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シナリオⅣ 4 前章 第7話〈前編〉

(^ー^)ノ魔皇軍編…前編w

シナリオⅣ 4.7〈僕らには皆運命があるのか、それとも風に乗ってただ彷徨ってるのか?

たぶんその両方だろう。両方が同時に起こっているんだ〉

I don’t know if we each have a destiny, or if we’re all just floating around accidental-like on a breeze. But I think maybe it’s both.Maybe both are happening at the same time


草創歴0449年6月(6/25)〈前編〉


哀愁(あいしゅう)が二人を()かつ。

伸ばした手は届かず、あえなく宙を(つか)む。

抵抗すれども、立ち(ふさ)がりし「鬼兵(ドウティアンス・スピン)」に押し(とど)められ、ヒカルは絶句した。


…何の権利があろうと言うのか。


これを押し退()け、目前(もくぜん)で拘束されても尚、連行される彼女を追い掛ける。

されども、閉ざされた「麒麟之検門」は厚く、我が進路を妨害(ぼうがい)する。


元より船上で聞かされて(おり)、「摩皇軍(モゲウイジュンテウアン)」に身を預けることを躊躇(ちゅうちょ)したものの、宮廷魔術士殿の言葉を信じればこそ。

その挙句(あげく)に、オリファ・シピンは奪われ、「東海の鬼兵団」(オリエンス・ドウティアンス)によって引っ立てられていった。


こんな事になるのならばと、(にく)べき摩皇軍(モゲウイジュンテウアン)(くだ)るをよしとしないものを…。

とは言え、もはや「ケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)」に帰る場所無しとは、このヒカル・マデュスティック・リユセも重々承知の上。


なれども、オリファは国家当主(ジュンワン)「キースヴェルヌ・スウイツエ・シピン」の妹君(いもうとぎみ)

丁重(ていちょう)にもてなすが道理であろう。

この様な無体(むたい)、受け()れる余地(よち)もなし。


刃を抜かんとする武者(ジジアンスオ)を取り囲み、物々しき重甲冑に取り込まれた鬼兵(ドウティアンス・スピン)等が地響きを上げ、間合いを()める。

鋼色(はがねいろ)の人工筋繊維が(きし)みを()げ、火花を散らしながら装着者の動作を補正(ほせい)し、躊躇(ためら)いなく抜かれた神速の刃を(つか)み取る。


ガキィィィ…ン!!


ヒカルの愛刀「日月相刻杵」の刀身に亀裂が生じた。


「何とっ!?」


刃はピクリとも微動しない。

(もと)とは言えども、「法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)」が大将(ジアンジュン)の斬撃をいとも容易(たやす)く掴むなどと、尋常ではない。

その無貌(むぼう)の仮面に表情なく、得体(えたい)が知れぬ無機質さ。


「ヒカル殿、(はや)まってはならん!」


取り残された感のあったヒビヤ・ホスアンであったが、拘留(こうりゅう)された漁船から飛び出し、このいざこざの場に割り込む。

ヒビヤにとっても、それは寝耳に水の措置(そち)であった。

もっとも、オリファ・シピンを連れ帰る事になった経緯(けいい)も想定外ではあったのだが…。


鬼兵(ドウティアンス・スピン)の方々(かたがた)、これは如何(いか)なることか?彼女は我々の姫君(ひめぎみ)である。即時の解放を求める!」


大仰(おおぎょう)物申(ものもう)すヒビヤの前に、こちらは「呪操社」の「母体(モタイ)」等が取り囲む。

怪しき占者(ザンブス)は沈黙を貫き、返答を得ることは出来ず。


その(とき)、一同を叱責(しっせき)する怒声が海洋かいよう工廠(こうしょう)区画「累之間(かさねのま)」に響き渡った。


(なんじ)ら、何をしている!?客人に対して無礼(ぶれい)であろうがっ!下がれっ!!」


これを受け、鬼兵(ドウティアンス・スピン)のみならず、母体(モタイ)等も一斉(いっせい)退(しりぞ)き路を開ける。


怒声を発した者、それは「東海の鬼兵団」(オリエンス・ドウティアンス)を(たば)ねる立場にある、ハナ一門が第二 皇位継承者(ワンズ)「テリオ・オーガ・ハナ」である。

軍靴(ぐんか)を鳴らし、配下の「鬼兵(ドウティアンス・スピン)」を(したが)えしは、その身に国宝たる守護剣『毘』を持ち得る「毘宝者」にして、摩皇軍(モゲウイジュンテウアン)の絶対なる守護者であった。


険しき顔色のまま、テリオ・オーガ・ハナは詰め寄る。


「…これは誰の命令かっ!こんな指示を私は出していないぞっ!!」


蜂蜜色の紋様が()える戦衣「孔雀庚申塔甲冑」を(まと)いし、音吐朗朗(おんとろうろう)な快男児はあいも変わらず。


「まことに相済(あいす)まぬ、ヒビヤ殿!私がついていながら、このような事態になろうとは。」


テリオ・オーガ・ハナは低頭(ていとう)し、この非礼を()びた。

一軍の将にして、礼節わきまえし若武者である。


何処(どこ)かヒカルと通ずるものがあり、ヒビヤの心許せる要因(よういん)となっているに違いない。

だがしかし、あの(とき)に抱いた、信ずるに足るとの確信は、今や(もろ)くも崩れ去らんとしていた。


思い返せば、あの霧立ち上る海原(うなばら)を、心許(こころもと)なき漁船にて航海した(すえ)に、ようやく辿り着きしけわしき断崖(だんがい)

この「ツウジュ(雛菊)島」の上陸地点を探すも、(すで)に心折れんがばかりであった。


ヒビヤの体力は回復しきっておらず、その憔悴(しょうすい)(はなは)だしく、ナウリ・ヴォルケーノ・ラウムは()(すべ)を知らずに途方に暮れている。

唯一の頼みの(つな)たるレーヴ・ソムニウムは、どこか浮世離れした御仁(ごじん)で、何とかなるさを()でいっている傾向がある。


ならばと、やむを得ずに重い体を押して、ヒビヤは甲板に()い出した。


されど深き霧に(さえぎ)られ、一寸先も見渡せない。


「…ここまで来ながら、打つ手無しとはな。」


弱気になっていたのは、一向に浮上の(きざ)しみせぬ土蜘蛛、「ウリュウ・テウスズウ」も関与していたのかも知れぬ。

もしや、鬼脈の赤光(しゃっこう)から我が身を(かば)い、力を使い切ってしまったのでは、と…。

もっとも、それは杞憂(きゆう)ではあったが。


「ヒビヤ殿、どうやら囲まれている様子ですぞ?」


前触れもなく、レーヴ・ソムニウムが(いぶか)しげに(つぶや)いた。

まさか?と見渡せば、この濃霧は急速に薄れ、(おぼろ)げに(かす)みがかった船影が浮かび上がる。

その数、十隻。


「東海の鬼兵団」(オリエンス・ドウティアンス)が(よう)する海上かいじょう巡邏(じゅんら)船「虚空蔵級(ヨンユアン・ガン)」の威容(いよう)を目の当たりにし、ヒビヤは(ひる)んでいた。

それらは全方位に配置されている。


「…退路なしか。」


我が身を預ける以上は、危険は承知の上で見極めねばならない。

彼等の戦力たるや、如何程(いかほど)のものであるのかを。

だが、これは予想に反して、海上での闘い慣れした動きと見える。

この規模の船団で隠密行動が可能とは、恐れ入った。


海戦に(うと)いとは言え、法王院棺護軍(ジタンジュンテウアン)を相手取るならば、先手(せんて)必須(ひっす)であろう。

ヒビヤの脳裏では、(すで)(いくさ)模様が繰り広げられていた。


それにつけても、この海上かいじょう巡邏(じゅんら)船「虚空蔵級(ヨンユアン・ガン)」は特異(とくい)な形状をしている。

船体下部は鋼色(はがねいろ)の装甲翼が海流を制御し、渦巻く波飛沫(なみしぶき)を上げていた。


(つな)ぎ目なき平甲板型であり、上部は繊維状機関の一部が露出しており、それらを(おさ)え付けるように、稼動部らしき機構がひしめいている。

船橋楼は見当たらず、乗船員の気配も見当たらず。

また風を受ける帆も見出せず、動力は別の何かであろうか?


それらの中の一隻がゆっくりと、だが着実に、ヒビヤ達が身を隠す、このちっぽけな漁船に接舷(せつげん)するべく距離を()める。

その「虚空蔵級(ヨンユアン・ガン)」の甲板上に唯一人(ただひとり)、腕組みしたまま仁王立(におうだ)ちせし若者が称嘆(しょうたん)した。


「ケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)の宮廷魔術士、ヒビヤ殿とお見受けする。よくぞ、このような船で海を渡られましたなっ!!」


意気軒昂(いきけんこう)、その賞賛(しょうさん)の眼差しに曇りは見えず。

こちらが怪しむ間もなく、彼はひとっ飛びにて飛び移り、ヒビヤの足元に(ひざまず)く。

呆気(あっけ)にとられているや拍手喝采(はくしゅかっさい)、いつの間にやら船員等が上半身を乗り出し、歓声を上げている。


うおおおぉぉ…兄貴ぃぃぃ…カッコイイぜぇぇぇ…!!!


…頼れる兄貴分と言ったところか。


若者の服装は、黄色のありふれた和装の衣であったが、その刺繍(ししゅう)はきめ細やかであり、潮風に焼かれた彼の黒い素肌に良く()える。


「いきなりの事で、無礼は(わきま)えている。なれど、我らが救世(ぐぜ)の予言通り、今日この日この場所にて邂逅(かいこう)せしとは、まこと定められし運命っ!!」


「お、お待ちください。一体、何の事を言っているのか?」


唐突(とうとつ)な事で、ヒビヤは元よりレイヴも狼狽(うろた)える。

様子を(うかが)うナウリを船室に(とど)め起き、ヒビヤは彼の真意を問わんと、その膝を折った。


「我々が、ここに至るを…預言にて知っておられたと言うのか?」


(おう)ともよっ!呪操社による占術(ザンブ)により、我々ハナ一門は長らく、この(とき)を待っていた。」


申し遅れたと、自分はこの「東海の鬼兵団」(オリエンス・ドウティアンス)を(たば)ねる「テリオ・オーガ・ハナ」であると名乗った。

(にわ)かには信じらぬ言葉。

無論のこと、疑われるは本人とて承知の上であろう。


「なればテリオ殿、我々がケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)に追われており、また、これを(ただ)そうとするを本懐(ほんかい)にする事、ご理解されていると?」


テリオは口を(つぐ)む。

()もありなん。

国と国との陣地取りを(むね)とするが利害の一致。


「…なれども、我がハナ一門は元より、御霊ごりょうを見張る為に(おこ)された血族。この異変に対応するべく、摩皇軍(モゲウイジュンテウアン)はあると…考えて頂き間違いなし。」


ハナ一門は、今は絶たれし純血の「鬼道」の血を受け継ぐとの言い伝えありしは、書物にて記憶している。

そもそも「御霊ごりょう」とは何であるのか?ヒビヤは顔を(かし)げた。


「うっ…。」


不意(ふい)に、目眩(めまい)と共に足元が()らぐ。

テリオは迷いなくヒビヤの手を取っていた。


「共に、この苦難に立ち向かってこそ、()()があると思って頂きたい!どうか、ヒビヤ殿!私を信じて頂けませぬであろうかっ!」


まさしく信じるに足る、その心意気をしかと感じた。


「…ならば、今はこの身、テリオ殿に預けましょうぞ。」


ふと顧みれば、レーヴ・ソムニウムもまた、(うなず)いてみせた。


「まことにありがたいっ!このテリオ、その信頼を裏切らぬ事、ここに誓おうぞ!」


固く結ばれた手に熱き思いが重なる。


かくして、テリオ・オーガ・ハナに導かれ、ヒビヤ等は摩皇軍(モゲウイジュンテウアン)の首都「ギーズィア」へと(おもむ)く事となった…。


その都市の名称は、初代皇王「ギーズ」の名を(かん)しており、ツウジュ島のほぼ中央に位置する。

沿岸でもっとも広い「シアンチウゼ(先駆け)平野」、その一帯はかつて大規模な湾岸であり、人の手による火砕流蓄積層で埋め立てられたと言う。

その東側には、隣接する「雛菊岩」と呼ばれる溶岩石が重なり合う台地の急斜面が目前に迫っており、平野を回り込むように瑪瑙(マナオ)川が注ぎ込まれ、土壌を(うる)わす。

それがかつての、想像もつかぬ土壌改造の残滓(ざんし)とも言えた。


調和の地を意味する「 ホシイエ台地」は、同時に首都「ギーズィア」を覆い隠す自然の防壁ともなっている。

まさしく難攻不落の城塞都市と言えよう。

外周からは立ち入る手段を持たぬこの都市に、では如何(いか)にして彼等は迎え入れられたのか。


…答えは明朗(めいろう)である。


虚空蔵級(ヨンユアン・ガン)」に吊り下げられ、ヒビヤ等を乗せた漁船は上空を(ゆる)やかに滑空する。

圧巻であったのは、平甲板型の上部が変形し、気嚢体を内在する硬式外殻が(ふく)らみ、構築して見せた事か。

気嚢体内部には、空気よりも比重の小さい「超水素」が精製され、船体に浮力を与えている。


推進用のプロペラ機構が船体下部の装甲翼と一体化しているが、上空での高速移動に耐えうる外殻(がいかく)(あら)ず。

しかし、空を移動するなどと言う発想自体が脅威この上なしであった。

恐るべきは「摩皇軍(モゲウイジュンテウアン)」であろうか。


この飛行船へと形状変化せし「虚空蔵級(ヨンユアン・ガン)」の編隊は、一糸乱(いっしみだ)れず、静々(しずしず)と海面を離れた。

指示を下すのは、無論のことテリオ・オーガ・ハナである。


テリオは始終、ヒビヤ達と共におり、島の全貌を語ってみせた。

(しか)るに、彼等の祖たるギーズが如何に苦心(くしん)し、この腐敗した壌土の区画を整理し、大地の再生、森林地帯の移植、断崖の形成といった、常識的には考えられぬ技術を(よう)していたかを誇った。

それが(まこと)であるのならば、これは「海府の郷」(ニライカナイ)に比肩(ひけん)する存在と言えよう。


「海府の郷」(ニライカナイ)もまた、本来は「御霊ごりょう」を監視する名目(めいもく)の元、「天都の郷」(ディウム)から分かたれし都市である。

なれど、この眉唾(まゆつば)もののおとぎ話には、()に落ちぬ点も多々ある。


「…この国は草創歴40年に、かの大国、聖ラムサ王國 (ハインリッヒ・ラムサ・ケーニクライヒ)の支援を()って(おこ)された筈…だが、聖ラムサ王家と言えども、この都市の文明は(はる)かにそれを超越していると見えるが?」


眼下に広がるギーズィアの全貌は、隠されし異貌の都と(おぼ)しい。

灰色の摩天楼が埋め尽くし、整然と区画管理された風水形状の陰と陽を表すように、左右対称の同期化された二重都市であった。


「…左様(さよう)に見られるのであらば、もはや隠し立てする必要もありますまい。」


観念したように、テリオは話しを続けた。


「確かに、我がハナ一門に伝わる伝承によらば、この国の設立にもっと深くも関わったのは、当時、聖ラムサ王國 (ハインリッヒ・ラムサ・ケーニクライヒ)を裏から支配していたとされる、天都の郷 (ディウム)と伝わっております…。」


今現在、海府の郷 (ニライカナイ)の取っている行動は、恐らくは「天都の郷」(ディウム)のあずかり知らぬところであろう。

むしろ、謀反(むほん)に近しいものと(さっ)する。

少なくとも、ハーリィー・ハーピーズもとい、エポナロッド・キロペーの一連の動きをヒビヤはそう見積(みつ)もっている。


「十剣の盟約」を盾に、常に世界を裏から支配し続ける「天都の郷」(ディウム)である。

その報復には、あらゆる手段を講じる事は想像に(かた)くない。


「…ではテリオ殿、摩皇軍(モゲウイジュンテウアン)は天都の郷 (ディウム)の命を受けていると?」


「いや、我々ハナ一門は、あくまでこの南東諸島群の安寧(あんねい)を保つが務めとし、(なが)らく天都の郷 (ディウム)との交流は途絶えている…。」


嘘か真か、だが、その言葉を信じるしかあるまい。


ともあれ、ならば次に打つ手は山ほどもあろう。

その前に、テリオはこの国を治める自らの姉、「皇女陛下(ツニュイウアンディ)」との面通(めんどお)りをと、そう進言(しんげん)した。


「この国の決定権は、全てを我が姉上が(にな)っている。無論、この措置(そち)も姉上の指示に従いた事。何の心配もない!」


まさに誇らしげに、テリオはそう(のたま)う。

自慢の姉上なのであろうが、血の(きずな)は時として盲目にさせうる。

ヒビヤは身を寄せるナウリの肩を抱きとめ、海洋工廠区画に通ずる搬入開口部を、不安に満ちた眼差しで見つめていた…。


第一印象は峻烈(しゅんれつ)なりしと言うべきか。


皇女陛下(ツニュイウアンディ)「セラフィン・オルド・ハナ」は、あえて皇座に()く事せず、蝶々(ちょうちょう)しく、(あで)やかな対応で彼等を出迎えた。


首都下層中枢区画「摩利支宝珠宮」の皇座である。

張り詰めた緊張感が母体(モタイ)等を()めるは、彼女の生来(せいらい)の気性の(ゆえ)か。

テリオ同様に、麒麟(ジラフ)を象徴とする、蜂蜜色の姫衣を(まと)っている。


「姉上!ヒビヤ殿をお連れした!この人物こそ、まこと我が国の救世(ぐぜ)()となりましょうぞっ!」


「うむ、大義であった。」


()もありなんと、弟の口上(こうじょう)(さえぎ)り、物憂(ものう)げに皇女陛下(ツニュイウアンディ)(つぶや)く。


「客人よ、思うところはあろうが、事は急を要すること、そなた等も分かっていると思う。我々ハナ一門は、あと(わず)かな(とき)しか残っておらぬ今、軍備の増強に()くさねばならぬ。我らに協力すること、断わることなかれと願う。」


皇女陛下(ツニュイウアンディ)有無(うむ)を言わせぬは、南東諸島群の秩序(ちつじょ)を司るとの自認ゆえか。


「…無論、このヒビヤ・ホスアン、協力を()しみませぬ。」


事がこう上手く成立するとは、何かしら裏がありそうな気もするが、それに乗るにせよ、腹に一物ありそうな人物に相違ない。

どこか「海府の郷」(ニライカナイ)の(おさ)、エポナロッド・キロペーに似通(にかよ)った雰囲気を持っているように見える。


かくして、謁見の()が終わり、軍備の増強にあたり「北極の学問の塔」(コネサンストゥール)出身であるレーヴは、「累之間」に技術提供を要請され、(うやうや)しくこれを引き受けた。

必要とされていたのは、レーヴ・ソムニウムの方であったのでは?との疑念も生ずる。


ともあれ、必要とされている間は危害を与える可能性はあるまい。

ナウリの身の安全が保障されたと高を(くく)ったヒビヤ。


まずは英気(えいき)を養いない、離れ離れとなった仲間を探さねばなるまいと思案しつつも、もはやそれも(たばか)れたと言うべきか…。


だが、テリオは(はばか)らずに激昂(げっこう)した。


「姉上!何故に、オリファ・シピン殿を幽閉なされたのか?納得のゆく答えを頂きたいっ!」


セラフィン・オルド・ハナの表情は、あの時分となんら変わらぬように見えた。

あいも変わらず皇座に座す事もなく、テリオの言葉を一笑に()した。


「何を言っているのか?()の国の国家当主(ジュンワン)、キースヴェルヌ・スウイツエ・シピンの妹であるのならば、これ以上の人質はあるまい?」


「姉上、しかしっ!!」


「ましてや、あの娘は永劫種(アドラスティア)の血に毒されているとか…なれば封じておかねば、いつ足元をすくわれるか分からぬであろうが?」


何者が吹き込んだのであろうか。

常にセラフィンの(かたわ)らには母体(モタイ)が付き従い、何やら耳元に(ささや)きかけている。


「では、姉上よっ!どうあってもオリファ殿を解き放つ気がないと申されるか?なれば我々の信頼は崩れましょうぞ?」


「我らの同盟は信頼によって成されるものに(あら)ず。利害の一致ゆえの協力関係であろう。違うと言うのか?」


事は拘束されたオリファ・シピンの身柄のみならず、監禁状態のヒカルの身の上にも(およ)ぼう。

(おもんぱか)れば、皇女陛下(ツニュイウアンディ)の行動は君主として正しい。

だが、このままではヒカル自身もまた人質として扱われかねぬ事態に、慎重に言葉を選ばねばなるまい。


「…皇女陛下(ツニュイウアンディ)に申し上げる。利害一致はもっともなれど、我らも人の子。今一度、考慮して頂ければありがたく思う次第。」


だが、返答は案の定、聞く耳持たぬが一点張り。

話を(こじ)らせるよりは、今はここで済ますが無難か…。


「くどい。そなた等も、この国に()る以上は、この国の秩序に従うが道理であろう。違うか?」


付け加えるならばと、人質とは言っても、それはあくまで政治的取引の材料に過ぎないと断言(だんげん)した。


「なれば、身の安全を保障して頂けるのであれば、面会だけでも許可して頂きたい。」


それはともかく、彼女の幽閉場所を知る唯一の手段と思われた。

こちらが譲歩して見せた以上、セラフィンとて、これを許可せざるを得なかった。

何やら、母体(モタイ)等と()めているとも見て取れる。今度はセラフィンの怒りが母体モタイ等に向けられていた。


「くどい!オリファの身は錫杖之間じゃ!好きな時に会えば良かろう!」


なるほど、後にテリオに聞けば、禽獣座「錫杖之間」とは呪操社が管理する霊棟区画にて、この「摩利支宝珠宮」とも隣接しているとか。

もはや、誰の進言も聞かぬと言いたげに、にべもなくセラフィンは皇座を後にした。


意気消沈するテリオの顔は、見ているこちらも辛い程であった…。

(^ー^)ノストーリーが前後しちゃってちょっと分かりにくいかも…の前編ですっ

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