もしヒロインが猫になったら?
「ティアが猫に?!」
リアムの表情が、ぱっと明るくなる。
「きっと、すごく可愛い猫になるんだろうなあ。毛はふさふさで、小柄だけどふわふわしてて、抱きしめたくなるくらい可愛くて……見てるだけで癒やされて――」
「落ち着け」
ハルトが苦笑する。
「カイエンはどうなんだ?」
「フィオナが、猫か……」
カイエンは少し考えるように間を置いた。
その頬が、わずかに赤く染まる。
「きっと、愛らしい猫になるだろう。
……思わず触ってみたくなるほどに」
「いや、そういうこと聞いてんじゃないと思うけど」
「どういうことだ?」
「気づけるかどうかってことだろ? 俺、無理だわ」
「なぜだ?」
リチャードが不思議そうに口を挟む。
「僕なら、見た瞬間に分かる。僕がエレノアを分からないはずがない」
「マジか。どうやって分かんだよ?」
「表情や仕草を見れば、すぐに分かるだろう?」
リチャードはさも当然のように答える。
「猫でもなんでも、彼女なら変わらない」
ハルトとカイエンは、揃って絶句した。
「君はどうなんだ?」
リチャードに話を振られ、ハイレスは興味なさそうに答えた。
「……別に。俺には関係ない」
その時だった。
バンッ!!
勢いよく扉が開く。
「ハイレス殿下!」
飛び込んできた部下の声に、全員の視線が集まった。
「リディーナ様が禁書を誤って落としてしまい、その影響で猫に! 現在、行方が分かりません!」
ハイレスが固まる。
数秒の沈黙のあと、ゆっくりと立ち上がった。
「……俺はこれで失礼する」
「ああ」
カイエンが頷く。
ハイレスは静かに部屋を出ていった。
扉が閉まる。
直後――
「城を閉鎖しろ! 全力で探せ!!」
廊下から怒号が響いた。
「リディーナが行きそうな場所はどこだ?! 王宮での行動範囲をすべてリストアップしろ! 俺はリディーナの私室へ行く!!」
バタバタと慌ただしい足音が遠ざかっていく。
「……あいつ、やばいくらい本気だな」
ハルトが呟く。
「そうだな」
カイエンは淡々と頷いた。
「中庭も探せ!!」
遠くから、再びハイレスの声が響く。
「厨房は?!」
さらに遠ざかる。
「窓を全部閉めろ!!」
ハルトはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。
「……いや、探すのは分かるけど。
規模がおかしいだろ」
カイエンが不思議そうにハルトを見る。
「リディーナ嬢だからだろう?」
「…………」
ハルトは何も言えなかった。




