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シナリオⅣ 4 前章 第7話〈後編〉

シナリオⅣ 4.7〈僕らには皆運命があるのか、それとも風に乗ってただ彷徨ってるのか?

たぶんその両方だろう。両方が同時に起こっているんだ〉

I don’t know if we each have a destiny, or if we’re all just floating around accidental-like on a breeze. But I think maybe it’s both.Maybe both are happening at the same time


草創歴0449年6月(6/25)〈後編〉


さて、これからどうするかが問題であった。


「…して、どうする気ですか?」


レーヴ・ソムニウムは、しれ顏で聞いた。


現在、改修に取り掛かっている「虚空蔵級(ヨンユアン・ガン)」改装零号機が思いのほか、順調に出力値が上がっているとの報告を笑顔で受けた後で、だ。

今はデータ流用の落とし込みに入っているやら、何やらと、好き勝手出来てここは天国ですねと、設計図面に目を落とし込みながらである。

そう言うところは、研究者肌には合っているようだ。


再会を喜びはすれども、ヒカルは押し黙ったまま口を開かず。

何とも気不味(きまず)い沈黙が卓上を()める…。


ともあれ、謁見後に面会を求めず正解であったと言える。


「…少なくとも、姫君の居場所は判明している。だが、日を置けば、それだけ警戒されるのは目に見えている。」


「なるほど。足の方は問題ありません。私に任せて下さい。」


ヒビヤの言葉にレーヴが同調する。


はっ、とヒカルは顔を上げた。

なに食わぬ顔で、この二人がその結論に至ってしまった事に、またしても我が我儘(わがまま)に巻き込んでしまったとヒカルは後悔した。


「申し訳ござらぬ、お二方(ふたがた)っ!」


「…ヒカル殿、気にするな。」


ヒビヤはヒカルを(なぐさ)めた。


ヒカルが悔やむ(すじ)でもない。

ただ、ナウリを危険に(さら)す事だけが悔やまれ、憂慮(ゆうりょ)せし事案なれば、ここに置いてゆく訳にもゆかない。

不安に(たたず)むナウリと視線が合った。


「ナウリ…ただちに、出立の準備をしてくれ。」


「分かったよ、お兄ちゃん。」


慌ただしくなってきた気配を察し、影に潜む「ウリュウ・テウスズウ」も浮かれ始める。


『何だか、楽しくなってきやがったな!』


待て、待て、まだこの土蜘蛛の存在を摩皇軍(モゲウイジュンテウアン)に知られるわけにはいかない。


『俺様、最後の手段的な?』


そう、それだな。いざとなれば、お前だけが頼りとなろう。


『おお、兄さんっ、やっと分かってきたみたいだなぁ!?俺様をもっと頼れ、頼れ!』


一方、ヒカルの方に潜んでいる筈の「マルティウス・ケントゥルム」の音沙汰(おとさた)は無い。


『マル氏のやつ、寝てんじゃないかぁ?あいつ、見た目が若いの、ずっと寝て過ごしてるからじゃない?』


…そう言うものか?


そもそも、永劫種(アドラスティア)祖王(フォアファーレン・ ヘルシャー)を招き入れていると知られれば、それはそれで大問題であろう…。


なにせ、魔界族(ウリエアエネケン)に匹敵する脅威であり、生存圏で言わば、より近しい人類の天敵とされる存在である。

もっとも、想像していた存在とは、随分(ずいぶん)とかけ離れた印象ではあったが。


とにかく、思い立ったが吉日(きつじつ)、決行は夜半過ぎ。


ヒビヤとヒカルの両名は監視の目をかい潜り、どうにか禽獣座「錫杖之間」に通ずる降下台へと辿り着いた。

即日決行にて、こちらの思惑に勘付(かんづ)きもしようが、まさしく電撃的 ()つ、生き馬の目を抜く計画にて(あざむ)く。


レーヴとナウリは別行動にて、海洋 工廠(こうしょう)区画に潜入し、合流を()して別れた。


ヒカルを共ないて先行するヒビヤとて、首都内部の構造に詳しいわけではなかった。

だが、こうなる事は(おぼろ)げにも予測しつつ、ある程度の下層施設の把握はしている。

中でも、呪操社が管轄(かんかつ)する区画は機密性がもっとも高く、一筋縄(ひとすじなわ)ではいかないと予想しうる。


だが、手をこまねいている訳にもゆかぬ。

母体(モタイ)等の抵抗は予期しているが、いざとなれば強行突破は()むなしであった。


首都「ギーズィア」の主要施設は、そのほとんどが地表下層に集中しており、その中枢にハナ一門が居を構える中枢区画、「摩利支宝珠宮」が存在する。

各施設は、専用の降下台を(かい)して一方通行となっており、強固な「麒麟之検門」によって(さえぎ)られていた。


通常であれば、霊棟区画「禽獣座」に至るには、摩利支宝珠宮を通り抜けるルート以外にありえない。

だが、中枢施設が地下に集中している為、生命維持のライフラインは地表上の施設に統合され、莫大(ばくだい)な消費電力を(まかな)う為の変電所は、各区画に分散して設けられていた。


言い換えれば、それらの電力供給ルートは、変電所を通じて、ある一箇所に密集しているとも言える。

供給ルート内部は、一部、点検用開口部があれども、ケーブルから発する放電凄まじく、使用時間帯で無くとも、危険きわまりなき道である。


この夜半帯に限って言えば、電力の一般市民に対する供給はストップする時刻帯であった。

(ゆえ)に、何かしらの障害があり、電力が落ちる事で異常事態を引き起こす可能性も低いと考える。

この電力制限と、電圧の不安定さは、下層施設に()ける電力供給の増加に伴い、戦力増強に関するものであると、広報官が喧伝(けんでん)していた。


となれば、まさにそこが盲点(もうてん)であろう。


「行きますよ、ヒカル殿。」


プラズマ粒子が吹き荒れる配管ルートに身を(まぎ)れ込ませ、四つん()いさながらに進む。

最大の難関は、ヒビヤが常時展開する空間くうかん歪曲(わいきょく)を用い、相位空間を(かい)しての反射を、何処まで続けられるか。

この場に至っては、「ニライカナイの力」を引き出すわけにもゆかず、隠密に(てっ)するが最善である。


「…今のところは、異常は無いようだ。気付かれる恐れもあるまい。」


「宮廷魔術士殿、まことに申し訳ない!何の力にもなれず、我が身が不甲斐(ふがい)ないっ!」


後に続くヒカルが(なげ)いた。


「そんな場合ではありますまいぞ、ヒカル殿。今は1分1秒が()しい(とき)。」


ケーブル中央連結部にまで辿り着けば、まずは第一関門は突破したも同然か。

位置的には、摩利支宝珠宮の直上にあたる。

ここまでに、およそ1時間を要した。

タイムスケジュールに遅れが生じている。


「…さて、ここまでは無難に辿り着いたものの…。」


中央連結部集積路は、予想を上回るほどに大規模 ()つ、巨大な空洞が地下へと(あぎと)を開いていた。

底は計り知れず、その深淵を見通す事は難しい。


まだ気付かれていないと信じたいものだが、はてさて、どうしたものか。

どちらにせよ、ここを(くだ)らねばならない。

円周は半径25メートルにも及び、暗闇に慣れた瞳で周辺を見渡すも…。


「点検用のハシゴがあれば良いのだが…。」


しかし、この底に通ずると思われる梯子(はしご)は見当たらない。


「これは、飛び降りるしかないでありましょうぞ!」


「…ヒカル殿、それはまず間違いなく死にますよ?」


冷静に否定され、またしてもヒカルは(なげ)いた。


そうこうしている間にも、空間歪曲(わいきょく)の端々(はしばし)が(はじ)け、千々(ちぢ)に乱れる。

プラズマ放電が集束し始めている…猶予(ゆうよ)が無い。

無事に降りたとしても、そこから禽獣座「錫杖之間」に通ずる配電ルートを探さねばならない。


『時間が足りないってんなら、飛び降りるしかないだろ、兄さん!』


止める間もなく、ヒビヤはヒカルもろともウリュウ・テウスズウに(かつ)がれたまま、開口部に飛び込んでいた。


「なぁぁぁっ!?」


この土蜘蛛め、無茶をするも(はなは)だしい。


まだここは、いざという時ではないぞ、と(わめ)きども、落下の衝撃に気が(とお)のく。


『兄さん、オリファって言ったけ?あの女の気配は封じられてるけどな、マル氏なら分かると思うぜ?何しろ同族だからなぁ?』


「う…ん…む、なんと!それはまことか!?」


思いもかけずにヒカルを見やれば、こちらは(なか)昏倒(こんとう)している。

底に至ったと言えども、全くもって前途多難(ぜんとたなん)であった。


『おい!とっとと起きろよ、マル氏よぉ。』


ウリュウの言葉にも反応は得られず…。

それよりも、カッと目を見開き、人が変わったかのようにヒカルが飛び上がった。


「感じる!鬼脈の波動を、しかと感じるぞっ!」


「いかん!待つんだ、ヒカル殿っ!」


ヒカルを呼び止めること(かな)わず、脱兎(だっと)のごとく抜け出したその後を、ヒビヤを抱えたままウリュウがそれに続く。離れるわけにはいかない。

離れすぎると空間 歪曲(わいきょく)の維持と、ベクトル法則を構成する為の演算処理が困難になるものを…。


だが、はて?先を行くヒビヤの全身から吹き上がる緑光石(ズウムリユ)色の後光(ごこう)は何か。

鬼脈を失ったヒカルから、ここまでの波動を感じるとは?


「ヒカル殿!止まってくだされっ!」


『いや、兄さん!今はこのまま行かせた方がいい…この国は、ちょっと(にお)いがおかしいぜ。』


ウリュウを(いぶか)しげに見やるヒビヤとて、感ずるところはある。

この膨大(ぼうだい)な電力を()ってして、この国は何をせんと画策(かくさく)するのか、と。

電力供給の(かなめ)たる超大型プラズマ融合炉は、地表施設の約三分の一を()める程である。


(おもんばか)っていた矢先、50メートル程進んだところで、眼前でヒカルが床下を打ち破り姿を消した。

そこには大穴が開いている…。


これは(まぎ)れもなく、ヒカルの六世奥義(ジシアン・ジュエシン)「燕王供御天部」の破壊力であろう。


『あとを追うぜ、兄さん!』


躊躇(ちゅうちょ)なく、この隙間に身を(おど)らせるウリュウ。

それはヒビヤとて一蓮托生(いちれんたくしょう)であった。


先んじたヒカルの目に飛び込んで来たのは、赤き光である…。


液体に満たされ、半透明のカプセルが輪を描いて屹立(きつりつ)していた。

それは赤き海さながらの、深淵(しんえん)さを宿す液体に見える。


円柱のカプセルは計6本。

奇妙な文字数列が柱といわず、床面までも刻み込まれ、赤き液体が流れる水路が複雑な「祇園図(術式)」を描いている。

その全てが赤光(しゃっこう)に包まれ、『阿羅漢呪宝』を成していた。


「これは一体、何と面妖(めんよう)な…。」


天井は配線が張り(めぐ)らされ、鳴動(めいどう)する機械音がこの空間を満たしている。

そしてカプセルの内部には、鬼脈の波動を(そそ)がれ、眠り続ける裸体(らたい)の若者の姿がボンヤリと浮かび上がっていた。

その鬼脈の波動が、「御霊山(リンヘウンスアン)」から奪われた物だとは、ヒカルもヒビヤも知る(よし)もなかったが…。


その裸体の六体、全てが同じ顔、同じ体躯(たいく)の同一人物かに思えた。

どこか見覚えのある者…ヒカルにとって、その風貌(ふうぼう)は誰かと似通って見える。


「…宮廷魔術士殿…か?」


ヒビヤ・ホスヤン殿の面影(おもかげ)と、どこか似通っていると言っても過言(かごん)ではない。


そして当のヒビヤは、自らの「太陽を統べる者」(ジ・ヘリオドムス)と強く共鳴する結界因子を、確かにそれらから感じ取っていたのだった…。


「うむ…ヒカル殿、恐らくこれらは、我がラウム家に所縁(ゆかり)ある人物の遺伝子を培養(ばいよう)し、製造した複製体ではないかと思う。」


合流せしヒビヤであったが、その推論(すいろん)を聞かされたところで、ヒカルにとっては「チンプンカンプン」ではあった。

それでも少なくとも、ここにある物は、この凄まじい程の量の鬼脈を貯蓄(ちょちく)し、制御する為の機構であり、その為に大量の電力を消費しているのは確かであろう。


「その証拠に、この鬼脈が流れ込み、我が身を活性化しているのだ!」


それが先刻(せんこく)からの、ヒカルの復調(ふくちょう)(みなもと)であったのかと合点(がってん)する。


しかし、天井部に大穴を開け、火花が(ほとばし)り、断線の被害は(いちじる)しい。

これが原因で勘付(かんづ)かれたと見て間違いは無い。


もっとも、それも後の祭りかと思いきや、予想に反して、異常を察知された気配はない。

ここは呪操社の本拠地とも言うべき場所にもかかわらず、だ。


「これは(みょう)な…。」


『奴ら、気付いてないだけなんじゃねえの?』


「…そんな馬鹿なことはあるまいっ!」


言い(あら)そったところで何の解決にもならぬとばかりに、まるで彼らを(さそ)うように、眼前のゲートが無音で開く。


「これは罠であるやもしれぬっ!」


「…だが、あえてその手に乗るべきやも知れぬ。」


前に進むしか手は無いのだ。

一行は誘われるように、その先の先へと、開かれていく通路を突き進む。


20メートルを駆け抜けると、彼等は禽獣座「錫杖之間」へと至る降下台に辿り着いた。

…何たる偶然か。


「まあ、偶然の筈はなかろうな…そんなところだとは思ったが。」


監視の目をかい潜り?

思わず苦笑してしまう。

だが、待ち受けていたのは、ただの一人だ。


「テリオ殿、そなた一人か?」


神妙な(しんみょう)な顔つきのテリオ・オーガ・ハナは、腕組みをしたまま動じず、たじろかず、そこで待ち構えていた。


(おう)ともよ!私一人だ。」


これを受け、ヒカルが一歩踏み出すも、これを(さえぎ)りてヒビヤが問う。


「テリオ殿、我々の邪魔立てをするつもりか?」


「…監視の解除は長くは続かぬぞ。オリファ・シピン殿を連れ出すならば、この緊急搬出コードを使い、地表ルートを開示されるがいい。」


差し出された皇族専用機密キーを受け取り、ヒビヤは思う。

この御仁(ごじん)は、やはり信に()(おとこ)であると…。


されど、彼も立場があり、姉に逆らう呵責(かしゃく)は相当なものがあろう。

それも(かえり)みず、ここで手を貸すとは、まことの友と言うべきか。


「すまぬ、テリオ殿…この恩、必ず返すと約束しよう。」


「まことにかたじけない!」


ヒカルも又、(こうべ)を下げる。


「さあ、行ってくれ!」


テリオ・オーガ・ハナの思いを受けて、ヒビヤとヒカルの両名は走り抜けた。


同時刻、首都「ギーズィア」上空に突き出した搬出用巨大鋼腕(クレーン)が展開し、それを「累之間」から持ち上げ、地表上に(さら)し出す。


ゴォォォン…ゴォォォン…ゴォォォン…ガタンッ!!


レーヴ・ソムニウムが技術協力し、完成したばかりの虚空蔵級(ヨンユアン・ガン)改装零号機「摩多羅號(ケュドゥサ)」の初お披露目(ひろめ)である。


市民居住区は強制変形し、折り(たた)まれ、避難する者達で大わらわ。

この異常事態に、都市部の警報が鳴り響く。


ビーービーービーービーービーービーー!!


無論、これはレイヴによる緊急搬出経路の強制執行(きょうせいしっこう)であり、プログラムを書き換えるなど、レイヴにとってはお手の物であった。


操縦フィールドは従来の旧式内部艦橋から一新し、完全個室型複座式の全天周コンソールとなり、最新技術を導入している。

これは「北極の学問の塔」(コネサンストゥール)の知識を流用したもので、各部位をブロック構成し、被弾しても稼働可能とする為の、動力分散システムを活用していた。


動力に関して言えば、従来の蓄積(ちくせき)プラズマ・バッテリーは廃用し、補助機関として一部使用に留まっている。

この改装零号機「摩多羅號(ケュドゥサ)」には、「ソウティウス(星辰公)エンジン」が左右の装甲翼内部に組み込まれている。


超水素錬精などと言う、容量を()めるばかりの気嚢体を撤廃(てっぱい)し、その位置に、()ねてより研究題材であった「円盤型重力変成機関(ウィルトゥース)」を搭載(とうさい)している。

躯体(くたい)は従来の海上巡邏(じゅんら)船「虚空蔵級(ヨンユアン・ガン)」に比べ、二倍の大きさとなってしまったが、総重量的には大差なく、小回りも()く設計である。


「では、ナウリ君。しっかり(つか)まっていて下さい。摩多羅號(ケュドゥサ)、発進します。」


重力の(かせ)から解き放たれ、改装零号機「摩多羅號(ケュドゥサ)」は巨大鋼腕(クレーン)を振り払い、グンと浮上を開始する。


ドドドドォォォ…ォォォオオオ…ンンン。


一気にスロットルを押し出すレイヴ。


だがその(とき)、複座席のナウリが困惑の声を上げた。


「レイヴさん!プログラムが応答(おうとう)を拒否し始めています!」


コンソールが次々とエラー表示の赤で染まってゆく。

レイヴの額に汗が流れた。


「…おや?プログラム処理にミスがありましたかね?」


徐々(じょじょ)に浮力が低下し、船体がガタガタと振動を始めている。


「困りましたね…このままでは墜落(ついらく)してしまいます。」


冷静な状況判断は、さすがだとナウリは感心した。

動揺しつつも、僕も学者になりたいと願うナウリであった…。


それでも「摩多羅號(ケュドゥサ)」の落下は止められぬ。

脱出失敗かと思われた矢先、何の前触れもなく、船体の落下が止まった。


「おや?奇跡ですか。」


レイヴは外周モニターを走らせる。


何やら、船底より黄金の翼が生じ、空間を()るがしていた。

奇想天外にて、幻想的なる黄金の粒子を()()らし、翼が広がってゆく。


「致死の麗髭 (ハールギフト・フリューゲル)。」


摩多羅號(ケュドゥサ)」はまだ、出力不安定にも関わらず、マルティウス・ケントゥルムの力、恐るべし。ただ一人で船底を押し(ささ)え、いかなる力でか浮上を維持させていたのだ。


だが、マルティウスが躯体を支えているとなれば、その付近にヒビヤ・ホスアン等が居る事の証明でもある。


「いました!あの巨大鋼腕(クレーン)の上です!」


ナウリが見出したモニターに、映像にブレが生じているが、彼等の姿が(うつ)し出されていた。


ヒカルは両腕で、そこかしこが血に染まったオリファを抱き上げている。


(かたわ)らに立つヒビヤの衣を夜風がはためかす。

巨大鋼腕(クレーン)に駆け登るなどと、ヒビヤの身一つでは成せぬも、そこは背後に(ひか)えるウリュウの豪脚(ごうきゃく)の為せる技。

肩に(かつ)いで登るはお手の物だ。


とは言え、今少し早ければ間に合ったものを、この巨大鋼腕(クレーン)から「摩多羅號(ケュドゥサ)」までは距離にして20メートル弱。

飛び移るには、さすがのウリュウの力を()ってしても遠過ぎる。


だが、ここでマゴマゴしていては、さすがにマルティウスの機嫌(きげん)(そこ)ねよう。


『いや、ありゃ普通の(つら)してやがるが、かなり限界ギリギリだな。実際、かなりの老人だからな、マル氏の奴は!』


遠くからでも、マルティウスの視線が物言(ものい)いたげに突き刺さる。


「しかし、この距離では…。」


ヒカルも後退(あとずさ)る。

一時的に復調はしているも、その身に(たくわ)えた鬼脈の波動にも限界がある。


『おい、大将!あれをやるぜっ!』


「ウリュウ殿!?…分かり申したっ!」


あれって何だ?

ヒビヤ1人を置き去りに、息の合った掛け合いにて、ウリュウとヒカルの双方は素早く距離取る。

まさしく阿吽(あうん)の呼吸。

これはあの、「樺色(かばいろ)の声院」(ヴァーバル)にて行った神業(かみわざ)の再現であった。


『来い、大将!』


「行きますぞ、ウリュウ殿!」


ヒカルは、その驚異的な身体能力を発揮し、オリファを抱えたまま、この足場の悪き巨大鋼腕(クレーン)の上を疾駆(しっく)する。


ウリュウの剛腕が(うな)りを上げた。


そしてヒカルが飛翔(ひしょう)し、その靴底をウリュウの(こぶし)が押し上げる。


バシューーーン!!!


まさしく弾丸。

その身は尾を引いて、「摩多羅號(ケュドゥサ)」を目指し放物線を描く。


「宮廷魔術士殿!ウリュウ殿!早くっ!」


空を引き裂きながら、ヒカルは(かえり)みて手を伸ばす。

だが、巨大鋼腕(クレーン)上の二人は動かない。影が追って来ない。


…何とした事か。


ウリュウは自らの影を伸ばす事なく、ヒビヤと共に見守るのみであった…。


「馬鹿な!このヒカル・マデュスティック・リユセ、一生の不覚!」


我知らず、(まぶた)が熱くなる。


からくもヒカルは「摩多羅號(ケュドゥサ)」の甲板に着地するも、右足を(くじ)き横転した。

それでも、意識を失ったままのオリファを傷付けずに済み、ほっと息を飲んだ。


もはやここまでと、虚空蔵級(ヨンユアン・ガン)改装零号機「摩多羅號(ケュドゥサ)」が上昇し始める。


『なあ。ホントにこれで良かったのかい、兄さん?』


それが夜空の点となるまで見送るヒビヤに、ウリュウが問うた。

もっとも、魂を分け合う(たが)いには、問うまでもなく分かりきってはいたが…。


「元より、これは我らが血族の問題だ。決着はつけねばなるまい?」


伝説の魔女「アルウェリカ・ヴァヴズワスティカ・ラーマス」の子孫であると言う汚名を、振り払うが為の私闘(しとう)に過ぎぬ。


「それに…私まで逃げては、テリオ殿の()()があるまい?」


残るヒビヤにも覚悟ありて、今や不倶戴天(ふぐたいてん)の敵たる「海府の郷」(ニライカナイ)を討たねばならないと決めたのだ。


ナウリの事は頼みましたよ、と心より願わずにいられないヒビヤであった…。

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