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冬に咲く薔薇は誰のものでもない ─ 愛と支配の物語 ─  作者: 宵待 桜


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Chapter Eighteen La Rose face au Miroir


翌朝、目が覚めた時から頭の中が騒がしかった。


縁談の話は本当か。


どこまで進んでいるのか。


ベネディクトは知っているのか。


知っているとして、どう思っているのか。


受け入れるつもりなのか。


「どうして私はここまで気にしてるのかしら」


気にする理由なら昨夜自分で答えを出したはずだ。


では次に何をすればいいのか、思考が堂々巡りを始めたところで私は一度全部を止めた。


深呼吸をして窓の外を見た。


冬の朝の光が、庭園に差し込んでいた。


薔薇の棚に、昨夜の霜が残っている。


落ち着いて考えれば、やることは一つだ。


情報を集めて、縁談の話がどこまで進んでいるのか正確に把握する。


感情で動く前に、まず事実を確認する。


それがヴァレンタイン家の娘として私が最もよくできることだ。


そう決めてから、マルグリットを呼んだ。


「王家からローゼンベルク家への打診について、何か聞いてる?」


マルグリットは少し間を置いた。


「昨日、レオン様からの文をお読みになった後、お顔の色が変わっていましたね」


「聞いているの、いないの」


「聞いていません。ただ、ミシェルローズ様が何を心配されているかは分かります」


私は何も言わなかった。


マルグリットも、それ以上は言わなかった。


「……少し調べてもらえる?どこまで話が進んでいるか」


「承知しました」


詳しくは聞かずに、それだけ言って部屋を出た。


扉が閉まってから、私はため息をついた。


自分がため息をつくのは珍しいことだと、ぼんやり思った。




✦ ✦ ✦




二日後、茶会があって、アリアーヌ王女が来ると聞いたのは会場に着いてからだった。


知っていれば来なかったかと問われれば、そうではない。


ただ、心の準備という意味では少し時間が欲しかった。


王女は今日も美しかった。


十六歳の若さと王族としての育ちが、その立ち居振る舞いに滲んでいた。


令嬢たちに囲まれて笑っている。


その笑顔は屈託がなく、見ていて不快になる要素が何もない。


それが余計に、厄介だわ。


嫌いになれるならまだ楽だった。


でもアリアーヌ王女は嫌いになれる人間ではなかった。


彼女はただ、ベネディクトのことを思っていて、それを隠しきれていないだけだ。


その気持ちの真剣さだけは本物だと分かる。


以前の私なら気の毒だと思って終わりにできた。


それ以上でも以下でもないと。

でも今日は違った。


王女の視線がまた、広間の向こうへ向いた。


視線の先はベネディクトがいる方向へ。


その視線を追いながら私の胸の中で何かが静かに、でも確実に痛んだ。


痛い、と思った。


この感覚を、なんと呼ぶのかは知っていた。


やがて王女が私に気づいた。


目が合った王女は微笑んだ。


社交的な丁寧な笑みをしながら王女がこちらへ歩いてきた。


「ミシェルローズ様。本日はご一緒できて光栄ですわ」


「こアリアーヌ王女、こちらこそお元気そうで何よりです」


二人で、しばらく他愛のない話をした。


季節の話、最近の夜会の話。


王女は話しやすい人だった。


それが今日は少し、辛かった。


話の途中で、王女の視線がまた動いた。


ベネディクトがこちらへ向かって歩いてきていた。


王女の顔が、わずかに明るくなった。


それを見て、私の胸がまた痛んだ。


「シェリー」


ベネディクトが来て、それから王女へ視線を移した。


「アリアーヌ王女、ご機嫌よう」


「ローゼンベルク様。お久しぶりですわ」


それから会話が続いた。


私は笑顔のまま、的確に相槌を打ちながら頭の中では全く別のことを考えていた。


ベネディクトは今、縁談の話を知っているのだろうか。


知っているとして、どう思っているのか。


王女を見る目は、いつもと変わらない。


穏やかで温度が一定で、底が見えない。


この人の目は、誰に対しても同じだ。


だから分からない。


分からない、か。


ずっとそうだった。


この人だけは、読めなかった。


それがずっと引っかかっていた。


今もまだ、読めない。


やがて会話が一区切りついて、王女が他の令嬢のところへ向かった。


今日は顔色が悪いね、シェリー」


「そうかしら」


「眠れなかった?」


少し考えてから、正直に答えた。


「少し」


ベネディクトは何も言わなかった。


理由を聞かなかったが、少しだけ眉が動いた。


心配している、という色だった。


その顔を見て、私は思った。


聞かなければならない、と。


縁談の話を、直接確認しなければならない。


このまま一人で抱えていても何も変わらない。


でも今日は、できなかった。


言葉が、出てこなかった。


「何でもないわ。気にしないで」


ベネディクトはしばらく私を見ていた。


それから、静かに言った。


「気になるよ」


その言葉が思いがけず刺さった。


刺さって、温かくて、少し苦しかった。


「……また今度、話すわ」


「分かった、待ってる」


待ってる、という言葉を、私は帰り道ずっと反芻していた。


この人はいつも、待っている。


無理に追わないが、でも待っている。


その違いが、今日はやけに胸に染みた。


次に会う時には、聞こう。


そう決めたのに馬車の中でずっと、どう切り出すかを考えていた。


答えは出なかった。


でも聞くということだけは決めた。


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