表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冬に咲く薔薇は、誰のものでもない ── 愛と支配の物語 ──  作者: 宵待 桜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/19

Chapter Eleven Côte à Côte


ロンドー侯爵家との会合は、ローゼンベルク家の名で設けられた。


表向きは外交上の懸案事項についての非公式な意見交換、という名目だった。


ベネディクトが場を用意して、私はヴァレンタイン家の令嬢として同席する。


婚約者同士が同じ場に顔を出すことは珍しくなく不自然ではない。


ロンドー侯爵は五十代の男で、一見すると温厚そうな顔をしていた。


ただその目は温厚ではなかった。


王太子派の中で急速に力をつけてきた男の目だ。


警戒と計算が、笑顔の裏にきちんと隠れていた。


「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」


「いえ、こちらこそ。ローゼンベルク家からのお声がけとあれば、断る理由がございません」


社交的な言葉が続く。


私はベネディクトの隣に立ち、黙って侯爵の目を見ていた。


この人はすでに何かを警戒している。


ただそれがこちら側への警戒なのか、別の何かへの警戒なのか、まだ見えない。


しばらくして、ベネディクトが静かに言った。


「実は、侯爵にお伝えしたいことがございまして」


侯爵の目が、わずかに動いた。


「ダリウス・ヴォーン侯爵の名をご存知かと思います」


一瞬の沈黙があった。短い、ほんの短い沈黙だったが、私にはそれで十分だった。


これは知っている。


そして、警戒している。


「存じております。宰相派の重鎮でいらっしゃいますね」


「ええ。その方が、侯爵家に関わるある密約を進めていることが分かりました。内容は、次の王位継承における、ロンドー家の排除です」


侯爵の顔から、温厚そうな表情が少しだけ剥がれた。


その下にあったのは、怒りではなく、恐怖だった。


知らなかったのだ、と分かった。


自分が標的にされていることを。


「証拠は」


ベネディクトがこちらに視線を向けたので今度は私が口を開いた


「こちらに」


レオンが集めた情報と、マルグリットが整理した夜会の記録を、私は過去十日かけて一本の線に繋げていた。


それを侯爵の前に置いた。


全部ではないけれど核心に近い部分だけを見せるべき分だけを。


侯爵はしばらくそれを読んでいた。


読み進めるにつれて、その顔色が変わっていった。


「……これは」


「ご確認いただけましたか。ダリウス侯爵はすでに動き始めています。ただ、こちらも動いています。ロンドー侯爵家にお力添えいただければ、侯爵の計画を止めることができます」


侯爵は私を見たあと、ベネディクトを見たて、再度私を見た。


「ヴァレンタイン家とローゼンベルク家が、揃って動いているということですか」


「ええ。心強いでしょう?」




✦ ✦ ✦




会合が終わり、ロンドー侯爵が席を立った後、私とベネディクトは二人になった。


「うまくいったね」


「ええ」


私は書類を手元に戻しながら答えた。


「あとは侯爵が動いてくれれば、ダリウス侯爵は挟み撃ちになります」


「資料の見せ方が良かったよ。全部出さなかった」


「全部出す必要はないわ。相手に考える余地を残した方が、人は動く」


「さすがだね、シェリー」


その言葉が、思いがけず胸に響いた。


さすがだ、という言葉は社交界でも何度も聞いてきた。


でもこの人の口から出ると、質が違った。


値踏みでも、お世辞でも、駆け引きでもない。


ただそのままの意味で言っている。


「……あなたも、ロンドー侯爵の警戒を解くのがとても上手かったわ。私では、ああはできない」


言ってから自分で驚いてしまった。


素直に認めたのは、珍しいことだった。


ベネディクトも少し驚いたように見えたが、すぐにいつもの穏やかな顔に戻った。


「ありがとう」


「お互い様ね。では、次の手を考えましょう」


「そうだね」


並んで廊下に出ると外の光が窓から差し込んでいた。


夜会でも庭園でもなく、ただの昼間の廊下。


それでも、この人の隣を歩くことが、今日は少しも居心地悪くなかった。


おかしい。


そう思いながら、歩くのをやめなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ