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第1章 幼稚園時代
121/182

第121話 この御年でこれは

 窓の外へとアミックが消え、そのまま木々がうねうねと伸びて行き、やがてその木々のうねりが止まり、オレはアミックが遠く離れたことを知った。

 木の魔法は面白い。

 ちょっと前に爺ちゃん婆ちゃんと一緒に見たアニメで、幼い女の子二人が畑にどんぐりまき、森の不思議な生き物と一緒になって祈りを捧げることで芽を出させ、めまぐるしい勢いで大樹となすアニメを見たのだが、アミックはあれを自分の居る場所でだけ同じようなことが出来るようだった。

 もっともアミックのはアニメが原爆をイメージして描いたというのとは似ても似つかないような小規模な物だが、意図した方向に伸ばせるという点では、二人の女の子より融通が利いた点であろうかと思う。


 そして心配してたノーラからのちょっかいもなかった。結局アミックにブースト深度一が降ってくることはなかったのだ。今回の深度一は、オレにかけたわけではないから、アミックにはブースト深度一の洗礼が降って来なかったということなのだろう。

 真理ちゃんのおかげでノーラの考えてることが、より理解できてるのでその琴線を避けていけてるが、なかなかに面倒臭いことである。


 さて──。


 アミックの滑落を祈って熱波や振動波を、いつまでも絶えることなく放ちつづけてるお友達の陸戦隊有志一同を、オレは風壁で覆い尽くし、隔離してみた。

 近くには一般兵もまだ倒れたままなのに、助ける素振りも見せないのが気になったからだ。

 すると熱波の焦点温度を上げたらしい。


「お、すごいな。あのエー・トゥール」


 オーキッドは熱波を風壁の根本に放って、風の流れを意図的に変えていた。これはオレが何かをしたせいで床が崩れることがないという判断を下したのだろう。これまでの体験からオレのダブルの状態固定を類推したわけだ。


「頭いいな。ああいう使い方も出来るのか」

(攻略されてるのはお前の風壁なんだけどな)


 恵風は面白くないらしい。

 精霊魔法が後塵を拝することが許せないようだ。別に恵風が発動したわけじゃないから、そこにこだわる必要ないと思うのだが、精霊世界では違うのかな?


(お前はもっと悔しがれ。精霊魔法だぞ。この宇宙をもたらした原初の魔法だぞ)

(いや、だから前にも言ったじゃん。この世界は恵風の精霊世界と違って、精霊が関わったんじゃなく、ビッグバンによる物質起源の宇宙だって)

(そんなのはお前が言ってるだけだ、真司)

(ういーっす。そうなんだけどさ。まー追々学んでいこうな。そのうち小学生だか中学生になったら習うだろうし)


 そして恵風の目の前で風壁が攻略された。これまで堅牢を誇っていた風壁が熱波によって散らされてしまったのだ。

 一体何度まで焦点温度は上がったのだろう。ちょっと気になる。


(指でも突っ込んで確かめとけ)


 恵風が歯ぎしりしながら吐き捨てた。


(オレの指が溶けちゃいそうだけど)

(状態回復で治しとけ)

(熱そうだけど)

(状態固定で堪えとけ)


 だめだ。今の恵風は精霊魔法の苦杯を喫したことでどうにかなってしまったようだ。


(負けたのは俺じゃねー。お前の精霊魔法だ。こんちくしょー)

(向こうの頭が良かったんだ。仕方ないだろう)


 すると目の前で木が爆砕した。


「うわっ」


 隔離はここまでしか持たなかったようだ。

 とりあえずオレは真理ちゃんの前に立って、降りかかる木の粉を振り払った。すると真理ちゃんが風壁を張ってすぐに事なきを得たんだけれど、なんか、微妙にオレの立場がなかった。


「けっ。外れたか」


 捨て台詞を吐き捨てられた。しかしあいつらお構いなしだな。

 特にそっちの方に倒れてるはずの一般兵は、お前が投入した戦力だろうが。

 それなのにオーキッドは躊躇うことなく彼らのすぐ近くに熱波を平気で放ち、今またこうして攻撃していた。そういえばあいつら全員、ちょっと前まで床を落とそうとしていたな。倒したのはこちらだが、それはあまりにあんまりだろう。


「荒れるなオーキッド」

「くそ。銀河を横たうガス雲みたいに邪魔な木だ」


 そんな声の後に視界が通るようになると、分断するように横たわっていた木は粉々に破砕されていた。所々に火がついてるのは熱波の余波だろう。

 オレはその火に炙られて見えるオーキッドの表情をうかがった。オレと眼を合わせて静かに木片や障害物のないルートを確認している。

 これも一連の横たうの一環だろうか。

 汚い口調できれいな言葉を遣うが、それにしても横たうか。

 そういえば和菓子屋を営む我が家の蔵書、「奥の細道」でも横たうという言葉が美しく使われてたな。


 荒海や佐渡に横たふあまの川


 正しくアミックの木はオレたちと陸戦隊を分かつ天の川だった。


 ノートンに諫められたことで、いまは暴れる素振りで隙を窺うのはやめたようだが、オーキッドは相当向かっ腹が立っているようだった。

 オレをジッと睨んだ。


「やってくれたな、ガキ」


 いや、やったのは真理ちゃんなんだけど。


「アミックは落ちたか?」

「いえ、間に合わなかったようです。すでにどこかに入った後かと」


 あ、アミックを先に行かせた方のことか。ならそれはオレだ。オーキッドは別に間違ってない。間違ってたのはオレだ。

 なるほど。アミックが地下五階に落ちるのを狙ったわけか。だが既にアミックは移動を終えてたと、そう言うことらしい。


「なんか、弱気になるな。ここ数手、選んだ手が最善でないことばっかだ。あいつらは目的に沿ってきちんと自分の技を運用出来てるし、やっぱ頭が良いんだな」


 それは違うよ、と真理ちゃんがそっと言った。


「本当に頭のいい人は、人の感情に敏感だよ。立場が上だからって人の感情を疎かにしてる人は、下からも疎かにされるし、歴史を見ても反撃にあって寿命を縮めてるよね」

「あー、そこの左手のないガキ女。随分と生意気なこと言ってくれてるじゃねーの。全部聞こえてるんだよ」

「だからそういう歴史を見る目のない人だってこともわかるし、そういうセンスがないってのもわかるし、そういう人は年を取っても自分のことだけでしか動かなくなる人だって、その時点でもうわかっちゃうのよね」

「こえー、それが財閥の目って奴だね」


 真理ちゃんはオレが一般兵の人たちを気にかけてたのも聞いてたらしい。


「おい、ガキ共」


 オーキッドは割と本気で怒っていた。それはもう声を聞いただけでわかる。


「それってオレたちのこと?」

「安い挑発はいらねーよ。ここには俺らとお前達しかいない」

「その中にそこの倒れてる人たちも入っていたらいいけどね、老人さん」

「てめー、俺は老人じゃねー」

「でもあなたの価値基準じゃ自分より年上は老人なんでしょ。そこの前隊長に老人ろうじんって汚い言葉遣いで話しかけてたじゃない。オレからすればあなたは年上だし、きっとオレの倍以上生きてると思うよ」


 ぷっとトムが吹いた。内心では忸怩たる思いがあったらしい。オーキッドを庇いはしなかった。


「てか五十四歳のトムさんに対し二十三歳のオーキッドは、約二倍の年を生きた人を老人って呼んでるんだろ。だったら二十三歳ならオレの六倍近くも年上だよ。うん、倍も倍だったね、老人を六回繰り返さなきゃ」


 だが笑ったのは後ろにいる真理ちゃんがクスッとしただけで、陸戦隊の面々は一様に押し黙ってオレを()めつけていた。


「我らの年齢を誰に聞いた」

 トムが落ち着いた声で問うた。

「あー、また追いかけられるのね。ストーカーがまた始まるのね」

「子供が後先を考えないのはいかにも子供らしいが、少し実年齢に見合わぬ老獪さがあるな。貴様、本当の歳は幾つだ」

「ん? なに?」

「転生者か、人格移植者ではないか?」

「あ、脳の入れ替えか」


 オーキッドが腑に落ちたらしく相槌を打った。だがこちらがそうはいかない。聞いてただけで身の毛がよだつ。


「何それ、セプトはそんなおっかないことしてるのかよ」

「頃合いだ、やれ、ノートン、オーキッド」

「「了解」」


 火がくすぶるのを待ってたらしい。余計な物を利用されるのを嫌って時期を見計らってたようだ。

 すぐに振動波が飛んでくる。深度一に入ってないので速く感じるが、それは左手を振るって風壁で逸らす。

 向こうにしても深度一を使うと、こちらも深度一に入ってそこには性能差があるのをわかっている。だからあえて通常空間で勝負を仕掛けているわけだ。

 思った以上に分析されている。甘くはないのだ。こちらが「かもしれない」と思ってるところを、向こうは断定してそれを前提にして事に当たっている。


 また熱波が放たれてきた。そのすぐ後に時間差で深度一を放っている。おそらくこれがアミックがやられた手口なのだろう。囮のすぐ下に本当の狙いを潜めているのだ。忍者でいうところの影羽ってやつだな。


(真司くん)

(大丈夫。オレがアミックから陸戦隊との三対一の戦いを引き受けたんだし)


 連立相手としたらこれぐらいはやるさ。

 そう返事をしつつ、オレがノートンの砕き損ねてる窓近くの木の陰に入ろうとすると、ノートンがオレを追って中央へと展開する。と同時に三人からザザッと視線が追ってくる。オレ以上に適切な位置をとろうとする動きが速い。トムなんかは隠し階段を降ろして上から眺め降ろす位置を陣取った。


 それを見てオレは魂の回廊を閉じた。ここから先は真理ちゃんに聞かせるわけにはいかなかった。

 トムの位置取りは絶妙だった。確かにこれだと狙い撃ちされる。

 角度があると途端に対処が難しくなるのもある。平面でノートンとオーキッドを相手にしてたら知らぬ間に上からズドンとやられるのだ。

 この恐さは東京駅のビル街で既にオレは体験している。

 狙撃銃で狙い撃ちされたやつだ。

 あれは痛かった。


「私もやるよ」


 真理ちゃんから声がした。オレが魂の回廊を閉じたから声を出したのだろう。もしかしたら真理ちゃんのことだから牽制のつもりもあったのかも知れない。でも陸戦隊はその手に乗らなかった。

 真理ちゃんのことなどまるで無視して、展開する。

 むしろ真理ちゃんを無視してオレの周囲を三方から囲んだ。トムが左上から、ノートンが分かつ川だった木のあった場所から、そしてオーキッドは右横、イヤらしい位置だ。一番口数、手数の多いオーキッドに気を向かわせることで、オレがトムに背中を向けるよう仕向けているのだ。


 そしてそれをしたらオレは後ろから撃たれる。


「了解」

 作戦はわかった。

 見事な作戦だ。


 やはり拘束するなら風牢が一番いいのかなと思った。思ったが、それだと捕まえた後に触ることが出来ずに、直接接触によるダブルの(もん)をかけることが出来ない。

 微妙に攻撃手段が殲滅か拘束しかないことに、オレは気がついた。

 やっぱりダブルの状態固定がいいのかな。

 でも状態固定と言っちゃうと、真理ちゃんと恵風が混乱するなとも思った。何で敵に利するようなダブルをかけちゃうのかと。

 時間がない。

 オレの警戒を促しながらその輪を狭める陸戦隊に、オレは得も言われぬプレッシャーを受けた。自分自身に状態固定をかけてるはずだが、それでも感じる物は感じる。

 プロの獲物を追いつめるプレッシャーは凄まじい。


「風遁」


 真理ちゃんの声がした。

 するとそれぞれ離れた場所にいる陸戦隊の三人が、オレに攻撃するはずだった手をなぜか口元に持って行った。そして見る間に顔に跡がつくほど力を込めて鼻と口を抑えはじめる。だがそれでも足りないらしい。すぐに両手をあてて絶対の意思を込めて鼻と口を覆っていた。


 臭いわけではない。オレには何の匂いもしない。

 ちなみにオレ自体は何もやっていない。これからどうしようか考えてたぐらいだし、もしやったとしたら真理ちゃんぐらいか?

 でもオレは風遁なんて知らない。そんな精霊魔法があると恵風から聞いたこともない。

 とりあえず何が起きてるのかを知らなければならない。


 オレは一番警戒していたトムに眼を配った。するとトムが階段から横に転げて、そのまま一回転して背中から床に落ちた。結構な勢いで背中を打ちつけたせいで、トムは今も立てずになお床を這いずり回っている。ふとノートンとオーキッドを見やると、こちらの二人も似たようなものだった。

 苦しみ悶えて、健気に耐えて、そして意識を手放していた。


 何が起きたのだろう。

 圧勝だった。

 マジかよ。

 オレがびびってたトム前隊長まで全く寄せ付けなかった。瞬殺である。


(だってあの人達、真司くんばっか見て、私のこと無警戒だったでしょ)


 オレは絶句した。かける言葉がなかった。

 真理ちゃんがやったのか。

 真理ちゃんが急いでるってのは、こんなにおっかない事なんだな、と。それがよくわかった一事だった。

 歴戦を誇るであろう陸戦隊が、ごろりと三人、床に転がっていた。


「それより真理ちゃん、風遁ってどういう意味? ぜんぜん違うと思ったんだけど」

「遁術って逃げる術って意味でしょ」

「うん」

「だから彼らから空気が逃げるようにしたの」

「あ、そっちか」


 空気が逃げるって真空になるってことだし…………。


「あれ、もしかして酸欠、酸素欠乏症だったの?」

「うん」

「ま、真理ちゃんおっかねー」


 正直驚いた。真理ちゃんがそんな思い切ったことをするとは夢にも思わなかった。


「も、もう大丈夫だよ。今は息吸えるから」

「え、でも吸えるからって、それでいいの? ピクリとも動かないよ、あの人達」


 最早オレに敵だという認識はなかった。ただただ気の毒な人たちだった。こんなおっかない攻撃、そりゃぁもう、どうしようもないだろう。

 とりあえず言えることは、真理ちゃんおっかねー、この一事だった。

 オレがおそるおそる真理ちゃんを見やると、真理ちゃんが慌てたように目を逸らした。

 しばらく見てても目を合わせてくれないので、とりあえずどんな風にやられちゃったんだろうとオレが一番恐ろしく思ってたトム前隊長からのぞきに行くと、このお爺ちゃん、舌を口から出して空気を取り入れようと動かした形跡があった。その舌が今はだらんと口外に垂れている。

 まるで毒を喰らった犬だな。


「お、お気の毒に。この御年でこれは…………」


(け、恵風。あの人達を隔離するためにティリオーダウンに運べる?)

(簡単だ。じゃあ操るぞ)

(うん。お願い。私も勉強になるし)

(おーけい。見てろ。ウインド)


 風につつまれたトムとノートンとオーキッドがふわりと浮きがあった。まるでオレから目隠しをするようにそれは持ち去られて行く。だが確かに療養をしてもらうなら、ここにいるより医療班のいるティリオーダウンに運ぶのが最適だった。そして三人はティリオーダウンの塵風で削られた跡地へとふわふわと運ばれて行く。

 あの辺りからオレたちはここまで登ってきたんだなと見下ろし、オレはちょっと感慨深くなった。



(ちなみに真司)


 と恵風から連絡が来た。


(なんだ)

(真理が使った精霊魔法、ただのウインドだから)

(えっ?)

(風遁って言ってたけど、やってることは風を体内から外に出しただけだから)


 マジかよ。真理ちゃんおっかねー。

 ただのウインドで前陸戦隊隊長をやっつけちゃったのかよっ。

 教える必要もない初期魔法でこの費用対効果かよ。金沢財閥おそるべし。


(もう、やめてよ真司くん)


 真理ちゃんが右手をえいっと振って風刃を放ち、ウインドで運ばれてる三人の眼鏡を粉々にした。そういえばエー・トゥールをそのままにしないのは基本だ。これを怠るといつまで経っても追いかけてくるというのは今まで散々経験済みだ。


「それより寛司くん捜さないと。ここ広そうだから見つけるの大変だよ?」






 うん、真理ちゃん。

 とオレは真理ちゃんの方を仰ぎ見た。






 弟さまを捜すためにやっつけたのに、ダブルで解析かける前から運んじゃ弟さまを捜せないよ?





 真理ちゃんが、アッと言った顔をした。それからゆっくりと、チラッチラッと倒れてる一般兵に目をやっていた。


 こんばんは。第121話でした。読んで頂きありがとうございました。

 さて明日は以前から告知しておりますように手術がありますので投稿出来ません。明後日から再開できるよう頑張りますので、どうかご容赦下さい。

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