シナリオⅣ 4 前章 第9話〈後編〉
(^ー^)ノ御霊編…後編。
シナリオⅣ 4.9〈僕らには皆運命があるのか、それとも風に乗ってただ彷徨ってるのか?
たぶんその両方だろう。両方が同時に起こっているんだ〉
I don’t know if we each have a destiny, or if we’re all just floating around accidental-like on a breeze. But I think maybe it’s both.Maybe both are happening at the same time
草創歴0449年7月(7/15)〈後編〉
鎮政府の正面に位置する「歓会門」は、もぬけの殻であった…。
ましてや、閂さえも無く、堂々と開け放たれているのだ。
ならばと、テリオは鬼兵を進軍させ、「天之御庭」を占拠させる。
だが、ヒビヤはどうにも違和感を覚えた。
そもそも、先行した筈の「大胎蔵級」は何処へ消えたのか?
この城塞に一切の破損は見受けられない。
頭が霞みがかったかのようで、どうも思考がはっきりしない。
「法王院棺護軍」の迎撃も無かった。
「…何かがおかしい?」
だが、何がおかしいのかが判別がつかない。
正殿に至るまでの道すがら、そんな感慨に浸りながらも、ヒビヤは意識を全方位に広げる。
先を行くテリオの背中を追いながら、これと言った異変は察知出来なかった。
少しばかり…神経質になり過ぎたのか?
『おい、兄さんっ!何やってる?ここはティアマトの瞳の中だぞ!!』
ハッと、意識が急速に覚醒した。
それを妨げんと、突如として、従えていた鬼兵の刃が振り下ろされる。
「!?」
あと数秒遅ければ、一貫の終わりであったろう。
「何でもっと早く教えないんだ、土蜘蛛めっ!」
『…俺様、まだ本調子じゃないのよね…。』
建造物内部での連続転移は危険極まりなくもあったが、何分、この「鎮政府」の構造は知り尽くしている。
刃を受ける寸前、相位空間に我が身を投げ出し、忽然と姿を消す。
次いで、前方のテリオを横から掠め取った。
灼熱の火種を置き土産にし、ヒビヤはテリオを伴いて、書院「青藍之間」に抜け出す。
ドドドドォォォ…ンンン。
足を着けたと同時に、残せし鬼兵等を爆炎が吹き飛ばした。
「ヒビヤ殿!これは一体っ!?」
「恐らく、既に鬼兵等は何らかの手を打たれ、敵方に堕ちていたのだろう…。」
テリオもまた九死に一生、刃を振り下ろされんばかりであったのだ。
「そして恐らく、この目に見える景色もまた、まやかしに相違ない。」
ヒビヤの結界因子、「太陽を統べる者」(ジ・ヘリオドムス)によって灼熱が迸り、周囲の霊子を焦がし、「青藍之間」のありのままの姿を白日の下に晒し出す。
「ここはっ!?」
二人が立つ場所は、まさしく「青藍之間」の残骸であった…。
霊子機関「ティアマトの瞳」は鎮政府そのものを飲み込み、キースヴェルヌの深層心理を反映している。
霊子によって再現された「天色」の鎮政府は、行き交う人々の顔も笑顔に満ち溢れていた。
そこには怒りも、悲しみもなく、絶え間無く降り注ぐ陽光を遮るものもない。
「天馬之間」の玉座に座するキースヴェルヌの心は晴れやかであった。
居並ぶ摂政官等も、我を「御館様」と祭り上げてくれている。
だが、その全ては虚構の存在…。
そこにある我が妹、「オリファ・シピン」もまた偽りの投影。
そこに存在しない。
『宮廷魔術士よ!予に逆らう愚か者よ!大極を見極められぬ貴様に、我を止める資格はない!』
霊子が渦巻き、「青藍之間」を再構築すると共に、その場にキースヴェルヌが現出した。
「…キースヴェルヌよ、大極以前に、貴様の行いに大義はない!それに従う道理もあるまいっ!」
ヒビヤの言葉は的を得ている。
だが、それは互いに水掛け論か。
『予は、このケルーナー法治国家の国家当主なるぞ?貴様如きの讒言、聞く必要あるまい?ましてや、そなたは海府の郷 (ニライカナイ)の間者であろうが?』
嘲笑うキースヴェルヌを、一刀の元に斬り伏せる抜き身の刃。
テリオの「切支刀」が、有無を言わさず胴体を両断する。
ザシュッッ!!
だが、この手応えの無さは何か?
まるで霞を斬ったかのようだ。
「テリオ殿、これは霊子の投影体。本体に非ず!」
「何とっ!」
粒子を切り口から撒き散らし、キースヴェルヌは嘲笑った。
『フフフ…如何に抗おうとも、もはやそなた等は我が手の内の中。何処まで抗えるのか見ものよな…。」
この「ティアマトの瞳」に入ったが最期、全てはキースヴェルヌの思うがままか?…迫り来る軍靴の足音。
残して来た「鬼兵」100兵がヒビヤとテリオ、両名を取り囲む。
場所は「天之御庭」に移り変わっていた。
「これは…やりたい放題と言うわけですか?」
呆れてしまう程に、成すがままにされている。
「鬼兵」を支配するのは、その装甲を構成する「形状記憶赤合金溶液」に含有される鬼脈の波動。
今や鬼脈の波動はモタイ・メノウダイによって牛耳られており、これを通して再利用魂魄を汚染し、支配せしめていたのだ。
恐らく、こうなる事を前提として「禽獣座」は、この新技術を導入したのであろう…。
「ヒビヤ殿!例え、幾数百の敵、それが同胞であろうとも、このテリオ・オーガ・ハナ、一歩たりとも引かぬ覚悟っ!!」
ハナ一門の男子として、テリオは言い放つ。
背を預ける者としては、全くもって頼りになる男だ。
いつまでも引き篭もっている土蜘蛛とは大違いだよ。
『フフフ…その強気、どこまで続くかな?そもそも、このアイゾンゲウアイスオ島が向かっている先を貴様等は知るまい?』
…嫌な予感がした。
『そう…今、我らの足下には、テリオと言ったか?そなたの祖国、摩皇軍がある。』
首都「ギーズィア」を内在するツウジュ(雛菊)島はその日、浮島により陽の光を遮られ、まさしく真昼の夜を迎えていた。
この天変地異に巻き込まれ、混乱が生じる「ギーズィア」。
『今ここで、ビイアンフ区だけを切り離したらどうなると思う…?』
地表より100kmの成層圏ギリギリに位置する本州島アイゾンゲウアイスオ島。
この高度から、ピンポイントで大地を降下させようと言うのか?
重力に引かれ、その落下速度は加速度的に増し、衝突すれば地殻を抉り、溶岩層にまで達しよう。となれば、被害の程は計り知れまい。
テリオの顔が蒼白となる。
『多くの民の命と引き換えに、それでも我を討つ覚悟が、そなたにあるのか?』
キースヴェルヌの余裕はそれに起因するのか。
ヒビヤとて、ぐうの音も出ない。
キースヴェルヌの本心は図り知れず、また、テリオの決断も予測出来ない。
「…ここまでか。」
戦意を奪われた。
もはや、これ以上は戦えまい。
だが、それはヒビヤの勝手な憶測でしかなかった…。
「我々、ハナ一門はっ、如何なる脅しにも屈せぬっ!何故なら摩皇軍は、御霊に悪意を以って接する者達を駆逐するが定め!あらゆる犠牲も厭わぬっ!!」
ヒビヤは、テリオを侮っていた事を後悔した。
そしてまた、心の僅かな所で、かつてのキースヴェルヌを信じていた自分に絶望した…。
地響きがアイゾンゲウアイスオ島を揺るがし、彼等を震撼させる。
まさかとの思いも強い…。
『これはそなたが望んだ結果よ。悔いはあるまい?』
浮島の南東端、ビイアンフ区が地殻から切り離されてゆく…。
それは想像を絶する規模の風景であった。
だが、それをそうとヒビヤ達が認識出来る筈もなかったが、この悲劇は全て、キースヴェルヌとテリオとの問答により引き起こされた結果でもある。
テリオが戦慄く。
テリオ一人に、その責を背負わせてしまった事実に、ヒビヤもまた苦渋を飲み込んだ。
ヒビヤの眼が焔に揺れる。
「…今、この瞬間に私の中で、ケルーナー法治国家に対する最期の忠誠心が喪われたっ!!」
もはや何の躊躇いも無い。
この男を討つには、霊子機関「ティアマトの瞳」そのものを破壊する他あるまい。
でなければ、内部から脱出する手段も無い。
『やって見せるが良い!この我を、見事に討ち取ってみせよ!』
キースヴェルヌのその余裕が、侮りが、この地に風穴を開けた。
予期もせず、霊子の壁を打ち砕き、それが上空から舞い降りる。
粒子を引き裂き、その妨害を挫く。
「あ、あれは、まさかっ!?」
…ヒビヤは絶句した。
まさかの事態に「鎮政府」を形作る霊子も震える。
ましてや、己が思念が構築した異次元にも等しいこの場所に、如何なる異質な手段で乗り込んで来たと言うのか?理解出来ぬ現象である。
複座式全天周コンソールを操作しながら、レーヴ・ソムニウムは大笑した。
「私の開発した、この重力変成機関を侮ってもらっては困りますね。」
夢改変機構の「有の力学」(アクィジッシオ)を流用した力場を広範囲で空間に固着させ、その領域を半永久的に占有する有効性の実証。
「先生!出力、順調に安定値内です。」
再調整に20日も掛かってしまった。
その間、ナウリ・ヴォルケーノ・ラウムはレーヴを師事し、機体の整備によく協力していた。
「よし、ナウリ君。後部ハッチ開放だ。」
「はい、先生!」
レーヴの指示に従い、ナウリは操縦以外のほぼ全般の制御を担当するまでになっていた。
元々「海府の郷」(ニライカナイ)出身ゆえにか、物覚えが良いとレーヴは感心しきりである。
虚空蔵級改装零号機「摩多羅號」船体下部の開口部が開く。と同時に、「素粒子誘導熱線」が幾十筋も船体側面から放たれた。
ドドドド…ドドドドォォォーーーン!!
玉砂利を吹き飛ばし、眼下の「鬼兵」を薙ぎ倒す。
尚且つ、後部ハッチから加勢に出陣する武者集団は200名。
揃いの虎面の鎧兜を纏いしは、「曠野虎軍」。
「法王院領カーラルト」が擁する虎軍の軍勢である。
「我ら、曠野虎軍は義により、ケルーナー法治国家に反旗を翻す!!」
宣言するのは、これを率いる「白家」の和子、レオ・カーラルト・バイセである。
この逞しき若武者は、義父アティルフィア・カーラルト・バイセを討ち、野に降ったものの、様々な邂逅を経て、この「摩多羅號」に同乗する運びと相成った。
その経緯は説明すると長くなる為、ここでは割愛するが、「鬼兵」との交戦は既に繰り広げられている。
「行け!我らに敵は無しっ!!」
「「「おおおおぉぉぉお!!!」」」
鬼兵は強靭なれども、虎軍の武者の戦意も極めて高い。
その一端は、この先陣を切って戦に加わった猛者の剛勇が伝播したものか。
忘れもせぬ、その愛刀「日月相刻杵」を振るい、緑光石色の剣閃にて両断する、電光石火の如き剣技。「法王院棺護軍」最強の男。
「緑光石のリユセ」と称される、かつての大将「ヒカル・マデュスティック・リユセ」の凱旋であった。
「ヒカル殿っ!何故、ここにっ!?」
「遅れてすまぬ、宮廷魔術士殿!!」
無論、この邂逅を喜んでいる場合でもない。
しかし、変わらぬ彼の勇姿が心を奮い立たせるのも事実。
「まことに、このヒカル・マデュスティック・リユセ!御館様を止められなかった事は、一生の不覚なれば!どうか、この決着を、この手でつけさせて頂きたいっ!!」
「し…しかし…。」
ヒカルは鬼兵等を振り払い、レーヴ・ソムニウムの計算では、この「ティアマトの瞳」を止めるだけでは意味を成さぬとの旨、手短に伝えた。
「ティアマトの瞳」と、これに霊子を供給する「御霊」とを同時に止めねば、この浮島を支える力場が崩壊する可能性が高いとの結論に至ったとの事。
恐らく、それに間違いは無かろうが、この「ティアマトの瞳」を破壊すると言う事は、それに伴うリスクもある。
それは私と、私の中の土蜘蛛にも関与するものだ…。
「宮廷魔術士殿、今は一刻の猶予も無いのです!急ぎ、摩多羅號にて飛んで頂きたい!!」
確かに、同時にを謳えば、戦力を二分するが良策。
しかし、「御霊」を止める手立てを私は持たない。
だが、ここにエポナロッド・キロペーの姿が無い以上、彼女はそちらで待ち構えていると見て順当か…。
「それに、我々にはまだ協力者がいますぞっ!」
ヒカルの顔が輝く。
後部ハッチから、彼等がタラップを伝って降りてくる。
「…またお会いしましたね、ヒビヤ殿?」
紅緋の衣と、優雅さ極まるその佇まい。
「もっとも神に近しい者」と呼ばれる彼までもが、ここに居合わせるとは、何たる僥倖か?
思いもがけず、助け送り出したつもりが、ヒカル殿にはもっとも大きな苦労をかけてしまっていたようだ。
この分では、あの後、各地を駆けずり回って、味方を募っていたのだろう。
頭もあがらぬ…。
「レン殿。ご無事で何よりです。」
レン・トゥス・セントマリアは、マカ・ロン・タオを伴いて歩みを止めた。
「ヒビヤ殿。御霊を再度、封ぜねばなりません。その為にも、我等に同行して頂きたい。」
それは「御霊」を封ずる術があると言う意味か。
元より、法王院の護法天道(ディ-ヴァ)が最高位の「如来位」である。
そこまで言われては、断る理由も無い。
ただ、心残りは一つ。
「テリオ殿…あなたはどうされる?」
その返答は聞かずとも判ってはいたが…。
「我はここに残る。キースヴェルヌの最期を見届けぬ限り、我等が同胞の無念を晴らすべくもない。」
「そうか…ならば、必ずや生きての再会をここに誓おう。」
ヒビヤとテリオは固く手を握り合った。
その友情に偽りは無い。
「御霊山には、我が姉上もおられる筈。頼みましたぞ、ヒビヤ殿!」
相わかったと、その手を離す。
そして、ヒビヤと入れ替わるように、最後にタラップを降りて来たのは、この戦場に似つかわしくもなき姫君の姿であった…。
一度は見捨てた我が故郷に戻りた「オリファ・シピン」は、ヒカルに手を引かれて「天之御庭」に降り立つ。
その感慨たるや、いかばかりのものか?
だが、その覚悟は面を見れば分かろう。
「…兄上の此度の暴挙、我が命に代えても止めてみせましょう。」
「まことによろしいのですか、姫君?」
それが国を継ぐ者として、血を分けた兄と妹の定めであると、オリファは告げた。
「それに、私にはあなたがいますから…。」
照れ臭そうに顔を背けるヒカル。
さては、この奔走は彼女の為か…。
それもあながち間違ってはいないようで。
ともあれ、集った理由は様々なれど、互いに再会を誓い合い、我々は背を向ける。
この本州島アイゾンゲウアイスオ島と言う箱舟に、一蓮托生するわけにはゆかぬと肝に銘じ、「摩多羅號」は離陸を開始した。
目指すべくは、「御霊」を幽閉する「御霊山」へと…。
(^ー^)ノ次話…クライマックスの10話です。




