わたしは、身代わりにされた。(イラスト付き)
湖畔の街。
湖畔沿い、ティナはリリサから借りた赤い自転車に乗ってポーション配達中。
前カゴには紙袋に入ったポーションの小瓶がカタカタと音を立てている。
ティナ
「(道は舗装されてないからガタガタだけど……
天気もいいしサイクリング日和〜♪)」
ティナ
「(でも、リリサのあの反応……
絶対何か隠してるよな……)」
……
ティナ
「(まぁいいや!
さっさと配達終わらせて、家で昼寝でもしよっと!)」
――5分後。湖畔の街へ到着。道は未舗装路から石畳へ。
ガタガタガタッ!!
ティナ(振動MAX)
「ア゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ッ!!」
ティナ
「ちょッ!?
石畳、自転車と相性悪すぎるってッ!!」
前カゴのポーション
「ガチャンッ!ガチャガチャガチャ!」
ティナ
「割れるッ!!
ポーションとお尻が割れちゃうッ!!」
――キキーッ。
ティナ
「しょうがない……ここから歩いてこ……
てかポーション、割れてないよね?」
……
ティナ
「……リリサがプライバシーとか言ってたけど、生存確認だから……」
ティナ、紙袋の中のポーションを確認、簡単な包装を丁寧に剥がす。
ティナ
「良かった。小瓶は割れてないや。
てかこれ、どんなポーションなんだろ?」
ラベルを確認。
『エルフ秘伝。育毛ポーション☆毛凄良☆』
ティナ
「……あ。(察し)」
包装をし直し、紙袋に戻す。
ティナ(何事も無かったように)
「よし、配達頑張ろ。」
---
湖畔の街。商店街。
休日の商店街ゾーンはいつもより人が多く、賑わっている。
ティナ(自転車を押しながら)
「あ〜……
あそこのお店からいい匂い……クレープ屋さんかな?
あ、あっちはお団子屋さんだ……」
ティナ
「配達帰りに何か買ってこ。」
そこへ、聞きた慣れた声が。
カレン(手を振りながら)
「お〜い!ティ〜ナ〜!!」
正面から手を振るカレンが駆け寄ってきた。
服装はシンプルな白色のパーカーと、
7分丈のカーゴパンツのボーイッシュスタイル。
ティナ
「あ!カレン!!」
カレン
「奇遇だね!!」
ティナ
「ね!カレンは何してんの?」
カレン
「暇つぶしにぶらぶら散歩してた!
ティナは?お手伝いとか言ってなかったっけ?」
ティナ(カゴのポーションを指さしながら)
「まさしくそれ!
リリサに頼まれてポーションの配達中〜。」
カレン
「そうなんだ!
暇だから、あたしも一緒に行っていいかな?」
ティナ
「ほんと!?
一人じゃ退屈だったし、一緒に行こ?」
カレン
「よっしゃッ!決まりだね!
どこに届けるの?」
ティナ(丘の上を指さしながら)
「あそこ。丘の上のお屋敷だって。」
カレン
「まじッ!?
あそこ、この街で一番お金持ちの貴族の家だよ!?」
ティナ
「あ、そうなんだ?
だからリリサが“太客だから粗相の無いように〜”なんて言ってたのね。」
カレン
「一度行ってみたかったんだよね〜!
でも、この格好で大丈夫かな?」
ティナ
「大丈夫じゃない?
付き添いなんだし!」
カレン
「そっか!でもティナはちゃんとした格好してるね。」
ティナ(ワンピの裾を引っ張りながら)
「あ〜、だから今日は落ち着いた服装をチョイスしたのか。」
カレン
「リリサさん、そういう所はしっかりしてるんだね。」
ティナ
「あぁ見えて、200歳超えだからね。
そこら辺はしっかりしてるんじゃない?
じゃ、行こっか。」
カレン
「へぇ〜……
――ヘッ!?
ちょっと詳しく聞かせて!?」
ティナ
「歩きながらね〜。」
---
屋敷までの丘。中腹。
ティナ(自転車を押しながら)
「はぁ……はぁ……この坂、ほぼ壁じゃん……
……登山かよ……」
カレン(軽やかに歩く)
「頑張れー!まだ半分だよー!」
ティナ(息切れ、足がおぼつかず)
「こんなん、ほぼ修行じゃん……
てか、自転車置いてくれば良かった……」
ティナ(へたり込む)
「もう……無理……
ちょっと休憩しよ……?」
カレン
「もー!体力無さすぎ!
しょうがないなぁ、あたしが自転車漕いであげるから、
ティナ後ろ乗りな。」
ティナ
「え!?いいの?
でも、かなりの急坂だよ?
一人でもペダル漕ぐのしんどいと思うけど……」
カレン
「だいじょぶだいじょぶ!
あたしを誰だと思ってんの?」
ティナ
「……元気ハツラツ脳筋ゴリラ。」
カレン
「おい。」
……
カレン(小さくため息)
「ほら、自転車貸して?
ぐ〜たらエルフは後ろに乗って。」
ティナ(後ろの荷台に乗る)
「じゃぁ、お願いします……
疲れたら言ってね?」
カレン
「はいよ〜!
しっかり掴まってな?」
――ギュンッ!!
ティナ(首がガクッ!)
「うぐッ!?
ちょッ!いきなり飛ばしすぎだって!
首もげるかと思ったわ!!」
カレン
「そう?
しっかり掴まってなって言ったじゃーん!」
その後、もの凄い勢いで丘の頂上まで登るカレン。
ティナ(カレンの腰にしがみつきながら)
「……大丈夫?わたし重くない?」
カレン(にこにこ)
「全然よゆー!」
ティナ
「なら、いいけど……」
カレン
「むしろ、良い負荷になってる!
乳酸溜まってキターッ!!」
ティナ
「人を筋トレのウエイト代わりにしないでもろて。」
---
丘の頂上。
巨大な門と真っ白な屋敷が現れる。
ティナ
「……でっか!?
え、なにこの建物、金持ちのテンプレ?」
カレン
「ほんとだね。
いつもは遠くから見てたけど、近くだとこんなに大きいんだ……」
ティナ
「あとさ、めっちゃ静かだよね。」
カレン
「ほんとね。
風の音と鳥の鳴き声しか聞こえないや。」
ティナ
「本物の貴族ってやつか……
ちょっと緊張してきた……」
カレン
「まずは入口探そ?」
ティナ
「だね。あそこの門から入れるかな?」
正面にある、大きな門に移動するティナとカレン。
ティナ
「えっと……チャイム……とか……ある?」
カレン(辺りを見回す)
「ないね。どうしよっか?」
ティナ
「う〜ん……
リリサに入り方までは聞いてなかったしなぁ……」
……
カレン
「チャイムもないしさ、
とりあえず押したら開くんじゃない?」
ティナ
「まさか、こういう所はセキュリティ万全でしょ。」
カレン、試しに鉄製の門を押してみる。
――ギィィィ……
カレン
「普通に開いたよ?」
ティナ
「セキュリティガバすぎない?」
カレン(門塀の端に駐輪)
「まっ結果オーライじゃん!行こ行こ!」
---
大邸宅。中庭。
ティナ
「すごい……中庭だけでわたしの家10件分くらいありそうなんだけど。」
カレン
「ほんとね。どんな人が住んでるのかな〜?」
中庭を抜けると屋敷の玄関が見えてきた。
玄関前に立っていたのは、黒の執事服に身を包んだ女執事。
背筋がピンと伸び、無表情ながらどこか気品を感じさせる。
女執事
「失礼ですが、どちら様でしょうか。」
ティナ(あたふた)
「あ、あのっ、ポーションを届けに来ました!リリサから預かってて……!」
女執事
「……フローレンス様の使いの者ですか。なるほど。では、そちらの方は?」
カレン
「ティナの付き添いできました!」
女執事
「……なるほど。
申し訳ございませんが、特例がない限り、部外者を屋敷に入れるわけにはいきません。
そちらのご息女様はお引き取りください。」
カレン
「えー!
そんな……せっかくここまで来たのにー!」
ティナ
「あ、あの、カレンに付き添いを頼んだのはわたしなんです。
一緒に入れないですか……?」
女執事
「……かしこまりました。
屋敷には入れないですが、
フローレンス様の要件が済むまで、中庭でご休憩ください。
メイド達に紅茶と茶菓子を用意させます。」
カレン
「やった!
ありがとうございます!」
ティナ
「ありがとうございます!
じゃぁカレン、ちょっと待ってて、すぐ帰ってくるから!」
カレン
「はいは〜い!」
女執事(静かにお辞儀をして)
「では、フローレンス様。
どうぞこちらへ。」
---
屋敷内。
廊下の長いこと長いこと。
ティナ
「(……すげぇ!廊下が永遠に続いてる!どこまで行くのこれ!?)」
ティナ(きょろきょろ)
「(飾ってある額縁が全部金フレームなんですけど!メッキ……なわけないよね……)」
案内された先は広々とした応接間。
ティナはふかふかのソファにおそるおそる座る。
ティナ
「うわ、座るたびに沈む……
これ絶対高いやつだ……」
ティナ(そわそわ)
「なんでこんな緊張すんの……
ただのおつかいだよね……?」
そこへ、重厚な扉が開く音。
???
「おや……
今日はリリサ殿ではないのか。」
現れたのは、シルクハットを被り、キザな笑みを浮かべた中年紳士。
やたらと胸元が開いたシャツ。指にはキラつく指輪。
ティナ
「(“いかにも貴族”って人キター!)」
ティナ(あわあわ)
「あ、えっと……
リリサの代わりに配達に来ました。
リリサの妹のティナ・フローレンスです。」
貴族の男
「なるほど……なるほど……
あのリリサ殿の代わりに来たのが、こんなに可憐なお嬢さんとは……!」
貴族の男
「私の名はレヴィン・ヴァレンシュタイン。
以後、お見知り置きを。」
ティナ(ペコッとお辞儀)
「あ、よろしくお願いします……」
レヴィン
「それで、いつものポーションは?」
ティナ(紙袋を差し出す)
「あ、こちらです。」
レヴィン
「ふむ。確かに受け取ったぞ。
リリサ殿のポーションは効果が素晴らしい。」
ティナ(愛想笑い)
「あはは、そ、そうなんですね。
(その帽子の中は……いや、考えるのやめよ、失礼だし。)」
ティナ
「それでは、わたしはこれで……」
レヴィン(指を鳴らす)
「まぁ待ちたまえ。
ティナ殿、君はまるで風に揺れる白百合のようだ……
この出会いもまた、運命という名の魔法なのだろうね。」
ティナ
「……え?」
ティナ
「(このおじさん、何言ってんの!?)」
ティナ
「い、いやあのっ……わたしはただの配達で……!」
レヴィン
「ふふ、照れる姿もまた美しい……
良ければこのままお茶でもどうかね? 君のような可憐な花には、紅茶の香りがよく似合う。」
ティナ(察する)
「(あ、これだ!これ絶対リリサが逃げた理由だ!!
わたしを身代わりに出したな!?あいつ、覚えてろよ!!)」
レヴィン
「リリサ殿にもいつも申し上げているがね、
私は誠実な男だ。愛をもって接する。年齢差など些末な問題……!」
ティナ(涙目)
「(だからこの人なんの話してんのぉ……!!
助けてカレンー……!!)」
その時、後方から甲高い声が。
???
「お父様っ!!」
パタン、と扉が開く。白銀のウェーブ髪を揺らして、
小柄で上品な少女が現れる。
???
「お客様に何をなさってますの!?
困っておられるではありませんの!!」
ティナ(救いの女神を見る表情)
「(た、助かったぁぁぁ!!)」




