Chapter Twenty-Eight Face à Face
翌朝、父に全てを話した。
ナタリーのこと。
マルグリットの調査結果。
ベネディクトが掴んだ三年前の記録。
モローとの接触の確認。
全部、順を追って話した。
父は途中で口を挟まず黙って聞いていた。
その空気感は冷たく、そして重たかった。
全部聞き終えてから思い口を開けた
「三年か。気づかなかった」
「私もです。ナタリーを疑う理由がなかったので」
「レイチェルには私から話そう。お前が話す必要はない」
「……はい」
「ナタリーの処遇は私が決める。ただし、その前にお前が話したいなら、話してもいい」
「話してもいい、というのは?」
「お前が直接聞きたいことがあるなら、機会を作る。ただし感情的にはなるな」
「なりません。聞きたいことが、あります」
「今日の午後、準備する」
✦ ✦ ✦
午後、邸の一室にナタリーを呼んだ。
私一人で向き合った。
マルグリットも、父も、同席しなかった。
それが私の希望だった。
ナタリーは部屋に入ってきた瞬間、私の顔を見て全てを察したようだった。
顔色が変わった。
でも彼女は逃げなかった。
私も黙っていた。
しばらく、二人とも何も言わなかった。
「知っているのですね」
先に口を開いたのはナタリーだった。
その声は震えていなかった。
「ええ。モローと会っていたことも、三年前から情報を渡していたことも」
ナタリーは目を閉じた。
それから、ゆっくりと開いた。
「申し訳ありませんでした」
「謝罪は聞きに来たのではないわ。なぜか、を聞きたいの」
ナタリーは唇を噛み締め、それから静かに話し始めた。
「奥様が、心配でした」
「お母様が?」
「この家に嫁いでこられた時から、ずっと。ヴァレンタイン家は冷たい家です。侯爵様は感情を見せない。お嬢様は社交界で危険なことをされている。奥様がいつか深く傷つくと思っていました」
「それで、外部に話したの」
「最初は話を聞いてもらいたかっただけです。この家のことを誰かに話すことで少し楽になりたかったのです。でも、その相手がモローの関係者だとは知りませんでした。話した後から脅されました。止めれば今まで話したことを公にすると。それから先は怖くて止められませんでした」
私はナタリーを見ていた。
嘘をついている様子はなかった。
歪んだ忠誠心から始まり脅迫によって続けた。
そういう話だった。
単純に悪意があったわけではない。
でも、結果として家を傷つけた。
暗殺未遂の夜も、ヴァレンタイン家が標的にされた時も、元を辿ればここに繋がるかもしれない。
怒りがあった。
でも、それと同じくらい、苦さがあった。
「お母様のことを、本当に心配していたのね」
これは問いかけではなく、確認だった。
「はい。それだけは、本当です」
「分かったわ。あとは父が決める。私からは以上よ」
ナタリーは深く頭を下げた。
「お嬢様、本当に申し訳」
「もういいわ。下がってちょうだい」
✦ ✦ ✦
部屋に一人残った私には疲れしかなかった。
怒りは、思ったほど大きくなかった。
苦さの方が、ずっと勝っていた。
長年母のそばにいた人間が、ただ母を守りたくて動いた。
その気持ちは理解できた。
理解できてしまうことが余計に苦しかった。
「私がヴァレンタイン家の娘として行動していなかったら……なんて今更ね」
何かが終わった時に、すぐにあの人に話したいと思うようになった。
それが今や、自然になっていた。
窓の外に、春の光が差していた。
庭園の薔薇の棚に今日は確かな緑が見えた。
もうすぐ、芽が葉になる。
葉が茂れば、花が咲く。
春が来ていた。




