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第1章 幼稚園時代
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第120話 行けアミック

「ああっ。プリンターが叩き落とされたっ」

 ブースト深度一をぶつけられて、何やらあちらさんも大騒ぎしていた。


 オレは剥ぎ取られた深度一をあきらめ、状態固定だけをかけ直した。そしてノーラのことが見えてるらしい恵風に聞く。


「上の対処は?」

(入れなくしたようだ)


 すぐに恵風が教えてくれた。

 地球に向けて特攻を仕掛けて来た魔物回収船は、精霊世界の恵風の元上司、ノーラによって止められてるようだ。

 しかしそうなると、一体どんだけの距離に対してブースト深度一を張ってるんだろうと思う。

 宇宙空間なんて深度一なら一瞬であちこちに移動できる。それを防いでるってことは、とんでもない大きさのブースト深度一を大気圏外に張ってることになる。

 しかもそれを可能にすると云う事は、かつてオレが弾かれたまた別のブースト深度一の方を使ってるというわけか。応用技が多彩なのがノーラの優秀さというか、優秀なのがうかがえる所だ。


 しかしそっちがそうなるなら、まずはアミックだ。

 アミックは自分の身体に何が起きたのか、まだわかっていないようだった。

 まあ撃たれて心臓に穴が空いて死ぬ寸前だったから、今もその状況のはずなのにという状態に引きずられもするだろう。


「とりあえず動くな、アミック。もう死ぬことはない。むしろ今動かれたらお前が生きてることが陸戦隊にばれる」

「なるほど。わかった」


 アミックが小声で返事した。


「で、寝起きはどうだよ、アミック」

「妙な気分だ」

「まあ、戻ってよかったよ。陸戦隊が何をしたかは覚えてるな」

「ああ。覚えてる。これもダブルの効果か?」

「理解が早くて助かるよ。ダブルの状態回復だ」

「死にかけた傷がないようなんだが」

「あるわけないさ。状態が回復したんだから」

「驚いたな」

「連立相手に他に言うことあるんじゃないか」

「助かった」


 まあ、礼を言い合う間柄じゃないか。


「疑問が解けたならオレからもいいか」

「ああ」

「じゃあプリンターって何だ」

「プリンターはこの設備、建物を作った機械だ」

「建物って、機械でそんな事出来るのか」

「出来るぞ。深度一を応用して地球のように重機を使わないで、簡単に建築できる」

「それが落とされたってどういうことだ」

「そう言えば来る時にプリンターが外壁に付けてあったな。この部屋を改造するつもりだったのかな」

「あー、そういえば天井から階段が降りてきたな。墓の部屋にはなさそうなギミックだったが」

「それだけで済んだのなら、もう仕掛けはあるまい。落ちたのならもうどうしようもない」

「どういうことだ」

「プリンターは作る際に、その物に触れてないと出来ないからさ。深度一を利用するんだ。時間軸がずれたらそれだけで折角の作りかけも壊れてしまう」

「わかった。じゃあアミック、お前が陸戦隊を倒すか?」

「一対三では正直荷が重いな」

「じゃあ作戦通りで行こう。行け」



 アミックが木の魔法で寛司の元へ。今度こそお前を信じよう。お前はこれまでの記憶を全て取り戻し、その上で好戦派の悪意にこれでもかと触れた。


 アミックは自分の作り出した木の陰に身を隠すと、上へと向かうためにこの部屋の奥の扉へと向かった。


「なぜだ。なぜアミックくんが生きてるの~?」

「しくじったな、オーキッド」


 ノートンが厳しく指摘し、トムは評価すらしなかった。お粗末を相手にする気はないらしい。それは陸戦隊失格の烙印だ。


「事態が悪くなってるな」


 そう言うノートンに、そこはお互い様でしょ、とオレも返事を返す。

 オレの始動の遅さに気遣ってくれた真理ちゃんが先制をしてみたら、それがこの乱戦を招いてしまったのだ。

 そっちも予定通りじゃないだろうが、こっちも大幅に予定が狂ってしまってるんだ。


「舐めやがって。惑星制圧がお仕事の陸戦隊が、そう何度も好き放題させるわけにはいかねーんだよ」


 オーキッドが熱波を放つ。だがそんなとろい熱波がアミックに届く前に、オレは深度一と叫んで、アミックを深度一に入れてしまう。

 ノーラから横槍が入るかと思ったが、アミックに対しては入らなかった。

 ノーラの方が時間の流れは速いはずだから見極めなど楽だろうに、敵視してるのはオレだけと言うことか。

 ノーラの中でどれだけ悪者になってるのだろう、オレは。


 加えて真理ちゃんだ。

 真理ちゃんは先制に失敗した。今でこそオレの邪魔にならぬよう、ジッと身を潜めているが、オレが考えてる間も惜しんで真理ちゃんから風槍を放つなんてことをしたわけだから、本当に急いでいるのだろう。

 先程は魂の回廊で反応を返してくれたので、オレは弟さまのことはもう無用な心配はしてないし、むしろオレたちが目の前のことを一つ一つ片付けていけばいいだけと高を括っている。だが真理ちゃんは、未だ本気で急いだ方がいいと思ってるらしい。

 真理ちゃんをちらりと盗み見る。

 木の葉の隙間から懸命にあいつらを警戒していた。

 おかげで失敗を引きずってはいないようだ。オレなんかは失敗したら、その原因を考えてしまう口だが、真理ちゃんは弟さまの所へ急ぐべきという目的があるから、敵に気づかれる原因を作った失敗を引きずらずに済んでるらしい。


 オレと弟さまからしたら、オレたちの失敗で真理ちゃんの左手を失ってしまったわけだから、確実に送り届けるというか、三人で合流するのが目標なんだけど、真理ちゃんは急いで弟さまと合流ってのがキーワードみたいだからな。


 もしかして真理ちゃん、弟さまのことが好きなのかな?



「バカめ。どこで覚えたか知らんが深度一はもともと我らの専売特許」


 アミックの状況にあちらも気づいたらしい。時間差が出るのは深度一の基本性能の差だ。加えて今は木が間にあって邪魔してるから、どうしても理解が遅れる。

 もっともそれはこちら側にも言えることだ。

 オレの知らぬ間にノートンがオーキッドの影で、予備動作も見せずにひっそりと深度一を放っていたようだ。そしてトムからの牽制も入る。

 地味に振動波は身体を損壊させるから凶悪だ。けれどもどこに在るかが丸見えなので、時間軸の差異を攻略しないとオレには牽制にならない。ダブルの効能を活かしてその場に発生させた風壁で消し飛ばした。


「なっ」


 あちらさんが驚いてるが知ったことではない。


「プリンターの改造はどこまで行ってるんです、トムさん」

「進捗無しだ」

「先制されてるからこんなことになるんですよ」

「先制されたのは貴様だろうが」

「隊長やってたんならそれぐらい見越して補助して下さいよ、老人なんだから」


 愚痴を言いつつオーキッドが一生懸命位置取りを変えながら、木の葉越しにオレへと熱波を送り込んでくる。だがそのことごとくをオレは風壁で飛ばし去る。

 完全にオレが囮だ。立派に機能してると思う。だがアミックが動かない。


「アミック、怪我人の振りはもういい」


 だがアミックからの返事すらなかった。


「ん?」


 よく見るとアミックの身体の動作状況がずれていた。腰は前に行ってるのに、右足は元の位置で棒立ちでいようと立ったままである。膝すら曲がり始めたばかりで、とてもではないが走ろうとしてる人間の姿勢ではない。

 思い当たるとすればノートンか。

 ノートンはアミックにも深度一を放ってたのか。

 木を挟んで相対してるから、木の葉の影に隠れて自分以外にも放たれてたら正直わかりづらい。だがここはノートンがやり手だと云う事だろう。


 真理ちゃんはどうかとチラリと眺めやる。

 真理ちゃんは大丈夫だった。状態固定がかかってるから魔法以外でやられる要素がないというのは大きい。


 しかし真理ちゃんがなぁ──。


 まぁ真理ちゃんの理由が納得いったところで、アミックに深度一をぶつけた。別に恨みを()らすためではない。あいつらお得意の偏差攻撃でアミックは自らの身体の各部分が時軸をバラバラにされ、速く動ける腰や遅くしか動けない片方の足に違和感を覚え、混乱し、思い通りに動かせなくなってしまったのだ。そのアミックの深度一のズレを、性能の勝るオレの深度一で消し飛ばしてしまったのだ。


 これで全てが同じ時間軸となったはず。


 右足を取られてたアミックが普通に動けるようになった。そのまま駆け出している。だがこういう場合は直裁に駆けるのではなく、木の魔法で遮蔽物を作り、相手の深度一を一度遮って、次の手に対処するのが結果手っ取り早いと思うのだが、アミックは瞬時に木の魔法を発動できるわけではないようだ。


「アミックを止めろ」


 トムがアミックの行き先を先回りして、床回りの足場を振動波でグズグズにする。廊下へと通じる床は、ドアごと崩れて下の階層へと崩れ落ちて行った。

 この空き部屋は、盃で言うところの腰の部分で、丁度広がりはじめたあたりらしい。床がなくなれば折角上ってきた地下五階に落とされることになる。

 思ったよりもピンチらしい。


「我々の足場も崩されたら終わりだぞ」


 アミックが警鐘を鳴らす。オレもわかってたのでアミックに顎をしゃくるとすぐに対処する。


「じゃあ状態固定ということで」


 そしてしゃにむに足場を崩しにかかってた陸戦隊の攻撃は、一切床に通用しなくなった。

 あちらはその状況の変化の認識が出来ないらしい。木を挟んでるからこちらの床の状態が見えないのだろう。


 まあいいや。どのみちあいつらからは話を聞かないといけないわけだし。

 (もん)をかけることさえ出来れば用は済むのだけど、そう易々と近づいてはくれないのが厄介だ。近接戦闘は一撃離脱が基本のようだし、オレに時間を与えたくないというのがあるのだと思う。これは薄々深度一の性能差に気づいているのだろうなぁ。

 そしてアミックの呪文の詠唱が終わったようだ。


「行けアミック」


 オレの声が聞こえてアミックが頷いた。

 アミックは床を落とされた時点で建物内の移動を諦めたのだ。足場が自分の信じられない物ならば、自分で作ればいい。アミックならそれが出来る。なのでアミックは木の魔法を木に上書きして、新たな木の枝を伸ばしてそれに乗ったのだ。

 気づいた陸戦隊が木を破砕しようと振動波を集中するが、木の前に張ったオレの風壁を振動波が抜けることはなかった。


「では先に行く」


 そしてアミックは悠々と外に出て行き、上を目指してその姿を消した。


朝早く目覚めてしまったので、休むはずでしたが120話を書きました。23日は手術があるのでさすがに予定通りにお休みとさせて頂きます。休みだと思ってた方、ご免なさい。書いてしまいました。楽しんで頂けたらいいのですが。

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