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ダブル  作者: 茶の字
第1章 幼稚園時代
105/182

第105話 痕跡反応 その一

 合流したアミック隊のメンバーは、ひと言で言うと疲弊していた。

 疲弊というと、歩き疲れたとか崖から降りて来たのでくたびれたとか、そういう肉体的に過酷な状況をくぐり抜けてきたせいと思いがちだが、そうではない。

 オレから見た彼らは、今にも心がへし折れそうな疲弊のように思えた。

 何しろ顔に覇気がない。それどころか今自分が何処にいるのかもわかってないのではなかろうか。

 オレたちのいる場所は、風と土の自称大精霊恵風による塵風と、強襲型惑星制圧艦から放たれた主砲の影響で地下五階の格納庫はもはやその原形を留めず、えぐられた土と高温で炙られた崖があるのみの、戦渦の跡地とも言えるような場所だ。だがその変わり果てた目の前の景色にさえ目を配る余裕がない。


 皆げっそりしていた。


 そしてその合流組の顔を、たとえ薄暗がりの中でもオレが見間違えるわけもなかった。だってほんの数時間前までオレたちを追いかけ回してた、にっくきアミック隊のメンバーなのだから。

 その時の皆の顔は、敵ながら自信に満ち溢れていた。


 最初にオレたちのいる場所に辿り着いたのはバルーンさんだ。

 バルーンさん、ダンディな大人。セプトでは数少ないまともな人。この人だけは通常営業のように紳士面を崩していない。

 その隣に現れたのは知らない顔だから、たぶん弟さまを追いかけてた人なのだろう。この人の名前はメルと後で知った。

 それからコリン。真理ちゃんを探し出す直前にオレの前に立ちはだかった人で、オレに瞬殺された人だ。

 ベイン。格好いい人だったが態度がちょっと鼻につく人。

 ダン。解析で超強いと言われてた人。アミックはそう思ってるようだがオレにはいまいちわからない人。

 そしてギグズ。すぐやっつけたけど何か印象に残ってる人。その人が平気なのを装って脂汗を次から次へと発生させてるさまは、正直痛々しいほどだ。

 そのギグズが改めてオレに尋ねた。


「なぜだ。なぜ副隊長たちと一緒にいる」

「その質問はさっきと違うな」


 さっきは手を振りながら醍醐に助けられたのか、みたいなことを言っていたのだ。それを今さら敵が一緒にいるのはどういうことだとか言われても、連立してるからとしか言いようがない。


「聞いて、ギグズ。みんなも」


 メアリー副隊長が間に入ってくれた。


「アミック隊長が、彼、醍醐くんと手を組みました。そのことは隊長から話して聞かされたので間違いないです」

「その隊長は?」

「隊長は」


 と言ったところまででオレは首を振って止めた。今こいつらの心理状況じゃ心が崩れると言いたかった。

 アッチが裏切ったなどと聞いたら、反発ではなく、仲間に見捨てられた共に戦艦からの主砲攻撃を受けたという恐怖をまざまざと思い起こしてしまう。

 だからオレはメアリー副隊長に言った。


「この人達はオレの後ろにいて安全が確保されてたわけじゃないんだ。アミックはアッチと陸戦隊のミランダ副隊長といる。この事実だけで充分だと思うよ。

 オレたちだってティリオーダウンの主砲に狙われて、それ以上のことは知らないんだからさ」

「…………はい。そうですね。予断は必要ないですね」


 メアリー副隊長が上手いこと乗ってくれたので、誤解を誘導できたと思う。

 アッチが裏切ったなどと、今はまだ知らない方が良いのだ。


「そうか」「よかった」


 などなどと一様に皆ホッとしている。

 今受け止めるのはティリオーダウンから主砲で撃たれたことだけで良いのだ。


「メアリー副隊長。主砲のことを」

「そうですね」


 オレに頷きながら放ったそのひと言で、全員の眼がメアリー副隊長に集まった。


「好戦派が仕掛けて来ました。ここにいる醍醐くん諸共、我々浸透派を根絶やしにするつもりだったようです」


「やはり俺たちを狙ったのか」「好戦派に何が起きたんだ?」「「「…………」」」「ひどい裏切りですな」


「そして好戦派に狙われた我々をもまとめて、彼、醍醐くんが魔法で守ってくれたのです。それは上から崖を降りて来た、あなたたちをも含めてです」


「まあそんな魔法が使えるのはこいつしかいないだろうが」


 ギグズの納得と共に視線がオレに集まったので軽くみんなに手を振っといた。

 するとバルーン小父さんとベインだけがオレに目礼を返してくれた。後のメンバーはおちゃらけやがってとか、ガキ丸出しとかも思わず、ひたすらに何も感じていないようだった。

 本当に余裕が無くなったんだなとオレは思った。


「で、どうするんですか、副隊長」


 ギグズのひと言で皆の顔が引き締まった。

 軍人の顔である。

 だがオレは、ちょっと待った、と話を止めた。


「何だ、醍醐」

「ギグズさん、それから皆さん、あなたたち自分の状態をわかってますか?」

「もちろんだ」

「では今、とてもじゃないけど命令を遂行するだけの力がないことがおわかりですよね」

「それは子供の言うことではないぞ」

「そうだね、コリンさん、でも言わせてもらう。

 メアリー副隊長からではなく、アミックの連立相手として、アミックから託されたオレから言った方が良いと思うから」


 この時発したアミックの名に、合流したメンバーの全員が驚いていた。つまり今からオレが話すことは、アミック隊長と同じ立場の者が言い渡すことだと理解したからだ。

 そしてそれこそが連立である。

 悪いけどここはその立場を思い切り利用させてもらう。


「合流した皆さんは、今、痕跡反応の真っ只中にいると思います」

「痕跡反応?」

「セプトと同じように、我々地球にも同じ由来の言葉があるのです。それが痕跡反応」


 心当たりがあるのだろう。軍人なら知ってて当然だ。


「民族や文化に由来しない、人間が根源で感じてしまう共通の反応、それを痕跡反応という」

 さすがメアリー副隊長。博学だ。


「痕跡反応……」


 つぶやいたのが誰かは知らない。だがこの痕跡反応は厄介だ。何しろ自分の力ではどうすることも出来ないのだから──。


 彼らは味方から、お前は死んどけよ、と最大戦力である戦艦の主砲で殺されかけたのだ。

 拳銃やエー・トゥールではない。そんな小さな武装ではない。

 星をも砕く戦艦の主砲で死ねと迫られたのだ。

 そこには絶対の意思がある。


 そして彼らは皆、根源的な恐怖を感じてしまった。

 圧倒的な暴力にその身を晒してしまった。

 煌子力が乱舞する様も見ただろう。

 その煌子力の塊が途切れることなく自分たちを狙い続けたのも感じたことだろう。

 触れればそれで終わりの主砲の攻撃だ。

 それが初撃の時には生身のまま通常の攻撃時間で終わらず、延々と途切れることなく放たれ続けたのだ。

 その恐怖は、オレは気が狂ってもおかしくないと思う。

 気を狂わせた方が楽になるからだ。だがアミック隊の面々は意識を手放さずに、ひたすら生身のままで耐えた。

 ダブルの解析で主砲を分析してみると、ティリオーダウンからは情報を得られなかったがアミックからだと太陽の中に素っ裸で飛び込むようなものだと云うのだ。


 そしてアミックが基礎知識で持ってると云う事は、アミック隊の部下も当然持っている物とオレは考える。


「よくぞ狂わなかったとオレは賞賛したい。だからこそ言う。少し休めと」


 ざわっとした。だが反論は出て来なかった。その心中は慮らぬ。恐怖を耐えた勇者への冒涜だと思うからだ。


 オレは背中の服をつかんでる真理ちゃんの手を握った。真理ちゃんもしっかりと握り返してくる。

 真理ちゃんは大丈夫だ。主砲攻撃はしのぎきったときちんと受け止めている。

 なのでオレと真理ちゃんはダメージを負ってないが、アミック隊の面々はオレの言葉ではどうしてもどう受け止めればいいのか、そういう戸惑いも出てくるようだ。

 アミックの連立相手とは言ったが、簡単には咀嚼できない事由だろう。


 そもそも敵だったからな。いきなり言われても困惑するのはよくわかる。でもその困惑は、必死な攻撃に晒されつづけ、深刻な心の傷を負った痕跡反応よりはよっぽど前向きな反応だと思う。

 こちらに気が向いてるからだ。ついでにもう一つ手を打とうか。


「グレン」

「ん、なんだ」

「教えてやれよ。ここだって修羅場だったんだって」


 するとグレンが躁に入って頷いた。


「そうだな。俺たちはティリオーダウンの主砲がまともに狙ってたんだもんな。それもこの超至近距離で」


 ドヨッとどよめいた。


 ティリオーダウンの偉容は目と鼻の先である。その主砲がオレたちのいる場所を睥睨するかのように見下ろしている。

 その迫力は崖にいた時とはまた違う感想が出てくるだろう。


 するとギグズが暗闇の中を見通すように目を凝らした。


「気のせいか。砲塔がないような」


 ギグズの疑問の声にグレンが機嫌良くうなずいた。


「そりゃ醍醐が魔法で切り刻んじまったからさ」

「醍醐が?」

「風刃だ。とりあえず正面からの主砲攻撃はもうないと思ってくれ」


 途端に合流組から安堵の吐息が漏れて来た。

 やはり緊張してたのだろう。そして痕跡反応の原因も取り除かれてた安心感も生まれてきたに違いない。

 だがそれも主砲での攻撃がないという一要素に過ぎない。

 何の後ろ盾もなかった合流部隊だ。グレン以上の痕跡反応が残っているだろう。

 そして今もまた自問してるはずだ。

 もう戻る場所がないのではないか。

 好戦派がこのまま去ったら、地球に取り残されてしまうのではないか。

 ティリオーダウンが宇宙へ飛べないことも知らない彼らには、悪いことばかりが脳裏をよぎると思う。


 さてどうしたものかと知恵を絞ろうとすると、


「怒らないで聞いてほしいんだけど」


 と、メアリー副隊長に呼ばれた。


「怒りませんよ。何です、メアリー副隊長」

「こう言ってはなんだけど、主砲を放つと言うことはセプトの大多数の人々は地球が壊れても良いと思って撃ってるの」

「でしょうね」

「でも地球は壊れなかった」

「ええ」


 頷くオレの様子をメアリー副隊長が窺っていた。


「とんでもない物をかましてくれちゃってますね」

 気にせずどうぞと、続きをお願いした。

「いいのですか」

「アミック隊に文句を言うところと仰りたいんでしょうけど、セプトからの視線はありがたいんでね。

 それに我々は連立を組んだ。今はそちらの方が重い。アミックにも頼まれましたしね」

「それはそうですけど」

「いいんです。本当、地球が壊れなくて良かったです」

「ええ。地球が壊れるどころか、ここ、格納庫ですらまだ存続していますからね」


 ありがとうと小声でつぶやいて、そしてメアリー副隊長はこの場にいる全ての面々を見渡した。理解が染み入るのを見計らっているのだ。

 安堵から身体の力が抜けた者ばかりだった。その合流組の面々をメアリー副隊長は、塵風によってえぐられた中に残った、わずかな平らな場所に皆を座らせ、そして最後にオレを見た。


「だからこそ第二射は意図が違います」

「はあ」


 意図が違うと言われてもわからない。どっちにしろ(あた)ったら死ぬ攻撃だったのだ。


「発射時間も短かったでしょう?」

「一分ぐらいでした」

「これは第二射では、明らかに醍醐くんのことを調べるための動きだと私は思います」


 オレはぐったりしているアミック隊の合流組を見た。怒らないだろうかと思って御用聞きの体勢に入ったのだが、アミック隊の面々はこれまで以上に一様にぐったりしているだけだった。

 なのでメアリー副隊長に尋ねる。


「それはどういう意味でしょう。あんな過剰とも言える主砲を撃ってきてですか」

「そうです」


 いや、そうなるとホント合流した皆さんに悪い気がしてくるな。オレを狙った主砲の巻き添えみたいじゃないか。

 彼らにしてみれば今回はたまたま助かったに過ぎない。オレは確かにこの地下五階に状態固定をかけたが、状態固定を単純にかけただけでオレは彼らがこの階にいることさえ気づいていなかったのだ。助かったことなど本当に偶々でしかない。階層に解析すらかける時間がなかったのだからわかりようがないし──。


「あ、誤解しないで下さい。好戦派が醍醐くん達と共に我々アミック隊を屠らんとしたのも事実ですから」

「そう言ってくれると助かります。ヘイトを稼いじゃったかと思いました」

「アミック隊は醍醐くんに感謝してますよ。醍醐くんがいなければ全滅でした」


 メアリー副隊長そう言ってくれたが、オレはそれに首を振った。


「そうじゃないんですよ。実は裏がありましてね。それでもこの場にいる全員が生き残ったのは、彼女のおかげなんですよ」


 とオレは真理ちゃんを指差した。


「彼女がオレにとある魔法をしてと頼まなければ、オレは間違いなくその魔法を発動しなかった」


「風魔法じゃない。ダブルってやつの方ね」

「そう」


 ハナダに向けてオレは頷いた。

 すると聞き慣れない言葉に合流組の視線がオレに集中した。

 どうせ忘れるのだ。ここでは本当のことを開陳しよう。好戦派ではなく、連立してる浸透戦略派だ。


「浸透制圧派だったっけ」

「それももう今さらです。事ここに至っては我々は単なる浸透派ですよ。醍醐くんと敵対したらどうなるかとか、もう考えたくありませんからね」


 と言いつつメアリー副隊長の目は真理ちゃんも見ていた。オレが彼女のおかげと言ったせいでメアリー副隊長もまた思い出したのだろう。

 真理ちゃんの精霊魔法は恵風が憑いてえげつないことこの上なかったからな。真理ちゃんの名前を知らないから俎上に上げなくても、目の動きだけで言いたいことは充分伝わる。


「副隊長。どういうことですか?」

「それは後ほど説明しましょう。我々にはその資格がありませんので」

「資格ですか」


 気にかけるギグズに、とにかく、とメアリー副隊長は話を引き取って言った。


「アミック隊、我々浸透派としてはもうジャン・ジゼルと合流するしかないわね。本隊が地球圏に戻ってきた時に、本隊へ言い分を通すためにはそれしかないのよ」


 それは薄ぼんやりとわかってたのだろうが、副隊長の言葉で聞かされて、ようやく現実としてのしかかって来たのだろう。それはオレの言葉では届かない領域だ。

 そしてあの主砲の攻撃が、間違いなくアミック隊の皆殺しを前提に好戦派が放ったことなのだと、繰り返すことで否応なく理解させられたわけだ。ギグズの(ふる)えがひとしきり激しくなって来ている。


 痕跡反応ではなく、怒りだと信じたい。


 でもまぁ何と言うか、オレはダブルの説明をする切っかけを失ってしまったようだった。


「醍醐くん」

「はい」

「もうお戻りなさい。醍醐くんなら出来るでしょう?」


 メアリー副隊長が上を見上げた。

 これは上の階と言うことではないと思う。地上のことだろう。ジゼル電気のデモンストレーションで日本最大の話題となってる今日この日の東京駅界隈のことだ。


「そりゃ出来ますけど」

「連立はここまでです。後は我々がどうにかします」


 そうは言われてもな。

 全員疲れ切っていた身体に鞭打って、ようやく状況を理解したばかりなんだよね。しかも確保対象の相手と組んだのかと驚かされたばかりの連立を、ここであっさり解消されたら、彼らの痕跡反応がまたぶり返すぞ。

 撤退戦とか物はいいような表現があるはずだ。だがメアリー副隊長はそう言わず、どうにかすると宣言してしまった。このどうにかするでは、派閥は違えど味方である同胞のセプト人へととんでもない攻撃を実行した、そんな相手の前にもう一度立って立ち向かえと言ってるようなものだ。


「俺たちは地上に行かないと言うことですね」


 ギグズが確認してる。

 そりゃ確認したくもなるだろう。

 だが確認したギグズはそれ以上追求せず、好戦派との戦闘を覚悟したようだ。


 なぜそんな反応をするのだ。


 オレはまた心が引っ込むと思っていた。軍人だから大丈夫とかそういう次元の話ではないからだ。人間として恐い物は恐い。民族や文化に由来しない、人間が根源で感じてしまう共通の反応だからだ。


「おい、何で受け入れてるんだ」

「どうやら我々は借りは返すと言う資格もないようだ」


 ギグズがちらりと真理ちゃんへ視線を送った。

 真理ちゃんの左手か。

 なるほど。


 逃げるのではなく逃がす。

 そういうことか。


 ギグズを見ていたら無駄に格好良く頷きやがった。わかるかわからないかの微妙な頷き具合をしてみせたのだ。この野郎。


 そこは一体どんな気持になってるんだろうね。

 今まで懸命にストーキングしてた相手を地上に逃がし、自分たちアミック隊はこの場に残って好戦派の追撃を迎え撃つと、そう言いたいのか?

 メアリー副隊長が決断したと理解したうえで、それをここまで消化できるのか?

 わかってない奴は一人もいない感じだ。皆オレの方を見ている。


「お前たち、ここまで痕跡反応が出てる隊員ばかりなのに、いいのかそれで」


 案の定ベインが異議を唱えた。

「連立がここまでって、それは少々無謀ですな、副隊長」


 そうだ。オレたちも戦力に組み込んだ方が間違いなくいい判断だ。

 だがメアリー副隊長は首を振って否定した。オレはベインの方を評価するが。

 それが顔に出ていたのだろう。メアリー副隊長が言った。


「火の粉を払ったのだから、もう元の生活に戻った方が良いわ」

「しかし」

「醍醐くん」

「はい」

「醍醐くんはジゼル電気に手を出す気はないんでしょう?」

「基本的には」

「基本的と言うことは何かあったら邪魔をすると言うことですか?」


 唯一痕跡反応を示さず平時なままのバルーンさんが、ここに来て訊いて来た。


「邪魔もしませんよ」

「それは本当か?」


 マークとワルテールが一緒になって訊いて来た。なのでしっかりと頷いておく。

 こいつらはジゼル電気の関係者だ。

 内情を知った今、飯の種と割り切ることも出来ないだろう。だがそんなオーバーテクノロジーの塊だからこそ、人類の目もほしいところだと思った。


 今思った。そう思ってしまった。


 そんな事は全く頭になかったのだが、人類の目が間近で見ててほしいと思ったら、もうそれは譲れない一線になっている。


「うん本当だ。人類のためになる限りは」


 この言葉に嘘偽りはない。マークとワルテールがどう受け止めるかはわからないけれど、結果的にジゼル電気に残ってくれたらなと思う。


「急いだ方がいいです」

 メアリー副隊長が元の生活にもどれとまた勧めてくれた。

 オレはあえてゆったりと構えた。そして言った。


「別に急ぎませんよ。これから家族と合流してどうするかを決めるだけです」


「悪いことは言いません、醍醐くん。すぐに地上に上がって下さい」

「どうしてです。メアリー副隊長」

「黙っておこうと思ったのですが、今攻撃がないのは何故だと思います」

「撃っても無駄ですからね」

「そうです。それなのに表立った動きが全くありません。これは準備してるのですよ。ほぼ間違いないと思います」

「なにをです?」

「侵略機動兵器です」

「そうですか? 別働隊からの文句とかないですか? オレが知る限り、別働隊が地下六階で研究に耽ってましたよね。主砲なんかぶちかましたわけですから、下の階だって無事だとは限りませんよ」

「下の階にダブルとやらは?」

「全くかけてません。煌子力がどう進むのか詳しいことは知らないから断言は出来ないけど、星をも砕く砲撃が、下に全く影響を与えないなんて事はありえないと思います」

「それは確かに、あるかもね」


 メアリー副隊長が考え出した。


 そしてオレも思う。

 おそらくメアリー副隊長のいう元の生活に戻れが、超臨界水の言わんとしてるところなのだろう。メアリー副隊長に会ってから言葉の端々に、メアリー副隊長以外の意図を感じる。


「言わんとしてることはよくわかりました。でも何でそんな事をオレに言うんです?」

「交渉は面と向かって言った方が聞き分けてもらえるからよ」

「ああ、そういうことですか」

「そうです。わかってもらえましたか」

「はい」

「皆、見送りの言葉を。我々アミック隊の恩人達です」


 バルーンさんがいの一番で前に出た。この人はアミックの幼馴染みでもあったしな。


「バルーン小父さん、見送りの言葉なの?」

「挨拶程度だと思ってくれたまえ」

「そんなこと言って。後悔は?」

「しないな。今やらねばならぬことだしね」


 そう言ってバルーンがオレと真理ちゃんをジッと見た。

 あー、もう。そんな眼で見られるとその気になっちゃうよね。


「とてもじゃないけど挨拶程度じゃないよね」

「いや、挨拶だ」


 オレの腹は決まった。痩せ我慢してオレたちの退路を確保されても、寝覚めが悪いんだよね。

 うん──。


「そうだね。それに挨拶は大事だしね。オレからも」

「ん? 醍醐くんが? 挨拶?」

「そうだよ。会った人をいきなりぶん殴るような、そんな文明度の低い人に会いに行くわけだからきちんと挨拶して聞き分けてもらうよ」

「おい。何を言っている?」

「だって不平等じゃん。向こうばっかりオレたちに痕跡反応残してさ。決死の覚悟だよ、小父さんおにーさんおねーさん」


 オレはアミック隊の面々を見渡した。憎い顔ばかりだったけど、オレたちだけを地上に戻そうと言う話を聞いて、誰一人反対していない。ベインさんでさえ、役目を終えたのでオレと真理ちゃんを逃がす方向で考えてるのがよくわかる。

 だって周囲の状況確認をただ一人始めてるのだから。

 しかも上ばかり見て。

 左手のない真理ちゃんにどうやったら楽に上の階に上らせることが出来るのかを、その取っかかりを探してるのだろう。

 憎まれ役を買いやがって。


 オレはね、そういうのに弱いんだよ。


「さて、じゃあ痕跡反応をもらいに行ってくる」


「もらいに行くって?」

 と真理ちゃんが慌てて訊いた。

「だからティリオーダウン艦長、ホースから痕跡反応をもらいにさ」


 何を当たり前のことを云ってるのと言ったオレの物言いに、アミック隊がざわめいた。


「無理よ」

「行けるわけがない」

「艦橋は戦闘中は閉鎖される。絶対に誰も近づけない」

「艦橋は特殊な保護体勢が取られてるのよ」「それを言ってもこいつは知らないよ」


 なるほど。

 かなり難しいらしい。


「侵入した者は?」

「セプト史上一人もいない。くるる人だって無理だった」

「そうか」


 オレは遙かなるくるるに思いを馳せた。

 これだけセプトに恐怖を与えたくるるでもそれは出来なかったのか…………。

 セプトが受けたのは壮絶な返り討ちだったのはわかる。

 きっとそれは──、

 今の地球がセプトを追い払うような物だったんだろうな、と。


「そうなのか…………」


 それでも届かなかったわけだ。

 セプトの戦艦の艦橋には。


 そのオレの様子を見て、メアリー副隊長はオレが諦めたと思ったらしい。アミック隊の面々もだ。

 だがオレにはダブルがある。

 ダブルの特性は対象の場所に直接発動する。


 むしろどんなところに艦橋があろうと、そんな小賢しい真似など関係なく楽勝だ。

 そう思った時だった。


(それはたぶん超臨界水に引っかかると思う。やめた方がいいよ、真司くん)


 と、いきなり真理ちゃんから連絡が入った。深度一の深いところだからアミック隊の面々には聞こえない。


(でもどうして)

(だって真司くん。これまでドッペルゲンガーだけは創造しようとしてないじゃない)

(う)


 真理ちゃんは鋭い。


(無理はしない方がいいよ。真司くんはきっとドッペルゲンガーの子を送還できなくなると思う。そうしたらどうするの? 三つ子ですなんて今さら言えないでしょ)


 それはそうだ。

 実は三つ子でしたー、なんて言ったら、お父さんもお母さんもビックリしちゃうだろう。オレたちは双子なのだ。そしてもしもそんな突拍子もないことを可能にするとしたら、それには超臨界水の協力がいるだろうけど、多分というか、絶対に超臨界水は協力しないだろうなぁ。


「となると方法は一つだな」


「「「「「「「「え?」」」」」」」」


「まあ、セプト史上誰もいないというのなら、オレがその一人目になってやろうじゃないか」


「えっと?」

 と単独で驚いたのは真理ちゃんである。

 だからオレは声を張った。

 薄暗い廃墟のような格納庫で、えいえいおうと(とき)の声を上げた。


「先駆けである。一番槍である」


 オレは手を掲げて、ティリオーダウンに向けて槍を突き刺すよう二度振った。


「あ、もう説得は無理だと思うので、行く方向でアドバイスを下さい」

 真理ちゃんが身を翻した。しかも鮮やかな引き際であった。

 その無駄を許さぬ時間管理に、アミック隊は唖然とした。だが真理ちゃんが左手を振って、教えて下さいとお願いをすると、最早誰一人として反対を唱えなくなった。


 ありがとう真理ちゃん。


 オレのやることはただ一つである。


 魁けである。


渾身です。手術前に進められるだけ進もう、頑張ろうとお約束したので。

読み応えはあったでしょうか。

気に入って頂けると嬉しいのですが。

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