お嬢様、庶民の生活を堪能する。
一時間目、数学。
数学教師
「――であるからして、このxの値は何になるか?
じゃぁホワイトロック、答えは?」
カレン(元気よく挙手)
「はいッ!
わかりませんッ!」
生徒たち
「清々しいな!」「逆に好感度上がるやつ!」
数学教師
「威勢は良いが不正解……
じゃぁ隣のフローレンス、わかるか?」
ティナ(黒板を見つめながら)
「えっと……
だいたい3くらい!」
数学教師
「“だいたい”ってなんだ。」
ティナ
「なんか雰囲気が3っぽいんで!」
カレン
「あ、わかる!
ちょっと3寄りの顔してる!」
数学教師
「数字に顔は無いぞ。」
生徒たち
「でも3って横から見れば猫の口みたいだよね。」「それ、今関係ある?」
数学教師
「ではヴァレンシュタイン。」
リオナ(優雅に立ち上がる)
「はい。
x=4ですわ。」
数学教師
「正解!」
生徒たち
「おおおお!」「やっぱお嬢様!」
廊下で待機中のグレイ、小さく拍手。
リオナ(微笑み)
「先程の式を整理すれば明白ですわ。」
ティナ(小声)
「え、整理とかしてた?」
カレン
「あたしまだ雰囲気で3に賛同してたとこ。」
ティナ
「わたし、整理整頓苦手だからなー」
カレン
「あたしの部屋は結構綺麗だよ?」
ティナ
「えー、嘘だー!
筋トレ道具とか絶対散らかってるイメージ!」
リオナ
「わたくしのお部屋は毎日グレイとメイド達が掃除をしてくれてますわ。」
ティナ
「さすがお嬢様。」
カレン
「格が違うね!」
数学教師
「そこ、うるさいぞー!」
ティナ
「は〜い。すみませんでした。」
カレン
「気をつけまーす!」
リオナ
「申し訳ございませんわ。」
---
二時間目、歴史。
ミラ先生(小声)
「は、は〜い……
みんな、授業始めるから席ついて〜……」
リオナ
「あら!
歴史の授業は担任の方なのですね!」
カレン
「そうそう!
ミラ先生は歴史担当だよ!」
ティナ
「ミラ先生、声小さいから聞き取りづらいんだよねぇ。」
ミラ先生(動揺を抑えつつ)
「え、えーっと……
今日は、き、教科書の24……じゃなかった28ページからで……」
カレン(小声)
「なんかミラ先生、いつも以上にキョドってない?」
ティナ(小声)
「そりゃそうでしょ。
廊下で執事が無言待機してるんだもん。」
カレン
「あー、そっか。
緊張感半端ないだろうね。」
ティナ
「やりづらいと思うよ。」
ミラ先生(廊下をチラッ)
「(執事さん……
表情ひとつ変えないでずっとこっち見てくるの怖い……)」
グレイ(廊下で待機中)
「……」
リオナ
「グレイは良い執事ですわよ?」
ティナ
「普通は学校に執事同伴で来ないから。」
ミラ先生
「じ、じゃぁ28ページね……
ソーセキ・ナツメが、部下と共に古代エルフ語の文献を翻訳した際――」
リオナ(すっと手を挙げ、背筋ピン!)
「わたくし、その逸話、存じておりますわ!」
ミラ先生
「そ、そうなの?
ではヴァレンシュタインさん、どうぞ……」
リオナ
「部下の方が“愛してる”をそのまま訳したところ、
ソーセキ様は『月が綺麗ですね』にしなさい、とおっしゃったのですわ!」
ミラ先生
「せ、正解です!」
生徒たち
「へぇ〜……」「なんかオシャレ……」
廊下のグレイ、無言で小さく頷く。
リオナ(目を閉じ、胸に手を当て)
「直接言葉にせずとも想いは伝わる……
なんと奥ゆかしく、美しい文化……!」
ティナ(小声)
「急に文学サロン始まった。」
カレン(小声)
「月見るだけで告白成立ってこと?」
リオナ(さらにヒートアップ)
「ですが……
わたくしは直接“愛してます”と告げられるのも素敵だと思いますの!
状況や立場によって表現を使い分ける柔軟性こそ、真の教養――」
ティナ
「語りだしたぞ!」
カレン
「お嬢様暴走モード突入だね。」
ミラ先生
「ヴァレンシュタインさん、お、落ち着いて!?
そこまでで大丈夫だから……」
リオナ
「まぁ!?
まだ序章ですのに!」
グレイ、そっと教室に入ってくる。
グレイ
「お嬢様、今は授業中でございます。
お嬢様の演説会ではございません。」
リオナ(ハッとする)
「そ、そうでしたわね……」
リオナ(皆に向かって頭を下げる)
「先生、皆さま、ご迷惑をおかけしましたわ。」
グレイ(頭を下げて)
「ワタクシからも、お詫び申し上げます。」
ミラ先生
「だだだ、大丈夫ですッ!」
ミラ先生
「(執事さん……
怖そうだけど、案外良い人なのかな……)」
生徒たち
「執事さんかっこいい……」「先生の授業より面白かったかも〜」
ミラ先生
「えッ!?
先生の授業つまんない……?」
こうして授業は進んでいき、昼休みへ――
---
――カランカラ〜ン♪
ティナ
「やっとお昼だー!」
カレン
「お腹空いたねー!」
リオナ(スっと立ち上がり)
「ではお二人とも、参りましょうか♪」
ティナ
「??
参るってどこに?」
リオナ
「?
食堂があるのではありませんの?」
カレン
「ないない!
教室で食べるんだよ!」
リオナ
「まぁ!
勉学をはぐくむ教室での食事ッ……
これもまた友情を深める儀式なのですね!」
ティナ
「儀式じゃなくて“仕様”です。」
カレン
「天気良かったら外で食べてもいいけどねー!
今日は曇ってるから微妙だけど……」
リオナ
「まぁ!
では今度、お天気が良い日にはぜひお外でいただきましょう!」
ティナ
「いいよ〜!」
カレン
「また今度ね!
じゃぁ机寄せてさ、みんなで食べよ!」
三人が机を寄せ合ってそれぞれの弁当箱を広げる。
ティナはリリサ手作り弁当
(のり弁、塩鮭、ほうれん草のソテー)
カレンはいつもの5段弁当
(下二段は白米、続いてミートボール、生姜焼き、メンチカツ)
リオナ(行儀良く座り、にっこにこ)
「……」
ティナ(箸を用意しながら)
「あれ?
リオナ、お弁当は?」
カレン(もぐもぐ)
「もしかして、忘れちゃった?
あたしの分けてあげようか?」
リオナ
「いえ、忘れてないですわ。
グレイ、お弁当の用意を。」
グレイ、教室に入ってくる。
手には金粉で装飾がなされた漆器の重箱。
グレイ(スっとリオナの机に重箱を置く)
「お待たせいたしました。
本日のメニューは、サンドウィッチとフルーツのカット盛りでございます。」
ティナ(リオナの弁当を見て驚愕)
「……すげぇ。
これ絶対中身だけでリリサの月収超えてる……」
カレン
「すごッ!
このリンゴ、お花の形になってる!」
リオナ
「ふふっ。
よろしかったらお二人も召し上がってくださいまし。」
ティナ
「えッ!?いいの?
じゃぁ、わたしからも!
このほうれん草のソテー!」
カレン
「じゃぁあたしはミートボールあげる!」
リオナ(感動)
「まぁぁッ!
お弁当の交換文化、これが友情、友との交流ッ!」
ティナ
「はいはい。
また感動してないで早く食べよ!
お昼終わっちゃうよ?」
カレン
「だね!
じゃぁいただきまーす!」
ティナ
「カレンはもう食ってるやろ。」
---
昼食後、リオナは例に漏れず転校生の洗礼を受けていた。
女子生徒A
「ねぇねぇ!
リオナちゃんって丘の上のお屋敷に住んでるってほんと?」
リオナ(微笑みながら)
「ええ。
そうですわよ。」
女子生徒B
「すっごッ!
朝、校門前に停まってた馬車もヴァレンシュタインさんの?」
リオナ
「そうですわ。
わたくし専用の馬車をお父様が用意してくださいましたの。」
ティナ
「えッ!?
あれリオナ専用だったの!?」
リオナ
「ええ。
お父様が“貴族たるもの通学にも気品を出せ”と申しまして、
特注で用意してくださいましたの♪」
カレン
「でも1日2日で用意出来るものなの?」
ティナ
「だよね……
そんなすぐに馬車って作れるものなのかな……」
女子生徒A
「……お金に物言わせたとか……?」
……
リオナ以外全員
「「「「あ〜(納得)」」」」
その時、クラスのカースト上位、ギャル魔族が近づいてくる。
ギャル魔族
「やっほ〜リオリオ〜♪
ウチともお話しようよ☆」
リオナ(きょとん)
「……りおりお?
わたくし、リオナ・ヴァレンシュタインですわよ。」
ギャル魔族
「知ってる知ってる!
あだ名だよ〜♪」
リオナ(ぽか〜ん)
「あだ……な……?」
ティナ
「あだ名って、仲のいい子達で呼び名を付けることだよ。」
ギャル魔族
「そうそう!
“ティナっち”とか“カレンっち”みたいな感じ☆
リオリオはリオナだからリオリオ!」
リオナ
「まぁぁ!
呼び名を変える風習……奥が深いですわ!」
ティナ
「この子、外の世界が全部初見なの、可愛すぎない?」
カレン
「うん。
純真お嬢様だね。」
リオナ、魔族ギャルの角を“じ〜”と見つめる。
リオナ
「あなたのその角、とてもお綺麗ですわね♪」
魔族ギャル
「おっ!
わかるぅ〜?最近キューティクル開いてきちゃってさ!
昨日手入れしたんだよね!」
ティナ
「角ってキューティクル開くの?」
カレン
「お手入れってどうやるの?
髪の毛みたいにトリートメントとか?」
魔族ギャル
「昨日は2000番のペーパーで磨いてさ〜。
その後はひたすらコンパウンドで仕上げ☆」
魔族ギャル(首を左右に振りながらドヤ顔)
「見て見て!
ツヤツヤっしょ!?」
ティナ
「……思ってた手入れと違う……!」
カレン
「物理的にツヤ出しするのね。」
リオナ
「昔、お父様が作られてた模型と同じ工程ですわ!」
魔族ギャル
「ほんとはキャンディレッドに塗装もしたいんだよねぇ〜……
でも道具も無いし諦め中……」
その時、ダークと会話をしていたオタク系男子が話に割り込んできた。
オタク男子 (ニヤニヤ)
「デュフッ……
魔族の角とプラモの塗装の工程が一緒とは……」
魔族ギャル
「なに?文句あるの?」
オタク男子
「いえいえッ!
そんな事ございませぬッ!
ただ拙者、趣味がプラモ作りでしてな。
エアブラシから塗料まで一通り揃えているでござる。」
魔族ギャル
「マジッ!?
じゃぁウチの角、キャンディレッドに塗装できる!?」
オタク男子 (ニチャァ)
「デュフフッ!
お安い御用でござるよ。」
魔族ギャル
「やった!
じゃぁ明日やってもらえる!?」
オタク男子
「承知!
では明日、道具を持ってくるでござる。」
ティナ
「……カースト界のトップとボトムが意気投合してる……」
カレン
「仲が良いのはいい事だけど、凄い光景だね。」
ティナ(チラッとリオナを見て)
「……ってリオナ、何してるの?」
カレン
「もしかして具合悪い?
保健室行こうか?」
リオナ(両手で目を隠す)
「いえ。
ただ……お父様との約束を守ってるだけですわ。」
ティナ
「約束?」
リオナ(目を覆いながら)
「……“男子生徒を視界に入れたら”……
退学ですの。」
ティナ
「いやいやいや!
それ無理でしょ!学校生活ハードすぎるって!」
カレン
「お父さんの娘愛が重すぎるって!」
リオナ
「わたくし、こんなに楽しい学校生活を、
初日で終わらせたくないのですわ。」
その時、教室の扉が開く。
――ガララッ。
ミラ先生
「あ、あの、ホワイトロックさんとフローレンスさん、
あと、ヴァレンシュタインさん……
ちょっとだけいいかな……?」
カレン
「ん?
あたし達?」
ティナ
「なんだろ?」
リオナ(わずかに手が震えて)
「まさか……知らず知らずのうちに視界に入れてしまってましたの……?」
ティナ
「大丈夫、呼び出しの理由は絶対それじゃないから。」
カレン
「まぁとりあえず行ってみよっか!」




