第3話 佐藤由汰VS水撫奏子①
TCG『ディバイン・ストーンズ』。キャスターと呼ばれる召喚士が、異世界の生物・エレメントの力を駆使して対戦するカードゲームだ。勝敗条件は単純明快で、先に対戦相手のHPを0にすれば勝利となる。
「私は〈睡蓮の妖精たち〉を召喚するのです!」
睡蓮の妖精たち
水属性/BP 1100
先攻の水撫が手札からくりだしてきたのは、ティンカーベルみたいな妖精たちだ。水面に浮かんだ花の周囲を飛びまわっている。
「この子の召喚スキルで、私はデッキからカードを3枚ドローして、その後、手札から2枚選んで捨てるのです!」
エレメントたちは、それぞれが方向性の異なるスキルを所持している。『召喚スキル』とは、エレメントが召喚されたときに発動されるスキルで、サポート的な役割が多い。ルール上、先攻の水撫は攻撃宣言できないので、彼女はターンを終了させ、俺のターンになった。
「俺のターン、ドロー!」
いつ以来のドローだ?
1年半ぶりくらいか……。
「手札から〈炎角のラヴィット〉を召喚!」
炎角のラヴィット
火属性/BP 1300
俺が選んだのは炎の一角を生やした黒ウサギだ。エレメントは、1ターンに1回、手札から召喚することができる。
「〈炎角のラヴィット〉の攻撃で、水撫の〈睡蓮の妖精たち〉を撃破だ!」
「私の妖精ちゃんが串刺しに……!」
「さらに〈炎角のラヴィット〉の攻撃スキルが発動。敵エレメント撃破成功時、そのキャスターに400ダメージを与える!」
「うぐッ!」
◇水撫奏子 HP 5000 → 4600
『攻撃スキル』とは、攻撃したときに発動されるスキルで、こんなふうに撃破成功時にダメージを与えることもできる。エレメントの戦闘はBP(バトルポイント=戦闘力)の数値で決まり、負けたカードは墓地(カードの捨て場)に置かれる。
「俺のターンは終了だ」
「私のターン、ドロー!」
静まり返った昼休みの図書室に、俺たちの声だけが響いている。図書委員に注意されたら即アウトだ。カウンターからは離れているものの、水撫の声が大きいので冷や冷やする。
「〈パギアンスネーク〉を召喚するのです!」
パギアンスネーク
水属性/BP 700
水撫が次に召喚したエレメントは、人畜無害そうな青蛇で、頭部に近いところからピンク色の羽根が生えている。やけにBPの低いエレメントだ。こういうのは大抵、厄介なスキルを持っているものだが。
「この子の召喚スキルにより、手札とデッキから最大2体の〈パギアンスネーク〉を召喚することができるのです!」
「たとえ3体集まったところで〈炎角のラヴィット〉のBPに届かない限り、返り討ちだぞ?」
「そうですね。ターン終了です」
「なにッ!?」
このゲームにおいて、雑魚エレメントを大量展開させるのは悪手だ。なにか狙っているのは間違いない。だが、先読みしようにもカードの情報が古すぎる。やはり1年半のブランクは厳しいな。
「俺のターン、ドロー! 手札から〈栄光の騎士団〉を召喚し、召喚スキルを発動。デッキからカードを1枚ドローして、さらに、味方エレメント1体の上に強化カウンターを1個置く!」
栄光の騎士団
光属性/BP 1250
白銀の鎧を纏って剣を掲げている騎馬隊だ。『強化カウンター』というのは、永続的にエレメントのBPを高められるもので、1個につきBP+100される。俺は、強化カウンターを〈栄光の騎士団〉の上に置いた。
〈栄光の騎士団〉
光属性/BP 1250 → 1350
これで俺のエレメントは2体になった。覚悟しろよ、水撫。このターン、おまえは〈パギアンスネーク〉を召喚した己の愚策を思い知ることになる。俺は指をパチンと鳴らした。
「召喚条件クリア! お互いの場で合計5体以上のエレメントが召喚されている場合、このエレメントは手札から召喚できる。いくぜ! 上位エレメント〈ヘルブレイズ・ビースト〉!」
ヘルブレイズ・ビースト
火属性/BP 2000
真紅の毛並みをしたライオンのような怪物だ。炎の渦を纏いながら猛々しく吠えている。『上位エレメント』とは、このゲームにおける戦略の要だ。固有の『召喚条件』を満たさなければ召喚できないが、状況をひっくり返せるほどの強さを持っている。
「ま……まさか佐藤くんが、そんなカードを待っているとは!」
驚いている水撫。
いや、おまえが作ったデッキだろうが!?
「〈ヘルブレイズ・ビースト〉の魔法スキルを発動。敵エレメント最大2体に1300ダメージを与える。〈パギアンスネーク〉2体を撃破!」
「私のパギアンがッ!」
『魔法スキル』とは、攻撃する代わりに発動できる戦略的なスキルで、サポートから攻撃、回復まで、様々なバリエーションをもつ。
「このスキルによって撃破成功した敵エレメント1体につき、そのキャスターに500ダメージを与える。2体撃破により、水撫に合計1000ダメージだ!」
「うわぁぁぁ!!」
◇水撫奏子 HP 4600 → 3600
「さらに〈炎角のラヴィット〉の攻撃で、残り1体の〈パギアンスネーク〉も撃破。攻撃スキル発動で400ダメージ!」
「うぐッ!」
◇水撫奏子 HP 3600 → 3200
これで水撫のエレメントは全滅した。次の攻撃は『クリティカル』となる。攻撃したエレメントのBPが直撃するというわけだ。
「〈栄光の騎士団〉の攻撃でクリティカル発生。水撫に1350ダメージだ!」
「これ以上のダメージは許さないのです。防御エレメント〈蒼魔獣・ライゴール〉召喚!」
蒼魔獣・ライゴール
水属性/BP 1000
水の膜を纏いながら浮遊している巨大なエイのような怪物。尻尾からは雷撃が迸っている。『防御エレメント』とは、クリティカル発生時にのみ手札から召喚できるエレメントで、そのBPの数値分だけ、受けるダメージを軽減することができる。
◇水撫奏子 HP 3200 → 2850
「〈蒼魔獣・ライゴール〉の防御スキルが発動するのです。佐藤くんのすべてのエレメントに弱化カウンターを2個置く!」
「くッ!」
『防御スキル』とは、防御エレメントが所持する専用スキルで、劣勢状況からの反撃への糸口となる。『弱化カウンター』とは、強化カウンターの対極で、1個につき永続的にBP−100する。
水撫の〈蒼魔獣・ライゴール〉の防御スキルによって、俺の戦力は大幅にダウンさせられてしまった。
〈炎角のラヴィット〉
火属性/BP 1300 → 1100
〈ヘルブレイズ・ビースト〉
火属性/BP 2000 → 1800
〈栄光の騎士団〉
光属性/BP 1350 → 1150
「これで私が有利になりましたよ、佐藤くん?」
「それはどうかな? ……俺のターンは終了だ」
水撫はずいぶんと余裕だな。HPでも、エレメントの数でも、圧倒的に俺が有利なのは明白なのだが。ちなみに、エレメントは最大5体まで召喚することができる。
「私のターン、ドロー!」
カードを引いた手を斜めに振り上げる、ずいぶん気合いの入ったドローである。かっこいいが、その度におっぱいが揺れるので目のやり場に困る。ブレザーのボタンを留めろ。
「さあ、反撃開始なのです。私は手札から〈水蝶の剣士・メルル〉を召喚するのです!」
水蝶の剣士・メルル
水属性/BP 1200
淡い水色の巻き髪をしたツインテールの少女。肩を露出させたドレス姿で、レイピアの剣を構えている。
「その程度のBPでどうやって俺の〈ヘルブレイズ・ビースト〉を倒すつもりだ?」
「佐藤くん、この子を舐めちゃダメなのですよ。すごく勇敢な子なんですから。メルルちゃんの攻撃で〈ヘルブレイズ・ビースト〉を撃破するのです!」
「馬鹿め、返り討ちだ!」
「いいえ。メルルちゃんの攻撃スキルが発動しているのです。この子は、召喚されている敵エレメント1体につき、戦闘時のBPを+100させることができるのです。佐藤くんのエレメントは3体。だからBP+300!」
「それでもBP1500だろうが。俺の〈ヘルブレイズ・ビースト〉は弱化カウンターの影響を受けているとはいえBP1800だぞ?」
すると、水撫はニヤリと笑った。
「有利属性効果なのですよ」
「ゆ……有利属性効果? なんだそれは?」
水撫の説明によると、去年の8月に公式から追加されていた新ルールらしい。それによると、水属性は火属性に対して強く、攻撃時のBPが+300されるというのだ。
「……そういうわけで、メルルちゃんの攻撃で〈ヘルブレイズ・ビースト〉は撃破されるのです。引退していた佐藤くんが悪いのですよ?」
「マジかよ……くそッ!」
俺はしぶしぶカードを墓地に置いた。BPが互角だった場合は、攻撃側のエレメントが有利となる。
有利属性効果……。
新ルール……。
全国大会でしのぎを削っていたライバルたちの顔が浮かんだ。あいつらは、この新ルールにも適応して、いまも戦ってるんだろうな。俺が去った後も、あの世界はなにひとつ変わらず……。
……くそッ!
なに感傷に浸ってんだ、俺は。
いまは対戦に集中しろ!
水撫の場にはもう1体〈蒼魔獣・ライゴール〉が召喚されているが、ルール上、防御エレメントは攻撃できない。次は俺のターンだ。
「俺のターン、ド……」
「待ってください、佐藤くん。私のターンはまだ終了していないのですよ?」
「なに!?」
水撫は手札からカードを1枚抜くと、カードを指で挟んでいる右手と、手札を持っている左手を交差させて、かっこつけたポーズをとった。
「なんだそのポーズは? ……まさか!」
「ええ。そのまさかなのですよ。召喚条件クリア!」
「なにッ!?」
このゲームは、つまるところ上位エレメントの召喚条件の読み合いだ。ゆえに、対戦相手の『召喚条件クリア』宣言は、もっとも緊迫する瞬間となる。
「このエレメントは、私の場に水属性の防御エレメントが召喚されている場合、手札から召喚できる。爆ぜろ私の水域! 上位エレメント〈占晶石の双子・リディア&リビティ〉召喚!」
占晶石の双子・リディア&リビティ
水属性/BP 1700
菱形の水晶を中央にして向かい合っている2人の女の子だ。どちらも目を瞑りながら、静かに祈りを捧げている。
「このエレメントの召喚スキルで、私はデッキからカードを2枚選択して、1枚を手札に加え、もう1枚を墓地に捨てるのです!」
「サーチ型の上位エレメントだと!?」
「私の作戦は、たったいま完成したのです」
デッキから選んだカードを手札に加えながら、水撫は宣言した。薄桃色の唇を、ニンマリと吊り上げながら。
「なるほど。そういうことか……!」
水撫の作戦というのは、おそらく超大型エレメントの召喚だ。そして、その召喚条件は『墓地にある水属性カードの枚数』。
〈パギアンスネーク〉の召喚は策略だったというわけだ。あれは墓地の枚数を増やすための生贄でありながら、俺の手札にある上位エレメントを召喚させるための罠。クリティカル・ダメージを誘発させて防御エレメントを召喚し、上位エレメントのサーチスキルに繋げたのだ。
正直、みくびっていたな。この子は絶対に初心者じゃない。過去『最強』と称された俺に挑んでくるだけのことはある。
「双子ちゃんの攻撃で、佐藤くんの〈炎角のラヴィット〉を撃破なのです!」
俺は黙ってカードを墓地に置いた。その前髪に隠された、正体不明の瞳を睨みながら。
「水撫、それでターンは終了か?」
「ええ。どうぞ」
カードはもう辞めたはずだった。だが、まだ完全に消えていないキャスターとしての残り火が、俺のなかで燻っているらしい。いいだろう。ここからは本気で相手になってやる!
「俺のターン、ドロー!」




