日常とはすなわち壮大な〇〇
おまたせしました
白露の規則的な呼吸と共に体が少し動いている。ね、寝た……のか?この状況で寝た……寝るしかないか。
「……」
寝れない……。そもそも白露に抱きかかえられているのに寝れるわけがない。退屈な事を考えようにも動けない……。
「ん〜」
白露が俺を胸に抱き寄せた。布団並に温かい……熱と規則的な呼吸、瞼が重くなってきた。もう、目を開け……
「ん、んん……よ、しょ……くぅ〜」
「んご……」
何か……見える。白いなにかが大きく伸びている。眠い……このまましばらくぬくぬくしておきたい。
「n……」
「ん〜♡ちゅっ……ちゅっ♡ぢゅゅゅゆゅゅゅゅ♡」
「ッ!?」
白露に唇を思いっきり吸われていた。目を閉じて上品な表情をしている。光景と現実が合っていない。
そろそろ起きたことを伝えるか……どう伝えよう。口は塞がれているし……叩いてみるか。
「ん〜、ん〜!!」
「ぷっはぁっ!!おはようございます」
「……顔洗ってくる」
「ちょちょちょちょ!!」
白露に腕を掴まれた。こんな顔の白露、始めて見た。捨てられた子犬は見たことはないが、多分今の白露のような表情だろう。
「アー、ナンカフラフラシテキタナー」
「よいしょ、大丈夫ですよ〜」
白露がニコニコしながら俺を抱き寄せて歩いている。本当に嬉しそうな顔だ……ここまで喜ばれるとこちらまで嬉しくなる。
白露の胸に顔を埋められ脚の上に座らされた。この麻薬的な感覚は助かるが……脚に乗せて大丈夫なのか……?
「はい、あ〜ん」
「美味しい……蜂蜜?」
「はい、今日は手頃な蜂の巣が見付かったので取ってきました」
「手頃……?」
白露がどれだけ速かろうと蜂に絡まれたら危ないのでは……?刺された跡は見当たらない。白露の異常な回復力が成す業か。
「白露……あの、ちょっとあーんしたいんだけど」
「してるじゃないですか」
「……言葉が足りなかった。俺が、白露に、あーんをしたいんだ」
しばらくただあーんをされる時間が続いたが、おもむろに白露が食器を机に置いた。甲高い金属音が響き渡る。
「ん……」
「あ、あ〜ん」
「ん……あ〜」
鯉のように口を開ける白露にスプーンで野菜を食べさせる。かわいい……なんだこの生き物は?けしからんですわ。
野菜をもきゅもきゅ口を動かしながら食べている。食べ終わった後に口を開けて催促する姿……ふつくしい。
「ん、ごちそうさまでした」
「お粗末様でした……これ逆じゃないか?」
「ん〜、午後の為の布石ということで」
「それも違うような気がするが……」
なんにせよ午後までは時間がある。それまで何をしたものか……久し振りに織物でも習うか。
「白露……織り物を」
「さて、今日はですね……リボンにしましょうか」
「白露、そういえば……」
「ありますよ。まぁ、マフラーとして使っているかは微妙ですが」
腹と胸の間辺りに微かに布が見える。構造的には確かにマフラーだ。汚しそうになってなくなくこちらに付けたのかもしれない。
外さないところに強い意志を感じる。よく燃えずに残ったな……不変の物を見ると安心する。
「リボンは簡単そうと思うかもしれませんが……そうでもないんですよ?」
「そうなのか」
「はい、柄にしても質感にしても、大変なんですよ」
確かに柄は大変そうだ。どう縫えば印が付けられるのかも分からない。長丁場になりそうだ。
「リボンの折り方はそんなにマフラーと変わらないんですが、使用用途によって糸の質を変える必要があるんですよね」
「毛糸のリボンを髪に付ける流行は無かったしな」
「はい、なので繊維の扱い方が難しくなってきます。まぁ……私の糸ならどんな物を作るにしても究極の出来栄えになることは間違いありませんが」
白露の糸なら確かに究極の出来栄えになるだろう。見た目がどれだけ悪かろうがエナドリとして利用されるのは約束されている。
「それで、リボンですが」
「うん」
「主様にはこんなのを作ってもらいます」
白露が差し出したのは愛の字が刺繍されたリボンだった。こ、これを織る……のか?難易度が高すぎるのでは?
「大丈夫、簡単ですよ」
「そ、そうなのか?」
「ええ……ここはこうしてですね」
「え、なんだこの動き」
白露の手が俺の手を動かしているが、正直何をしているのか分からない。不気味なほどするすると動いている。
これをやるのか、もう現在進行中の作業も怪しい。一回ではとてもではないが出来……た。何故できるのか。
「おぉー、初めてにしては中々ですね」
「そ、そうか?」
「では、主様の書きたい文字でやってみましょう」
「応用に至るまでが早すぎる」
何を書こう……白露の生き様を書こうにも愛意外にないのでは?般若でも書こう、裏面は美女の顔……表は鬼。
般若は怒りの顔……敵は最高効率をもって対処する白露にピッタリだ。下と上に分ければ結んだ時に見えるだろう。
「くっ……」
自分一人でやるとなると苦戦する。特に文字の為に色を上手く変えられない。白露はただ慈愛の眼差しでこちらを見ている。
今回のリボンは前回のマフラーのように誤魔化しが効かない。全身の筋肉を意識的に伸縮させ、伸張するんだ。
「っし!!出来た……」
「ふむふむ、なるほど」
白露がおもむろに髪にリボンを付ける。これは……いい。ロングは維持しつつ、尾のような髪がアクセントを添えている。
確か……ハ、ハーブ、ハーフアップか。前までは髪を弄るのは楽しいとか言う理由が分からなかったが、少し分かった気がする。
「さて、そろそろご飯の時間ですね」
「そんなに時間が過ぎ……」
「今日のご飯は少なくても精がつくものばかりですよ」
確かに……レバニラや餃子、牡蠣の味噌チーズ、アボガドサラダといった小分けにしやすく代表的なスタミナ料理が並んでいる。
だが、今食べr
「はい、あ〜ん」
「んぐ……」
アボガドサラダ美味しい。白露が咀嚼する俺を横目に、レバニラを構え幼女のような純真無垢な笑顔を浮かべている。
「あの、あ〜んしt、むぐ」
「美味しいですか?」
「美味しい」
「それは良かった」
白露に料理を運ばれ続ける。用意された昼食の内7割はなくなっている。多分、白露が食べたんだろう。ハヤイナー。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
次も一週間後です




