Chapter Twenty-Seven La Vérité qui Approche
マルグリットから報告が来たのは五日後だった。
「邸の全員の動きを確認しました。その中で、一つだけ気になることがあります」
「聞かせて」
「ナタリーさんが先月から月に二、三度、邸の外に出ていることが分かりました。買い物のためだと言っていますが、行き先が毎回同じ方向ではないようです。そして先週、彼女が戻ってきた後、書斎の鍵の位置が少し変わっていました……」
「続けて」
「他の使用人については特に不審な点は見当たりませんでした。奥様も外部との不審な接触は確認できていません」
つまり、絞られた。
マルグリット自身の行動も、母の動きも、他の使用人も、今のところ白だ。
残るのは、ナタリーだった。
「分かったわ。もう少しだけ続けてもらえる? ナタリーが次に外出する時どこへ行くか確認してほしい」
「承知しました。あの、お嬢様」
「なにかしら」
「もし本当にナタリーさんだったとしたら、奥様のことが心配です」
「私も、同じことを考えていたわ」
マルグリットは静かに頭を下げて、部屋を出た。
✦ ✦ ✦
その夜、ベネディクトへ文を送った。
今度はナタリーの名前も書いた。
証拠はまだ確定ではないが絞り込まれてきた、と。
ベネディクトからの返事にはナタリーについて、こちらでも少し調べたと書かれてていた。
モローと繋がりのある人物が三年前にヴァレンタイン家の使用人に接触を試みていた記録がある。当時の記録にレイチェル夫人の侍女という記述があること、断定はできないが一致する可能性があると。
ナタリーがモローと繋がったのが三年前だとすれば、それは私が社交界に出始めた頃と重なる。
ミシェルローズの情報収集が本格化した頃と、ちょうど時期が合う。
私のせいで、始まったのかもしれない。
その考えが、胸の奥に静かに沈んだ。
ナタリーは母をとても大切にしている。
仕えるものとして母が危険な目に遭うことは絶対に避けたいと思うはず。
ナタリーが動き始めたのは私の行動が母を危険に晒すと思ったからかもしれない。
それが正しい判断だったかどうかは別として、動機の根っこには母への心配があった。
複雑だ、と思った。
憎めない、とも思った。で
も、だからといって許せるものでもない。
ヴァレンタイン家の情報が外に出たことで、どれほどの危険が生まれたか。
暗殺未遂だって、もしかすればナタリーが漏らした情報が元になっていたかもしれない。
怒りと、苦さが、同時にあった。
✦ ✦ ✦
翌々日、マルグリットから知らせが来た。
ナタリーが外出しました。向かった先は、王都の東の区画にある小さな宿屋です。
そこで、見知らぬ男と会っていました。男の特徴を確認したところ、レオン様からいただいたモローの人相書きと一致します。
それで、確定した。
私はしばらく、その知らせを手の中で持っていた。
分かっていたことだった。
でも確定した瞬間は、やはり少し違う重さがあった。
長年母のそばにいた人間がヴァレンタイン家を裏切っていた。
次に何をするか、頭の中で整理した。
まずベネディクトに知らせる。
それから父に報告する。
ナタリーをどう扱うか、どこまでの情報が漏れているかの確認。
そしてモローへの対処。
やるべきことは多い。
でも今夜だけは少しだけ、立ち止まった。
母はまだ何も知らない。
母が「信頼できる方だ」と思っていた人間が、ずっと裏切っていた。
それを母に伝える日が来る。
その時の母の顔を今は想像したくなかった。
どうか、母が傷つきすぎませんように。
そんなことを思う自分が少し意外だった。
こういう祈りのような気持ちを私は持つことができたのか、と。
窓の外の春の夜に、月が出ていた。
薔薇の棚に、白い光が差していた。
芽はもう、確かな緑色になっていた。




