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シナリオⅣ 4 前章 第4話

(^ー^)ノ戦国時代風第4話w

シナリオⅣ 4.4〈僕らには皆運命があるのか、それとも風に乗ってただ彷徨ってるのか?

たぶんその両方だろう。両方が同時に起こっているんだ〉

I don’t know if we each have a destiny, or if we’re all just floating around accidental-like on a breeze. But I think maybe it’s both.Maybe both are happening at the same time


草創歴0449年5月(5/25)


事前の準備も無しに、この涅槃(ねはん)山脈を越える暴挙は筆舌(ひつぜつ)()くし(がた)い。


年間を通して温暖な南東諸島群と言えども、本州島(ほんしゅうとう)アイゾンゲウアイスオ島の最高峰(さいこうほう)でもある。

先端が(とが)った岩肌を露出し、(きわ)めて(けわ)しい断崖そのもの。

酸素濃度も薄く、更には人目を忍びての夜間決行。

明かりを灯す事も忌避(きひ)される…。


急激な寒暖の差に(ほお)を震わせ、ヒビヤ・ホスアンは()め息をついた。


それでも(とうげ)は越えたと言える。

険しい岩壁を二の腕だけで()い上がる武者(ジジアンスオ)尻目(しりめ)に、彼が釣り降ろす(つた)(なわ)を頼りによじ登る。


その繰り返し…。


先行するヒカル・マデュスティック・リユセに疲労の影は見えない。

それは()もありなん。

しかし、もはや下り道とは言えども、こちらは脚腰(あしこし)も立たずにガクガクしてきた。


『だから言ったじゃないか、兄さん。俺様が背負ってやるって、さ。』


馬鹿な事を言うな。


人目を()けていると言うのに、貴様の膨大(ぼうだい)な妖気が拡散しようものなら、我々の目的地も勘繰(かんぐ)られよう。


「宮廷魔術士殿。ここは(すで)に御霊山の領域…その結界の中ならば、ウリュウ殿が出て来られても大丈夫なのでは?」


我々が向かう先は「御霊山(ごりょうざん)」だ。

鬼脈(きみゃく)の中心地とも言うべき場所である。


鬼脈(きみゃく)とは、この本州島(ほんしゅうとう)アイゾンゲウアイスオ島を貫く地脈の俗称である。


御霊(ごりょう)」を(たてまつ)る「法王院(ファゴンスンディアン)」は、この鬼脈の流れを把握し、意に従わせる事で都市の隆盛を操作し、国家守護にも転ずる(わざ)(しゅ)」を見出したとされる。


彼等が秘匿(ひとく)する「御霊(ごりょう)」を護る為の結界には、もっとも特殊なものが用いられ、まさしく難攻不落の「(しゅ)」と化した。

さればこそ、その渦中ではメディウム・パオシアオの六世奥義(ジシアン・ジュエシン)「忉利千眼」を()ってしても、その先見の法は(さまた)げられよう。


「…だが、あえて危険の()を犯す必要は無い。なれば、レン殿の思惑を無為(むい)にする事にもなろう。」


「確かにその通りっ!このヒカル・マデュスティック・リユセ、浅はかであった!一生の不覚!!」


鎮政府(ザイディ)のあるオルカイ区とは逆方向に当たるミレミアザ区に位置し、この二つを(へだ)てる涅槃(ねはん)山脈を踏破しようなどとは、まさか夢にも思わぬ愚の骨頂(ぐのこっちょう)

常ならば、ビイアンフ区を遠回りしての行路(こうろ)となる。


だが、この(みち)ならば、確かに最短距離の一両日(いちりょうじつ)とも言うべき距離。

しかも逃避行には()ってこい。

(ゆえ)に私も賛同したが、あくまで机上(きじょう)の計算。

脆弱(ぜいじゃく)なる宮廷魔術士には(こく)道程(みちのり)であった。

一生の不覚とは、まさにこちらが(のど)から出掛かる言葉だった…。


(いた)(かた)ない。ここはしばしの休息を取りましょうぞ。」


「…ヒカル殿、それは助かる…。」


ちょうど身を隠せる谷間(たにあい)を見つけ、身体を押し込む。

ヒカルの気遣(きづか)いに感謝し、一息つくには申し分ない。


しかし、互いに気になるのは「樺色(かばいろ)の声院」(ヴァーバル)まで同行(どうこう)してきた御仁(ごじん)、レーヴ・ソムニウム殿の行方(ゆくへ)か。

追跡(ついせき)を警戒し、心ゆくまで探すこと(かな)わず、彼の行方(ゆくへ)は分からず仕舞(じま)い。


「うむ…レーヴ殿は元来(がんらい)法王院(ファゴンスンディアン)(まね)きに(おう)じられ、調査に(まい)られたとの事。ならば、我々と行動を共にする方が危険かと思われるが…。」


「おお、流石(さすが)は宮廷魔術士殿!きっと今頃はレン殿に(かくま)われているに相違(そうい)ない!」


うむ。そう願わずにはいられないヒビヤであったが、先行きの不安もあり、人の身を(あん)じている場合でも無い。

去り(ぎわ)に伝えし、レン・トゥス・セントマリアの言葉が脳裏(のうり)に残っていた。

レン殿は護法天道(ディ-ヴァ)が最高位「如来位(タターガタ)」である。


『弟殿は必ず無事に送り届ける。ご安心なさい。』


それの意味するところは如何(いか)に?


「どうされた、宮廷魔術士殿?」


心配気(しんぱいげ)に顔を覗き込む友に、ハッとする。


これは言うべき事かと苦悩する。

されど、もはやヒカル殿は当事者(とうじしゃ)

それどころか、こちらの事情に巻き込まれた可能性も()きに(あら)ず。


「ヒカル殿…恐らく、今起こっているケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)の混乱は、かの第参帝国総軍に起因(きいん)するものと推察(すいそく)される。」


「…何と!?宮廷魔術士殿は、それに心当たりがあるとっ!?」


あくまで、それは推測(すいそく)に過ぎない。

心当たりと言うよりも、その者に見憶えがあった。

だが、それを解き明かす為には、(おの)出自(しゅつじ)をも告白する必要があった。


「…かのハーリィー・ハーピーズ。あの仮面の女性(にょしょう)を憶えておられるか?」


それは帝国が(ほこ)る最強の「肆(四)大総統」の一人。

今も(なお)、思い浮かぶは妖艶(ようえん)なる色香(いろか)であろうか。


その、他を(あっ)平伏(へいふく)させる、尋常(じんじょう)ならざる美貌(びぼう)が、今や鎮政府(ザイディ)占拠(せんきょ)していた…。

玉座に()する国家当主(ジュンワン)キースヴェルヌ・スウイツエ・シピンの(かたわ)らに(はべ)り、絶えること無き微笑みを浮かべる。


居並(いなら)摂政官(ダツン)等は戦々恐々(せんせんきょうきょう)とした。

()ねてよりの要求を(こば)み続け、「樺色(かばいろ)の声院」(ヴァーバル)に叛逆者ヒカルとヒビヤが訪れ、これを取り逃がして後の謁見(えっけん)である。


謁見(えっけん)を許可された法王院(ファゴンスンディアン)の護法天道(ディ-ヴァ)との一触即発(いっしょくそくはつ)の事態。

双方、(ふく)むところは多々あろうと見受けられる。


紅緋(べにひ)(ころも)に身を包むが法王院(ファゴンスンディアン)身印(みしるし)

品性高潔(ひんせいこうけつ)が人の姿を()したレン・トゥス・セントマリア。

その素顔は肌肉玉雪(きにくぎょくせつ)の美青年。

優雅さを()(そな)え、呼ばれるは「もっとも神に近しい者」。

顔に似合わずも、その趣味は家庭料理を作り振る舞う事とか…。


国家当主(ジュンワン)におかれましては御機嫌(ごきげん)(うるわ)しゅう。さて、此度(こたび)仕儀(しぎ)如何(いか)な意図があっての事か、お(おたず)ねさせて頂きたい。」


口調は穏やかである。


受けるキースヴェルヌ・スウイツエ・シピンとて、(まゆ)一つ動かさぬ豪放磊落(ごうほうらいらく)


若くして国家当主(ジュンワン)を引き継いだキースヴェルヌであったが、その苦悩を体現するかのように、眉間(みけん)(しわ)は深い。

年齢的には、ヒカルやヒビヤとそう大差無い筈であるが、武者(ジジアンスオ)等に御館様(おやかたさま)(俗称)と呼ばれるように、年相応よりも歳経(としへ)て見えた。


(ランセ)を基調とした「天色(あまいろ)」の王衣(おうえ)(まと)い、威風堂々(いふうどうどう)とした(たたづ)まいで告げる。


「そなたらが我に不信を抱いていると同様、我もまた、そなたら法王院(ファゴンスンディアン)に長らく不信を抱いていた…ただそれだけの道理(どうり)よな。」


キースヴェルヌは淡々(たんたん)と言い放ち、(かたわ)らのハーリィー・ハーピーズに(ささや)き掛ける。

何やら親密な関係と見受けられる。


「なるほど…して、その女とは、どのような関係か?」


何故に、鎮政府(ザイディ)の中枢部とも言うべき「天馬(フェイマ)之間」に、帝国軍の女傑(じょけつ)を招き入れているのかと?

それはもっともな質問であろう。

摂政官(ダツン)等も息を飲む。

あってはならぬ事であった。


(わらわ)がここにおっては不都合(ふつごう)かのう?』


「何が不都合なものか?そなたと我等は、もはや表裏一体(ひょうりいったい)。生きるも死ぬも運命共同体よ。」


キースヴェルヌのその言葉を如何(いか)に受け止めるべきか、静寂(せいじゃく)が支配した。


それは臣下(しんか)にすれども寝耳(ねみみ)(みず)の事態。

ハーリィー・ハーピーズ率いる第参帝国総軍と(ひそ)かに通じ、法王院(ファゴンスンディアン)(たばか)るなど前代未聞。

国家の足下(あしもと)を揺るがす独断専行であろう、と。


国家当主(ジュンワン)よ!そのような事、ケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)の長き歴史を(かんが)みても無きこと。今一度、御考慮(ごこうりょ)を…」


進言(しんげん)せし摂政官(ダツン)の一人の首が即座に飛んだ。


ズシャッッッ!!


己の身に起きた事さえも分からぬであろう、まさに刹那(せつな)の抜き(ぬきみ)


これを()したのは、いつの間にやら玉座に(はべ)背徳(はいとく)の将、ミュウ・カトー・ジュスオ。

ハーリィー・ハーピーズに心酔(しんすい)する第参帝国総軍総大将にて「毘宝者」である。


「愚か者共め。臣下(しんか)が主人に物申(ものもう)すは死罪(しざい)と知るが良い!」


断罪を()って、その冷酷な眼差しで摂政官(ダツン)等を一喝(いっかつ)する背徳の将。


…背徳の将は歩を進める。

眼光冷ややかなりし、その冷気は刃「倶利伽羅封剣」をも覆っている。


一様に(おそ)(おのの)く一同にあって、レン・トゥス・セントマリアのみが泰然自若(たいぜんじじゃく)を貫く。


「…よもや、我等、法王院(ファゴンスンディアン)を臣下と見なしての言葉ではあるまいな?」


動じる素振(そぶ)りも見せず。

なれど、国家当主(ジュンワン)にその警告は意味を()さぬ。

もとより、海域から姿を消した筈の第参帝国総軍の首魁(しゅかい)がこの場に居合わせた事で、事の成り行きは読めると言うもの。


「臣下と呼ぶよりも、今や(うと)ましき存在よな…この()に、法王院(ファゴンスンディアン)からの(なが)きに渡る支配から脱するのも面白ろかろうて?」


「…キースヴェルヌ・スウイツエ・シピンよ、それがあなたの意志か?」


もはや、交渉決裂は回避不可能かと思われたその(とき)鎮政府(ザイディ)を揺るがす騒音が響き渡る。

書院(しょいん)青藍之間(せいらんのま)方面より煙りが立ち(のぼ)り、思いもよらぬ(とき)の声が上がった。


何事かと、いち早く動いたのは背徳(はいとく)の将、ミュウ・カトー・ジュスオ。


玉座に座したキースヴェルヌは眉一つ動かさず、彼等の動向(どうこう)を見定めるのみ。

すかさず、レン・トゥス・セントマリアが後方に下がり、混乱に(じょう)じるも、抜き身の追撃が襲いかかる。


ガキィィィ…ィィィン!!


だが、苦もなく弾き返すは、円形の刃を持つ法具(ほうぐ)「硨譆羅胎蔵法輪」。

レン・トゥス・セントマリアの護法気(ムドラー)が、法具を触媒(しょくばい)とし、あらゆる殺傷能力を無限反射する「(しゅ)」を顕現(けんげん)する。

天馬(フェイマ)之間が緋色(ひいろ)の「呪(術式)」に染まった。


…自らの力が自らに(かえ)る。


「これぞ秘術、施無畏印。」


(わざ)を還されたミュウ・カトー・ジュスオ。

(おのれ)の斬撃が我が身を襲う。

それは「神に近しい者」と呼ばれる所以(ゆえん)である。


「ぐおっ!?」


もんどり打って、吹き飛ぶ背徳の将。

再起不能かと思われたが、彼は即座に跳び起きた。

眉間から血が(したた)り落ちる。


「皮一枚…私の抜き身の奥義、切支刀(きりしとう)を弾き返すとは、流石(さすが)と言う他なし。」


ミュウ・カトー・ジュスオは再度、居合の(かま)えで立ち(ふさ)がる。


「…なるほど、その『毘』変相で反射を無効化したのか?」


摩皇軍(モゲウイジュンテウアン)の国宝たる守護剣『毘』。

その保有者たる「毘宝者」。

左手の甲に刻まれた宝印が、対立者の六世奥義(ジシアン・ジュエシン)を吸収し無効化する。


「だが、そなたの攻撃は私には届かぬ。無駄な事はやめたまえ。」


護法天道(ディ-ヴァ)の「(しゅ)」は鬼脈を通し、無尽蔵(むじんぞう)に供給されるもの。

いかな「毘宝者」と言えども、これを撃ち破るは並大抵の事では無い。


一方、書院(しょいん)青藍之間(せいらんのま)にて騒乱を引き起こす彼等は、「(しゅ)」を有する護法天道(ディ-ヴァ)3名。

鎮政府(ザイディ)に駐留する法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)武者(ジジアンスオ)では、彼等、護法天道(ディ-ヴァ)を(さまた)げる事が出来る筈も無い。


法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)の主力は、現在、謁見が行われている正殿を固めており、それは言わばレン・トゥス・セントマリアを過剰(かじょう)に警戒しての事だ。

法王院(ファゴンスンディアン)を敵に回すならば、最高位「如来位(タターガタ)」の身は捕獲したいと考えて(しか)るべき。


それを見越し、逆手(さかて)に取りて薄手の警備となった監禁場所から、「彼」を奪取するのがマカ・ロン・タオの役目である。

引き連れた護法天道(ディ-ヴァ)を(ともな)い、奇襲を仕掛ける。


猶予(ゆうよ)は無い…標的を奪取の後、散開せよ。」


紅き甲冑の護法天道(ディ-ヴァ)が先行し道を開く。

それぞれが「(しゅ)」たる護法気(ムドラー)()び、武者(ジジアンスオ)等を駆逐(くちく)してゆく。

脱出経路(けいろ)は彼等が作る手筈(てはず)


明王位(アヴァターラ)」マカ・ロン・タオは、座敷牢(ざしきろう)として使用されている奥座敷(おくざしき)に単独突入した。

ここの構造は良く把握している。

何より、「御霊(ごりょう)」の(みちび)きに従い、彼を保護したのはマカ・ロン・タオ自身であった。


「ナウタ、ここか?」


(ふすま)を開け放ち、その奥間(おくま)で、何するでもなく(たたず)む少年。

その名を「ナウタ・ヴォルケーノ・ラウム」と言う。


(うつ)ろな瞳は、己の身に何事が起きているかも分からぬであろう。

御霊(ごりょう)」と接触したばかりの酩酊(めいてい)状態は、護法天道(ディ-ヴァ)となる為の契約(チイユユ)の「(しゅ)」である。


「…?」


(あば)れるなよ、ジッとしておいてくれ。」


何処(どこ)にそんな力があるのか?と疑いたくもあるが、小柄(こがら)なマカ・ロンは容易(ようい)にナウタを肩に(かつ)ぎ、脱兎(だっと)のごとく来た道を戻る。


レン・トゥス様が(おとり)となり、合流出来ぬとも、このままオルカイ区を抜け、「御霊山(ごりょうざん)」にて再起を(はか)る算段。

よもや、かのレン・トゥス様が遅れを取る筈もあるまいが…。


ともあれ、一目散(いちもくさん)に目指すは勿忘草(わすれなぐさ)色の正門、「歓会門」。

走る速度に迷い無し。


一行が玉砂利(たまじゃり)()()められた「天之御庭あめのおにわ」に出やれば、あとは目と鼻の先であった。

ここを抜ければ、もはや追撃の手段は無し。

護法天道(ディ-ヴァ)にとって、その無尽蔵(むじんぞう)とも思える耐久力と活力もまた「(しゅ)」の一つである。


安堵(あんど)した途端(とたん)、先陣を行く護法天道(ディ-ヴァ)が跳ね飛ばされた。

その胸には大穴が()いている。


それは「歓会門」の真正面…。


「貴様…綿津見(わだつみ)か?」


周辺の色に溶け込みた綿津見(わだつみ)色が姿を(さら)す。


ズズズ…ズズズ…ズズズズ。


何も存在していなかった場所に、突如として(あらわ)()でる者あり。

彼等特有の霊子統制機関「ジ・タリスム」の構築(こうちく)により、空間を屈折生成し、可視できぬ障壁を生み出し、姿を隠して待ち伏せしていたのだろう。


それは唾棄(だき)すべき、法王院(ファゴンスンディアン)にとっての宿敵。

南東諸島群の永き歴史の水面下に()いて、お互いに牽制(けんせい)しあう仇敵(きゅうてき)であった。


「何をしているのです。ここは私が(おさ)えます…あなた達は先に進みなさい。」


「レン・トゥス様…その傷は!?」


忽然(こつぜん)と舞い降りたるレン・トゥス・セントマリアの紅緋(べにひ)の衣は、背から袈裟懸(けさが)けに切り裂かれている。

血の(しずく)玉砂利(たまじゃり)が吸う。

決して浅手(あさで)ではあるまいが、彼の()した瞳の向こうは、立ちはだかる敵を(とら)えて離さぬ。


無言で指し示す指先に、マカ・ロン・タオは(うなず)いた。


後を(たく)しつ、「歓会門」を突破するべく、ナウタを背に(かつ)いだまま駆け抜ける。

それが当初からの計画であり、躊躇(ためら)余地(よち)も無い。


「…彼女の亜空間に呑み込まれてどうなる事かと(あん)じましたが、それが(こう)(そう)するとは予想外でした。」


マカ・ロン・タオ等を見送り、レン・トゥス・セントマリアは自嘲(じちょう)した。

よもやの深手(ふかで)

天馬(フェイマ)之間」にて、背徳の将ミュウ・カトー・ジュスオを一蹴(いっしゅう)した事で気が(ゆる)み、私とした事が背後から一撃を()った。


振り返る間も無く、ハーリィー・ハーピーズの生み出した亜空間に呑み込まれる始末(しまつ)

湾曲空間ごときを脱出するに造作(ぞうさ)も無くも、不意打ちを掛けた相手が相手ならば、事はそうは単純な問題では無かった。


「彼等が…鎮政府(ザイディ)の内部にまで入り込んでいる?」


鬼脈の「(しゅ)」に護られし鎮政府(ザイディ)に、かの綿津見(わだつみ)が入り込むなど、内通者が無ければ不可能に近い。

もはや第参帝国総軍云々(うんぬん)の問題では無い非常事態である。


しかも、私を地に()せさせし綿津見(わだつみ)はあろうことか、障壁によって身を隠していたとは言え、あの「オグ・ザ・ゴグマ」であるのは相違(そうい)ない。


幾人(いくにん)もの護法天道(ディ-ヴァ)達を(ほふ)って来たとされる、悪名高い要注意人物である。

顔全面を覆う特徴的な半透明バイザーが記録映像と等しい。


「…そなたの名を聞いておこうか?」


とは言え、レン・トゥス・セントマリアは、今は()つべき眼前の敵の名を問いただす。


『俺の名は…ロム・テッド・ラーマス。』


青年の身を包む洗練された薄手のコートにも似た機械化装甲は、各所に霊子統制機関「ジ・タリスム」を内蔵する「ジ・タリスム・イージスアーマー」。

深海の色とも言うべき(にぶ)き青銀色が綿津見色であり、その色に彼等は統一されている。

初めて見る顔であったが、一筋縄ではゆかぬ敵に間違いない。

その一撃は下位とは言え、護法天道(ディ-ヴァ)を(ほうむ)っている。

そして、その禁忌(きんき)の名…ラーマス。


マカ・ロン・タオが保護した少年、ナウリが「綿津見(わだつみ)」であったとの報告を受けてから、こうなる予感はしていた。

これも全て、「御霊(ごりょう)」の意志であるのかと…。


そして今、ヒビヤ・ホスアンは自身もまた、その名が(いつわ)りであり、「綿津見(わだつみ)」の一族である事をヒカル・マデュスティック・リユセに告白していた…。


「私の本当の名は…ヒビヤ・ヴォルケーノ・ラウム(ラーマス)。」


「何と!?では、あのハーリィー・ハーピーズ殿は!?」


そう、彼女こそは我々、綿津見(わだつみ)を統括する「海府の郷」(ニライカナイ)の(おさ)、エポナロッド・キロペー、その人であろう、と。


肆(四)大総統として、初代帝位ラシュア・エクナスに取り入った彼女の思惑は何処(どこ)にあるのだろうか?


「恐らく、彼女は始めるつもりなのだ…我らの()たる天都の郷 (ディウム)と訣別(けつべつ)する為の戦争を…。」


我々は、その謀略の渦中に投げ出された(こま)に過ぎない。

当主シピン家を見張る為だけに作られしホスアン家でしか無いのだから。


その渦中にあってただ一人、(かな)しみに暮れるは可憐(かれん)なりし姫君(ひめぎみ)であった。


国家当主(ジュンワン)キースヴェルヌ・スウイツエ・シピンの実の妹君(いもうとぎみ)である、オリファ・シピン。

彼女もまた「天色(あまいろ)」を使用した諸島群伝統の衣装「姫衣」が(きら)びやかに()える女性(にょしょう)であった。


事は(しず)まりしも、鎮政府(ザイディ)のどこもかしこも血色に染まっている。


生来の虚弱(きょじゃく)故に、鎮政府(ザイディ)を出る機会の少ない彼女にとって、ここが世界も同然であった。

常日頃、南東諸島群の平穏を願う彼女の瞳から、(きよ)らかなる一筋の涙が流れ落ちる。


兄の変節(へんせつ)、それが全て(おのれ)の身に起因する重責(じゅうせき)


もうあの頃には戻れないのかと…手のひらで顔を覆った瞬間、天地がひっくり返った。


側女(そばめ)達の悲鳴が響き、駆け寄る足音を聞きながら、オリファの意識は混沌(こんとん)へと沈んで行くのだった…。

(^ー^)ノ5話からは、また前後編になりますw

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