可愛いは、兵器。(イラスト付)
夕方のフローレンス家。
玄関の扉が開く。
――ガチャッ。
ティナ
「ただいま〜!」
リリサ(エプロン着用)
「おかえり、遅かったじゃない。」
ティナ
「うん。
部活作ることになってさ、ちょっと話し合ってたんだけど、
とりあえず土下座の仕方教えてくれない?」
リリサ
「……“土下座部”でも作るつもり?」
ティナ
「違う違う!
えっとね――」
---
リリサ
「なるほどね。
リオナちゃんが転校してきて、カレンちゃんと3人で創部する事になったのね。」
ティナ
「そういう事!」
リリサ
「それで、なんで土下座のやり方を聞いてきたのよ?」
ティナ
「活動内容に、
“好きに帰ったり”
“遊んだり”
“買い食いしたり”
って書いて提出しちゃってさ、カレンに『そんなの絶対申請下りない!』って怒られちゃって……」
リリサ
「ええ、当然だわ。」
ティナ
「それで、明日わたし達からもお願いしようってなって……
土下座してでもお願いしようと思って。」
リリサ
「なるほどね。
でも、そもそも土下座って謝罪の時に行うものであって、
お願いする時に行うものじゃないのよ?」
ティナ
「そうだけどさ!
誠意は伝わるでしょ?
何がなんでも創部したいの!」
リリサ
「そう……
あなたがそこまで言うのなら、正しい土下座の作法を教えてあげる。」
ティナ
「やった!
よろしくお願いします!」
リリサ
「じゃぁまず、正座して。
背筋は真っ直ぐ、相手の目を見て。」
ティナ(ピシッと正座)
「こう?」
リリサ
「ええ、いい感じよ。
そしたら両手を地面について。」
ティナ(言われた通りに)
「こんな感じ?」
リリサ(ウズッ)
「(……あら……?)」
リリサ
「そ、そうそう。
そしたらおでこを床につくくらい下げて。
そこで『お願いします。』って誠意を見せるの。」
ティナ(額を下げて)
「お願いします。」
リリサ
「そ、そしたらそのまま、
相手から許しが出るまでその姿勢を崩さないで。」
ティナ(土下座のまま)
「はい。」
リリサ(ゾクッ)
「(……この子がこんなに私の言うことを素直に聞くなんて……ッ)」
……
リリサ
「もういいわよ。頭をあげて。」
ティナ(頭をあげて)
「これだけ?
これで申請通る?」
リリサ
「どうかしらね。
……ねぇ、ティナ。」
ティナ
「なに?」
リリサ
「土下座より……
もっと効果的な作法教えてあげる。」
ティナ(目を輝かせて)
「マジッ!?
教えて教えて!!」
リリサ
「じゃぁまず……
正座じゃなくて“女の子座り”してみて?」
ティナ(ペタンと座って)
「え?こう?」
リリサ(若干鼻息が荒くなる)
「ええ……いいわ。
そしたら両手をグーにして、顎につけて。」
ティナ(顎グー)
「こ、こんな感じ?」
リリサ(ムフーッ)
「あ、いい……凄くいいわ……
もうちょっと顎引いて、上目遣いにして。
そしたら『お願いします♡』って甘えた感じに言ってみて?」
ティナ(顎グー、上目遣い)
「お、お願いします……?♡」
リリサ(キュン死)
「……ッ!!」
ティナ
「??
ちゃんと出来てる……?」
リリサ(鼻息フゴッ!)
「……完璧だわ!!
お姉ちゃんなんでもお願い聞いてあげちゃうッ!!」
ティナ
「ヘッ!?
どしたの急にッ!?」
リリサ
「今の破壊力、核兵器と一緒よ!!」
ティナ
「えっ!?」
リリサ
「ティナ、あなたは自覚の無いタイプの破壊兵器なの。
今の顔で『お願いします』なんて言われたら、
魔王さまだって秒で判子押すわよ。」
ティナ
「えっ……
わたし、そんな危険物質だったの?
申請通るかな?」
リリサ
「通る通らないじゃない、私が通す。」
ティナ
「なんでリリサが!?
とりあえず、色々教えてくれてありがと!
明日頑張ってみるよ!」
リリサ
「ええ。
頑張ってみなさい。
じゃぁ私は夕飯の支度に戻るから、あなたは着替えて宿題やってなさい。」
ティナ
「はいは〜い!」
---
リリサ(キッチンから)
「ティナー!
ご飯できたわよー!」
ティナ(自室から)
「はーい!」
――ガチャッ。
ティナ(くんくん)
「あ〜いい匂い〜……
今日はシチュー?」
リリサ
「ええ。
シチューと、あと白パンも買ってきたから。」
ティナ
「お米は?」
リリサ
「……あなた、ホワイトシチューでお米食べれる人?」
ティナ
「え?
ご飯にかけて食べるけど、普通じゃない?」
リリサ
「私はあんまり……
今日はパンの気分だったからお米は炊いてないの。」
ティナ(ガッカリ)
「そっかぁ……」
リリサ
「ごめんなさいね。
次からはお米も炊くわ。」
ティナ
「いいよいいよ!
パンで食べるのも美味しいし!
早く食べよ?」
リリサ
「そう……
じゃぁ早速――」
2人
「「いただきます。」」
---
リリサ(パンをちぎりながら)
「そういえば、
部活を作るって言ってたけどどんな部活にするの?」
ティナ(シチューを掬いながら)
「それがさー、
わたしはのんびりしたいし、カレンは体動かしたい、
リオナは箱入りだったから街中を探索したいって言ってさ。」
リリサ
「みんなバラバラね。」
ティナ
「でしょ!?
そしたらリオナの執事がさ『妙案を思いつきました。』って言ってさ!」
リリサ
「あら、執事さんまで学校に来てるのね。」
ティナ
「そうそう、
そんで正確には部活じゃなくて同好会なんだよね。
“放課後ぶらり探検倶楽部”って同好会!」
リリサ
「なによその深夜番組にありそうな名前。」
ティナ
「あはは!たしかに!
湖畔の街でおすすめスポットを見つけてレポートする活動なんだよね。
カレンは走りながら探せるし、リオナは街を探索出来るし、そしてわたしは――」
リリサ
「帰宅しながら、適当な所を見つけるわけね。」
ティナ
「そう!正解!」
リリサ
「……」
ティナ
「どしたの?」
リリサ
「ティナ、あなた素晴らしい部活を作るわね!」
ティナ
「え?うん。
なんで?」
リリサ
「なんで?って……
そのレポートで私のポーションを紹介しなさいよ!
そうすれば売り上げも上がって……ふふっ……」
ティナ
「あー!
わたしを宣伝費のかからない広告塔にするつもりだ!」
リリサ
「あら、宣伝費はかけてるわよ?
こうやって美味しいご飯を食べてるじゃない?」
ティナ
「むぅー……!
それ言われると何も言い返せないんだよなぁ……」
リリサ
「まぁまぁ、
売り上げが上がったらもっと美味しいご飯も食べられるし、
あなたの好きな物も買ってあげられるんだから。」
ティナ
「……わかったよぉ……
ただ、嘘の情報は書かないからね?」
リリサ
「それはもちろん。
私の作るポーションに嘘なんていらないわ。」
ティナ
「(……作り方が梅シロップだったり、資本主義の闇だったりしてるのに……)」
リリサ
「なに?」
ティナ
「いいえ、なんでも。」
---
就寝前、ティナの自室。
ティナ(姿見の前)
「……明日のために、ちょっと練習しとこ。」
ティナ
「えっと、土下座は姿勢良く正座して、両手をついて……」
ティナ(完璧な土下座)
「……お願いします。」
ティナ
「……」
ティナ(土下座中)
「これ、鏡で見れないな。」
ティナ(顔を上げて)
「しょうがない。
リリサに教わったもう1つの方法をやってみよう。」
ティナ
「えっと、女の子座りして、手をグーで顎に……
あとは上目遣いで……」
ティナ(顎グー、上目遣い)
「お願いしまぁす♡」
ティナ(困惑)
「誰だ、今の……」
ティナ
「……」
ティナ(嗚咽)
「オエーッ!!」
ティナ(憤怒)
「リィ リィ サァァァァ!!!」
リリサ(部屋に入ってくる)
「なに……
早く寝ないと朝起きれないわよ?」
ティナ
「お前ぇぇぇ!!
わたしになんていうポーズ取らせてたんじゃぁぁ!!」
リリサ
「なに、なんの話?」
ティナ
「なにが女の子座りで顎グー上目遣いだよ!
ぶりっ子の極致みたいなポーズさせやがって!」
リリサ
「あら、とっても可愛かったわよ?
なんでも言うこと聞いてあげたくなっちゃうくらいに。」
ティナ
「マジでやめろぉぉぉ!
鏡で確認してなかったら明日、
先生の目の前でブリブリする所だったわ!!」
リリサ
「いいじゃない。
可愛いは正義よ。」
ティナ
「名言みたいな事言うな!」
リリサ
「あなたが可愛すぎるのがいけないの。
可愛いは罪よ、ティナ。」
ティナ
「正義なの!?罪なの!?
どっちだよ!!」
リリサ
「どっちもよ。
可愛い事には変わりないもの。」
ティナ(ちょっと赤くなる)
「……もうリリサの言うこと鵜呑みにしないからッ!」
リリサ
「え〜……
お姉ちゃん的には完璧なお願いの仕方教えてあげたのに。」
リリサ(顎グー、上目遣い)
「そんな事言わないで?
お願い、ティナ♡」
ティナ(イラッ)
「……」
ティナ
「…………」
ティナ(プッツン!)
「……もう寝るッ……!」




