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シナリオⅣ 4 前章 第3話

シナリオⅣ 4.3〈僕らには皆運命があるのか、それとも風に乗ってただ彷徨ってるのか?

たぶんその両方だろう。両方が同時に起こっているんだ〉

I don’t know if we each have a destiny, or if we’re all just floating around accidental-like on a breeze. But I think maybe it’s both.Maybe both are happening at the same time


草創歴0449年5月(5/20)


本州島(ほんしゅうとう)アイゾンゲウアイスオ島、オルカイ区に本国、ケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)の拠点 城郭(じょうかく)鎮政府(ザイディ)」は存在する。


この鎮政府(ザイディ)は、他国の城とは外装が大きく異なり、その形成には遠き東方大陸(ウァルキュリアス)の影響が色濃く受け継がれていると伝わるも、今では独自の進化を()げていた。


門や各種の建築物は(うるし)で「勿忘草(わすれなぐさ)色」の(ランセ)塗りにされており、屋根には瓦(紺瓦)が使われ、各部の装飾には国家当主(ジュンワン)の象徴たる天馬(フェイマ)が多用されている。

広大な面積を(もち)い、書院(しょいん)青藍之間(せいらんのま)春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)を現す庭園を内在する、一体化した城郭である。

正殿を含めて、全てが平屋(ひらや)にて構築されているのが1番の特徴であろう。


この島国を統治するは、この「天色(あまいろ)」の領域だ。

その色は(すなわ)ち、国家当主(ジュンワン)の色でもある。

国家当主(ジュンワン)キースヴェルヌ・スウイツエ・シピンは沈黙を()って玉座に座し、その報告に耳を(かたむ)けていた。


その顔に表情は無い…。


法王院(ファゴンスンディアン)領サルワティオに漂着した鉄甲船(ティエ・スウイスオ)は、既にもぬけの(から)であったとの事。法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)の探索部は、サルワティオを中心に謀反者を追っております…。」


法王院(ファゴンスンディアン)領サルワティオと言わば、オルカイ区からは涅槃(ねはん)山脈を(はさ)み目と鼻の先。


この沈黙は、(いま)だ賊を捕らえられぬ事に対する、キースヴェルヌの怒りと知れた。

居並(いなら)摂政官(ダツン)等は平伏(へいふく)する他ない。


「…して、取り逃がしたる大将(ジアンジュン)メディウム・パオシアオは如何(いかが)した?」


「メディウム・パオシアオ殿は、引き続き独自に謀反者を追い、断罪する所存(しょぞん)であるとの事…。」


戻れども死なれば、その得能(とくのう)をいかん無く発揮する他あるまい。

もとより、パオシアオ家一門は外来(がいらい)の血族。

そのような者など、取るに足らぬ代替えの効く存在。


かつての玉座に有りし、たわいもなき嬌声(きょうせい)と微笑み。

それは(くだん)の宮廷魔術士の出奔(しゅっぽん)とともに失われた。

(いま)だ信じられぬも、かのサフィナノフ島のホスアン家の痕跡(こんせき)が見つからないとの結果報告。

当主シピン家を支え立つ、歴史ある分家(ぶんけ)筆頭の家系にも関わらずだ。

まるで(けむ)に巻かれたかの(ごと)きであった…。


(とき)を同じくして、激しい(しお)潮流(ちょうりゅう)に巻き込まれ、「浅葱(あさぎ)色の洞窟」を沈んでゆく。

息も続くか絶え絶えで、当初より無謀(むぼう)であると予測した通りの結果である。


奥行きは約30メートル。

ビイアンフ区のジンズ(鏡面)岬にある洞窟の俗称である。

洞窟と言えども、そもそも海中にあって、洞窟の入り口、即ち海面から太陽光が差し込み、透明度の高い海水を通過する。

海底で反射した光が暗い洞窟内の海水面から抜け、それが海底からライトアップされたような効果となり、入り口付近の海水を青い光で満たす仕組みになっているため、洞窟全体が浅葱(あさぎ)色に染まることに由来する。


よもや、無人の鉄甲船(ティエ・スウイスオ)をサルワティオに差し向け、謀反者等が本州島(ほんしゅうとう)アイゾンゲウアイスオ島の東端に潜んでいようとは思いもよるまい。

ここからでは鎮政府(ザイディ)との直線距離も遠く、道程(みちのり)も整ってはいないのだ。


しかし、ヒカル・マデュスティック・リユセがこの場所を選んだのには理由があった。


地元の民は台風の時などに漁船の避難場所として使用し、(なぎ)から身を守る聖域(スンディ)

それは法王院棺護軍(ジタンジュンテウアン)大将(ジアンジュン)のみに口伝(くでん)される秘密の通路。


その入り口は海中に(ぼっ)している。

そこに(いた)る為には、横穴に入り、海中トンネルを泳ぎ切らねばならない。

それは無論、ヒカルにとっては造作(ぞうさ)も無き事であろうが…。


「おぉ!?お気を確かに!レーヴ殿っ!!」


レーヴ・ソムニウムの巨漢を抱きかかえ上げつつ、(したた)る海水を振り払う。

苦もなく泳ぎ切り、息も切らせぬヒカル。

本人が(いわ)く、武者(ジジアンスオ)の本分は常日頃からの鍛錬にあり。


「ゴホッ…ゴホッ…ウゲェエェ…。」


海水を飲み込み()せるレーヴを尻目に、ヒカルは取って返し、通路と海中とを(つな)(いずみ)に飛び込まんとする。


しかし、それよりも早く潮柱(しおばしら)が隆起し、人影が勢い良く飛び出す。

昏迷(こんめい)するヒビヤ・ホスアンを(かたわ)らに背負い、またしてもウリュウ・テウズスウがその実力を見せつける。


『おいお〜い、兄さん!しっかりしてくれやぁ?』


筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の水の(したた)無頼漢(ぶらいかん)

薄着を素肌に貼り付かせ、絶妙な漢気(おとこぎ)(あふ)るるその笑顔。


「ええいっ、馴れ馴れしいぞ、土蜘蛛めっ!」


恩を(あだ)で返すヒビヤの罵倒(ばとう)


「宮廷魔術士殿!その言葉はあまりにかとっ!」


『ああ、大将は気にしないでくれ。俺様と兄さんは一蓮托生(いちれんたくしょう)。この兄さんに何かあったら、俺様もただでは済まないからさっ。』


つまりは共生関係と言いたいのか。


「ええいっ、あくまで貴様とは主従の印 (オプリガーティオー)による契約(チイユユ)でしかない!(わきま)えよっ!」


やれやれとばかりに、ウリュウはヒビヤの影に同化し、逃げ込んだ。


『…おっと、危なくなったらいつでも呼んでくれ。俺様はちょっと寝かせてもらうぜ。』


「二度と出て来るなっ!」


怒り心頭でヒビヤが当たり散らす。げに奇妙な共生関係である…。


ウリュウは実体を伴うにも関わらず、その肉体はヒビヤの影と同化し、内側に潜伏(せんぷく)が可能であるとか。

実に便利な能力であるし、見ている分には微笑ましいも、張本人にしてみれば不愉快この上ないのだろう。


そこからの道程(みちのり)が、まさに気の遠くなるものであった…。


先頭を行くヒカルは意気揚々(いきようよう)。


洞窟通路内部の薄暗闇(うすくらやみ)に目は()れども、()わり()えせぬ一本道。

直線距離で長さ50Kmは進んだであろうか。

地表上では三度(みたび)、日が沈んだと思われる。

鉄甲船(ティエ・スウイスオ)から持ち出した兵糧(ひょうろう)後僅(あとわず)か…。


「して、よくよく考えればヒカル殿…この通路が大将(ジアンジュン)にのみ口伝(くでん)されているのならば、(くだん)のメディウム・パオシアオ殿も存じておられるのでは?」


「おお、宮廷魔術士殿!良いところに気が付かれた。しかして、我が彼奴(あやつ)に伝えておらぬ以上、その可能性は低いと思われるのですっ!」


()りとて、この通路が本州島(ほんしゅうとう)アイゾンゲウアイスオ島の地下を貫き、彼等の目的地に直通しているとあらば、その方面からの襲撃を予期して(しか)るべきでは?

と、レーヴ・ソムニウムは懸念(けねん)するも、その念頭(ねんとう)は彼等に無し。


「いやいや、レーヴ殿!彼等が我等を裏切る(はず)はあり申さぬっ。」


ともあれ、どうやら見えて来たようだ。


巨大な滝壺(たきつぼ)に隠されし地底の城郭(じょうかく)樺色(かばいろ)の声院」(ヴァーバル)。

それは(しゅ)色を象徴(しょうちょう)とし、ケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)の法を司る「法王院(ファゴンスンディアン)」の本拠地である。

この朱色は、天たる鎮政府(ザイディ)と、地たる樺色(かばいろ)の声院 (ヴァーバル)との対比でもある。


沈下(ちんか)せし台地にウェイシアオ(微笑)河が流れ込み、直下600メートル、水飛沫(みずしぶき)舞う壮大なる滝壺(たきつぼ)と化した自然の要塞(ようさい)

本州島(ほんしゅうとう)アイゾンゲウアイスオ島のほぼ中央に位置するキサラ区にある。


「まさか、(まこと)にこのような通路があろうとは…。」


感嘆(かんたん)せしはヒビヤ・ホスアン。

樺色(かばいろ)の声院」(ヴァーバル)、後方の岩窟(がんくつ)遺跡群から抜け出すや、出入り口となる石櫃(せきひつ)が音を立てて崩れ落ちた。


ガランッ…ガラガラガラッ…。


かなり古い年代のものだったようだ。この通路が今も尚、現存していた事が奇跡に近い。


石櫃(せきひつ)の表面には「月天使(フレイル)」の舞う紋様が刻み込まれている。

恐らくは鬼道院設立よりも古き、この地に住まう者達の墓標(ぼひょう)かと思われる。

ならば冬歴2300年は(さかのぼ)れよう…。


だが、歴史の闇に(ほうむ)られし過去を論議している場合ではない。


左様(さよう)!今は一刻も早く、何が起きているのかを知るが先決っ!」


意気込むヒカルを(おさ)えきれず、ヒビヤとレーヴは顔を見合わせ、その後を追い掛ける。

だが、見る間にその背中が遠のいていく。


「ま、待たれよっ、ヒカル殿っ!」


「ヒビヤさん、私に(かま)わず先に行って下さい。」


青くなりながらも、レーヴ・ソムニウムが朴訥(ぼくとつ)な顔を(ゆが)めて言った。


「レーヴ殿、この付近にてお待ち下さい。必ずや、お迎えにあがります!」


そう確約(かくやく)し、朝王家(ちょうおうか)赤煉瓦(あかれんが)の城郭に踏み入ったヒビヤの視界の先、鋭き剣戟(けんげき)が響き渡る。


ガキィィィ…ィィィン!!


何事かと(なが)めやれば、祭祀楼閣(さいしろうかく)地之御庭ちのおにわ」にて、激しくもぶつかり合う人影あり。


「ヒカル殿、如何(いか)がした!?」


その一方は、先んじて踏み入ったヒカル・マデュスティック・リユセに相違(そうい)ない。

だが、()()められた玉砂利の庭にて、愛刀「日月相刻杵」を鞘走(さやばし)らせてはいても、防戦一方のヒカル。


(しば)し、待たれよっ!何やら、誤解がある様子!!」


ヒカルの苦言(くげん)も聞く耳持たぬとばかりに、相手はその刃を(とど)める気配無し。

朱色の衣を身に(まと)い、紅く(きら)めく紅緋(べにひ)の甲冑。

それこそが法王院(ファゴンスンディアン)の護り(まもりて)である証明。


それが「護法天道(ディ-ヴァ)」。


その総数は10人にも満たぬ、精鋭中の精鋭である。

この少数で常に法王院(ファゴンスンディアン)を護りているならば、その実力の程は()して知るべし。


中でも彼、マカ・ロン・タオは、歴代最年少の護法天道(ディ-ヴァ)であり、下位天道を統率する立場にある「明王位(アヴァターラ)」であった。

その歳は十五歳になったばかりで、低身痩躯(ていしんそうく)

(うつ)ろな表情が際立(きわだ)つ。


さる情報に()らば、西方の公家とやらに通ずる高貴な身分であったとか。

確かに、見ようよっては端正(たんせい)な顔立ちではある。


なれど、今は周囲に彼以外の人影は無し。

()な事である。


「マカロン殿っ!落ち着かれよ!!」


無論、その顔を見知っているヒカルは困惑する。

とは言え、常日頃から無表情で口数の少ない少年ではあるのだが…。


マカ・ロン・タオの振るう星剣「楊柳叉刀」は、容赦無(ようしゃな)く人体の急所を狙い、その攻撃の正確さは寸分(すんぶん)(くる)いもなく、まるで精密機械のようだ。


ザシュッッッ!!


それどころか、その一太刀、一太刀が緋炎(ひえん)(まと)って地を(えぐ)る。

玉砂利が瞬時に蒸発する。


常ならば、受け止めただけで刃が溶解(ようかい)する程の灼熱(しゃくねつ)であった。

()みの武者(ジジアンスオ)では刃を交える事も叶わぬであろう。

これがマカ・ロン・タオの持ち得る六世奥義(ジシアン・ジュエシン)「兜跋衝天部」。


対して、ヒカル・マデュスティック・リユセの六世奥義(ジシアン・ジュエシン)「燕王供御天部」あってこそ。

緑光石(ズウムリユ)色の光を()びた刀身が、その熱量を遮断(しゃだん)し打ち払う。


「この地ならば、鬼脈(きみゃく)は我に味方してくれよう。マカロン殿の攻撃は我には通ずぬ!刃を引かれよっ!!」


「……。」


無言で交戦を繰り広げるマカ・ロン・タオに、付け入る(すき)を見出せぬまま、無為に(とき)が過ぎて行く…。

さりとて、それを見守るしか(すべ)の無きヒビヤであったが、ふいに気配を感じて振り向いた先に、その男が舞い降りる。


『…俺様が教えたよね?』


「うるさい、黙りなさい。」


恐らくは何処(いずこ)かで、この様子を(うかが)っていたと思われる。

その者、「地之御庭ちのおにわ」に進み()でるは、法王院(ファゴンスンディアン)秘匿(ひとく)する「御霊(ごりょう)」との契約の末、人を超える存在と力を持ち得た者。

その最高位たる「如来位(タターガタ)」。


彼もまた、紅緋(べにひ)(ころも)に身を包み、身を(くすぶ)赤光(しゃっこう)後光(ごこう)に背負いて立ちはだかる。

「もっとも神に近しい者」、その名をレン・トゥス・セントマリアと言う。

この地では珍しきも、東方大陸(ウァルキュリアス)出身者と噂される御仁(ごじん)である。


「レン殿!これはどういう事か?マカロン殿を止めて頂きたいっ!」


ヒビヤは旧知の友に、眼前の争いを止めるよう進言(しんげん)するも、これに対する返答(へんとう)沈黙(ちんもく)

常時、無慈悲で厳格な面差(おもざ)しを隠すのに一役買っている丸レンズの眼鏡を通しても、彼から緊迫感(きんぱくかん)(ただよ)い出す。


「…レン殿?」


レン・トゥス・セントマリアが抜き放ちし法具(ほうぐ)「硨譆羅胎蔵法輪」。

円形の刃に(ほとばし)護法気(ムドラー)


身震(みぶる)いすべき護法気(ムドラー)を受け、ヒビヤは距離を取る。

ましてや、こちらは刀さえも持たぬ宮廷魔術士の身。

会話も拒絶(きょぜつ)されては打つ手も無し…。


「レン殿!我々は、何者かの(さく)(おちい)ったと自覚している。私達の身は潔白(けっぱく)である!」


「…問答無用(もんどうむよう)。」


(ひらめ)く法具の刃!


ガキィィィ…ン!!


ウリュウの腕が、これを(はら)()ける。


『やっぱり、ここは俺様の出番のようだなぁ。』


ヒビヤの影から生じるは、頑強(がんきょう)なる太き(かいな)


「何と面妖(めんよう)な…物の怪の(たぐ)いか?」


唖然(あぜん)とするレン・トゥス・セントマリアが見守るうちに、唐突(とうとつ)にウリュウ・テウズズウの全身が影から露出する。

だが、その表情は不機嫌だ。

物の怪と呼ばれた事で、ご立腹(りっぷく)と察せられる。


『おい、兄さん…コイツをぶっ飛ばしちゃっていい?』


「ダメだ。レン殿は私の友人…傷付けてはならぬっ!」


交戦を拒否すれども、降りかかる火の粉は振り払わねばならない。

(かた)や、ヒカルとハル・ロン・タオの交戦も膠着(こうちゃく)状態にある。

ヒビヤにとっても苦渋(くじゅう)の決断であったが、応戦を許可せざるを得ない。


「…謀反者に友と呼ばれるは心外(しんがい)である。」


紅緋(べにひ)の残像を残し、断罪の刃を突き付ける動作に(よど)みなし。

応戦はすれども傷付けてはならぬと、歯切れの悪い対応に憤怒(ふんど)するウリュウ。


『じゃあ、俺様はどうすりゃいいんだっ?』


「それを何とかするのが、貴様の役目であろうがっ!」


『んな、無茶なっ。』


共に刃を防ぎつつ、口論が始まった。

微妙(びみょう)にレン・トゥス・セントマリアが苦笑する。


その最中(さなか)、正殿から飛び出した武者(ジジアンスオ)の軍勢が彼等を包囲し始めた。

その甲冑は法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)のものに他ならない。


ヒカルが何事かと見やれば、この状況には見覚えがある。


「メディウム・パオシアオ…貴様か?」


刃を交え、鍔迫り合いを押しつ押されつ、ヒカルは驚愕(きょうがく)(うめ)いた。


「馬鹿なっ!何故、この場所に我等が訪れると分かった!?」


法王院(ファゴンスンディアン)領カーラルトから直線距離にして120.67km。

予想に反して、先回りをされていた事実に愕然(がくぜん)とし、対しての追い詰めたとばかりにメディウム・パオシアオが嘲笑する。


「元 大将(ジアンジュン)殿よ…私の六世奥義(ジシアン・ジュエシン)をお忘れか?」


メディウム・パオシアオの六世奥義(ジシアン・ジュエシン)、それは数秒先の事象(じしょう)を読み解き、相手の動きを予測する「忉利千眼」。


実戦ではこれ程に有能な、血族 固有(こゆう)の技能は他にあるまい。

ただし、それによって戦闘能力が急激に上昇する訳でも、防御力が飛躍的(ひやくてき)に向上する訳でも無い。

敵の次の一手が先読み出来ても、これを(かわ)せるかどうかは本人の力量(りきりょう)如何(いかん)による。

所詮は副大将 ()まりの六世奥義(ジシアン・ジュエシン)である。


「私の能力を甘く見てもらっては困る…本来、この忉利千眼(とうりせんがん)は未来を見通す先見の法。貴様等が何処(いずこ)に逃れようとも、地獄の果てでも見つけ出す。逃げ場はあるまいぞっ!」


「メディウム殿!我を(たばか)っていたと言うのか!?このヒカル・マデュスティック・リユセ、一生の不覚!」


信頼していたものが、またも(あざむ)かれていたと知る。

武者(ジジアンスオ)等に囲まれ、対するは「護法天道(ディ-ヴァ)」の屈強(くっきょう)なる二人。

窮地(きゅうち)活路(かつろ)を見出すも(はなは)だ困難な状況である。


その(とき)不意(ふい)にマカ・ロン・タオが強硬(きょうこう)に接触し、両名は()んず(ほぐ)れつ、玉砂利の路面を転がり落ちた。


「うおっ!?」


「…レン・トゥス様からの伝言です。御霊山にて再会を()する…と。」


他者に聞かれぬようにと、秘密裏な伝言。

それが意味するものは()して知るべし。


「…何と、了承(りょうしょう)した!」


両者は()び起き離れるや、ヒカルは脱兎(だっと)の如く(ひるがえ)る。

その視線の先には、交戦中のヒビヤとウリュウを(とら)える。

一歩遅れて、マカ・ロン・タオが続く。だが出遅れた。


「宮廷魔術士殿!ウリュウ殿!今は一旦(いったん)、退却の(とき)ぞっ!!」


『了解だっ、大将!!』


以心伝心(いしんでんしん)、ヒカルにウリュウが応える。だが、この包囲網を抜けるは決死の覚悟がいよう。

どうするつもりか?ヒビヤは(いぶか)しむ。


「ウリュウ殿!頼み申すっ!!」


駆け抜ける速度は止まらず。


玉砂利の床を蹴り上げ、跳躍(ちょうやく)によって一気に距離を()める。


『うおらあぁぁぁ!!』


ウリュウの(こぶし)がヒカルの靴底(くつぞこ)を押し上げ、凄まじき上昇力を付加する。


直前、レン・トゥス・セントマリアと目線が合うが、彼は視線を()せた。


メディウム・パオシアオの頭上を飛び越え、ヒカルの身は「地之御庭ちのおにわ」を横切って飛翔(ひしょう)する。


「ウリュウ殿っ!!」


中空で手を伸ばすヒカルの(てのひら)(つか)み取り、影と化して伸びたウリュウ諸共(もろとも)に、ヒビヤの身もまた浮かび上がる。


「…ヒビヤ殿、弟殿は必ず無事に送り届ける。ご安心なさい。」


地を離れる寸前、レン・トゥス・セントマリアが(ささや)き掛けた。


「!?」


メディウム・パオシアオは唖然(あぜん)とし、取り逃がしたる(せき)追及(ついきゅう)される恐れからか、顔を青くさせた。


「レン・トゥス殿!何故、奴等を追いかけぬっ!?これはあなた方、法王院(ファゴンスンディアン)の責任ですぞっ!」


(はた)と気付き、法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)配下の武者(ジジアンスオ)を差し向ける。

しかし、彼等の姿はもはや「樺色(かばいろ)の声院」(ヴァーバル)の敷地外に到達している。

鎮政府(ザイディ)と同様、平屋建ての建築様式 (ゆえ)盲点(もうてん)であった。


もはや追い付く筈も無し。


「…追撃も考えましたが、直線上にあなた方が居た為に、攻撃を(あき)めた次第(しだい)です。」


「…レン・トゥス様と同じ。」


マカ・ロン・タオもその意見に同意する。


「な…何だとっ!?」


私が邪魔立てしたなどと、屈辱(くつじょく)のあまりにメディウムは(ふる)えた。


「しかし…メディウム殿の忉利千眼ならば、彼等の行方(ゆくえ)は分かりましょう?ここから鎮政府(ザイディ)はもっとも近い…。」


「無論だ!私はすぐに奴等を追い掛ける!そなたらも同行されよっ!」


有無(うむ)を言わせぬ物言(ものい)い。


本来であれば、法王院(ファゴンスンディアン)の護法天道(ディ-ヴァ)に指示を出せる立場に(あら)ず。

国家当主(ジュンワン)キースヴェルヌ・スウイツエ・シピンの()を借り、謀反者の捕獲に協力を余儀無(よぎな)くさせた男だ。


レン・トゥス・セントマリアの判断により譲歩(じょうほ)せざるを得なかったものの、その緊張感はかつて無い程に高まっている。

これも鎮政府(ザイディ)を覆う異変に(たん)を発する事か。


数刻後、(いきどお)るメディウム・パオシアオを待たせ、レン・トゥス・セントマリアは一人、「樺色(かばいろ)の声院」(ヴァーバル)地下に隠匿(いんとく)された「三咆剣(アレイア)殿」に足を踏み入れた。


「…目的の物は見つかりましたか?」


彼が声を掛けた人物、それは警備の目をい潜り、地上でのいざこざを隠れ(みの)にし、単身この場に潜り込んだと(おぼ)しい。


「…ええ、今はこれをどうするつもりもありません。これでお(いとま)させて頂きますよ。」


年経(としへ)て半壊した「夢改変機構(ウィルトゥース)」を背に、華奢(きゃしゃ)な体格の男が(うなづ)いた。

内部の「有の力学」(アクィジッシオ)精製機関が完全に機能停止している事が確認出来ただけでも十分であろうな。


神経質そうで、科学者的な相貌(そうぼう)

その瞳は盲目(もうもく)のようで、白く(にご)っている。


何ら敵対心は抱いていないようだ、が…。


「…さすがは、もっとも神に近しい者。私の真の姿が見えるとは、さすがですね。」


レーヴ・ソムニウムは素直に笑った。

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