もしヒロインが水着姿で現れたら?
《ハイレス》
「…………」
一瞬、固まる。
「っ!」
耳まで一気に真っ赤になる。
ばさっ。
自分の上着を勢いよくリディーナへ被せた。
「見るな!!」
護衛たちへ振り返る。
「全員、後ろを向け!!
下がれ!! 今すぐだ!!」
「は、はいっ!!」
兵たちが慌てて背を向ける。
きょとんと首を傾げるリディーナ。
「……くそっ」
小さく呟くと、そのまま彼女を抱き上げる。
腕だけは、驚くほど優しい。
「捕まっていろ」
彼女が落ちないよう抱き直し、そのまま人気のない場所へ全力で駆け出した。
「殿下!? どちらへ!?」
「追うな!!」
怒鳴り声だけが、その場に響き渡った。
《リアム》
「…………」
一瞬、固まる。
「っ!?」
顔が一気に真っ赤になる。
「ティア!?」
ばさっ。
慌てて自分の上着を彼女へ掛けた。
「ど、どうしよう!?」
リアムはおろおろと辺りを見回す。
「これで合ってる!?
いや、違う!?
他に何すればいいんだ!?」
一人で大混乱。
ティアが、きょとんと首を傾げる。
「ちょ、ちょっと待って!
今考えるから!!」
頭を抱え、その場をぐるぐる歩き回る。
「と、とりあえず日陰!?
いや違う、部屋!?馬車!?
ああもう分からない!!」
がしっと彼女の手を握る。
「とりあえず行こう!
ここは目立つから!」
「ゆっくり!
ゆっくりでいいから転ばないで!」
歩幅を合わせながら、その場を後にした。
《カイエン》
「…………っ!」
一瞬、目を見開く。
「フィオナ!」
気づけば、自分の上着を彼女へ掛けていた。
そのまま肩を抱き寄せる。
「屋敷へ戻るぞ」
有無を言わせぬ声。
周囲を鋭く見回す。
「お前たち」
護衛たちが背筋を伸ばした。
「誰も見るな」
「はっ!」
「先に戻れ」
「承知しました!」
護衛たちが慌てて散っていく。
フィオナは上着にくるまれたまま、小走りでカイエンの隣を歩く。
フィオナが口を開きかける。
「……喋るな」
短く言って、そのまま屋敷へ向かった。
***
部屋へ戻り、扉が閉まる。
「……着替えてこい」
フィオナが頷き部屋へ入っていく。
一人残されたカイエンは、しばらく立ち尽くしていた。
そっと息を吐く。
余りにも衝撃が大きすぎて、記憶が曖昧だった。
《リチャード》
「…………」
笑顔のまま、固まる。
一拍。
「……全員、ここから先は立入禁止だ」
「はっ!」
近衛たちが即座に周囲を封鎖する。
リチャードはエレノアへ歩み寄ると、自分の上着をそっと肩へ掛けた。
「エレノア。戻ろうか」
優しく微笑む。
「……似合ってはいる」
「でも、他の男に見せたくないんだ」
青い瞳が真っ直ぐ彼女を見つめる。
そしてゆっくりと手を差し出す。
「すぐ戻ろう」
エレノアの歩幅に合わせ、その場を後にした。
***
「殿下」
側近が頭を下げる。
「先ほど現場にいた者の名簿です」
「ああ」
リチャードが受け取る。
さらりと視線を走らせ――
「…………」
静かに数名へ印を付けた。
数日後。
「……あれ?」
「俺、配置換えだ」
「俺もだ」
「急に担当が変わったぞ」
「俺は西門警備だってさ」
近衛たちは首を傾げる。
理由は、誰にも分からない。
少し離れた場所で、リチャードは穏やかに微笑んだ。
《アレス》
「…………」
一瞬だけ目を丸くする。
だが、すぐに優しく笑みを浮かべる。
自分の上着を脱ぐと、そっと彼女の肩へ掛けた。
「セフィー様。
その格好は、あまり良くありませんね」
肩を抱き寄せる。
歩幅を合わせ、その場を離れる。
しばらく歩き――
「水着、とても可愛らしいですよ。
よく似合っています」
一拍。
「でも……その姿を見せるのは、私か殿下だけにしてくださいね」
ピンクの瞳が、柔らかく細められた。




