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第1章 幼稚園時代
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第175話 答え合わせ

 最上寛司だ。双子の弟だ。

 兄さまに丸投げしたが、せめてホース戦が終わるまではアミックの足止めをしようと思ってる者だ。

 ちょうどアミックに聞きたいこともあったし、これは良い機会であった。


「なぁアミック。頭を壊されたクーリエを伏せてるのは何でだ?」


 アミックがじろりとオレを睨んだ。


「お前も知らないのか? 消滅させられたティリオーダウンに格納されていた、クーリエの小さな船と妙なかたちの侵略機動兵器が、ここに来る途中で深度一に隠されてたんだよね」

「答えると思うか?」

「マインドバースト、いや、アミックはマインドブラストと呼んでいたっけか、そいつをホースから喰らってアッパラパーになってたのに、ティリオーダウンの消滅をかいくぐって生き残ったんでね。ちょっと気になってるんだよ」

「答える気はない」

「魔物船の隊員たちが、他の艦隊の隊員たちから嫌われてるのは知ってるけれど、もしもホースへの記憶を取り戻せたら、おまえたちを蹂躙するんじゃないか?」


 アミックの眉がピクリと跳ねた。


「オレの力でも元に戻せなかったわけだが、クーリエは用心深い性格してるみたいだし、マッド・サイエンティスト扱いされてんだろ。お前達への万が一の対抗手段を用意してたりするのか?」

「貴様、クーリエが戻ったとでも言うのか?」

「知らんよ。だが小さな船と、侵略機動兵器は生き残ってるようだったとオレは言ってるんだ」


 宇宙船から顔を出して会話を交わすが、窓がないと不便だと割と本気でオレは思った。今度(あに)さまに窓付きの改をつくってもらわないと、いちいちダブルで送還して復元しないといけないから面倒臭い。

 そのコミュニケーション方法にまったく動揺しないアミックも、記憶を失っても起きたままのことを認識する、アミックはアミックなのだなぁと笑ってしまいそうになる。


「どうやらアミックも知らなかったようだな。だったら気をつけた方が良いんじゃないか? 連絡を寄越さないってことは、彼女にも思うところがあるってことだろ?」



 ◇



 ホースはあくまでホースで、尊大だった。シューさんが間に入ってくれたから助かったことがわかってない。やはりもう心の平衡が取れてなくて、自分の思ったことをそのままやってしまう偉い人特有の、無敵感に飲みこまれてるようだった。

 シューさんに、どけと命令していた。

 そんなホースにシューさんも言い返す。


「武装もないのに出て来て邪魔するな」

「シュー、貴様」


 ホースはいきり立ってるが、それはシューさんからすれば当然の反応だと思った。そもそもシューさんはアミックの部下であって、ホースの部下ではない。戦闘中の命令系統が何処にあるのかは、自明の理だと思うのだが、そこに自分が一番上にいると思い込んでるホースの頭の悪さがあった。


「ホースはさ、シューさんに感謝した方がいいよ。シューさんがいなければ、今頃もう、またオレにぶっ飛ばされてたんだからさ」

「まただと?」


 都合の悪いことは忘れる(たち)なのか、ファウに記憶を飛ばされたのか、正確なところはわからないけれど――。


「せめてお前は知るべきだ。お前が機体から降ろそうとしていたアミック隊のおかげで、今の自分が無事でいられるということに」


 鼻で嗤う声がした。


「わかってるのか? あんたひとりが好き勝手動き回るために、どれだけシューさんが心を砕いて間に入ってくれたのか、それがお前にはわかっていない」


 シューさんがちょっと驚いた顔をしていた。敵に慮られるとは思ってもいなかったのだろう。シューさんとは全く一緒に活動しなかったけれど、それでも一度は手を組んだ連立相手なんだよと教えて上げたかった。


 そしてホースはキューロを握りしめたまま、ようやく自分が周囲の動きに影響を与えていたことを知る。

 自分の保護でシューさんが動けなくなったことを。

 アミックが自分のせいで手駒を一枚剥がされたことを。

 そしてジェラルドは知らんぷりしてることを。


「なんだジェラルド、その態度は」

「バカめ」


 そのジェラルドを、後ろに振り返ってホースが睨みつけた。


「戦闘中にオレから目を切るなんてバカなのか」


 しかしホースには聞こえていないようだった。代わりにシューさんが慌て気味に、オレの視線に入らぬよう、微妙に足の位置を動かしてホースを隠す。


(行けよ、弟さま。今がチャンスだ)

(もう足止めはいいのか?)

(どう転がろうと構わない。もうオレたちに負けはない。オレ、割と本気でこのストーカーたちに対して絶対的な対処をする気になってるから)

(…………殺すなよ)

(半殺しは確定してるけどね)


 そしてそれはファウにも邪魔させない。邪魔をしたら、オレを殺すことでしか止められないよう、延々と繰り返してやるつもりでいる。

 そんなオレの思惑も知らないままに、弟さまは少しだけ笑った。


(アミック隊は敵になってるよ。それでもかい?)

(それがアミック隊のためになる、とオレは思ってる)

(了解。じゃあ離脱するよ。もしもの時はよろしく)

(行け行け)


 そのまま宇宙船を深度一をさらに深くに沈めて、弟さまは離脱した。アミックが急に姿を薄くして消えた弟さまの宇宙船の姿を探して、四方八方にその眼を配ったが、その時にはもう弟さまは要塞に避難し終えていた。


(それよりやっと話せたから言うけどさ。弟さま、それ、真理ちゃん専用なんだけど)

(固いこと言うなよ。兄さまだって乗ろうとしたじゃん)

(いや、乗りはしたし…………)


 寛司は思う。

 一度は真理ちゃんから操縦をあずかったけど、実はもう、今は操縦はしてないんだよね、と。


(逃げるためにピーキーにしたんだろ。だったらぶつかるために使ってもいいだろう?)

(それ、交通事故だから)


 そもそもぶつけずに掻っ攫ってたじゃないか。

 これでキューロと恵風の入った鉄のインゴットを奪う際、ホースにぶつける気で操縦してたのが発覚したようだ。


(兄さま、警戒)

(応)


 おしゃべりもここまでだ。

 ホースが軽くキューロをにぎにぎしている。まるでその感触を確かめているようだ。目の前で人体実験されても寝覚めが悪い。ほうっておいたら今度は恵風が猛り狂って出て来るだろうし――。


「ホース。お前、その生命体をどうする気だ」

「連れて帰る」

「お前の宇宙船もないのにか? どこの世界にも行けないだろうし、どこの世界も見ることは叶わないだろ、それじゃ。地球の物見遊山にでも行くか?」

「くだらぬ。低次な世界は見ても仕方ない。自分よりバカを相手にしても時間の無駄だろうが」


 キューロをいじって、ホースはオレのことをまるで見ていなかった。

 やはり目の前のシューさんが邪魔だ。本当に良い仕事をしている。さっきの拳の痛みは、これからシューさんをやっつけるために、一度は身に刻んでおかなければいけない痛みだったのだろう。

 今ならオレはそう思う。


 そしてアミックはオレが聞いていないとも知らずに、ご高説を垂れていた。


「世界を見て回ると言っても、低い世界じゃ意味がないだろうが。貴様らにはろくな宇宙船すらない」


 弟さまの乗ってた真理ちゃん専用の簡易宇宙船を眼にしてなかったのだろうか。

 いや、目にしてなかったのだろうな。ホースはそういう奴だ。


「なぁチンチンカイカイ。そういうのは高い世界を見て回らないと、わからないもんなんだぜ。自分がいかに低いところにいたのかを。

 お前のようにこの地球で、這いつくばるばかりで、外宇宙にも至れる文明もない文明に寄り添って、それで世界を知ったつもりになるのか? それは俺には滑稽なんだよ」

「何言ってんだ? それも世界だろう? なに高いところと低いところで分けて高い世界と低い世界と定義づけするのか、オレにはそっちの意味のがわからないよ」

「まぁわからないのも致し方なしだな、猿だし、お前ら」

「だから高いのも低いのもひっくるめて世界は世界なんだよ。分けてるアンタのがよっぽど世界を狭めてるんだよ。そして地球に住む先住民の立場から言わせてもらうなら、アンタは地球圏の世界にはいらないから、出て行ってほしいんだよね」


 答えは、辞書に書いてあったり、模範解答をしめす企業ごとのマニュアルがあったり、言葉の意味を超えたところにも答えがあることは気がつき始めてるけれども、ホースはそういう機微があるのかどうか。そしてこんなのを全権代表のように差し出してるセプトの総意は、やはり好戦派によって集約されるのだろうか。



 それでいいのか、アミック。

 お前とホースは分けたんだぜ。気づいてるかどうかは知らないけれど。



 さて、オレの理想の答えは一応提示したわけだが――。




 ホースがキューロをギュッと握った。


「ぎえっ」


 キューロが意識を取り戻したようだ。

 しかしその朗報とは別に、ホースの答えは、キューロを握りしめることだった。


(気づいたかよ)


 オレが浅い回廊よりも浅い、ものすごいい浅い回廊でキューロに呼びかけてみた。だがキューロは返事のひとつも寄越さなかった。

 忘れているのか、それとも相変わらず敵視されてるのか。

 恵風の説得が一つ二つは入ったはずだが、それだけでは方針は変えられないということだろうか。


(恵風、頼む)

(キューロ、無事か)


 そして耳を澄ませようとしてたら、ホースがシューさんの後ろからオレに話しかけて来た。


「ティリオーダウンを消したのは貴様だな」

「ようやく自分の職掌を思い出したのかよ。そうだぜ、ホース。だからその生命体を離せ。お前がふんぞり返れる場所はもう失われた。お目の論理だと、今この時間が与えられたのは、シューさんが頑張ったからだ。アミック隊が頑張ったからだ」

「貴様」


 怒り狂ったセプトが猛攻を仕掛けてくる。シューさんだ。まずはシューさんがホースを守るために直線上からオレを攻め立てに来たのだ。

 それがアミック隊の答えだった。


「貴様がいなければ!」


 ホースが叫ぶそのかたわらで、アミックがホースを保護しているのが目に入った。シューさんの侵略機動兵器はもう目の前だ。


(ケーフ、どっちが敵なの)

(こいつは大丈夫だ。連立相手だったんだが)

(私を保護したの?)

(そいつは敵だ)


 キューロがホースを見上げた。

 オレはキューロに記憶があるようだと嬉しくなったのだが、恵風もきっとそうだろう。そのキューロがぷんぷん怒った。


(なれなれしく触るな)


 知らない風の精霊魔法で、ホースの左手を吹き飛ばしていた。


「ぐあっ」


 と呻いたホースが、右手で欠けた自分の手首から先を押さえる。



 そしてキューロは巨大な侵略機動兵器を見上げていた。シューさんをオレに向かわせ、ホースの援護に回っていたアミックの機体だ。キューロからすれば視界に全てが入らないほど大きい。キューロは自分の大きさは、この物体の指先ひとつの大きさもないと、その異様な大きさの機体をマジマジと眺めやっていた。

 敵か味方かでいえば、この機械を動かす男は、ずっと神さまと一緒にいて、神さまを救うために奮戦していた男だった。



 すぐにやられちゃったけど――。



 しかしキューロに思うところのないアミックは、キューロへと侵略機動兵器の左腕を向けた。その動きに見入ってしまって動きを止めたキューロに、煌子力のエネルギー弾が連射された。


 痛くて眠れずに書きました。

 今日は真司くんと寛司くんの誕生日です。12月29日です。

 万なりという、全てが叶う万というよろずの中には、素数の数が1229個あります。自分以外には1しかない世界です。年末年始より、この日に祈る方が私は好きです。

 皆様、どうぞ素敵な人生を。


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