。水撫の説明によると、風属性は水属性に対して強いはずだ。
「さすが佐藤くん。やはり有利属性のエレメントを召喚してきましたか。でも、その子のBPではちょっと足りないのですよ?」
「わかってるさ。だからこそ、俺は手札からこのカードを使う。〈転生の天使・リシャナリー〉の援護スキルをな!」
転生の天使・リシャナリー
光属性/BP 1300
大鎌を手にしている銀髪ロングヘアのゴスロリ少女だ。周囲には人魂が浮かんでいる。『援護スキル』とは、手札から発動して墓地に置かれる、いわば使い捨てのカード。瞬間的にエレメントのBPを強化できるので、不利な状況を打開する際には必須スキルといえる。
「味方エレメント1体のBPをターン終了時まで+300させることができる。これにより〈ゲイルストライカー〉のBPは1500となる!」
「ぐッ! ここで援護スキルですか!?」
「〈ゲイルストライカー〉で水撫の〈占晶石の双子・リディア&リビティ〉を攻撃。有利属性効果によって攻撃時のBPはさらにアップし、1800となる。撃破!」
「わ……私の双子ちゃんがッ……!」
「さらに〈ゲイルストライカー〉の攻撃スキルが発動される。敵エレメント撃破成功時、1回だけ追加攻撃できる。〈水蝶の剣士・メルル〉も撃破だ!」
「そんな……!」
「そして〈栄光の騎士団〉の攻撃で〈蒼魔獣・ライゴール〉も撃破!」
「わ……私のエレメントが全滅なのです!」
これで道は開かれた。よく見てろ水撫、大ダメージはこうやって与えるんだよ。俺はパチンと指を鳴らした。
「召喚条件クリア! このターンに3体以上の敵エレメントの撃破に成功した場合、このエレメントは手札から召喚できる。いくぜ! 上位エレメント〈迅雷の竜騎士・ライトニングドラグーン〉!」
迅雷の竜騎士・ライトニングドラグーン
風属性/BP 2350
雷を纏ったドラゴンに跨っている槍使いの男だ。裸の上半身には魔術的な刺青が彫られている。
「この攻撃はクリティカルとなる。水撫に2350ダメージだ!」
「そんな大ダメージは許さないのです。私は手札から防御エレメント〈水蛇のウェン……」
「無駄だ。〈迅雷の竜騎士・ライトニングドラグーン〉の召喚スキルが発動している。この攻撃においては、いかなる防御エレメントも召喚することができない!」
「きゃぁぁぁぁー!!」
◇水撫奏子 HP 2850 → 500
「これで俺のターンは終了だが、〈転生の天使・リシャナリー〉の援護スキルはまだ続いている。効果を受けた〈ゲイルストライカー〉を墓地に送り、デッキから、おなじ属性のエレメント1体を選んで召喚することができる。俺はこの効果で、〈極彩色の魔鳥〉を召喚する」
極彩色の魔鳥
風属性/BP 1000
色鮮やかな羽根を生やした巨大怪鳥だ。このエレメントはBPこそ雑魚だが、厄介な召喚スキルを持っている。
「この〈極彩色の魔鳥〉が召喚されている限り、水撫、おまえの召喚するエレメントの召喚スキルは、すべて発動しない!」
「……」
俯いている水撫。おい、さっきの元気はどうした? 無言のままドローして、手札から次なるエレメントをくりだしてきた。
エルキュースの門番兵
水属性/BP 1350
城門を守備している鎧の兵士たちだ。大きな盾をかまえながら槍を突きだして威嚇している。なにかしらの召喚スキルを持っているようだが、俺の〈極彩色の魔鳥〉のスキルによって発動できない。残念だったな。
……すると、そのときだった。
黙っていた水撫が、そっと口を開いた。
「ねえ、佐藤くん?」
「なんだ?」
「いま、楽しい……ですか?」
「なに?」
いきなり妙なことを訊いてくる。HPの差は歴然の10倍。5000VS500。まさか『一方的にボコボコにして楽しいですか?』という嫌味ではあるまいな?
俺は肩をすくめて答えた。
「久しぶりの対戦にしては、悪くない気分だ」
「そうですか。それはよかったです」
「水撫は?」
俺は訊き返してみた。そのとき、俺の脳裏に浮かんでいたのは、教室の水撫だ。いつもひとりぼっちで俯いていた、冴えない女の子の姿。
イジメられているわけではなさそうだったが、それでも放っておけなかった。俺は、ひとりぼっちでいる奴に弱いのだ。我ながらお節介な男だと思うが。
まさか問い返されるとは思っていなかったのだろう。驚いたように、水撫はパッと顔をあげた。
「私ですか? 私は……いま、すごく楽しいのですよ。だって……」
薄桃色の唇に咲く、柔らかな笑み。
そして、水撫は言った。
「……ずっと会いたかった佐藤くんが、いまも変わらない、あの頃のままの佐藤くんだって、わかったから」
……なにを言ってるんだ? だが、どうにも小っ恥ずかしい気持ちだ。気づけば顔を背けている俺がいた。
「カードを辞めても、俺は変わらん」
「うふふ……そうですよね、佐藤くんは♡」
わからない、この水撫奏子という女が。
おまえは俺のなにを知っているというんだ?
人気のない昼休みの図書室。聞こえるのは空調機の音のみ。その静寂のなかで、まるで儀式のように無言で向かい合っている俺たち。
……やがて、水撫は手札から1枚のカードを抜くと、カードを指で挟んでいる手と、手札を持っている手を交差させて、あのポーズをとった。
「……召喚条件クリア……!」
水撫の唇から紡がれる次の声は、まるで凪いだ水面に広がっていく波紋のようだった。
「このエレメントは、私の墓地に水属性カードが7枚以上ある場合、それらのカードをゲームから除外することで、手札から召喚できる。爆ぜろ私の水域! 上位エレメント〈アクアドラゴン〉召喚!」
現れたのは、全身に蒼色の紋様が浮かんだ巨大な黒竜。4本の角と巨大な翼、そして3本の尻尾をもっている。咆哮で海面を巻きあげているその様子は、神々しくもあり凶悪そのもの。
アクアドラゴン
水属性/BP 2400
「さあ、今度は佐藤くんが覚悟する番なのです。〈アクアドラゴン〉の攻撃により、攻撃スキルが発動。すべての敵エレメントに1400ダメージを与えるのです!」
「全体攻撃か……!」
俺の〈栄光の騎士団〉と〈極彩色の魔鳥〉が撃破された。だが、これは想定の範囲内。
「そんな攻撃スキルじゃBP2400も飾りだな。水撫、それでターン終了か?」
「いいえ。私の〈アクアドラゴン〉の攻撃はまだ続くのですよ。この全体ダメージによって撃破した敵エレメント1体につき、BP+300した上で1回だけ追加攻撃できるのです!」
「な……なんだとッ!?」
……ということは2体撃破でBP+600。追加攻撃時のBPは3000に達するというのか。俺の〈迅雷の竜騎士・ライトニングドラグーン〉のBPを超えている……!
「〈アクアドラゴン〉の追加攻撃で、佐藤くんの〈迅雷の竜騎士・ライトニングドラグーン〉を撃破なのです!」
「くっ……馬鹿なッ!」
全体ダメージに加えて、その撃破数に応じて強化される追撃の2段構えの攻撃スキル。俺の現役時代の水属性はサポート色が強めだったはずだが、どうやら、現在の環境は大きく変わっているようだな。
「これで佐藤くんのエレメントは全滅なのです。次の〈エルキュースの門番兵〉の攻撃はクリティカルなのです!」
「ぐッ!」
◇佐藤由汰 HP 5000 → 3650
「さらにこのターン、私は援護スキルを発動させるのです。〈水竜共鳴蟲〉!」
水竜共鳴蟲
水属性/BP 1000
青く発光する蛍のような昆虫の群れだ。名前に『水竜』というのは……嫌な予感がするが。
「〈水竜共鳴蟲〉の援護スキルは、このターンに撃破した敵エレメント1体につき、強化カウンターを好きなエレメントの上に置くことができるのです。このターンにおける撃破数は3体。私は、3個の強化カウンターを獲得し、それを〈アクアドラゴン〉に置くのです!」
アクアドラゴン
水属性/BP 2400 → 2700
もはや並大抵の上位エレメントでは敵わない。完全に逆転されたということか。いいだろう。面白くなってきたな!
「これで私のターンは終了なのです!」
「俺のターン、ドロー!」
いまの俺の手札には〈アクアドラゴン〉に勝てるカードは無い。どうにか、このターンで反撃の糸口を見つけなければ。
「俺は手札から〈トロール〉を召喚する!」
トロール
無属性/BP 1500
緑色の巨体をした頭の悪そうな怪物だ。手には大きな棍棒を持っている。なんのスキルも持っていない雑魚だが、無属性の補正でBPは高い。こいつなら〈アクアドラゴン〉の全体攻撃にも耐えられる。
「〈トロール〉の攻撃で、水撫の〈エルキュースの門番兵〉を撃破する!」
「むむッ……!」
さらに……このカードに賭ける!
「手札から〈聖典の所持者・エルメス〉の援護スキルを発動。このスキルで、俺はデッキからカードを2枚ドローする!」
聖典の所持者・エルメス
光属性/BP 1000
亜麻色のショートヘアをした女の子だ。宗教的な白装束を纏い、辞書みたいに分厚い本を抱えながら微笑んでいる。この援護スキルを発動させた場合、効果として、俺のターンはそのまま終了となる。
「水撫、おまえのターンだ」
「私のターン、ドロー! 佐藤くん、ひょっとして〈トロール〉を召喚しておけば、私の〈アクアドラゴン〉の攻撃を凌げる……とでも思っているんじゃないですか。甘いのですよ?」
「……ッ!」
「私はこのターン、さらに佐藤くんを追い詰めるのです。手札から〈十七剣孔雀〉を召喚!」
十七剣孔雀
水属性/BP 1500
羽根の代わりに剣を生やしている孔雀だ。水属性でBP1500というのは異常な強さだ。だから、このエレメントには『手札からカードを1枚選んで捨てる』という、代償のような召喚スキルが備わっている。
「孔雀ちゃんの攻撃で〈トロール〉を撃破なのです!」
「くそッ!」
「さらに〈アクアドラゴン〉の攻撃で、佐藤くんにクリティカル!」
「ぐぁぁぁぁ!!」
◇佐藤由汰 HP 3650 → 950
「さてさて『勝負には常に全力で挑む』……それが佐藤くんの流儀でしたよね?」
「ああ。そうだ。最初にそう言ったろ?」
「では、最後までちゃんと全力で挑んでくださいね、私の〈アクアドラゴン〉に。私のターンは、これで終了なのですよ。どうぞ〜♡」
水撫は意気揚々と、手札のカードでパタパタと顔を扇いでいる。前髪のせいで瞳は見えないが、唇は超スマイル。身体が左右に揺れた。あ、いま足組んだな?
「……フッ」
「む? 佐藤くん、なんで笑ってるんですか?」
不思議そうに首を傾げている水撫。この子は、カードゲームを始めたばかりの俺によく似てる。あの頃は、俺も有利な状況になると、こんなふうに相手を煽って笑っていたっけ?
……いつからだろうか。
……対戦で笑わなくなってしまったのは?
俺は、かぶりを振って水撫に答えた。
「いや、なんでもない。そんなことより、水撫はいま、俺のカノジョなんだよな?」
「え? はい。そうですけど?」
頬を赤らめている水撫。あんなゴリ押しで交際を迫ってきたくせに、いまさら『カノジョ』という言葉に恥じらうのか? ……つくづくわからん奴だな。
「ならば、ひとつだけ言わせてもらうぞ」
「な……なんですか?」
俺は、手札を持っている手を下げた。水撫をまっすぐに見つめながら、ビシッと指をさす。
「カードゲームで遊んでいるときの水撫は、教室で俯いているときよりも100倍可愛い! 以上だ」
「ふ……ふぇ!?」
静寂が訪れた。ほんの一瞬だったが。
「んななな……なにをいきなり言ってるんですかぁ!? ダメですからね!? そんなこと言っても手加減してあげませんからね? あ、いや、手加減っていうか、私が佐藤くんに追いつきたいので、だから、佐藤くんが手加減しちゃダメっていうか……その……」
両手をぶんぶん振りまわして焦っている水撫が面白くて、可愛らしくて、俺はついつい声をあげて笑ってしまった。
「ハハハッ……!」
「んむむ〜!!」
ぷくっと頬を膨らませる水撫。
指をさし返しながら怒ってくる。
「それも上級者の戦略なんですかぁ!? そうやって女の子にか、かか……可愛いなんて言って、集中力を乱すのが?」
「馬鹿め。そんな作戦があるわけないだろうが」
「んもうッ! お喋りばっかりしてたら昼休みが終わっちゃうじゃないですか。ちゃっちゃとカードを引いてくださいよぉ!」
「ダメだ」
「ダメなの!?」
「ダメだ。勝手にターン終了されちゃ困るんだよ。俺は、おまえの〈アクアドラゴン〉のクリティカル発生時、この防御エレメントを召喚していたんだからな!」
ダブルテイルズ・フォックス
風属性/BP 0
身体中に紫色の紋様が刻まれている神秘的な白狐だ。大きな2本の尻尾を生やしており、瞳は赤と青のオッドアイ。このカードは、過去『最強』と称された俺のデッキにも入っていた切り札の1枚だ。
……まったく、やれやれだ。なんの因果か知らないが、もう一度こっちの世界に片足を入れることになってしまったようだ。またよろしく頼むぞ、相棒。




