↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冴えない天使の手札最強〈ワイルドカード〉!  作者: カタリノタキア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/8

第2話 2人きりの図書室で♡

 いま、俺と水撫は手を繋ぎながら廊下を走っている。聞こえるのは2人分の足音と2人分の息遣い。窓から差し込む陽光に、空中の埃が煌めいて見えた。


「おっとと……!」


「佐藤くん、早く早くぅ!」


「そ……そんなに焦らなくても……」


 廊下の曲がり角にさしかかったとき、よろけてしまった俺を引っ張り、走り続ける水撫。彼女の要望で、俺たちはこれから『恋人じゃないとできないこと』をする。それはつまりアレだろう。女の子のほうから誘われるなんて夢みたいな話ではあるが。


「ここなのですよ」


 やってきたのは図書室。スライドドアを開けると、水撫は走るのをやめて歩きだした。他の利用者はゼロで、不気味なくらいに静まり返っている。


「佐藤くん、久しぶりじゃないですか?」


「いや、俺は……初心者だ」


「謙遜しないでください。百戦錬磨じゃないですか」


「おまえは俺をなんだと思ってるんだ!?」


 水撫に案内されたのは図書室の片隅。本棚に挟まれた空間にテーブルと椅子が設えられており、そこだけ小部屋みたいになっている。西側の窓からはグラウンドが見渡せた。


「さてさて、お昼休みの時間には限りがありますので、さっさと始めますよ?」


「……ッ!」


 水撫は秘密めかした笑みを浮かべながら、ブレザーのボタンをひとつ、またひとつと外していく。露わになった白ブラウスの膨らみに俺は息を呑んだ。グラビアアイドルもかくやと思わせる大きさだ。


 ど……どうすればいいんだッ!? 触ってもいいのか? いや、まだ恋人になって3分も経ってないんだぞ? いきなりそんな破廉恥なことなんてッ……!


 俺が無様に立ち尽くしていると……。




「はい」




「……え?」


 水撫は、ブレザーの内側ポケットから『カードの束』をとりだしていた。魔法陣を内包した水晶玉を中央に、外周には文字の刻まれた円環。このカード裏のデザインを俺が忘れるはずはない。TCG『ディバイン・ストーンズ』だ。


 どういうことだ?

 なぜ、いま俺にカードを渡す?


「このデッキは佐藤くんにあげるのです」


「……??」


「私のはこっちなのです」


 まるで状況が飲み込めないものの、俺は差しだされたデッキを受け取っていた。水撫も、スカートのポケットからもうひとつのデッキを取りだしている。そして、指先で1枚のカードを挟んで、ビシッとポーズを決めて……




「さあ、佐藤くん、私と対戦してください。この瞬間を、私はずっと待っていたのですよ!」




 いや、意味がわからない。

 なにを言ってるんだ、この女の子は?


「……水撫」


「なんですか?」


「ちょっと状況を整理するぞ」


 俺は本棚にもたれかかった。

 腕組みをして、水撫を睨みつける。


「水撫が告白して、俺たちは(強制的に)恋人同士になった。そうだよな?」


「はい。そうですよ」


「そのとき、おまえは俺と恋人になりたい理由として『恋人同士じゃないとできないことがしたい』と、そう言っていたよな?」


「はい。言いました」


「そして、俺たちはいまからここで……」


「はい! ここで、キャスターの血を滾らせる熱きトライアルを、いざ!」


「カードゲームは『恋人同士じゃないとできないこと』じゃないだろうがッ!」


 俺は盛大に突っ込んでやった。

 だが、水撫はキョトンと首を傾げている。


「え? 佐藤くん……そうなんですか?」


「……なんだその反応は?」


「だって、佐藤くんが言っていたのですよ?」


「俺が言っていただと……馬鹿なッ!?」


「忘れたのですか? んもぅ〜!」


 いや、そんなことを言った覚えはない。ぷくっと頬を膨らませている水撫は可愛いが、これは理不尽というものだ。


「とにかくです。私たちは戦わなければならないのです。その必要があるのです。佐藤くん、はい、そっちに座ってください!」


 椅子に座ってサッと足を組みながら、テーブルの反対側を指差している水撫。


「わけがわからんぞ、まったく……!」


 俺はテーブルの反対側にまわり、ドカッと椅子に腰かけた。告白を断ったらゴリ押しされて、アレを期待したら待っていたのはカードゲームだ。つくづく先の読めない昼休みもあったものだ。


 俺は諦めて、溜息をつきながらデッキを確認した。俺の知っているカードばかりだ。指先に伝わる感触も懐かしい。ちなみに、さっき水撫が言っていた『トライアル』というのは、このTCGにおける1回の対戦のことを指す。


 俺は言った。


「俺は、おまえの作ったデッキで戦うんだぞ。それがどういうことなのか、ちゃんとわかっているんだろうな?」


「その心配はいらないのです。綿密なテストプレイを重ねた結果、10回に1回くらいはそっちのデッキでも勝てることが判明しました」


「ふん。まあ、いいだろう」


 わかっているからデッキを作りなおせ! なにが綿密なテストプレイだ、この卑怯者め!


「佐藤くん、ちゃんと本気をだしてくださいね?」


 水撫はデッキをシャッフルしている。

 唇には楽しげな笑み。


「愚問だ。『勝負には常に全力で挑む』それが俺の流儀だからな。言っておくが、勝率90%にあぐらをかくなよ? 俺は……」


「ええ、知っているのですよ。佐藤由汰くんは過去『最強』だったのですよね?」


「……ッ!」


 そうだ。俺は、このTCG『ディバイン・ストーンズ』において、かなり名の知れた強豪プレイヤーのひとりだった。だが、それは中学時代の話だ。なぜ高校で出会ったはずの水撫が、俺の過去を知っている?


「先攻後攻、どうしますか?」


「かかってこい」


「そう言うと思ったのです」


 シャッフルを終えて、デッキを置く。

 お互いに初手のカードを引く。5枚だ。


「いきますよ、佐藤くん。私は、このときをずっと待っていたのです。あなたに見てもらうのですよ、いまの私を!」


 駄目だ。どれだけ記憶を巡らしても水撫のことは思い出せない。俺と話したことがあると言っていたが、いったいどこでだ?


 ……いや、いま考えるのはやめよう。とりあえず、この対戦に付き合ってやるしかない。俺との因縁について訊くのは、その後でいいだろう。


◇佐藤由汰 HP5000


◇水撫奏子 HP5000


 水撫の指がデッキに触れる。

 彼女は、デッキからカードを1枚引いた。


「私のターン! ドロー!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。