プロテインと紅茶と、箱入りお嬢様。
ティナがキザ貴族、レヴィン・ヴァレンシュタインに口説かれている頃――
丁寧に剪定された庭木、様々な季節の花が咲く中庭。
心地よい風が吹き、鳥のさえずりと中央に鎮座する噴水から流れる心地よい水の音。
カレンは噴水近くのテラス席に座り、紅茶と茶菓子をたしなんでいた。
カレン(紅茶をひと口)
「この紅茶……香りが違う!気がする!!」
グラスコンポートからマカロンをひとつ。
カレン
「このマカロンも美味しい!
よく分かんないけど、お高い味がする!!」
メイド(軽くお辞儀)
「お口に合って何よりです。
おかわりもご用意しますので、お申し付けください。」
カレン
「いいんですか!?
じゃぁ……お言葉に甘えて……」
カレン
「プロテインってあります?」
メイド
「プロ……はい?」
カレン
「プロテインです。
自転車漕いできたんで、程よく乳酸溜まってるんです!」
メイド
「……」
メイド
「……すぐ、ご用意しますね。」
カレン
「やった!ありがとうございます!」
カレン(屋敷を見渡す)
「それにしても、凄いお屋敷だなぁ……
何部屋くらいあるんだろ?」
カレン
「これだけ広かったら、家にジム作れるじゃん。
最高かよ……」
そこへ、銀製のお盆に中ジョッキを乗せたメイドが戻ってくる。
メイド
「お待たせいたしました。こちら
“国産大豆を100%使用、丁寧な裏ごしを行い滑らかな口どけ、更に高原地帯で放牧されたノンストレスのホルスタインから搾乳されたローヤルミルクを使用したヴァレンシュタイン邸特製プロテイン”
〜ビルダーの掛け声を添えて〜
になります。」
カレン
「名前がなげぇ!」
カレン(プロテインをひと口)
「でも美味い!!」
---
屋敷内。応接間。
白銀ウェーブ少女(ズンズン歩いてレヴィンに近づく)
「お父様ッ!!
いつもいつも、お客様にそのような詩を送るのをやめてくださいましッ!」
レヴィン(動揺)
「リ、リオナ……!
どうしてここに……?」
リオナ
「たまたま通りがかっただけですわ!
そしたら『風に揺れる白百合のようだ』など聞こえてきて……
聞いているこちらが恥ずかしいですわ!」
レヴィン
「そ、そんな……
私はただ、君に相応しい母親候補を探しているだけで……」
リオナ
「わたくしのお母様はお母様だけですわ!
他の方などいりません!!」
ティナ(置いてけぼり)
「(何か目の前で親子喧嘩始まったんだけど……気まず……)」
リオナ(ティナを見て)
「それに……こちらのお客様、見たところわたくしと同じようなお歳ですわよ?」
リオナ(ギロッとレヴィンを睨む)
「このような方が母親代わりになるとでも?」
レヴィン
「うっ……
わかった……私が悪かった。
ティナ殿、すまないことをした。この通りだ。」
頭を下げるレヴィン、ポトッとシルクハットが落ちる。
ティナ
「……あ。」
ティナ(思わず凝視)
「(……予想通り薄い……
これ☆毛凄良☆ちゃんと効いてんの!?)」
……
ティナ(肩を震わせ)
「(だめだ、笑うなわたしッ!
この緊迫した空気で笑っちゃだめだ!)」
ティナ(唇を噛み締めながら)
「ブッ……だ、だいじょ……ぶです……!
そ、それじゃ……わ、わたしは、これで……」
リオナ(深々と頭を下げる)
「父が大変な無礼を行い申し訳ございません。
お詫びにお茶菓子を用意いたしますので、どうか……」
ティナ
「あ、じゃぁ中庭で友達が待ってるんで、そこまで案内してもらってもいいですか?」
レヴィン(目を輝かせる)
「なんと!中庭にティナ殿のご友人が!?
ご友人はどのような方だ!?」
リオナ(ギロッ)
「……お父様?」
レヴィン(しゅんとして)
「……わかった……
私は書斎に籠るとする……」
リオナ
「わかればよろしいですわ。」
リオナ(にっこり)
「それでは、参りましょうか。」
ティナ
「(この子……可憐でおしとやかそうな見た目なのに……強いッ!)」
---
中庭テラス。
ティナとヴァレンシュタイン邸令嬢リオナ、女執事の三人が歩いてくる。
カレン(ティナに気づく)
「おっ!おかえり〜ティナ!」
ティナ(疲れきった表情)
「ただいま〜……
めっちゃ疲れたよ〜……」
ティナ、テラスのテーブルに置かれたグラスとマカロンを目にする。
ティナ
「あー!ずるいッ!
わたしが大変な目に合ってる時に、呑気におやつ食べてたな〜!」
カレン
「ヘヘッ!
このマカロン、めっちゃ美味しいよ!お高い味がする!」
リオナ
「まぁ!お口に合って何よりですわ!」
カレン(リオナに気づき)
「あっ!えっと、初めまして!
ティナの友達のカレン・ホワイトロックです!」
リオナ(ドレスの裾をちょんとつまみ、深々とお辞儀)
「わたくし、リオナ・ヴァレンシュタインと申します。」
カレン
「(うわっ!
本物のお嬢様だ!テレビや漫画でしか見た事ないよ……)」
ティナ
「あ、じゃぁわたしも改めまして、ティナ・フローレンスです!」
リオナ(にこにこ)
「お2人とも、よろしくお願いしますわ。」
リオナ(女執事の方を見て)
「そしてこちらがわたくしの専属執事――」
グレイ(凛!)
「グレイ・グレイシアと申します。」
グレイ(深々と頭を下げて)
「先ほどは、ご主人様が大変無礼な事をしてしまった事、
心からお詫び申し上げます。」
ティナ(両手をブンブン)
「あっそんな気にしないでください!」
ティナ(背後に暗黒オーラが漂う)
「レヴィンさんより……
わたしを身代わりにした姉の方をどうしてやろうか考えてるんで。」
カレン
「??
よく分かんないけど、大変だったんだね!」
ティナ
「うん……めっちゃ疲れた……」
カレン
「じゃぁ疲れたティナにはこれ!
少しわけてあげるから!」
差し出される、乳白色の液体が入った中ジョッキ。
ティナ
「なにこれ?」
カレン
「プロテイン!メイドさんにお願いしたら作ってもらえたんだ!
『国産大豆100%、高原のボディビルダーの掛け声をセット』だったっけ……
美味しいよ?」
ティナ
「何その暑苦しい名前ッ!?
貴族のお屋敷に一番似つかわしくない物飲んでんな!?」
リオナ
「プロテイン……とはなんでしょう?
わたくし、口にしたことがありませんわ。」
グレイ(軽く咳払い)
「プロテインとは“タンパク質”の事を言いますが、
この国ではタンパク質を多く含み、手軽に摂取できるよう、加工された食品の事を言う事が多いです。
主に筋力トレーニング後の栄養補給食品として食されることが多いです。」
グレイ
「ようするに“筋肉が喜ぶ食べ物”でございます。」
ティナ
「……完璧な回答来た!
このグレイって執事、絶対仕事出来る!」
グレイ
「……恐縮です。」
リオナ
「まぁ!では体に良いものなんですのね!
グレイ!わたくしにもプロテインをひとつ!」
カレン
「あっ!じゃぁあたしも、おかわりもらってもいいですか?」
グレイ
「かしこまりました。ティナ様もプロテインでよろしいでしょうか?」
ティナ
「……いえ、わたしはお茶でいいです……」
グレイ
「かしこまりました。
ではご用意いたしますので、少々お待ちください。」
……
カレン
「……それでさ、中で何があったの?」
ティナ
「えっと、話すと長くなるんだけど……」
---
数分後――
カレン
「なるほどね、リオナお嬢様のお父さんにナンパされてたわけか。」
ティナ
「そういうこと。
リリサの奴、ナンパされる事わかってたからわたしに配達させたんだよ。
許せねぇ……!」
リオナ
「お父様は綺麗なお客様が来られると、
いつもいつもあのような詩を送るのです……」
カレン
「えー!
そんなの奥さん許さないんじゃない!?」
リオナ
「母は……わたくしが幼い頃に亡くなられてますの。」
カレン
「あ……ごめんなさい……」
リオナ
「気にしないでくださいまし。
もう何年も前の頃の話ですので、慣れましたわ。」
そこへお盆にグラスと様々なカットフルーツを乗せたグレイが戻ってくる。
グレイ
「お待たせいたしました。
こちら、お嬢様とカレン様のプロテインと、ティナ様のアイスティーでございます。」
リオナ
「グレイ、ありがとうございますわ。
お2人もどうぞお召し上がりください。」
ティナ(目が輝く)
「わぁー!ありがとうございます!」
カレン
「いただきまーす!」
リオナ(ジョッキを片手にドキドキ)
「これがプロテイン……初めて口にしますわ……」
――ゴクッ。
リオナ
「……」
リオナ(微妙な表情)
「……ええ。素材そのものの味がして……
その、とても素朴ですわね。」
カレン(ゴクゴク)
「ね!タンパク質補給って感じ!
めっちゃ美味しいよね!」
リオナ(愛想笑い)
「え、ええ。
そうですわね……」
リオナ(グレイに小声で)
「グレイ、やはりわたくしもお紅茶を……」
グレイ
「お嬢様、お残しは許しません。
食物に感謝をしてお召し上がりください。」
リオナ(しゅんとして)
「……わかりましたわ……」
ティナ
「リオナ、良かったらわたしの紅茶飲む?」
リオナ(パァァっと表情が明るくなる)
「まぁ!よろしいのですか?」
グレイ
「お嬢様。」
リオナ
「くっ……
ティナ様、お気持ちだけいただきます……」
ティナ
「そっか……
じゃぁ、いただきます。」
リオナ、ティナのア紅茶をガン見。
リオナ(じ〜)
「あぁ……」
ティナ(カップを片手に)
「(このお嬢様、めっちゃ見てくるんだけど……)」
ティナ、カップに口をつけようとするが――
リオナ(じーー!)
「あぁ……!」
ティナ(グラスを置いて)
「飲みづらいわ!!
貴族の視線圧が凄い!!」
ティナ
「あの、グレイさん。
お嬢様にもお茶用意してあげて……」
カレン
「お嬢様が飲まないプロテインはあたしが飲むんで。」
グレイ(小さくため息)
「……かしこまりました。今用意いたします。」
リオナ(感涙)
「お2人とも……
ありがとうございますわ!」
---
数分後――
リオナにも紅茶が用意され、庶民派エルフと脳筋少女、貴族の令嬢の女子会は続く。
ティナ
「(これで心置きなくお茶が飲めるよ……)」
ティナ(紅茶をひと口)
「……!?
何この紅茶!いつもリリサが淹れる紅茶と香りが全然違う!」
リオナ(紅茶をひと口)
「ふふ。グレイが淹れる紅茶は格別ですのよ?」
ティナ
「気品が違う……
飲むたび喉から“お嬢様”って声が聞こえてくる……!」
カレン
「わかりやすいようで、わからん例えが来たな。」
ティナ
「だって!食レポなんて出来ないもん!」
カレン
「素直に“美味しい!”でいいんじゃない?」
ティナ
「そうだけど、このシチュエーションでいただくと何か言いたくなるじゃん!」
リオナ(口に手を当て)
「ふふ。
お2人とも、とても仲がよろしいのですね。」
カレン
「まぁね!
お嬢様は?学校に友達いる?」
リオナ
「わたくし、学校には通ってませんの。」
ティナ&カレン
「「えッ!?」」
ティナ
「まじッ!?
学校行かなくていいの羨ましいんだけど!」
リオナ
「そうかしら?退屈ですわよ。」
ティナ
「だって、朝はぐっすり寝れるし、宿題もテストもないじゃん!」
リオナ
「朝はグレイが5時30分には起こしにきますわ。
その後は身支度をして、7時に朝食ですわね。」
ティナ
「……わたしより早起きしてた……」
カレン
「でも、勉強は?どうしてるの?」
リオナ
「家庭教師を雇ってますわ。」
ティナ
「うわぁ……
本当に金持ちって感じの生活してる……」
リオナ
「わたくし、学校どころか、このお屋敷から出たことがありませんの。」
ティナ&カレン
「「屋敷から!?」」
リオナ
「ええ。
お父様が『外の世界は危険』と仰ってまして、
外出は禁止されてますの。」
ティナ
「お父様過保護すぎんだろ……」
カレン
「じゃぁカラオケとか、ゲーセンとか知らない感じ?」
リオナ(きょとん)
「からおけ……?げーせん……?」
ティナ
「あ、ヤバい!そのリアクションは本当に知らないやつだ!」
カレン
「お父さん説得して学校来なよ!
外の世界は楽しいよ?」
ティナ
「そうそう!
こうやって友達出来てさ、嫌なこともあるけど楽しい事たくさんあるよ!」
リオナ
「まぁ!わたくし、お2人と、もっと仲良くなりたいですわ!」
カレン
「お嬢様、今何歳?」
リオナ
「今は15歳ですわ。今年で16歳になりますの。」
ティナ
「タメじゃん!
学校来れば同じクラスになれるかもよ?」
リオナ
「本当ですの!?」
カレン
「ほんとほんと!
あたし達以外にも同い年の子、たくさんいるよ!」
ティナ
「ね!人間、魔族、ドワーフ。
色んな種族の子たちが通ってるんだよ!」
カレン(ティナの肩を抱いて)
「そして、エルフもね!」
リオナ
「まぁ!
ティナ様はエルフだったのですね!
ただ、お耳の長い方かと思ってましたわ。」
カレン
「個人差だとしたら長すぎでしょ!
耳で鼻ほじれるくらい長いんだよ?」
リオナ
「……耳で……鼻を……?」
リオナ(想像中)
「……??」
ティナ
「おいやめろ。余計なこと言うな。」
カレン
「まぁそんなわけでさ!
お嬢様も学校おいでよ!絶対楽しいから!」
ティナ
「だね!
わたし達もいるからさ!お父様説得してみなって!」
リオナ
「学校……同年代との方たちとの共同生活……
なんと楽しそうな所なのでしょう……」
リオナ
「わかりましたわ!
わたくし、学校に通えるように、説得してみますわ!」
ティナ
「うん!待ってるね!
じゃぁわたし達、そろそろ帰るね?」
カレン
「プロテインとおやつ、ご馳走様でした!」
リオナ(少し寂しそう)
「……そうですか……」
グレイ
「お嬢様。
門までお見送りしましょう。」
リオナ
「ええ。そうしましょう。」
---
カレンが自転車に跨り、ティナが荷台に乗る。
カレン(大きく手を振って)
「じゃぁねー!」
ティナ(手を振って)
「またね!学校で待ってるから!」
リオナ(小さく手を振って)
「ええ。また……」
グレイ(お辞儀をして)
「お気をつけて……」
――ギュン!!
ティナ
「うぐぅッ!?
だから、いきなり飛ばしすぎだって!!
また首もげるかと思ったわ!」
カレン
「えぇ〜そう?
落っこちないようにしっかり掴まってなー!」
――2人の喧騒が次第に小さくなっていく。
リオナ(2人の後姿を見つめながら)
「……グレイ。
わたくし、決めましたわ。学校へ通います。」
グレイ
「……左様ですか。
良い判断だと思います。」
リオナ
「ええ。
お父様を説得するのに、協力していただけませんこと?」
グレイ(小さく微笑む)
「……かしこまりました。」
――箱入りお嬢様vs過保護父とのバトルが始まろうとしていた。




