それでもわたしは、厨二病じゃない。
翌朝。
フローレンス家。
リリサ
「ティナ〜!
遅刻するわよ〜!早く起きなさい!」
ティナ(布団でモゾモゾ)
「うぅん……」
ティナ(目をこすって)
「もう朝……?
って痛ッ!?」
リリサ
「どうしたの?
……あら……」
ティナの右目まぶたが真っ赤に腫れ上がっている。
リリサ
「ものもらいね。」
ティナ(鏡で確認)
「うわぁ……
せっかくの美少女がお岩さんになってる……」
リリサ
「目にバイ菌が入ったのね。
触っちゃだめよ?」
ティナ(鏡で確認しながらツンツン)
「んー、触っちゃダメなのはわかるんだけど、こういうの気になるんだよね……」
リリサ
「こら!悪化するからやめなさい!」
ティナ(ツンツン)
「痛たた……
てか、こんな顔じゃ学校行けないなぁ。」
ティナ(悪い笑み)
「休むしかないなぁ。」
リリサ
「何言ってるのよ。登校二日目で休む気?
――ちょっと待ってなさい。」
リリサ、リビングに移動。
戸棚から白い眼帯とガーゼを用意してくる。
リリサ
「あなた、授業中もずっと触ってそうだからこれ着けていきなさい。」
ティナ
「え〜……休んじゃだめなの?」
リリサ
「だめよ。
よっぽど悪化しない限り、ものもらいで休むなんて聞いたことないわよ。」
ティナ(ムスッ)
「……わかったよ。」
リリサ
「ものもらいに効くポーションがあるから、
使っていきなさい。」
ティナ
「ほんとに!?
すぐ治る?」
リリサ
「ガーゼに染み込ませて患部に当てておけば、半日くらいで完治するわよ。」
ティナ
「すげぇ!」
リリサ
「今用意するから、支度して朝ごはん食べながら待ってなさい。」
---
朝食後。
ティナ
「ご馳走様でした!」
リリサ
「食べ終わった?
これがポーションね。」
リリサが用意したのは小瓶に入った、ドロっとしたドス黒い液体。
ティナ(少し引く)
「お、おぉ〜……」
リリサ
「これをガーゼに浸して、
眼帯で押さえておけばお昼には治るから。」
――ドプッ。
真っ白なガーゼが漆黒に染まる。
ティナ
「……大丈夫これ……
って臭ッさッ!?」
ティナ(鼻をつまむ)
「何このにおい!?
正露丸を鼻の中に突っ込まれたみたいなんだけどッ!!」
リリサ
「抗炎症作用の薬草を煮詰めたあと、
私の魔力で更に凝縮したポーションよ。
匂いはキツいけど、効果抜群なんだから。」
ティナ
「無理無理無理ッ!!
こんなの半日も着けてたら鼻がもげるって!!」
リリサ
「“良薬口に苦し”って言うでしょ?我慢しなさい。」
ティナ
「無理ッ!
これならお岩さんのまま登校した方がましっ!!」
リリサ(小さくため息)
「……しょうがないわね。
そんなに言うなら匂いを無臭化する魔法使ってあげるわよ。」
ティナ
「そんなのあるの!?
だったら先にやってよ!」
リリサ、強烈な正露丸臭のするガーゼに両手をかざす。
両手が淡く光り、次第に正露丸臭が収まった。
ティナ
「すげぇ……!」
リリサ
「はい、これでもう臭くないわよ。」
ティナ(ガーゼをくんくん)
「ほんとだ!全然臭くない!
魔法ってすげー!!」
リリサ
「まぁね。私にかかればこんなの朝飯前よ。」
ティナ
「さすが200歳!年の功!
そして朝食後だけどね!」
リリサ(ギロッ)
「……ティナ?」
ティナ
「ひぃッ!
今日も美しいです!」
リリサ
「わかればよろしい♪」
ティナ
「……まったく……ってちょっと待って。」
リリサ
「どうしたの?」
ティナ(漆黒ガーゼを監察)
「ガーゼから……なんか黒い湯気出てない?」
リリサ
「あぁ、この魔法のせいね。
臭いを無臭化する代わりに可視化しちゃうのよ。」
ティナ
「なんで!?なんで見えるようになっちゃうの!?」
リリサ
「知らないわよ。そういう魔法なの。」
ティナ
「……まぁ、臭いより少しオーラが出てるくらいならいっか。」
リリサ
「そうね。
そろそろ出ないと遅刻するわよ?」
ティナ
「そうだった!!
行ってきます!」
リリサ
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
---
黒いオーラを放つ眼帯をしたエルフの少女が通学路を歩く。
通学中の生徒A (少し離れた所から、チラ見)
「あのエルフ、昨日転校してきた子じゃね?」
通学中の生徒B (同じくチラ見)
「ほんとだ。エルフって珍しいよな。
でもさ、“自分は転生してきた特別な存在”って言いふらしてるらしいよ。」
通学中の生徒A (ヒソヒソ)
「マジで?それで今日は眼帯してるとか、厨二病確定じゃん。」
通学中の生徒B (ヒソヒソ)
「だな。顔は可愛いのに中身は痛いよな。」
通学中の生徒A (ヒソヒソ)
「……でもさ、あの眼帯、なんか“オーラ”でてね?」
通学中の生徒B (ヒソヒソ)
「……ほんとだ……キャラ作りに必死だな。」
ティナ
「(……なんか、さっきからチラチラ視線を感じるんだけど……
絶対、この眼帯のせいだよね……)」
ティナ(小声、独り言)
「午前中までの辛抱だ……
お昼になったら、すぐにこの呪物を外す……」
通学中の生徒A (ヒソヒソ)
「なんか一人でボソボソ“呪物”とか言ってたぞ。」
通学中の生徒B (ヒソヒソ)
「……残念な子だな……」
---
教室。
ホームルーム前の室内は生徒達の会話で賑わっている。
――ガララッ
ティナ
「おはよぉ〜……」
カレン
「あっ!ティナおは――
おぉー!?」
カレンの一声に教室中の生徒達がティナに注目。
――教室が静まり返る。
ティナ(扉前で立ち尽くす)
「……なに、みんなして固まっちゃって。」
カレン(爆笑)
「何その眼帯!さすがにキャラ作りすぎだって!!」
生徒達 (ヒソヒソ)
「やっぱり厨二病だったんだ……」「噂は本当だったんだね……」「……かわいそう……」
ティナ
「キャラ作りってなに!?
わたし、厨二病じゃないから!!」
カレン
「ププッ!
じゃぁなんで黒い眼帯なんてつけてるのさ!!
しかもオーラみたいなの出てるし。」
ティナ
「これは今治療中なの!
痛みを抑えてるの!」
モブ生徒
「え?“邪気”を抑えてるって言った?」
ティナ(大声ツッコミ)
「邪気じゃない!痛み!」
ティナ
「……なんか、大声出したらズキズキ疼いてきた……」
生徒達
「疼くだって」「封印されしドラゴンが暴れてるとか?」
ティナ
「だから違うって!ただのものもらいなの!!」
その時、一人の男子生徒がティナの前に現れる。
前髪で目が隠れ表情が読めない。なぜか右腕に包帯を巻いている。
男子生徒
「……」
ティナ
「……なに?」
男子生徒
「……貴様も、選ばれし者なのか?」
ティナ
「え?」
男子生徒(右腕を見せつけ)
「……俺の名は“ダーク”。
俺の右腕には“暗黒竜ダークドラゴン”が封印されている。」
ティナ
「……はい?」
ダーク
「……貴様の眼帯の奥には何が封印されている?
貴様が現れてから、俺の中の暗黒竜が騒がしい。」
ティナ
「何って……お岩さんみたいに腫れ上がったまぶただけど……」
ダーク
「……ふっ。
なるほどな、貴様の右眼には“岩竜ロックドラゴン”が封印されているという事か……
暗黒竜ダークドラゴンが騒がしいわけだ……」
ティナ
「さっきからこの人何の話してるの!?」
ダーク
「俺の暗黒竜ダークドラゴンと貴様の岩竜ロックドラゴンが共鳴を始めたということか……」
ティナ
「意味わかんない!
助けてカレン!」
カレン
「その子は通称ダーク君だよ!
生粋の厨二病患者で本名はハルナ君!」
ティナ
「本名可愛いな!!」
ダーク
「……ハルナ?
ああ、この身体の前の持ち主の事か……」
カレン
「ハルナ君はね、ある日突然人格が乗っ取られて
ダーク君になったんだって!
ダーク君がハルナ君の身体に暗黒竜を封印した設定なんだよ!!」
ティナ(引き気味)
「へ、へぇ〜?」
カレン
「ようするに、ティナと同じ厨二病の大先輩!
色々アドバイスもらいな?」
ティナ
「だ か ら ぁ ! !
わたしは、厨二病じゃない!!」
ティナ(涙目)
「なんで……なんでこんな事になっちゃったの……」
ダーク
「……共に行こう。風が泣いている。
黒き風がこの街に良くないものを連れてきたみたいだ。」
ティナ(クソデカボイス)
「行かねぇよ!!」
教室が一瞬、静かになった。
ティナ(涙腺が……)
「泣きたいのは……わた、わたしだよ……」
ティナ(ついに泣く)
「うぅ……ぐすっ……
わ、わたしは……厨二病なんかじゃ……ないもん……」
生徒達
「あれ……泣いちゃったよ!?」「ちょっとからかいすぎたかな……」「(泣き顔も可愛い)」
カレン(慌ててティナの近くへ)
「あわわ!
ごめんみんな!ちょっとティナを保健室に連れてくから!」
生徒達
「わかった!」「よろしくねー!」「先生には伝えとくから!」
カレン
「ほら、行こ?」
ティナ(小さく頷く)
「……ぐすん……」
ダーク(頬を赤らめて)
「(間近で泣き顔を見てしまった……
なんだ?この胸の高まりは……)」
ダーク(ドキドキ)
「(……静まれッ!
俺の暗黒竜ダークドラゴン……!)」
ダーク
「(……俺も……
岩竜ロックドラゴンの持ち主に共鳴してしまったと言うことなのか……?)」
――こうして、一人の厨二病患者を恋のラビリンスに落としてしまった。




