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冬に咲く薔薇は、誰のものでもない ── 愛と支配の物語 ──  作者: 宵待 桜


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Chapter Three Le Loup et la Rose


ダリウス侯爵が動いたのは、晩餐会から三日後のことだった。


場所はヴォーン侯爵家の夜会だった。


偶然を装っていたが、偶然ではないことは最初から分かっていた。


あの年齢で、あの地位で、本当の偶然など持ち合わせていない人間だ。


彼が私の前に現れたなら、それは全て計算の上だと思っていい。


「ミシェルローズ嬢、少しよろしいかな」


「もちろんですわ、侯爵閣下」


私たちは人気の少ない窓際へ移動した。


窓からは庭園が見える。


整然と刈り込まれた生け垣と、冬枯れの薔薇の棚。


美しいが、どこか剥き出しな印象がある季節だ。


しばらく、彼は黙っていた。


急いではいけない。


そういう人間だと、私はすでに知っていた。


焦らせて相手のペースを乱すのが彼の流儀だ。


だから私も黙り庭園を眺めながら、ただ待った。


「聡明な令嬢だと聞いていたが」


やがて侯爵は口を開いた。


「なるほど、評判通りだ。先日の晩餐会でも随分と周囲をよく見ておられた」


「社交の場ではそういうものではございませんか」


「ええ、そうですな」


彼は笑ったが目が笑っていない笑みだった。


「ただ、あまり熱心に見すぎると目が疲れることもある。特に若い方は」


遠回しに警告している事がわかった。


イザベルの言葉より、ずっと上手い。


直接脅したりはしない。


ただ『気をつけた方がいい』という空気を漂わせて、それでいて逃げ道を塞いでいる。


さすがに老練だと思った。


「ご忠告、ありがとうございます。でも私、目はとても丈夫なのです」


侯爵は一瞬、間を置いた。


ほんの少しだけ、その老いた目が私を測った。


「それは結構。ヴァレンタイン家のご令嬢は、やはり違いますな。ところでローゼンベルクのご嫡男とは仲睦まじいとお聞きしましたが」


彼の名前が出た瞬間、私の中で何かが静かに動いた。


ベネディクトを引き合いに出した。


それはつまり、私だけを牽制しているのではないということだ。


あるいは、二人の関係を使おうとしているのか。


「婚約者ですもの」


私は声の温度を変えずに答えた。


「当然ではございませんか」


「ええ、ええ。羨ましい限りですな。では、ご健勝で」


それだけ言って、彼は静かに立ち去った。


急がず、焦らず、何事もなかったように。


その背中を見送りながら、私は庭園へ視線を戻した。




✦ ✦ ✦




ベネディクトの名前を出した理由を、私はしばらく考えた。


単純に私を揺さぶるためか。


それとも、ベネディクトが何かを知っていることを侯爵も知っていて、それを牽制に使ったのか。


あるいはもっと単純に、ローゼンベルク家を巻き込むことへの警戒か。


分からない部分が増えたがそれ自体は悪いことではない。


分からない部分があるということは、まだ掘れる余地があるということだ。


ただ、なぜ今ベネディクトのことを考えているのだろう。


侯爵の言葉が引き金になったわけではない、と思いたかった。


ただ状況を整理しているだけだ。


彼の名前が出たから、戦略上の要素として検討しているだけだ。


それ以上の意味はない。


夜会の灯りが窓越しに差し込んでいた。


窓の外で、枯れた薔薇の棚が風に揺れていた。


春になれば、また咲くのだろう。


今はただ、棘だけが残っている。


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