シナリオⅣ 4 前章 第10話〈前編〉
(^ー^)ノ前章最終話の…前編ですっ
シナリオⅣ 4.10〈僕らには皆運命があるのか、それとも風に乗ってただ彷徨ってるのか?
たぶんその両方だろう。両方が同時に起こっているんだ〉
I don’t know if we each have a destiny, or if we’re all just floating around accidental-like on a breeze. But I think maybe it’s both.Maybe both are happening at the same time
草創歴0449年7月(7/15)〈前編〉
天蓋は裂かれ、大地に破滅の牙が穿たれた。
頭上から降りかかる災厄から逃れる術も無く、この圧倒的な質量は「ツウジュ(雛菊)島」を押し潰し、その首都「ギーズィア」を圧壊せしめたのだ。
「摩皇軍」の、周辺国とは一線を画する先進文明は、今この刻を以って終焉を迎えたかに思えた…。
火柱が迸り、黒煙と土煙とに覆われ、被害の規模は杳として知れない。
流入する海水が渦巻き、その怨讐の声を飲み込んでゆく。
もはや絶望的な風景に相違なかった。
それを顧みる猶予もなく、虚空蔵級改装零号機「摩多羅號」は最大船速を維持したまま、「ソウティウス(星辰公)エンジン」を臨界まで稼働させる。
レーヴ・ソムニウム曰く、「円盤型重力変成機関」は人の思いを実現化する機能を持つと言う。
眉唾ものと言われようとも、今はそれに頼る他は無かった。
また、出力ゲインは不安定な数値を示している。
これはヒビヤ・ホスアンが搭乗してより続いており、彼と言う不確定要素による影響であろうか?
「皆さん、聞こえますか?私、レーヴです。現在、この摩多羅號は、ミレミアザ区に進路を取っていますが、最大船速を以ってしても、目的地到達に要する時間はゆうに3時間を越えます。」
複座式全天周コンソールの制御に手一杯のレーヴであったが、指定座標の修正と制空操作だけなら、副座に座するナウリ・ヴォルケーノ・ラウムでも十分であった。
ほんの数週間でナウリは、それらの技術を習得するまでになっていたのである。
しばらくは彼に任せ、スロットルを移譲する。
ナウリの顔が引き締まる。
「つまりですね。このまま、御霊山に向かったとしても、敵の妨害は厚いと予測出来ます。なので、皆さん、私を信じて願ってもらえませんか?」
…レーヴの言葉を電子音が繋げる。
「そうですね…御霊山の中心へ、御霊へ、敵の懐へ、とね。」
船倉待機区画の簡易ロビーで顔を見合わせる一同。
とは言え、ここに詰めるのはヒビヤを始めとして、護法天道(ディ-ヴァ)の二人を含めた三人のみ。
そもそも、願うなどと言う曖昧な言葉で、何をどうしろと言うのか?
「いいじゃないか、このまま突っ込めば。生き残った奴が御霊を封印する。それでいいんじゃないか?」
異を唱えるはマカ・ロン・タオであった。
もっとも好戦的な護法天道(ディ-ヴァ)の「明王位」である。
それも一理あるが、三時間と言うこのロスタイムは、「鎮政府」に残ったヒカル・マデュスティック・リユセ達の不利益にならぬとも限らないのだ。
「…試すだけならば、やってみる価値はあるだろうな。」
これを覆すは、最高位たる「如来位」レン・トゥス・セントマリアであった。
冷静沈着なるその言葉を受けて、マカ・ロン・タオがそっぽを向く。
レン・トゥス・セントマリアの肯定を受けて、ヒビヤも頷く。
「願えば叶うと言うのならば、幾らでも願おうではないか!」
思いは定まった。
誰からともなく、三人は掌を重ね合わす。
…瞼を閉じ、願うは一つ。
己が心眼を以って、かつての「御霊山」を思い描く。
先の熾烈な戦のただ中、ヒビヤは何も出来ず、ナウリと共に庇護されるに留まった。
あの場所へ今一度、戻るべく請い願う。
今では、どのような姿になっているかも定かでは無いものの、その強き思念が「円盤型重力変成機関」と結びつき、次元を超越せしめる。
それは彼の「太陽を統べる者」(ジ・ヘリオドムス)に起因するものか、はたまた別の要因に由来するものなのか?
それを成すのは「有の力学」(アクィジッシオ)。
レーヴ・ソムニウムが「北極の学問の塔」(コネサンストゥール)で研究し続けるこの題材は、かつて彼がこの南東諸島群で見出した「夢」の産物であった…。
それは「御霊」とも密接に関与する力である。
「魔道の徒」(マーゴアンジェロ)の十傑に名を連ねるレーヴは「超霊者」でもあり、その年齢は見た目通りのものではない。
そもそも見る者により、その容姿が異なる事を、どれだけの者が知るであろうか。
その真の姿を見抜いたのは、「もっとも神に近しい者」と称される、レン・トゥス・セントマリアのみだ。
引き合う因子により、歪む世界の調律。
しかし、それは憎悪の念を以って、ヒビヤの精神を飲み込まんと凌駕する。
「…この憎しみは…一体!?」
あまりの一方的な憎しみの念。
群れなす憎しみの群生体が、歪む世界に吠え立て、ヒビヤを翻弄する。
「なぜ、私を憎むのか?」
理由は至極明解だ。
ヒビヤ・ヴォルケーノ・ラウムが「ラーマス族」の血を引くからこそである。
だがそれは同時に、ヒビヤをその地へと引き寄せる経路ともなった。
即ち、かつての「御霊山」の中枢、幽閉された「御霊」の元へと、だ。
猛り狂う「御霊」は怒りを糧として存在する。
怒りこそが、その存在理由である。
何故なら、かつて彼等はこの地上に繁栄をもたらした「東方鬼道」を成す世界そのものであった。
もはや、痕跡さえも残さぬこの国家は、元より幻の国家とされてきたが、その終わりの日は唐突に訪れた。
帝歴1120年、巨大移民戦艦が墜落し、これに押し潰され、その世界そのものが消失を迎える事になる。
だが、形を失った世界は、これを成したラーマス族への憎しみを根源とし、この地に現れ出たのが冬歴1803年の頃。
御霊は暴走し、「ノレアの神位」を持つ「日弓の巫女」がこれを封印したのが「御霊山」である。
人々の魂の群生のみならず、鬼道と言う国家そのものが集約された、この世界に焼き付けられた残像とも言うべき、究極の存在。
それを祀るべく興されたのが鬼道院であり、今の「法王院」である。
「…ラーマス族の末裔を滅ぼし尽くすまで、その存在はあり続けると言うのか?」
ヒビヤは否応無く理解した。
理解すると同時に、彼は自身が何者かに囲まれている事に気付いた。
それは「呪操社」の占者たる母体等であると察する。
この御霊の中にあって、「式神」ではあったが、その本体である「モタイ・メノウダイ」もまた、図らずもラーマス族であろう事を理解するヒビヤ。
御霊の憎しみがヒビヤのみならず、母体までも浸食し、その精神を蝕んでいるのだ…。
『我々は…御霊の力を得た今…何者にも脅かされず…屈せず…。』
狂気に支配された母体等を相手にするには多勢に無勢か…。
幾数人もの、黒き和装の衣を纏いし者達の包囲がジリジリと迫る。
「それを、エポナロッド・キロペーに利用されていると知ってもか?」
『…構わぬ…何より…御霊の怒りを活性化させるに…カインの娘たるあの女は必要不可欠なのだ…』
だが、その襲撃を蹴散らしたのは、この場に乱入した「摩多羅號」の船体であった。
彼等もまた、ヒビヤの思念を追う形で時空を超越し、御霊の内部への侵入を果たしていたのである。
「ヒビヤ殿、掴まれっ!」
後部ハッチより手を伸ばすは、レン・トゥス・セントマリア。
『やっと俺様の出番だなっ!!』
言うが早いか、その影が伸び、レン・トゥス・セントマリアとヒビヤの手を繋ぐ。
ヒビヤはウリュウ・テウスズウと共に開口部へと吸い込まれた。
土蜘蛛は、ここぞとばかりの笑顔を覗かせる。
その時分にも、霊子機関「ティアマトの瞳」に融合されつつある「鎮政府」にて、死闘が繰り広げられていた…。
いつ果てるとも知れぬ戦が続く。
「曠野虎軍」の武者達は劣勢を余儀なくされ、書院青藍之間にまで撤退する。
だが、その中にヒカルを含め、勇猛果敢な者達の姿は無い。
無限に湧き出るかのような「鬼兵」の軍勢を引きつけるのが彼等の役目であり、オリファ・シピンを守りながらの、素早い引き際であった。
それは彼等の大将、レオ・カーラルト・バイセの指示によるものだ。
そのレオはレーヴ・ソムニウムの立案通り、ヒカルとテリオと共に「ティアマトの瞳」の中心、魂魄抑制中枢を目指す。
だが、正殿へと続く筈の「鎖之間」の回廊は果て無く、その先を見通せず。
「この道は、どこまで続くのか?」
「その疑問はもっともなり!」
テリオの疑問にヒカルが同意した。
「確かに、とうに天馬之間に至っていてもおかしくは無い距離を踏破している筈。」
レオは視線を巡らせる。そもそも、目に見える景色を信じるに能わず。
霊子によって上書き、構築された今の「鎮政府」は、いわば国家当主「キースヴェルヌ・スウイツエ・シピン」の思うがまま。
しかし、レオは足を止めない。
彼には何が見えているのだろうか。
「レオ殿っ!?」
「…私の後に続いて下さい。私の『持国星』が道を開きましょう!」
先頭をゆくレオの「六世奥義」が覚醒する。
その瞳に映し出される「持国星守護」の調律が、キースヴェルヌの世界に強制介入を果たす。
四星に於ける、この最上位血統因子を以って、レオの瞳の虹彩が「象牙色」に染まる。
これこそが「白家」の宝刀と謳われるバイセ一門の奥義。
だがそれも先代アティルフィア・カーラルト・バイセ以降、血縁が途絶え、属領主は懸命に『持国星』を受け継ぐ者を探し出した。
それが下層民出身のレオであったのだ。
レオの瞳がキースヴェルヌの霊子を透過する。
「これぞ、白家提頭頼破邪!!!」
世界を調律する「玉竜眼」が第六次元の壁を飛び越える。
家宝「曠野虎刀」が六次元進化を経て、その真価を発揮した。
目に見ゆる変化はなけれども、六次元での形状は神々しいまでの光の刃。
ザシュッッーーーー!!!
その一撃によって砕け散るまやかしの景色…その向こう側に広がる霊子の奔流が噴き出し、これに巻き込まれるヒカルとテリオ。
まさしくそれは一瞬の出来事であった…。
「レオ殿っ!?」
この場に引き摺り出された事は、キースヴェルヌにとって不本意この上ない事であったが、よもやの調律力に抗う術もなく、いまや丸裸にされたも同然か。
それでも、事前にトラップを仕掛けていた事が功を奏した。
ヒカル、テリオ、レオの三名は別々の霊子空間に閉じ込められ、この檻によって封ずられていた。
「ぬうっ。図られたかっ!?」
テリオの苦鳴をキースヴェルヌは笑った。
「こちらも動けぬでござるっ!!」
頭上に見上げる三人の男は身動き取れず、封印空間に手足を縛られたまま留め置かれている。
この場は魂魄抑制中枢。
霊子機関「ティアマトの瞳」の中心である。
彼等の前に姿を現したキースヴェルヌは、変わらぬ天色の王衣を纏いて悠然と浮かび上がった。
彼等が手足を動かす前に、ほんの少しでも歪みに干渉してやれば、その四肢は空間もろとも砕けよう。
本人達にしてみれば、まるで凍傷にかかったかのような感覚に相違ない。
『手足が無くば、予にどうやって一撃を加える?』
憂慮すべしは宮廷魔術士ヒビヤ・ホスヤンのみであり、案の定、奴は御霊の元へと向かった。
ならば彼等、猪武者 如きに遅れを取る我では無い。
『もはや、予の願いを妨げるものは無い。』
「御館様っ!何故、我々を裏切った?ケルーナー法治国家をも犠牲にしてまで、何をしたかったと言うのかっ!?」
空中に留め置かれたまま、ヒカルが吠える。
それは彼の心の叫びと知れた。
『…与えられた国に何の価値があろうか?そもそも、我らがシピン家は、貴様が考えているような高貴な出自では無い。』
それは自嘲でもあった。
怒りに震える男達を前にし、優雅にも双刃の「護摩双独鈷陣」を構える。
『予の妹を惑わす不貞の輩、ヒカル・マデュスティック・リユセよ。その首を貰おう。』
フワリと浮き上がり、その刃をヒカルへと向ける。
冷ややかな刃が、彼の首元に押し当てられた。
「くっ…。」
絶体絶命のこの刻、身動き出来ぬヒカルの腰元に吊るされた鞘より、ひらりとその愛刀「日月相刻杵」が引き抜かれ、キースヴェルヌの胸中を貫いていた。
『ば…馬鹿なっ…??』
思いもがけず、その刃を左手で掴み取る。
そして驚愕する。
その柄を持ち諍うは、我が妹たる「オリファ・シピン」の姿であった。
馬鹿なっ…お前は、武者共に守られ、青藍之間にいた筈が…。
「…兄上、国を滅ぼしてまで得るものに、何の価値がありましょう。」
オリファはヒカルの影に潜伏し、その刻が訪れるのを待ち構えていたのだ。
そうとなれば、もはや陽動の必要も無くなり、マルティウス・ケントゥルムは擬態を解除した。
場所は青藍之間。
周囲の虎軍の武者にも動揺が走る…。
「貴公等、気にするな。引き続き、私を守るがよい。」
彼の「致死の麗髭」(ハールギフト・フリューゲル)によって、オリファの血液を培養し、彼女そのものに擬態するなど、祖王にとっては造作もなきこと。
とは言え、これはオリファが「永劫種」となっていた事で可能とさせたもので、でなければこの企ては、「ティアマトの瞳」と一体化しているキースヴェルヌに通ずる筈も無かった。
『罠を張ったこの予が…逆に罠に嵌った…か…。』
力を失い、堕ちゆくキースヴェルヌ…。
オリファはそっと手を離す。
手を離した瞬間に、彼の肉体が消失した。
その肉体を構成する霊子が解け、霧散する。
カランッ…カランカランッ…。
「日月相刻杵」が乾いた音を立てて転がった。
だが、突如に浮かび上がる巨大な威影。
「これはっ…!?」
『もはや、予の肉体は物質界から解き放たれ、この全ての霊子が予そのものと等しいのだ!』
それは空間を歪めながらも、見上げんばかりに伸びてゆく…。
『愚かなる妹よ…もはや、お前も要らぬ。消え去るが良い。』
冷酷な刃がオリファに向けられた。
その刃も巨大と化している。
「姫君っ!!」
ヒカルは、身も砕けよとばかりに吠え猛た。
それを嘲笑うべく向けた瞳に映る、砕け散る霊子の檻の有り様。
『!?』
レオの「曠野虎刀」が霊子の壁を駆逐していた。
元より、彼の『持国星』を以ってすれば、その調律によって解除するは容易きこと。
「ヒカル殿っ!テリオ殿っ!私が道を開く!!」
…全てはこの一瞬の為に。
「提頭頼破邪天部!!」
その一刀がヒカルとテリオを解き放ち、返す刃がキースヴェルヌの胴体に風穴を開けた。
『貴様等っ!?』
霊子の屈折により、歪められた空間と空間とを繋ぐ、それが唯一の血路。
風穴の先に見出されるのは、八面体の煌めく集合核。
「うおおおぉぉぉ!!!」
その血路を閉ざさんとする霊子の構築に抗い、その狭間に産み出された「朱剣」の紋章。
それこそ、テリオが放った『毘』の発現である。
「ヒカル殿、任せるぞっ!!」
応!と、ヒカルが躍り出る。
そこにある愛刀「日月相刻杵」の柄を握りし締めると、手と手が重なり合った。
ヒカルとオリファによって掲げられ、刀身が熱く燃え滾る。
「ヒカル様…。」
「オリファ殿…。」
見つめ合う互いの瞳に宿る決意。
二人は躊躇う事なく、その刃と共に駆け抜けた。
ガキィィィ…ィィィン!!
皆の思いを乗せた刃が、見事に中心核を両断し、キースヴェルヌの精神を打ち砕いた。
激しい鳴動と共に光が溢れ出す。
目も開けられぬ閃光が一同を包み隠し、久遠へと押し流していくのであった…。




