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ダブル  作者: 茶の字
第1章 幼稚園時代
113/182

第113話 オレだけの限界を超える

 まずはメアリー副隊長から映像を見終えたようだ。すると次々と見終えた者がつづく。


「なんてこった」

 疲れ切ってたギグズが、より疲れ切った声でつぶやいた。

 そして呆れたような目でオレを見る。


「なんだ? そんな目で見られる覚えはないのだが」

「いや、ありがとよ」


 何故かオレは礼を言われた。

 するとギグズの隣に座ってたベインが、


「オレは好戦派の本音にショックを覚えたよ。近しい奴等と思っていたのに」


 と独りごちた。


「だが好戦派は本当に人の話を聞かない。地球に突貫してきて好き勝手やってるだけだな」

「ベインは仲いい奴もいますから、まあそう思うのかもしれなませんが、やってることは大概ですよ。こんな調子で我々のことも殺そうとしてたんですね」

「バルーンさんがそう思うのも凄いんですけどね。この彼を一人で止めてたんだからバルーンさんも大概ですよ。どうやって止めてたんです?」

「何もしてませんよ。お話をしてただけです」

「話を、ですか。正直俺は担当が彼のお父さんの方で良かったと思いましたよ。もっともお父さんにもすぐやられてしまいましたが」


 そう言ってメルが力なく横になった。痕跡反応によって座ってた時より脱力していた。


 オレはアミック隊はまだすぐには動けないと判断した。


「メアリー副隊長、訊きたいことがあるのですがいいですか」

「どうぞ」

「クーリエさんは何をしてるんですか? その艦隊の中のお仕事として。そもそもなんであそこまでホース艦長らに嫌われてるのか、それがわかりません」

「艦隊が煌子力で動くからですよ。魔気と煌子力が触れあえば大爆発を起こします。あなた方のような規格外が現れて、こちらの方でも混乱しましたが、本来なら煌子力と魔気は絶対に一緒にしてはいけない、禁断の組み合わせなのです」

「魔物船には動力がついてませんものね」

「そこまで知ってましたか」

「ですけどわかりません。それで管理する人まで嫌うものなのですか」

「艦隊が常に魔物船を引っ張るわけです。母船をも大爆発に巻きこみかねないのに、自力で航行できない船を、その苦労のわりに運ぶわけですからね。それは完全に無駄な仕事なわけですよ」


 効率重視のセプトの中にあって、艦橋にいた幹部クラスは輪をかけて効率一辺倒だったから、忌み嫌うのもわかる気がする。


「しかもクーリエは艦隊から腫れ物扱いされてるのを知ってる上で、要望も激しいですからね。魔気の研究して、魔物の研究も進めないと、くるるのように魔法使いのいる星と接触してしまった場合に為す術もなく破れ去るという可能性は多分にありますからね。

 研究は続けないといけないんですよ」

「それがわかってるから無茶な要望をする」

「忸怩たる思いがあるでしょうね」

「なるほど。クーリエさんの人となりが少し輪郭を持って来ました」


「何だって東京の地下深くに研究棟を構えたんですか?」


「私が二〇三二年五月一日、とある火線を日本から放たれるのを目撃したからです」

「火線?」

「燃え尽きることなく大気を抜けて宇宙のその場にただジッとあったのです。動いてないのです。手を伸ばして私が回収しようとしても、その石が動くことはありませんでした。しかも燃え尽きた様子もなければ焦げた様子もない。

 空気の方が熱を出して、宇宙空間に火線を引いてたのですよ」


 去年の五月一日。メアリー副隊長が日付を諳んじるほど覚えてしまった一日。

 オレはその日に心当たりがある。

 海上公園で、弟さまが存在固定をかけた日だ。

 木下に石をぶつけられたオレを見て、弟さまが逆上し、木下をそれ以上身動きとれぬようその場に固定しようとしたのだ。結果やばいと思ったオレがキャンセルをして事なきを得たのだが、オレもその後に弟さまが何をしようとしたのか実験をしたのだ。


 そして発見したのが存在固定だった。

 ダブルの新技だ。それも強力な新技だ。何しろ問答無用で宇宙空間のその座標に固定してしまうのだから。

 木下が固定されてたらあっという間に宇宙空間だ。

 オレはそれを石で実験したのだが、どうやらその時の石をメアリー副隊長に見られていたようだと言うことがわかった。


「それで日本を調査しようとしたんですか」

「ちょうどセドリックメロディ病を追いかけようとしていた時期でもあったので」

「それはまたどうして? 対象者は随分昔からセドリックメロディ病に罹ってましたよね」

「すぐに死ぬと思ってたら長生きしてることを知ったものですから。そこにクーリエが興味を持って、まさに調査に乗りかかった時なんです」


 これは蛍ちゃんのお父さん、徹さんも危機一髪だったんだな。

 それから、今は真理ちゃんの左手に憑いている恵風もだ。下手したら徹さんごと囚われてセプトの手に落ちてたかもしれない。煌子力と精霊魔法が敵に回り、オレたちにはダブルしかなかったとしたら。

 ちょっともう手に負えないな。

 火の粉を払うどころでなく、それこそ殺すしか手の打ちようがなくなっていたことだろう。


「どうしました?」

「いえ。白状しますと、その石をそこに固定したのはオレです」


 アミック隊の目がオレに集中した。


「ダブルの存在固定。その座標軸に固定してしまったのです。おそらく動きませんよ」

「ええ、ビクともしませんでした。今も放置してあります」

「今解除しました。おそらく今なら動かせます」

「一年後に、いえ今からなら二ヶ月後に、おそらく地球に突入する際に一瞬で燃え尽きるでしょう。しかしそうなると申し訳ありません」

「何がですか」

「私がこの不思議な石の話をクーリエにし、日本から火線が引かれたのを話したのです」

「そうだったんですか」

「それから日本のセドリックメロディ病患者がまだ生きてる話をし、クーリエが日本に興味を示したので日本への侵攻を進言したのです」

「それが日本浸透への切欠だったのですか」

「はい。これが元でジゼル電気の東京でのデモンストレーションが決まりました。この不可思議な現象は絶対に解明しないといけない。クーリエはそう強く言ってました。絶対に魔法に関係があるから、と」


 なるほど。セプトは対魔法に関しては神経が過敏になっている。これを見過ごすことはいずれ母星に戻った時に本来の目的である探査を蔑ろにしたことになる。

 忌み嫌われてるが無碍にされないのは、そういうところにあるのかも知れない。


「その、ごめんなさい」

「今さら責めませんよ。悪気があったわけじゃないのはわかりましたし。でもクーリエさんか。いないんですよね、どこにも」

 するとメルが手を挙げた。


「途中で会ったぞ。階段で上に向かってた。疲れてヒーヒー言ってたが」

「上に…………」


 エレベーターが起動しないから仕方ないのだろうが、階段とて今となってはあるかどうかも怪しいだろう。何せティリオーダウンの主砲が一体を焼き払っている。

 さて、オレたちをスルーしたと言うことは、アミック隊に任せたのだろうという事はわかる。だが目的は何だ。

 ホースに文句を言いに行ったわけではない。だったらティリオーダウンに乗り込むはず。だがクーリエは更なる上を目指してる。


 弟さまか?


 だが弟さまは変装してここの人間のようになっている。しかも陸戦隊のジェラルドに化けてるのだ。クーリエにわかるとは思えない。


 ノーラか。



(真司)


 恵風から呼びかけがあった。


(現状放置だ。セプトの人間にノーラはどうこうできない。深度一に潜ってお終いだ)

(わかった。だがこう言っては何だがノーラには)

(後で必ず会う。その時に話を聞こう)

(いや、だから聞く必要もないんだがな)

(ん?)

(ちょっと頭に来てるぐらいだ)


 あー、邪魔ばかりして来るからな。


(呼びかけてないから、わかってると思ってたぞ。真理はわかってた)


 そうか。精霊は浅い深度で会話を交わせるんだもんな。ノーラに話しかけててもおかしくなかったのか。

 と言うか、任務を帯びてたんだから報告義務が恵風にはあるはずなんだが、そこらへんは全く頭になかった。


(ごめん。忙しすぎた)


 対セプトでいっぱいいっぱいだった。


(でも呼びかけぐらい)

(無理だよ真司くん。だって恵風は精素切れでノーラさんのこと忘れちゃってるんだよ。一から説明しても洗脳とか疑われるだけだよ)

(あー…………、面倒臭い上司だな。オレが付与して一瞬で理解させるのが一番早いわけか。よし。放っておこう)


 そう決めたらアミック隊がいきなり構えた。しかも何もない所に向かってだ。

 陣形を組んで構える姿が格好いい。そしていつの間にかオレたちはメアリー副隊長とグレンとハナダに囲まれ守られていた。

 暗がりの中、一体何に警戒したのか、オレは未だにわかってない。だが解析をかける気にはならなかった。初めて連立を組んでるって安心感があった。


「すごいね。プロの動きだ」

「守る必要ないんだろうけどね」


 ハナダがこそっと言った。


「攻撃の意思はありません。今、エー・トゥールを解除します」


 そんな声が届いたが、メアリー副隊長の後ろにいるので誰が来たのかはわからなかった。ただやって来たのが女性だというのはわかった。声が女性、と言うより女の子の声だったからだ。


(知ってる人よ、真司くん。拘束したけど見逃した人達の中にいた女の子。私たちからは年上だけど、一番若そうだった子)

(ん?)

(別れ際に手を振ってた子)

(あー、あの子か)


 来たのはエイミーだった。


(もん)


 オレは対人最速の解析、(もん)を接触なしに発動した。ザザッとわかったのは彼女がアミック隊への義理と、現所属の陸戦隊への義理との狭間に押し込まれ、苦悩しているようだということだった。

 自分で立候補してアミック隊の探査に出て来たようでもある。


「警戒は解いていいよ。むしろアミック隊を心配して探しに来てくれたみたいだぞ」

「根拠は?」

「ダブル」

「総員待機」


 メアリー副隊長の号令で、隊の構えが解かれた。


「感謝します」

 エイミーの声がこちらまで聞こえて来た。


「手を挙げて、エー・トゥールは起動できないように」

「わかりました」

「ギグズ」

「はい」

「エイミーのエスコートを」

「了解」


 ギグズが素早く移動してエイミーの左手ブレスレットがロックしてあるのを確認して、オーケーサインを出す。


「こちらにゆっくりと来て」

「はい」


 エイミーが殊更ゆっくりと歩き始めた。両手は挙げたままだ。その斜め後ろにはギグズが油断なく目を光らせている。つい先程までは痕跡反応で参っていたのに、よく今は動けるものだと感心する。

 そしてメアリー副隊長の前まで連れて来られた。


「醍醐。頼めるかしら」

「いいよ」


 オレはひょいと前に出ると、手を出してとお願いした。


「手を?」

「うん」


 エイミーが左手を出した。エー・トゥールが嵌ってる方を出すのは攻撃の意思がないことを改めてアピールしてるのだろう。こんな場所に陸戦隊所属が一人で来るなんてそれだけでも度胸があるのに、さらにこの状況で細やかな気遣いをしてるところにオレは好印象を受けた。

 そしてその手を取り、改めてエイミーに(もん)をかけた。ダブルの解析の中でも対人最速の解析方法だ。


「敵意はない」


 ついでに更に調べてオレが討ち入りしたことに関しても調べたが、討ち入り自体を知らなかった。オレの情報操作はうまく機能していたようだ。そのことが確認できただけでも意味があった。


「オレは話を聞いた方がいいと思うけど、そこは連立相手の判断に任せるよ」


 エイミーが驚いた顔をした。

 オレがエイミーの味方をしてくれるとは思ってなかったのだろう。


「エイミーは話をしに来たの?」

「はい」

「大丈夫なの?」

「もう来てしまいましたから」


 そう言ってエイミーが暗がりの中で笑顔を見せた。

 これにはオレも驚いた。エイミーの立場では嬲り殺しにされてもおかしくないのだ。なにせ主砲を撃った好戦派の現状最大戦力なのだから。

 陸戦隊の名前は軽くない。

 オレだって討ち入りの際に陸戦隊に来られたら困るなと思ってたのだから。

 それが敵地に単身乗り込んで笑顔を見せたのだから、それはとっても素敵な笑顔だとオレは思った。


「風壁」


 オレはエイミーのために風壁を張った。

 せめて話が洩れないようにと思ったのだ。

 映像関係は今ふたたび映らないようになってるようだが、用心に越したことはない。人の目という原始的で一番確実な方法もあるのだ。ティリオーダウンからこの場所までは直線距離だと三十メートルぐらいしか離れていないのだ。


「で、エイミーさん、アミックのことを教えて上げてよ。そのために来たんでしょ」


 エイミーがオレの方をハッとしながら見た。


「わかるのよ、彼は。そういう魔法使いなの」

「すごいんですね」


 そしてエイミーが頷いた。


「そうです。確かに私はアミック隊長が何処にいるかを教えに来ました。それと皆さんが無事かどうかも気になったので」

「陸戦隊かアミック隊かで志望を迷ったみたいだしね」

「どうしてそれを」

「自称魔法使いだから。それより早く」

「はい。アミック隊長は地下五階の整備待機所で現在も無事でいます」


 その知らせにアミック隊から喝采が上がった。一部は胸を撫で下ろしていたけど。

「主砲をかいくぐったんだな」「さすがだ隊長」「無事なら合流しないと」

 と、おおむね男共が騒いでた。


 そしてエイミーがウッと嗚咽を漏らした。

 思ったよりも元気な姿に感極まったのだ。惑星を砕くティリオーダウンの主砲を人に向けて撃ったのだ。無事で済むわけがなかった。

 その塵ひとつ残らなかったはずの人達が、仲間の無事を聞いて喜んでいる。その好戦派とのあまりの違いに若い女の子の胸は知らずいっぱいになっていた。


「あなたたちが、生きてて良かった」


 こんな事になるとは思ってなかったのだ。エイミーの中でも仲間に対して攻撃をしかけた幹部クラスの決断は戸惑いしかもたらさなかった。そしてそんな陸戦隊の少女からもたらされた穏やかな心根は、アミック隊の中にもほんのりとした明るさと温みを灯火のようにじっくりと染み渡らすこととなった。


「エイミー、あなたはもう戻った方がいい」

「はい」

「報告するなよ」

 ギグズがちゃかした。

「見かけなかったことにするから、どこか安全な場所に避難して下さい」

 にっこり笑って返すのだからエイミーも大した玉だ。


 良い子もいるんだなぁ。


「彼女のだけは外しておこう」

「はい?」

「いやなに、その、オレは地下に落ちてったことにしといてくれないかな。そうしてもらえるとありがたい」

「わかりました。そう報告しておきます」


 そしてオレは暗がりに用意していた自分の死体もどきを送還した。

 彼女からの報告で、これはもう要らなくなるだろうから。


「ささやかながら送るよ」

「何をです?」

「風を」


 そうしてエイミーはアミック隊から温かく見守られながら、エー・トゥールを起動するとオレの付与したウインドに乗って、ティリオーダウンへと軽やかに帰って行った。


 陸戦隊の中にも味方殺しを決行した上層部に心を痛めてる者もいるのだ。それがわかっただけでもアミック隊の面々が受けた痕跡反応も、今後少しは救いがあるだろう。

 オレは見送るアミック隊の表情を見て、そんな事を思った。



「さて、醍醐くん。中断したけど話の続きをしましょう」

 メアリー副隊長がそう促した。

「わかりました。渡したい物もあるのでちょっと集まって下さい」


 オレは全員を集めて風壁を大きく張った。


「さて、映像を見たからもう知ってるだろうけど結論から言います。

 オレは討ち入りをしました。艦橋にいる幹部達にです。この一事であいつらにもトラウマにはなっただろうけど、オレの痕跡反応は弱い。思っていた成果をあげられませんでした」


 アミック隊がどよめいた。あれで足りないとはどれだけの効果を見込んでたのかと思ったようだ。

 だがそれはオレがここに来てもあなた方がまだ立てなかったぐらいの効果だとしか言えない。そしてその言葉は傷をえぐるので伝えられない話だった。


「オレは子供だから、経験が足りずにいい手が思いつかなかったんです。だからこれを渡しておきます」


 そう言ってアミック隊の面々にコインを配った。

 アミック隊の全員が受け取ってからオレに説明を求める。

 申し訳ないがマークとワルテール、それから真理ちゃんには渡さなかった。出来ればもうセプトの人間とは関わってほしくなかったから。


「それで醍醐。これは何なのだ」


 ベインが尋ねた。憎まれ口担当はいつもお前なのかと思ったが、それも言わずにおいた。言わぬが花だ。

 改めてアミック隊の、連立した面々の顔を焼きつける。

 おそらくこれでお別れだろうから──。

 オレたちはこの後弟さまと合流して、そのままこの東京大深度秘密基地から離脱する。


「まず最初の前提に、このコインはなくしたのならそれでも良いと思ってます。このコインにではなく、直接あなたたちに付与も出来るけど、オレはしません。

 心は揺れる。

 オレがそうだから。

 だから付与せずにコインで渡しておきます。起動できるのは渡された本人だけ」


 オレがその意思を確認すると、アミック隊の面々が頷いてくれた。


「オレは、ティリオーダウンの乗組員全員の心臓に煌子力を仕込みました。そしてこのコインはあなたたちが思った対象に、魔気を送ることが出来ます」


 どよめきが起こった。風壁をして尚そのどよめきは地下の暗がりに響いてくようなどよめきだった。


「オレは主砲を撃ってきたあいつらに報いを与えたかった。ここにいる者は全員、あいつらに命を狙われた。だから決裁権は自分で持っておけばいい。いつ何処で使用しても、このことに関して奴等に文句を言う権利はないと思ってます」


 厳かにメアリー副隊長が頷いた。


「それだけじゃない。オレはあいつらに痕跡反応を残したかったけれど、オレじゃ痕跡反応には届かなかった。酷いことが思いつかないんだもん。だからみんなの力を借りようと思いました」


「それはどういうことだ?」

 ベインが訊いた。


「次から次へと、それがオレの痕跡反応の刻み方。恨みを持ってるのはオレだけではないことに気づきました。だからオレは仕込みに徹しようと」


「仕込み、ね」

 ベインは薄々気づいたようだ。


「大方想像がついたようですが、このコインは、持ってるだけで指示すればティリオーダウンの全員を今すぐにでも皆殺しにも出来ます」


「おいおい。予想以上に物騒だぞ」「魔法が、それもダブルが組み込まれてるのね」


 いい線を突いたハナダにオレは頷いた。


「起爆装置みたいなものなのかね」

「そうだけどそれだけじゃないです。バルーン小父さん」

「ほう」

「ハナダが言いましたでしょ。ダブルが組み込まれてると」

「ダブルが結局何なのかわかってないのでね」

「だから脳みそにもオレの意のままに出来る細胞に混ぜ込んどいたからってことだよ」

「は?」

「言ったでしょ、心は揺れるって。殺すまでもない。でも止まってほしい。そういう時にはそのコインに念じれば、そうなるようにしといたから」


「「「「「「はあーーーーーっ?」」」」」」


「だからそれでいじれるようにしたから。命だけでなく、思考の方でもね。だからなくしても良いとは言ったけど、持っておきなよ。

 どうせ専用コインだし。他の人が起動しようとしても今渡した時に本人にしか動かせないようにしたから」


 皆が顔を見合わせた。代表してギグズが尋ねる。


「何でこれを俺たちに?」


「むかついたのはオレだけじゃないなって。それにオレはここを出たらセプトとは関わることはほとんどないと思うけど、アミック隊はずっと続くだろうからね。

 あいつらに対し、次々と絶えることなく精神が疲弊するようにできるのはアミック隊だけだなって気づいたんだ」

「しかしこれだと操り人形に出来るような」


 皆がうんうんと頷いた。


「そうだね。それはホースのマインドバーストの応用だよ。消さずに上書きする感じだから数十秒で消えるけど、回数制限はないから、必要と思ったらその都度そちらで対処してくれ」

「冗談じゃないのよね」

「うん。本当に出来るよ」


 するとメアリー副隊長が後を引き継いだ。


「わかりました。ありがたくもらっておきます。正直、この先どれだけの迫害があるかわからないから」


 そのひと言でアミック隊の面々に緊張が戻った。

 自分たちの立場と言うものは、問答無用で殺されかけたわけだしよくわかっているのだろう。

 厳しい戦いだと思う。でもこのコインを上手く活用して、何とか頑張ってほしいと思う。


「何でこれを俺たちにってギグズが言ったけどさ。本音を言えば──」


 ギグズがうんと頷いた。


「オレの力では痕跡反応を残せなかった。けれどもオレたち連立なら出来るかなと思ったんだ。オレの人生経験では思いつかないようなことでも、連立のみんななら良いアイデアを思いついて、きっと良い方向に対応してくれると思ったんだ」


「醍醐……」


「だからさ、このコインをそれぞれで持っておいてよ。これがオレたち連立の痕跡反応ということで、ひとつ、よろしく頼むよ」


「醍醐くんはしないの?」

 そうハナダが訊いた。


「オレはもういいよ」

 左手を失ってる真理ちゃんに止められたあの時に、オレの討ち入りはもう終わったから。


「納得できる相手に託せたから」

 そうハナダに静かに告げた。


一気に読んで堪能して頂けたらという一念で、二日分の分量を落とし込みました。正直もう余力がないです。大きな心で楽しんでもらえたら幸いです。

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