第176話 影縫い
明けましておめでとうございます。ようやくお届けすることが出来てホッとしてます。楽しみにしてくれる方がいると言うだけで、何でこんなに勇気づけられるのでしょう。
皆様よいお年を。そして皆様が素敵な作品とたくさん出会えますように。
アミックによって放たれた煌子力弾が迫ってるというのに、深度一に潜った弟さまがキューロと何かを話していた。
浅い回廊をつかって暢気なことであった。煌子力弾は光の速さにほぼ匹敵するというのに、いくら通常空間より時の流れが速い深度一にいるとはいえ、気を抜きすぎな気がした。
侵略機動兵器からの煌子力弾は、精霊のキューロにまっすぐに飛んで来ている。精霊という小さな的だというのに、煌子力の塊の中心にキューロは捕らえられていた。そのままでは確実に煌子力に飲みこまれる。
しかし弟さまが止める気配もない。
アミックと対峙してるのに何を企んでるのやらと思ってたら、まるで慌てる素振りもないキューロがウインドの浮いたままにその場に浮いていると、アミックの放った煌子力弾が突然に射線から消えてしまっていた。
「ん?」
オレには何が起きたのかわからなかった。でもキューロは何事も起きてなかったかのようにして、ただただ侵略機動兵器を見上げて見とれている。
そしてアミックが機体を後退させつつ、キューロを刺激しないよう細心の注意を払っていたわけだが、そのアミックの心配も杞憂だった。
弟さまでなく、キューロが対処したのが意外だったのだが、そのキューロはといえば、まるでアミックを相手にしていなかった。
何となく実力差はわかっていたが、ここまで露骨だと指摘するのにもためらいが出る。なにせアミックはオレたちの連立相手なのだ。正確にはだったという過去形を使うべきなのだろうが、そういう割り切りがオレには出来なかった。
子供なのだ。
しかしキューロがどうやって対処したのかは気になる。青い燐光を放つ身体には何の変化もない。
もし何もしないで防げるのなら、オレと弟さまが初めて見野山病院で当時のケーフと対峙したとき、ケーフはこの技を使わなかったのかということになる。
(兄さま、通訳頼む。丸投げ中だ)
(いやしかし、アミックの邪魔しに真理ちゃんの宇宙船に乗ってきたじゃん、お前)
(いつまでも、あると思うな、オレとサポート)
嫌な俳句だよ。こんちくしょー。
そしてオレは通常空間に復帰した。深度一は弟さまが対処してくれるようだったから。
キューロは自信満々に、ハッチから覗くアミックを指差していた。
「ビビるのは勝手だけど、そんな距離じゃ全く意味ないわよ」
オレがアミックに、と言うかセプト側に通訳してあげた。するとアミックがその位置からまた煌子力弾を叩き込んできた。
いい腕だ。フェイントを入れて機体を左右に振りながら、正確にキューロの姿を捕らえている。
だがそのエネルギー弾はまたしても中空に消えた。そしてその原因が二回目にしてようやくわかった。キューロは黒風を薄い板状にして展開し、その煌子力を吸い込んでいたのだ。
アミックではなく、キューロに左手を弾かれたホースが疑問を口に吐いて出した。
「な、なんで」
「恒星級にも似た力だけど、それだけじゃあたしに届くわけないじゃん。せめて恒星の影響圏に影響をもたらすぐらいに今のを充満して、ようやく相手してあげるって程度の技だよ」
「舐めるな」
「舐めてもないよ。飲みこんだだけ。ほんのちょびっと黒風を展開した。ただそれだけだよ」
だが論破されたホースの顔に、みるみる喜色のいろが浮かんできた。
「やはり見つけたのだ」
それから東京大深度の地表へと向けて、大きな声を張り上げた。
「とうとう見つけたのだーーーー!」
東京大深度の地下空間に幾度もその声は反響した。ティリオーダウンのあったセプト側の避難民が、こちらの様子を探っている。自分たちが地球を壊すために乗ってきた船がなくなったのだから、寄る辺ない状況だとはわかってるけど、お前らそれでもホースに耳を傾けるんだなと思った。
ホースは全身で我を忘れている。
こんな奴だとは思わなかったし、箍も外れてるようだし、あまり話しかけたい雰囲気じゃなかったけれど、オレはいつまでもホースの気の触れてる姿を見ていたくなかった。
「興奮してるとこ悪いけど、通訳してあげたの、オレだからね」
「猿か。猿もたまには役に立つ。だがお前たちに与えた物に比して、微々たる貢献でしかないことは、わきまえろよ」
あー、ホースはこういう奴だった。
忘れてた。何度オレにやられても、負けを認めないというか、負けたとも思ってない不思議な精神構造を持つ人物、それがホースだった。
ちなみにオレがホースの相手をかなりの距離越しに取り始めたら、キューロも自分を掴んでた奴にむかついたのを思い出したらしく、こんな事を言い出していた。
(ケーフ、とりあえずこいつら全員倒しちゃっていい?)
(真司は倒せないよ。お前の目の前に立つアミックは倒すな。俺たちの連立相手だ)
キューロの敵認定になぜかオレも含まれていた。
身を粉にして通訳してたのに、である。
(連立?)
(仲間みたいなもんだ)
(そういえば攻撃してこないね)
(それは反撃を封じるためだ。先には手を出さないが、守るためなら何でもするって奴だ。手強いぞ)
(じゃあ、どうするの? 倒せるのに倒せないみたいだし)
(そこらへんは真司に任せた。お前が力を取り戻したのだっって、ある意味真司のおかげなんだぜ?)
(あの悪ガキの?)
(まぁ悪ガキではあるが、俺の友達でもある)
(チェッ)
(俺と一緒にこのインゴットに入った時、また力が回復しただろう)
(そういえば)
(これを作ったのはお前の言う悪ガキの力だ。これのおかげで俺は精素切れを起こさずに済むわけだ。そしてお前も今さっき世話になった)
(げー)
それがオレへの評価のようだった。まあいい。ホースが動き出した。
キューロへと一直線だ。しかしその動きがいきなり止まった。
シューさんが上空で待機して、援護態勢を整えているのが、何気にこちらの動きを封じていた。
オレとしてはアミック隊は一番最後に回したいのに、それをアミック隊がさせてくれない状況になっている。
(仕方ないだろ。ファーストコンタクトからずっと手探りだったんだ。本来なら日本政府がやるべきことを、偶々この場に居合わせたオレたちがやらざるを得なかったんだから。
状況コントロールなんて、四歳児に求められてもなぁ)
(そうだね。正直そんなこと言い出す大人がいたら信用はできないよね。よくやってくれたと思うよ、真司くんは)
ちょっと泣きそうになった。張り詰めてた気持ちがほどけちゃいそうだぞ。
(でだ、どんな結論を出したのかオレはずっと気になってるんだが)
(それは内緒だ。理由は、いや、理由もわかってるくせに聞くな)
(おっけ~)
(それよりなんだよ、このダブルは)
オレは弟さまは手を出さないものと思っていた。
(やるべきことを、オレも超臨界水に止められた口なんでね。何かやることが他にあるなら、このぐらいはしてみようかなって、その程度さ)
(まぁ、おかげで話せてるんだけど)
(それでこの状態固定なんだけど、仮称で、ダブルの影縫いにしておこう。状態固定のままだと、状態固定はいいけどどの状態固定なんだって判断に困るときがあるからさ)
(おっけ~。そこらへんは任せるよ。今そっち方面は考えられない)
(応。復帰してくれ、通常空間に。こっちは任せてくれていいよ)
弟さまが簡易宇宙船のモニター越しに、オレに言う。
そしてオレはシューさんと向き合った。シューさんは狂ったホースの上空で、未だ侵略機動兵器で待機し、守護していた。
「寄越せと言った相手の上にいるのがどんな気分かは知らないけどさ、攻撃しないの?」
「さて。呼称が未だ艦長でいいのかどうかはわからんが、無防備な者を守らなくてはいけないのは、どこの世界でも同じと思うが?」
「そうだね。それはわかるよ。でもそれはホースが決めることで良いの? アミック隊だろ?」
「隊長が見捨てられんのだ」
それはティリオーダウンの乗員やその家族に対して言ってるのだろうか。それともホースに関して言ってるのだろうか。
そのホースは、キューロを捕まえるのはシューさんの仕事だと言わんばかりに、自分の頭上に待機してるシューさんを頼り切ってる感じだった。
確かに地球人類相手には無双する兵器だ。おそらくどの国の軍隊でも、この機体を止められる武器はないだろう。核ですらひょいと避けて、勝手に自滅しろとその程度にしか思うことはないのだろう。
汚れたら地球なんか見捨てて、また別の惑星の探索に向かえばいいのだから。
地球なんて数多ある探索対象のひとつにしか過ぎないのだ。探索艦隊の命題は、地球に残留艦隊を残して今なお本体によって続行されている。
地球とは、セプトにとってはその程度の認識なのだ。
「アミック隊はセプトに殉じるか」
「殉じる気はないが、その場合、我々が意見を束ねることには間に合わなかったということになるのだろうな」
「時間が解決すると?」
シューさんがオレから視線を外し、キューロを観察して喜びまくっているホースを目に入れ、ちいさく首を振った。
オレは改めてシューさんの機体を指差して言った。
「それ、その機体。最後に残ったセプト由来の攻撃型エー・トゥール。そして侵略機動兵器でもあるんだけど、気づいてる?」
「そうなのかい?」
シューさんもわかってない。
アミックから連絡は行ったのかもしれないが、その記憶も最早遠い彼方のようだ。侵略機動兵器に関しては、アミックのがまだもう一機あるけれど、色々な答えが既に出ていた。とりあえずこれから始めるか。
「始めるよ」
オレはシューさんに告げた。
だがシューさんは特に動かなかった。
もしかしたら、アミック派のシューさんは自身の中では、一度侵略機動兵器はなくなった方がいいと思ってるのかも知れないなんてことを思った。
「送還」
そしてオレは、キューロしか眼のないホースの上に浮かぶシューさんのセプトの痕跡を、ダブルでまとめて送還した。
空間に溶けこむように薄れてく侵略機動兵器とシューさんの纏う攻撃型エー・トゥールが、東京大深度の中を一点へと集まっていた。周りに飽和して行くのではなく、静かにうねりが集束しているのだ。それはまるで力の多寡でなく、力を拠り所にした味方陣営との齟齬を、解消しろと集まり、集まっては消えて行っているようだった。
昨年中は色々とありましたが、何とか無事年を越せました。まだまともな食事を摂れない状態ですが、続きが書けなくなるような事態にはなりませんので、ご心配なく。しかし年初はまぁ、ゆっくり始動したいと考えております。またペースを戻せるよう努めてゆきますので、どうぞよろしくお願い致します。




