シナリオⅣ 4 後章 第1話
(^ー^)ノ後章は学園編…から(?)
シナリオⅣ 4.11 〈人間は幸福ではない。しかし、つねに未来に幸福を期待する存在なのだ。魂は故郷を離れて不安にふるえ、未来の生活に思いをはせて憩うのだ。〉
Man never is, but always to be, blest.The soul, unesay and confin’d from home,Rests and expatiates in a life to come
草創歴0449年8月(8/5)
赤に染まる陽の長い夏が過ぎ去り、実りをもたらす秋が訪れんとしていた。
この名高い学園都市「ウィラ」での生活にも、ようやくにして慣れてきた頃合い。
難関の入学を果たし、学園生活は順調に経過していた。
シナリオⅣ 4 後章 序説
中央大陸の北東部に広がる「アヴギ(暁)平原」を統べる「自由都市連合」に所属する、有数の都市国家要人の子息子女の集う学び舎である。
国内外の貴族や王族に所縁ある者達も多く留学に訪れる、完全寄宿生活にて外界から隔絶された世界。
そんな中にあっては、一般入学試験で主席を修得したとは言えども肩身は狭い。
多額の入学金は、奨励優遇措置制度によって賄われているが、無論、無償のものではない。
この「コース・ケオ・ズィームルグ」は卒業後、自由都市連合の重要ポストに就く事が既に定められている。
ともあれ、その為にも単位一つ、落とすわけにはゆかないのだ。
入学してより、場違いだと陰口を叩かれようとも、同学年の「スポロス級(1学年)」に至っては追随を許さぬ成績を収めている。
「スポロス・エナ(1学年主席)」
…それが僕のアイデンティティだ。
細分化されている魔道力学「ヴィヴリオ・マギアス」は元より、錬金統計学「アルヒミア・モティヴォ」の基礎構造図式や、演算処理の空間把握は特に高得点を叩き出している。
あえて言えば、魔道薬学「グラスィディ・セラピア」の調合と配合の成績は平均点以上だが、これが一番の苦手な学課であると言えよう。
「スポロス級(1学年)」にして、既に「アヒロ級(3学年)」の講義に出席する事が許されているのは主席のみ。
歴代に於いて、才能に秀でた生徒は多々、輩出されて来たが、遺伝的な体内魔道回路無くして、ここまで多系統の術式と相性が良い霊質は稀に見ると、六学課統括主任の「ハセリオート・セヴァスモス教授」が太鼓判を押した。
彼の両親は、同盟最西端の自由都市ガイラ市内の幹線道路に面した宿屋を営む一族である。
特に魔道因子や記憶視野、演算能力に秀でた者がいるわけでもない。
言わば、コース・ケオ・ズィームルグは突然変異であると「アナズィトンの果実(教諭会)」は確定した。
だが、そんな言葉で片付けられては、僕のプライドは傷付く。
学園の生徒が寝静まるまで1人、第三図書院「リソクソス」に籠もり、予習復習を欠かさず日課としてきた。
他者に知って欲しいなどとは露にも思わぬが、努力あってのものだ。
それにつけても、巻き毛が目にかかり悩ましい。
父や母、それに多くの兄や姉の期待に応える為にもと、心はいつも騒ついていた。
先日の、「コムプソティタ・スィドロフィア(選抜単位)」を控えた属性因子検査では、五つの「スティヒオ(元素親和性)」全てが許容範囲を大きく上回っており、とりわけ、「アエラス・プネブマ(風の因子)」が群を抜いている事が判明した。
「六星」 を持つ「ハセリオート・セヴァスモス教授」は厳めしい顔を更に厳めしく、苦渋の面持ちでコース・ケオ・ズィームルグを呼び出した。
「スポロス級(1学年)」も半ばに差し掛かり、秋の「コムプソティタ・スィドロフィア(選抜単位)」までには、取得する学課を確定する時期も間近に迫っている。
彼もまた「アエラス・プネブマ(風の因子)」との親和性を高める学課を選ぶのが順当であろう。
六学課の内、五つの推薦状が既に手元に届いている筈だ。
とは言え、剣術学課「アフセンディア」の成績も決して劣っているわけではないと聞いている。
この総合剣闘の学課は、最高顧問の「レイト・ゼストス教諭」を筆頭に、名高い剣術師範を招き入れいる。
彼等は各自由都市の市設騎士団から臨時派遣された、有力な地位にある「騎士」である。
位としては、中隊指揮官級と同等が選任される。
それも、この学園都市「ウィラ」の運営が、「自由都市連合」の共同出資から為されている伝統とも言えた。
言わば、この学園こそが「同盟勲章」を体現する象徴に等しかった。
特に「スポロス級(1学年)」を厳しく律するのが、自由都市ガイラの「黒色騎士団」から派遣された「トト・オ・ガラクスィアス教諭」である。
先年、学園を卒業したばかりのこの青年は、刻の「花の十人」(ルルディ・デカトス)に選出されたとは言え、卒業と同時に「黒色騎士団」への士官登用が成された。
これは異例の人事である。
この第六指導室で顔を突き合わせていたのは、このトト・オ・ガラクスィアス教諭と、ハセリオート教授に他ならない。
緊張した面持ちでコース・ケオ・ズィームルグは腰を下ろすしかなかった…。
「ああ、急に呼び出してすまなかったね…ところで、コースケ君は夏季の休暇期間を利用しなかったそうだね。家は恋しくないのかい?」
ハセリオート教授は慮りながら口にしたように思えた。
唐突ではあるが、僕の事を皆、コースケと呼んでいる。
不本意ではあるが、コース・ケオを略されてしまっていた。
「いえ、家に帰る時間があれば、僕にはやらなければならない事がたくさんありますから。」
親族の期待は大きい。
14才のコースケには重責であった。
それと向き合う怖れから逃れたい意図もあった。
それを見透かすように、トト・オ・ガラクスィアス教諭が口を挟む。
「まあ、その期待に押し潰されないように、適当に生きて行くのも手段の一つではあると俺は思うがな。」
「これ、トト。彼のやる気を妨げるような事を言うな。」
「これは申し訳ありません、ハセ先生。」
コースケは困惑するばかりであった。
「話しは変わるが、コースケ君。君はコムプソティタ・スィドロフィア(選抜単位)を決めているかね?もし良ければ、その事でちょっと提案があるのだが、よいかな?」
「…え?何でしょう?」
要約すると、通常であれば剣術学部「アフセンディア」と、魔道力学「ヴィヴリオ・マギアス」を始めとする五学課の併用は珍しく、特殊な家系の因子保有者は、それに特化した専属の学課を複数選ぶ事は可能であると言う。
無論、個人の霊質を鑑みての事だが、コースケに至っていは、全くの真っさらな状態であると「アナズィトンの果実(教諭会)」が判断した次第。
「…それって、どう言う事ですか?」
判然として理解出来ぬ内容に、コースケは思わず聞き返してしまった。
「つまり、君にはあらゆる可能性があると、学園長が判断したのだ。これは学園始まって以来の、特筆すべき決断だよ。」
入学以来、学園都市「ウィラ」の学園長「アルソフェミリアン」にお目通りは叶っていない。
それどころか、滅多な事では面会に応じないと言う、いわくつきの人物である。
一説には、極めて美しい女性であるとも、二目と見れぬ老婆であるとも囁かれていた。
「で、そこで呼ばれたのが、この俺と言うことだ。」
トト・オ・ガラクスィアス教諭は自慢げに告げた。
今後は好きな時に、好きな学課に出席しても構わないが、剣術学部「アフセンディア」の専任教諭として、魔道術式に関与する適性見極め役として、彼が後見人に就くのだと言う。
「トトは君の剣術適性を評価する。その結果、単位に拘る必要性が無くなるのが利点だ。」
だがそれは、「ブブキ級(6学年)」までの六年間、トト・オ・ガラクスィアス教諭の監視下に置かれると言う事か?
「お前!今、嫌そうな顔をしたなっ?」
「い、いや!そんな事は無いです!」
しかし、考えようによっては都合が良い。
「天体儀調整区画」や第六図書院「グノシィ」まで使用出来るのならば言うに及ばない。
「クラディ級(4学年)」にならねば製造されない個人用「プロセフホメ・スフェラ(魔道触媒)」に関しても、考慮されるやも知れない。
「おっと、忘れていたが…君の魔道系学課を評価する専任教諭だが、これは学園長にお考えがあるようで、現在のところは保留になっている。個人的には、リュージュ教諭が適任だと思うのだが…。」
そう言われてギョッとした。
唯一の苦手とする魔道薬学「グラスィディ・セラピア」の担当女性教諭の名前である。
正直、勘弁してもらいたい人物であった。
ついウトウトとしてしまったものか、そんな難題が夢となって現れてしまったようで、いつの間にか寝入っていたようだ。
既に消灯時間は過ぎ、第三図書院「リソクソス」の明りは落ちている。
人気も無い。
書物に囲まれ、眠気まなこを開くと、そこに人の気配を察して身を潜めた。
何やら小声で言い争いをする男女の声と思しい…。
こちらからは死角となっており、書籍棚に遮られ、その様子を窺う事が出来ない。
しかし、その会話の内容は何やら不穏な空気が漂っており、コースケは耳をそばだてる。
猜疑心を募らせ、問い詰めようとするのは女性の声か?
「…我等の故国…摩皇軍を滅ぼした罪…次は…この学園に災いをもたらそうと言うのか?…。」
よく聞き取れない。
コースケは興味本位で、気付かれまいと距離を詰める。
差し足、忍び足で、書籍棚の背に張り付く。
男が持つ手持ち外灯の朧げな明りが、彼等の顔を通路に浮かび上がらせている。
その男の顔は知らない。
だが、相対する女性の顔には見覚えがあった。
声を聞いて、何故に気付かなかったものかと、少し後ずさる。
和装の姫衣が映える「リュージュ・ディヴァーナ・ミュナ教諭」の叱責に、男も怯む。
「…学園長が許しても、アナズィトンの果実(教諭会)は、あなた達を認めないわ!」
「いや、待ってくれ、リュージュよ。これは中央大陸全体の危機でもあるのだぞ?」
何を言おうと聞く耳持たずとばかりに、リュージュ教諭は突っぱねた。
普段の彼女からは想像も出来ぬ興奮ぶりであった。
そう言えば、故国がどうとか聞こえたが、リュージュ先生は南東諸島群の出身であるらしい。
今、話している男の風貌や言葉使いも、どことなくそう感じる所がある。
ならば同郷の者なのか。
「…ともかく、私達が見張っている事を忘れないことね?何かあれば、私達があなた達を学園から追い出す事になるわ。」
言いたい事は言ったとばかり、リュージュ教諭は踵を返して去っていった。
となれば、コースケも用心しながら来た道を戻ろうと視線を巡らせる。
ふと、視線が交わった気がした。
気のせいか?
様子を窺うと、どうやら男は2人いる事に気付いた。
今までリュージュ教諭を相手取っていた愚直な口調の男とは対照的に、もう一人は極めて理知的な印象を与える。
その眼差しは、まるで焔を宿しているかのように赤い。
「…いいさ、今は引こう。我々は今、出来る事をするまでだ。アルソフェミリアン殿との契約を果たすまで…。」
自らを諭すように、怪しき風体の男達が背を向け、闇に溶けて行った。
ただならぬ場面に出くわしてしまったようだ。
一体、何が起こっているのだろうか…。
南東諸島群の国々は閉鎖的である為、その内情は伝わって来ない。
だが先日の7月中頃、中央大陸全域に及ぶ大津波の影響で、湾岸部の各都市は甚大な被害を被っていた。
その発生源が南東諸島群であると推測され、様々な憶測を呼んでいる。
とは言え、他国を憂う間もなく、この「自由都市連合」の集う「アヴギ(暁)平原」とて、第壱帝国総軍の侵略を前に戦々恐々(せんせんきょうきょう)としていた。
何よりも、彼の「聖ラムサ王國」(ハインリッヒ・ラムサ・ケーニクライヒ)陥落の報は著しいものがあった。
各国が間者を派遣し、情報収集に躍起となっている。
コースケは想定する。
「自由都市連合」の中心たる学園都市「ウィラ」に潜伏する者達がいるとすれば、それは帝国に与する者と見て間違いはあるまい、と。
今は国々の垣根を取り払ってでも、帝国と言う脅威に対抗せねばならない最中である。
だが「アナズィトンの果実(教諭会)」が彼等を警戒しているのならば、その尻尾を見せるのも容易ではあるまい。
しかし、相手が生徒ならば?
…僕が奴等の正体を暴いてやる。
そう心に決めたコースケであったが、ともかく締め出された「キポス・エパヴリ(学生寮)」に戻れるかどうか、それが今一番の悩み事ではあった…。
翌日、寝不足ではあったが、1時限目の講義に遅れる事なく席に就く事が出来た。
残念ながら、朝食の機会を逃したが。
隣席には同寮生の「リーツテラ・カロケリ」が寝ぼけた瞳で本を開いている。
その髪もボサボサだ。
魔道力学「ヴィヴリオ・マギアス」に於ける「物理反射と構築領域の限界指数の定義」と言う、どうにも眠気をもよおす内容だが、限られた空間に展開出来る術式の許容量と密接に関わるもので、とても有意義な講義である事は間違いない。
ただし、あの「ヘリヲカル・ケラヴノス教諭」の眠りを誘う口調が無ければの話しだ…。
だが、今日の講義はいつものようには始まらなかった。
と言うのも、この時期には珍しい編入生を迎え入れた為だった。
単位の取得などは絶望的であろうが、特別措置がないとも限らない。
「コースケ君、彼を頼むよ。席は君の隣がいいだろう。古い物で悪いが、本は去年の物を使ってもらおう。」
「分かりました、ヘリヲカル先生!」
壇上で戸惑う少年の手を取り、コースケは意気揚々と自席へと舞い戻った。
ここで、ヘリヲカル先生に恩を売るのも悪くない。
それが「スポロス・エナ(1学年主席)」の義務でもある。
「よ!俺、リーツテラ。リーツって呼んでくれ!」
隣から口を挟むリーツテラ・カロケリを押し出し、コースケは編入生の席を確保しようとテーブルを詰める。
対面席の女生徒達、特に「カナリニ・コリツィ」から非難の声が上がるが、一睨みするとそれも収まった。
「あ、ありがとう…。」
「僕はコース・ケオ・ズィームルグ。何か分からない事があったら聞いて。後で学園を案内するよ。えーと、君の名前は?」
彼は照れ臭そうに顔を赤らめ、自らの名前を口にした。
「僕はナウリ、ナウリ・ヴォルケーノ・ラウムです。どうかよろしくお願いします。」
はにかんだ笑顔と、その丁寧な口調に共感を覚え、彼等が親交を結ぶことにさほどの時間はかからなかった。
「珍しい名前だね?どこから来たの?」
「えーと、お兄ちゃんと一緒に南東諸島群のサフィナノフ島からだよ。」
トンと聞かぬ地名を耳にして、余計にコースケは興味を惹かれた。
何よりも、ナウリから感じる霊圧の、何と異質なカタチか。
何かを隠すかのような揺らめきの、その深淵に潜む魂の「キマ(波長)」。
そして、中途入学にも関わらず、彼の「イディオフィィア(記憶視野領域特化)」は「スポロス級(1学年)」でも飛び抜けていると評価された。
コースケが見る限り、どちらかと言えば、過去の記憶と照合しているかのような印象を与える。
それに教諭陣は誰一人として気付いていない。
奇妙な少年であったが、度を超えた天然発言も時折あり、皆と打ち解けるのも早かった。
ある種、コースケにとっても良い触発になり、より勉学に励む結果となっていった。
そんな数日が過ぎ、心に決めた筈の決意を忘れ始めていたある日、新規赴任となる教諭が登壇した。
事前の報告も無しに、ハセリオート教授は、彼がコースケの専任の魔道適性を評価する後見人に決定したと告げる事になる。
それを受けてギョッとした。
「本日から、魔道力学「ヴィヴリオ・マギアス」の教諭となって頂きます。しばらくは、私の講義の補佐をして頂く予定ですが、休養中のユルフ・C・イリア教諭のフォティア・プネブマ(火の因子)の講義を引き継いで頂きます。」
ヘリヲカル教諭に紹介され、その男性が一同を見渡した。
いやに冷静な雰囲気を漂わせ、優雅な物腰で口を開こうとする。
その眼差しには焔が宿っている。
視線が交わった気がした。
そこで、はたと気付く。
その相貌はまさしく、あの夜に遭遇した男達の片割れである事に…。
まさか、教諭として潜り込んで来たと言うのか…しかもそれが、僕の専任教諭だと言うのか?
ただならぬ様子を見て、同席のリーツと、ナウリがその身を案じた。
「ああ、大丈夫だ。気にしないでよ。」
「だけどお前、すごい顔色悪いぞ?薬もらってこいよ。」
リーツ、君が顔のこと言うな。
…いや、今はそれどころでは無い。
気分は悪いが、この胸の騒めきは止められない。
薬と言えば、魔道薬学「グラスィディ・セラピア」のリュージュ先生に、何とはなしに聞いてみるのも手の内か。
「えー、皆さん、私語を慎むように。ユルフ教諭は体調を崩しておられますが、来年の始めには復帰しますので、心配はいりませんよ。」
騒つく生徒達をヘリヲカル教諭が制する。
珍しく、この老教諭が顔を上気させ、その場を鎮めようとしている。
「では先生、お願いします。」
「はい。本日より着任したヒビヤ・ホスアンだ。よろしく頼む。」
誰を見てか、不敵に彼は笑った。
その視線から逃れるように、コースケは本に目を落とす。
だが、この宣戦布告から僕が逃げ出すと思ったら大きな間違いだ。
必ず正体を突き止めてやると、新たに誓うコースケであった…。
(^ー^)ノ学園編の主人公(?)はコースケかな?




