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ダブル  作者: 茶の字
第1章 幼稚園時代
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第127話 連鎖重合人間

 あれからジェラルドはずっと悲しそうな顔を浮かべていた。そんな表情を見せてるジェラルドに、アミックがすっかり虚を突かれてる。

 仲間内でも見せたことがないような表情なのだろうか。だとしたら我ながら存分にげんこつを交わし合ったという証左のようだな。

 最上寛司だ。双子の弟だ。

 このままでは声も出せないので、オレは早速アミックに正気に戻ってもらうことにした。


(アミック。お前通訳しろ)

(ふざけるな)

(ふざけてなどいない)

(ならとっとと遺言を残せ。きちんと伝えてやる)

(そんな物は要らん。日本人は、人間は、己が命は最後のひとしずくまで燃やし尽くす)

(はあ?)


 それが野性の人間ではないオレの、人間への歩みなのだ。


(何を言ってる?)

(末期の時だ。好きにやらせろと言ってんだ)


 アミックがそっぽを向いた。それからジェラルドに話しかけた。


「ジェラルド。お前の相手は最後まで親父が務めるそうだ」

「何だと」

「通訳してやる。ありがたく思え」


 アミックが上から物申し、ジェラルドがいきり立った。だがいきり立ったのはアミックにではないことをすぐに知った。

 ジェラルドは通訳してるアミックを一顧だにせず、オレだけを見ていた。


「バカか。だからもうそんな(なり)じゃ、どうしよもねーって言ってんだろ。わかれよ、そんぐらい」

「バカめ。考えるのを止めたら人間じゃないだろうが、と言っている」

「お前はここで死ぬ。死ぬんだよ」

「ただでは死なんよ、と言っている」


 するとジェラルドは困惑していた。

 ジェラルドは既に戦闘は終わったものと判断しているらしい。それなのに未だ継戦しようとしてるオレに困り果ててるようだ。

 やはりなかなか憎めない奴だ。まぁ踏ん切りがつくまで存分に考えてくれ。つづきをやることは確定事項だ。


 さて、では空いたこの時間を利用して、オレはオレで確かめることがある。

 それは今、地べたに胸像のように置かれてるこの状態のことだ。このままでは移動がままならん。狙い撃たれて終わり、となる。

 ジェラルドが戦いは終わったと思うのは至極当然だ。

 だがオレには精霊魔法がある。

 死ぬまでどんな運用が出来るか確かめないと、勝算があっても結局固定砲台のままでは破壊される。それでは片手落ちというものだ。可能な限り勝算を上げて、ジェラルドの虚を突いて再びバカ面を拝ませてもらわないとな。

 ということで早速試してみる。


 ウインド。


 それをそこらに散らばってるオレの髪の毛に対して試してみた。髪の毛を掴んでオレを持ってたジェラルドから奪還する時、アミックが容赦なく引っ張ってぶちぶち抜き取られたオレの抜け毛だ。ちなみにジェラルドも力いっぱい握ってなければオレの髪の毛は抜けることはなかったと思う。

 その髪の毛が風がそよっと流れこむと、ふわりと浮いた。しかも全ての毛がキレイに浮いている。ジェラルドに気づかれないよう床の表層から一ミリメートルほど浮かせただけなのだが、これなら何かの拍子に風で動いたようにしか見えない。

 試しに本当にウインドの効力なのかどうか、右に左に動かしてみたら、一糸乱れず意のままに動く。


 バレタかな?

 いや、バカだからバレまい。


 よし、確認は取れた。

 これならオレの身体を動かすぐらいなら出来るだろう。あとは精素の残量を考慮してこれ以上のお試しは止めておく。

 身体が五体満足なら、兄さまから状態回復も飛ばしてもらったばかりし、多少使ったところで目減りもしなかったのだろうが、今のオレは胸像のような物であり、五体に行き渡っていた精素をごっそり削り取られている。正確なところはわからないが、感覚としても精素の残量は大してないようであった。


 さて──。


 気の重いことだが、まずは恵風に謝らないとな。

 と言うことで、恵風すまん。オレは人を殺すために精霊魔法を使う。お前の流儀じゃないかも知れんが、赦せ。始まったら攻撃型エー・トゥールごと、ジェラルドの胴体を切り刻む。

 オレもレーザーで似たような状態までやられたからな。ジェラルドも文句は言うまい。

 するとジェラルドもようやく考え終えたらしい。ジェラルドは今度こそオレを見て無慈悲に告げた。


「なぁ親父。偉そうなこと言ってもお前はちっとも復活しねーじゃねーか。てこたぁさっきの親父の復活は外からの影響なんだろ」


(そうだ)


 だがアミックが通訳しなかった。通訳を頼んだんだが、頼み方が悪かったかな。あの時は時間がないと思い込んでオレの勢いに飲まれたようだが、そろそろアミックも、オレがこの状態でなかなか死なないのを訝しく思ってる頃だろう。

 だがそれを訊かれても困る。オレ自身わからないし、そんな方向に思考を振ってる間に死んでしまったら始末に負えない。

 オレのやるべきことは、ジェラルドを通さぬ事。この一事だけなのだ。

 そしてその通せんぼ対象であるジェラルドを見やると、ジェラルドは左斜め上方を見上げてようやく察したようだ。


「あのガキだな。女の方は捕まるぐらいだから、大して魔法が使えないんだろ?」


 するとアミックのオレを持つ指がピクリと動いた。

 何か思うところがあったのだろうか。まぁいい。ジェラルドが折角ない頭で考え出した答えがそれなのだ。答えてやらねばなるまい。


「そうだ、と言っている。俺ははなはだ疑問に思うがな」


 うおい、アミックーー。ここからお前の寸評も入るのか? オレには時間がないんだぞ。


 まったく──。


 (あに)さまの事なら疑問の余地はないだろうから、そうなるとお前は真理ちゃんを疑ってることになるんだぞ。

 いいか──。

 何を疑問に思ってるのか知らんが、真理ちゃんは人を拷問したりぶん殴ったりするところに喜びを感じない。普通に心優しい四歳の女の子なんだぞ。大して魔法を使えないんじゃない。そういうことに魔法を使おうとしないんだ。

 だから疑問に思われてること自体が真理ちゃんにとっては心外だと思うぞ。


「ああ、そうなのか。じゃあやっぱお前じゃ俺には勝てねーぞ」

「悲痛な声を出すな、と言っている。俺も意外だぞ。ジェラルドがそんなにガッカリしてるなんて」


 連立相手は自己主張も強いらしい。必ず仕込んでくるな。


「お前がやらねばオレがやるぞ、と言っている」

「もういい。やるならやれ」

「お前がやられた魔法だぞ、と言っている」

「ああ、あのガキにか。じゃあそれを破ればあのガキに勝ったことにもなるわけだな」

「どんな論理展開だ、と言っている」

 負けは変わらぬよ。だが──。

「本当にどつき合いはもういいのか、と言っている。俺が思うにお前のげんこつとこっちの魔法とを、比べたいんじゃないか」


 む、とジェラルドが顔を顰めた。

 死ぬと思ってる奴から挑戦的な眼を向けられたからだろうか。だがジェラルドの眼はオレを哀れんでいた。


「その眼はむかつくな、と言っている」

「そういや俺は最後にどつき合いをしなかったんだな。いいぜ、やれるもんならやってみな。受けきってやる」

「遠慮はせぬぞ、と言っている」

「おう、来いや」

「だ、そうだ。どうする連立相手どの」


 そんなものは決まってる。やると言ったらやる。


「風刃、と言っている」


 その瞬間ジェラルドが身体の内部から()ぜた。攻撃型エー・トゥールも輪切りに切れて四散し、観覧室のあちこちにぶつかっては転がり、辺り一面に散乱した。

 静けさが待合室の中に訪れた。攻撃型エー・トゥールに挟まったジェラルドの肉片からだろう、ぽたぽたと血が床にこぼれ落ちていた。

 幾つの破片になったのかはオレもわからない。だがそれなりに斬り刻んだはずだ。


 勝ったとは言いたくない。

 やると決めてやった、(うろ)があった。やったのはオレだ。だが、ここから先を詳細に覗いてはいけないとも思った。覗けばオレはそこから抜け出られなくなる。義務と性癖とを一緒くたにしてはいけないのだ。

 それがオレがジェラルドから学んだこと──。

 ジェラルドの首は遙か向こうにころころと転がっていた。

 精霊魔法で内部から斬り飛ばしたのだ。ダブルの特性による風の精霊魔法。この攻撃手段を防げる存在はいない。


「じゃあな、ジェラルド。これで痛み分けだ、と言っている」


 アミックが最後まで通訳してくれた。

 せめてこれが弔辞になればいい。オレも初めて人を殺したのだ。

 ジェラルド、お前のことは忘れない。



 そしてアミックは胡乱げにジェラルドだった肉片をジッと観察していた。だがやがてその視線を切り、オレへと切り替えた。


(見事だ。こんな風になったジェラルドを、オレは見たことがない)


 そりゃそうだ。見たことがあったら大変だ。


(アミック。(あに)さまは今どこにいる)

(オレが最後に別れたのは、この階の中一階だ。訓練室が中十五階分の高さがあるから、観覧室まで貴様ら地球で云うところの七階分ほど走破する必要がある。しかも奴が居たのはティリオーダウンの正面だから、横にも七百メートルほど移動しないことには、ここに辿り着けない)

(なるほど。なかなか絶望的だな)

(奴が来ればダブルで治せるのか)

(問題なくな)

(自分じゃ出来ないのか)

(出来るがやらぬ。オレが位相の拒絶を解いたら、兄さまは動けなくなる可能性がある)


 するとアミックが度し難いものを見るような眼でオレを見た。

 貴様までそんな眼でオレを見るのか。連立相手だろうが。ちょっとは敬え。


(ひと言いいか)


 そう云ったのでオレは頷いた。

 その拍子に危うく前に倒れそうになる。頷き一つでもバランスを取るのが大変なのだとオレは知った。

 その様子をアミックがそれ見たことかと言った眼でオレを見てる。そして吐き捨てるように言った。


(まずは自分だろうが)

(言わんとしてることはわかる。だが約束したんだ。人間は約束を違えぬ)

(バカか。そんなものは些細な約束だろうが)

(そんな小さな約束も守れぬ奴に、この先どんな大きな物が守れると云うんだ)


 アミックが言葉を失った。失ったのではない。考えてるのか。

 だがこの精神性は日本人にしかわからぬ。お前には到底理解できぬだろう。仕事のために真理ちゃんの左手をも簡単に切り刻めた貴様には、絶対にわからない。

 だが日本人ならどんな奴でも知っている。それを否定する奴でも、その精神性のことは知っている。そういう物なのだ。


(ガキだな。状況を見て判断出来ぬわけでもあるまい)


 状況判断なんてものは疾っくの疾うにしてる。

 効率だけを求めてるなら機械にでもなってればいい。その方がよっぽど効率的だ。セプトにサイボーグ化の技術もあるのは知ってる。

 だがセプトと地球は違う。

 普通の人間と野性の人間でないオレも違う。


「何を鼻で笑ってるんだ」


(自嘲だよ。軽くないんだ。人間で在りつづけるのは)


 これを捨てたら、オレは人間ですらなくなる。


 だが大事は終えた。ジェラルドは斃した。兄さまとの通さぬと云う約束だけは果たせたのだ。

 一先ずはこれでよしとしよう。

 いつ命を失うのかは、時間の問題だが、こればかりは致し方ない。



 その瞬間アミックは眼を見開いて床を眺めた。オレに対してではない。あらぬ方を見てギョッとしていた。


「やはりか」

 そうアミックが告げた。


(どうした、アミック。何があった)


 そしてアミックがオレをそちらの方向に向けてくれた。


(これは…………これは何だ)


 見たこともないような光景がそこには広がっていた。ぶつ切りに斬り刻まれたジェラルドの身体が、互いに互いを求めるかのように細胞を伸ばして再び集まろうとしていた。

 それも輪切りになった部分が順序よく再結合しようとしてるようにオレには見える。お正月の福笑いのようになるわけでもないようだ。本当に順序よく身体の構造が繋がり合おうとしている。

 そして向こうの方からジェラルドの声がした。


「アミック、手を出さないんだな」

「決闘なんだろう? お前もホースを度外視した、個人的な理由なんだろう?」

「そうだ。ドワイトが何かやりてーみてーだが、そんなのは知ったこっちゃねー。陸戦隊は暴れ回る場所を得て、俺はこの場所を得た」

「了解した。一対一の間は手出しはせんよ。アミック隊も含めてだ」

「忘れるなよ」

「さて、そこは自信がない」


(訊かないんだな、双子の弟、最上寛司)

(ジェラルドがダブルのことを訊かないのに、オレがお前にあいつの能力のことを訊くわけにもいかないだろう)

(オレはお前に何故死なないのか、訊きたいところだがな)

(訊くな。その答えをオレは持ち合わせていない)

(ほう)


「親父。お前はいい奴だな。俺が治りかけてるのに、そこに攻撃してこない。魔法でこの状態の俺に攻撃をしかければ、今度こそ仕留められるかもしれないんだぜ」

「お前がお仲間か、と云ったことの意味を考えてる、と言っている」


 ジェラルドが、ふひと嗤った。


 肉片がズズズと寄り集まって行く。


 するとお礼だと言わんばかりに、今何が起こってるのかを当のジェラルドが説明をし始めてくれた。


「攻撃型エー・トゥールは粉微塵にするしかない……んだ。そうでなければ再びくっつく。俺の攻撃……型エー・トゥールは特別性なんだ。だからお前のガキが右腕の攻撃型エー・トゥールだけを粉微塵にした時には心底驚いたぜ。こんなことが出来る奴がいるのか。これにかかかったらいくら俺でも死ぬんじゃねーかってな」


 息も絶え絶えだったジェラルドが、元の調子で喋ることが出来るよう、なり始めていた。


「俺はな、親父。連鎖重合人間なんだよ」


 いきなり解答か。しかし聞き慣れない言葉だ。


「おい、アミック。俺じゃ説明できねーからお前からしてやってくれ」


(てことでいいか、最上寛司)

(ああ、頼む。元に戻るまであちらさんも、もうちょっとかかるようだし)

(簡単に云うと、傷が治り出すと連鎖的に治る。それが連鎖重合人間だ。異物を排除して元通りになる資性がある)

(凄いな。セプトの科学は本当に凄いな。それでも人間なのか)

(人間だ。ちなみに排除されたくなければジェラルドの身体に喰い込む必要がある。だからジェラルドの攻撃型エー・トゥールはそれこそ何が起きても外れないよう突起物で溢れかえっている。無理矢理脱ぐか、展開を解除するかでしか脱げない代物なんだが、最上真司はそれを風刃で粉微塵にしたようだな)

(そうか。さすが兄さまだな)

(モトール合金だ。それを傷つけるどころか消滅させるとはな。正直連立を組んでる俺からも信じられんことだ。モトール合金の壁を突破した宇宙人はいない。唯一くるる人だけが魔法で対処してしまったそうだが、それは、こういう事なのかもな)

(オレたちは、くるる人じゃないぞ)

(それも知ってる。最上真司が教えてくれた。だがくるるも似たような物じゃないかと俺は思ってる)

(そうか)


 アミックがくっついてくジェラルドを眺めていた。もうすぐだとオレに教えてくれる。


(アミック、ありがとう)

(礼など言うな。俺はお前たちには礼ひとつ言えぬ身だ)


 オレはアミックを仰ぎ見た。


(何だ?)

(いや、お前は苦労性なんだなと思ってな)


 そもそもお前は、部下の武装のために下げたくもない頭を下げたのだろう。お前達アミック隊はオレと兄さまにエー・トゥールを送還されまくって武装がなくなったからな。アミック一人ならばまだ木の魔法がある。だがこいつは隊を預かる者として、丸裸の部下のために武装を用意した。その時々で出来ることを出来るだけやったと、そう言うことなのだろう。

 真理ちゃんのことにはあえて触れまい。それは真理ちゃんが為すはずだ。そう出来るよう、ここで踏ん張るのもまたオレの為すべき事というわけか。

 楽をさせてはくれないな。なかなかにしんどい。


 そう思ってたらアミックから話しかけて来た。


(苦労性と言われるわりには、俺はお前の兄貴に陸戦隊を押しつけて、ここまで送り出されたんだがな)

(兄さまに?)

(そうだ。あいつのがよっぽど苦労性だ。殺せるのに殺しもしない。上層部がそれを知るのはこの一事が終わってからなんだろうがな)

(そんな先のことはいいさ。しかしジェラルドの攻撃型エー・トゥールを瞬殺か。手を抜いて武装解除したわけか。すごいな兄さまは。フッ、オレは兄さまのようにはいかないな)

(バカを言え。生きてるだけで驚嘆ものだ)

(そうか? 殺す気でやって殺し損ねた魔法使いの末路は惨めなもんだと思うぞ)

(おい。もう魔気がないのか?)

(聞くな。聞いてどうする)

(そうだったな。…………最上真司に伝えることはあるか)

(見たままを。それだけでいい)


 そして静かな時間が流れた。

 ジェラルドの集まる音だけがする。

 そしてジェラルドが立ち上がった。攻撃型エー・トゥールが本当にはまって元の形になろうとしている。あれも再結合するのだろうか。

 するとジェラルドが静寂を破って独りごちた。


「俺はバカだから考えるんだよ」


 そしてゆっくりと、不具合がないか自分の身体を確かめだした。


「何でホースやアミックと俺が同格なのかわかるか」


 オレは首を振る。


「俺が負けないからさ。ホースにも、アミックにも」


 瞬間カチリと音がして、部屋中からアミックに向けてレーザーが集束した。

 転がるアミックが呻いた。だがこの部屋に充満していた毒ではない。毒ならもう死んでる。レーザーで良かったんだ。


「おっと、いけねぇ。攻撃型エー・トゥールがくっついたと同時に動きやがった」


 アミックの両足が消し飛ばされていた。火傷状態なのか、炭化して血が吹きこぼれていないようだ。これは煌子力由来の兵器の恐ろしいところなのかも知れない。

 そしてジェラルドはアミックのことなど眼中になかった。あくまでも相手はオレ。げんこつでどつき合ったオレだけがジェラルドの狙いだった。

 他のことに眼が行かないのだ。考えも及ばない。


 バカだから一直線なのだ。


 アミックに通訳を願いたいが、今となってはそれももう無理そうだ。足をなくして床に落ちた時に頭から行ったようだ。消し飛ばされた衝撃で回転でもしてたのだろう。そして人体で一番重い部分は頭だ。

 頭から落ちるのも自然なこと。


 ジェラルドが治ったばかりの身体でオレの方へとえっちらおっちら歩いてきた。まるで歩き方を覚えたばかりの赤子のようだ。


「そして陸戦隊の隊長には俺が就いている」


 頷いてやると、ジェラルドは嬉しそうな顔をした。

 認めてもらえるのが嬉しいらしい。


「アミックは浸透戦略なんてものに手を伸ばさざるを得なかった。ホースは制圧艦の艦長にしかなれなかった。この違いがわかるか」


 わかったので、頷いた。そうしたら答えを言い出した。オレがわかってないとでも思ったのだろうか。バカめ。


「それは俺が一番強かったからだ。一番任務の達成率が高いと思われたからだ。俺はどんな状態になろうとも必ず復活する。情報をつかんで戻ることができる」


 その情報は信用されないだろうな。レコーダーか何かを解析にかけて総点検かな。それなら情報として使える。もしくはエー・トゥールに映して記録保存か。

 じゃあ映像関係を超臨界水にとめられてる今回は、任務の達成もクソもないのだろうな。ああ、なるほど、だから好き勝手動き回ってるのか。納得だ。


「もう聞いただろうが、俺はバラバラになっても元の俺に戻る」


 ああ、聞いたよ。


「その時にはな、俺以外の物は弾いてしまうんだ」


 それも聞いた。


「わかるか? だから俺が展開したこの深度一では、お前の魔法はそうそう通らせないんだぜ」


 そう言えばお前は深度一を張ってたんだったな。オレも入れてくれてたから全然わからなかったぜ。外しときゃいいものを殴り合いたいがためにオレを入れてたんだな。


 まったくバカな奴だ。


 そしてオレは引っかかりを、つと覚えた。簡単なことだ。

 それはノーラのブースト深度一にも通用したのだろうか、ということだ。あの時オレはノーラのブースト深度一に状態固定を引き剥がされていた。

 と言うことはノーラの方が一瞬早く着弾してたはずだった。


 それを弾いたというのか?


 オレたちでさえ位相の拒絶を展開しないとダブルで防げなかったんだぞ。

 いや、位相のずれさえも押し戻したのか? だからブースト深度一の中にいたオレさえも捉えることが出来た、と。

 いや、捉えたのだ。剥ぎ取る力と押し戻す力。どちらもオレには負に働いている。重合。重なったか…………。

 そういうことなのだろう。


「俺はバカだが、バカを通す力がある」


 ジェラルドが右腕に力こぶを作ってオレに見せていた。つまりあれか。考えた結論が力押し。そしてそれが一番勝率が高いってことか。

 なるほど。セプトの隊長格を、舐めてはいけなかった。

 確かにバカを通す力は侮れない。


 そして仮に兄さまが魂の回廊に運良く触れててオレの途絶に気づいても、放ったはずのダブルの状態回復と状態固定は、お前の深度一に跳ね返される可能性が大と云う事だな。

 そうだな。兄さまなら気づいてるはずだ。オレが魂の回廊が途絶してるとわかったぐらいだ。兄さまならわかる……はず。

 だが身体が戻らないということはそう云う事なのだろう。


 ジェラルドの連鎖重合が兄さまのダブルを阻んでいる。

 おそらく深度一を剥がしてからでないとダブルの状態回復と状態固定は発動しない。たいしたもんだ。

 ずるずると足を引きずるような音がする。もう目と鼻の先にいる。オレはジェラルドを仰ぎ見た。



 ダブルなら…………。ダブルならセプトと拮抗して抗することが出来ると思ってた、そんな時期もあったんだがなぁ。




「もう魔気切れか。顔色が悪いぞ」


 嘘をつけ。


「じゃあな、親父」


 ジェラルドが悲しそうな顔をした。


「お前との戦闘、楽しかったぜ」


 そしてスナップだけを利かすと、攻撃型エー・トゥールから刃が振り落とされた。


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