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冬に咲く薔薇は誰のものでもない ─ 愛と支配の物語 ─  作者: 宵待 桜


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Chapter Nineteen La Question sans Détour


三日後、私はベネディクトに文を送った。


話があります。

今日の夕方、お時間はありますか。


返事はすぐに来て、ローゼンベルク家の庭園で話すことになった。


庭園を選んだのが、この人らしいと思った。


閉じた部屋ではなく開いた場所。


逃げ道のある場所。


それがこの人の相手への気遣いの形なのかもしれない。


夕方、ローゼンベルク家を訪ねた。


庭園に案内されるとベネディクトはすでにそこにいた。


冬枯れの木々の間に石造りのベンチがあり、彼はその近くに立ってこちらを待っていた。


「来てくれてありがとう、シェリー」


「こちらからお願いしたのだもの。座っていいかしら」


「もちろん」


ベンチに座るとベネディクトも隣に座った。


少し距離を空いるのは、いつもの遠からず近からずの距離でいるから。


しばらく、どちらも黙っていた。


庭園に風が吹き、枯れ葉が石畳の上を転がった。


「ベネディクトに、聞きたいことがあります」


前置きをやめることにした。


遠回りをしている時間が、今日はなかった。


「王家からの縁談の話は、本当ですか」


「それは、どこで聞いたの」


「それは関係ないわ。本当かどうかだけ、答えてください」


彼の沈黙の間、私はベネディクトの横顔を見ていた。


この人はいつも、答える前に少し間を置く。


それが考えているのか、言葉を選んでいるのか、あるいは別の何かなのか、いつも分からない。


「打診はあったよ」


彼はやがて言った。


「先日、父上のところへ」


胸の中で、何かが静かに沈んだ。


予想はしていた。


でも実際に言葉で聞くのは別のことだった。


「ベネディクトら、受けるつもりなの?」


自分の声が、思ったより平静だったことに、少し驚いた。


「シェリーはどう思う」


「私の話ではないわ」


「関係ないとは思えないけど」


遠回りをやめると決めたのだから、ここで引いてはいけない。


「……受けてほしくない。それが正直なところよ」


言ってしまってから、取り消せないことを知った。


でも後悔はなかった。


ベネディクトはしばらく私を見ていた。


その目が、いつもと少し違った。


穏やかなのは同じだが、その奥に何か温度のあるものが見えた気がした。


「受けないよ」


彼の返事は静かに、あっけないほど簡単だった


「……なぜ」


「シェリーがいるから」


またその言葉だった。


縁談が立ち消えになった理由を初めて聞いた夜も同じことを言った。


君がいるからと。


今日も同じだった。


シェリーがいるからと。


この人はいつも、それだけを言う。


説明をせず理由を並べない。


「それだけ?」


「それだけだよ」


私はしばらく、その笑みを見ていた。


底の見えない、穏やかな笑みを。


ずっと読めないと思っていた笑みを。


今日は少しだけ、読めた気がした。


「……ありがとう。正直に話してくれて」


「こちらこそ聞いてくれてありがとう」


沈黙が二人の間に落ちたけれど今日の沈黙は、これまでとは少し質が違った。


何かを隠している沈黙ではなく、何かを確認し合った後の静かな沈黙だった。


庭園に夕暮れが来ていた。


空の色が、橙から深い青へと変わりかけていた。冬の夕暮れは早い。


「そろそろ帰らなければ」


「送ろうか」


「結構よ……また、話しましょう」


「そうだね」


庭園を出て、馬車に乗り込んだ。


夕暮れの空が窓の外に広がっていた。


橙と青が混ざり合う、曖昧な色の空だった。


『受けないよ。シェリーがいるから』


その言葉が、胸の中で静かに温かかった。


温かくて、もう苦しくなかった。


ただ、温かかった。


私はあの人のことが、好きだ。


今日は、その言葉が少しも怖くなかった。


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