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シナリオⅣ 4 前章 第2話

(^ー^)ノここに登場するレーヴさんは、ヤマさんの物語に登場するレーヴさんと同一人物ですw

時間軸として3と4は同じ流れになります。

シナリオⅣ 4.2〈僕らには皆運命があるのか、それとも風に乗ってただ彷徨ってるのか?

たぶんその両方だろう。両方が同時に起こっているんだ〉

I don’t know if we each have a destiny, or if we’re all just floating around accidental-like on a breeze. But I think maybe it’s both.Maybe both are happening at the same time


草創歴0449年5月(5/17)


悪夢とは、(おの)がそうと自覚するが(ゆえ)の認識であり、現象でもある。


(ささや)き続ける声が余韻(よいん)を越え、今しも我が自我(じが)を呑み込まんと(ほっ)する。

(あらが)うも、侵食(しんしょく)する闇が手足に(から)みつき、如何(いかん)ともし(がた)い。


それは蜘蛛(くも)の糸か?

巨大な蜘蛛(くも)がほくそ笑む。

この蜘蛛(くも)餌食(えじき)になるのが私の運命なのか?


そんな(とき)にあっても、思い浮かべ、(あん)ずるのは弟の身だった。

故郷に残せし我が弟。

それは、私を(しば)り付ける誓約(せいやく)でもあった。


なれども、我がただ一人の肉親。

ナウリ・ヴォルケーノ・ラウムを人質に取られている以上、このヒビヤ・ホスアンとて()(そむ)くわけにもいかぬ。


途端(とたん)、弟の姿が変容(へんよう)する。

(くず)れ、()け落ち、その背後にて哄笑(こうしょう)する女傑(じょけつ)ハーリィー・ハーピーズの姿…。


ああ、これは悪夢なのだと自覚する。

しかし、あまりにも生々(なまなま)しく、絶望に(あたい)する悪夢だ。


『我の力を求めよ…なれば、その(くさび)より、お前を解放してやろう。』


「やめろ!私を誘惑する気か、土蜘蛛(つちぐも)め。」


甘く甘美(かんび)(ささや)きに、心が(かたむ)きそうになるも、その声に従う危険性を()く思念が流れ込む。


土蜘蛛(つちぐも)威嚇(いかく)奇声(きせい)を上げた。


『…目覚めたまえ…君の友人は(すで)に先を行ったよ。」


まるで、(さと)すように語り掛ける声。


(まばゆ)い日差しと共に、その顔形が(おぼろ)げに視界を()める。


「…目が覚めたようだな。」


安堵(あんど)の表情を浮かべ、その男は自らを「レーヴ・ソムニウム」と名乗った。


朴訥(ぼくとつ)な印象を与える男だ。

しかし、服装からして(あや)しげで、西方からの異邦人(いほうじん)と見受けられる。

西方人は総じて巨躯(きょく)にて白き肌をしている。


見やれば、浜辺に近い野営地のようで、潮風(しおかぜ)が鼻を突く。

簡素(かんそ)な野営用の寝具に横たわり、疲労感からか身体が重く感じる…。


とは言え状況を(かんが)みれば、一命を取りとめ(すく)われし恩義は何よりも(とうと)し。

武者(ジジアンスオ)の流儀にて、一宿一飯の恩義に(あたい)する。


「あなたは丸四日間、昏睡(こんすい)状態にあった。無理に身体を動かしてはいけないよ。」


「…なんと、あれから4日が無為(むい)に過ぎ去ったと?」


ふいに、我が友の顔が思い浮かぶ。


「…ああ、君と一緒に流れ着いた青年なら、一足先に、ここより程近き属領カーラルトに向かいましたよ。」


置かれている現状が(さだ)かでは無いにも(かか)わらず、あのヒカル殿を1人で先行させるなどと、まさに無謀(むぼう)(きわ)み。

ヒビヤの額に冷や汗が流れ落ちる。

悪夢から醒めたは良いが、まだまだ一悶着(ひともんちゃく)が続きそうであった…。


ケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)の属領とは、(すなわ)ち「法王院(ファゴンスンディアン)」が勢力下に置く衛星都市の()である。

その中にあって、「法王院(ファゴンスンディアン)領カーラルト」は最大の規模を有する衛星都市とされる。


位置にして、本州島(ほんしゅうとう)アイゾンゲウアイスオ島から(へだ)たれし南東にある列島、ジャミイアン島を拠点とする城郭(じょうかく)国家だ。

伝説によれば、一夜にして築城が成されたとの逸話(いつわ)も残る。


ジャミイアン島の中腹に(そび)えるのが「漆箔曼荼(ウトバン)城郭(じょうかく)」である。

壮大な石垣(いしがき)の土台に囲まれ、鎮政府(ザイディ)にも(おと)らぬ荘厳(そうごん)漆塗(うるしぬ)りの木造城郭(じょうかく)

属領主(リンズウ)(まね)いての茶会を(もよお)すなど、一個の都市の様相(ようそう)をも()ねている。


取りも直さず、(はや)る心を(おさ)えきれずにヒカルは入城を果たしていた。

何よりも、現在に(いた)るケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)の様子を知るが先決であった。

ここならば、第参帝国総軍の動きも(つか)めよう、と。


だがそれは、驚くべき事に本州島(ほんしゅうとう)アイゾンゲウアイスオ島を(はさ)み、スジャン半島と対極位置にまで飛ばされていた事実を突き付けられた。


(じつ)に、ヒカル・マデュスティック・リユセがこの地を訪れるのは2年振りであった。

国家当主(ジュンワン)キースヴェルヌ・スウイツエ・シピンに随行(ずいこう)しての、視遊(しゆう)を兼ねた威力訪問である。

空席にあった法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)大将(ジアンジュン)位に()いたばかりの時分(じぶん)であった。


(わず)かに2年の月日では町並みに差異(さい)は無い。


とは言え、何ら変わること無き長閑(のどか)さが心休ませる。

民衆(みんしゅう)(おだ)やかさや、開放感もまた南東諸島群の特徴でもある。


「失礼 (つかまつ)る。我は、ケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)に所属せし、ヒカル・マデュスティック・リユセと(もう)す。開門をお願いしたい!」


矢倉望楼(やぐらぼうろう)が見下ろす城門を前に、大声量(だいせいりょう)にて名乗りを上げる若武者(ジジアンスオ)が1人。


何事かと(のぞ)き込めば、そこにはヒカルの満面(まんめん)の笑顔あり。


「ヒカル・マデュスティック・リユセ殿、御入城!!」


漆箔曼荼(ウトバン)城郭(じょうかく)に響き渡る登城の雄叫び(おたけび)。

静々(しずしず)と天守本丸を進む武者(ジジアンスオ)の面持ち神妙(しんみょう)なり。

なれども、久々(ひさびさ)の再会に感極まるものがあった。


「ヒカル殿、御久(おひさ)しゅうございます!!」


若く(たよ)りなげであった面影は消え去り、優雅さを()ね持つ若武者に成長せし青年が駆け寄る。


「おおっ!もしや、レオ殿でありましょうか!?」


ひしと抱き合い、旧交を深める。


「何と、(たくま)しき武者(ジジアンスオ)となられた。叔父上(おじうえ)殿は御健在(ごけんざい)か?」


バイセ家の嫡男(ちゃくなん)として、この法王院(ファゴンスンディアン)領カーラルトを引き継ぐ立場にある「白家」の和子(わこ)である。


属領主(リンズウ)アティルフィア・カーラルト・バイセとは直接の血縁関係は無く、法王院(ファゴンスンディアン)による養子縁組(ようしえんぐみ)

血縁関係で言わば、リユセ家の家長であるヒカルの方が(ちか)しい。

しかして、これも法王院(ファゴンスンディアン)が決定した事由(じゆう)ならば口を(はさ)む余地は無し。


義父上(ちちうえ)殿は小康(しょうこう)状態なれど、ヒカル殿がいらっしゃったと聞けば、きっと喜んでくださる事でしょう!(すで)に一報、伝わっている筈。」


「おお、ならば今すぐにでも!」


しかし、ここで途端(とたん)に若き武者の顔色が(くも)る。


「いかがした、レオ殿?」


「ヒカル殿…私達は貴殿が本国を裏切るような方では無い事は、良く存じております!これは何かの間違いに相違(そうい)ないと…。」


「何とっ!?」


驚愕(きょうがく)に打ち震えるしかなかった。

聞き(およ)べば、隣国「摩皇軍(モゲウイジュンテウアン)」に通じ、ケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)(おとし)める策略を(くわだ)てたとして、天下にお尋ね者として流布されているとの事。


「馬鹿なっ!!(われ)御館(おやかた)様を裏切るなどと、天地がひっくり返ってもあり得ぬっ!」


ましてや我のみに(あら)ず、交渉に同行していた宮廷魔術士殿までもが同罪であるとか。

濡れ(ぬれぎぬ)(はなは)だしい。


…なれば真偽を問い詰めねばなるまい。


「とは言え、これはキースヴェルヌ様の勅命(ちょくめい)であるとか。罪状についての詳しい書状は記されておりません…。」


「ぬう…ともあれ、未だケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)が健在であり、第参帝国総軍の進軍を(おさ)えていると言うことなれば安堵(あんど)した。」


ヒカルは、ホッと胸を()で下ろす。


そんな最中(さなか)激震(げきしん)が走る。

天守本丸を()るがすは由々(ゆゆ)しき事態か?


漆箔曼荼(ウトバン)城郭(じょうかく)が包囲されております。包囲勢の旗印(はたじるし)法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)と見受けられます!」


狼狽(うろた)える家臣を一喝(いっかつ)し、若き武者は腰を上げた。


「皆の者、落ち着けっ!!」


だが、法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)と言えば本国、ケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)の正規軍。

言わば、国家当主(ジュンワン)キースヴェルヌ・スウイツエ・シピンの()の代行者。

ヒカル殿の登城を()に姿を現すとは都合の良き事だ。

よもや、義父上(ちちうえ)殿の()さる事か…?


「ヒカル殿、ここは何も言わず、城郭外に通ずる隠し通路を通り、(だっ)しては下さりませぬか。」


「…()なことを言う。この()(およ)んで、我に(うれい)なし。であるならば、堂々と釈明(しゃくめい)いたすが我が務め。仮にも大将(ジアンジュン)である(ゆえ)に!」


ヒカルの言葉に一点の(くも)り無し。


我が詮索(せんさく)が浅はかであったやと、白家の誇りを引き継ぐ資格無しと感銘(かんめい)するレオ。


感服(かんぷく)いたしました。ならばこのレオ・カーラルト・バイセ!並びにその配下、曠野虎軍(ウアンイェフウ・ジュンテウアン)如何(いか)な状況に陥ろうとも、ヒカル殿と共にあらん事を誓いましょうぞっ!」


「レオ殿、かたじけないっ!!」


熱き血潮(ちしお)を有する2人の男が(こぶし)(にぎ)り交わした。

(とし)は離れていようとも、共に競い合いし「瓔珞修験堂(バオスタンソ・ティンユアン)」の同胞(はらから)

武者(ジジアンスオ)(かがみ)たらんとして切磋琢磨(せっさたくま)せし、育成の為の組織である。

なれば、いかなる障害であろうとも分かり合えると信ずるヒカルであった。


だがしかし、いざ矢面(やおもて)に立ってみれば、その思惑(おもわく)に反し、法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)の軍勢は包囲殲滅の(かま)えを崩す様子も見せない。

少なくとも、かつて自らを率いていた大将(ジアンジュン)、ヒカル・マデュスティック・リユセに対する敬意(けいい)も見られず。

違和感だけしか感じない。


「貴殿等、何とするつもりか?同じ同胞(はらから)に対するこの包囲は如何(いか)なる所存(しょぞん)かっ!?」


ヒカルの問答(もんどう)を受け、甲冑武者の一軍が二つに()れる。


「…そ、そなたは!?」


開かれし道を悠然(ゆうぜん)と歩み、大軍勢を率いる自負心からか、今までに無き威圧感を(たた)えた武者(ジジアンスオ)が素顔を(さら)す。


「これは、これは…大将(ジアンジュン)殿…いや、元と言った方がよろしいかな?今や、ケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)(あだ)なす反逆者、ヒカル・マデュスティック・リユセ殿。」


その口振(くちぶ)りには皮肉が込められている。


「待たれよっ!ヒカル殿が反逆者などと、証拠を提示されぬ限りは一概(いちがい)に信用出来ぬこと。メディウム副大将殿、如何(いか)に?」


ヒカルの困惑を(さえぎ)るように、レオ・カーラルト・バイセが力強くも代弁(だいべん)する。

しかし、彼がまず真っ先に訂正(ていせい)を求めたものは、自らの(くらい)であった。


「訂正を求める!今は私こそが、法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)大将(ジアンジュン)であるっ!!」


「…貴殿は何を言っている?我の問いに(こた)える気が無いのか?」


あくまで素直な感想であったが、それが(かん)(さわ)ったようで顔を(ゆが)める。


「たわけめが!反逆者を(かくま)う国とて反逆国の(そし)りは(まぬが)れまいて!」


「我らを愚弄(ぐろう)する気かっ!?」


レオの背後に(ひか)える曠野虎軍(ウアンイェフウ・ジュンテウアン)の武者達が一様に吠え(たけ)る。

我らが大将(ジアンジュン)に対する罵詈雑言(ばりぞうごん)、決して許さぬとばかりに果敢に()えた。


「ええぇい!黙れ、有象無象共がっ!!」


虎軍の武者(ジジアンスオ)としての(ほこ)り。

それは、我らが法王院(ファゴンスンディアン)領カーラルトこそが、現本国「ケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)」の源流(げんりゅう)との自尊心(じそんしん)でもある。

(すなわ)ち、法王院(ファゴンスンディアン)の発祥地でもある。


だからこそ、これを仲違いさせるは本国にとっての損失に他ならぬこと。

何よりも、そのような事になれば(かな)しむ方がいらっしゃる。

思い浮かぶは、高嶺(たかね)の花なれども我らがケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)姫君(ワンリユ)可憐(かれん)なるオリファ・シピンの微笑(ほほえ)み。


「待たれよ、レオ殿!これもまたお国の為。(われ)(なわ)()かれば、この者等に罪が無きこと、確約(かくやく)して頂けような?」


「ヒカル殿っ!そのような、無粋(ぶすい)真似(まね)は!?」


ヒカルが我が身を()して、この国を救わんとする気概(きがい)を見せたと知り、これを引き止めようと動くレオ。


「なれども、これより他に道は無し!御心配めさるな。必ずやこの誤解(ごかい)御館(おやかた)様ならば分かって下さるに相違無し!!」


ヒカルの断固(だんこ)とした言葉と気迫(きはく)に、引き下がるを得なかった。


「良かろう…確約しようではないか。武者(ジジアンスオ)二言(にごん)は無い。」


だが、このメディウム・パオシアオ…(さかのぼ)れば、その()はかつて中央大陸南部内陸を()われた「天杯騎士団」の末裔(まつえい)である。

草創歴117年、この残党は南東諸島群に逃れ、本流は「ヨハナ連邦」として国を(おこ)したが、もう一つの血筋はケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)によって保護された。


「それこそが、我がパオシアオ家 一門(いちもん)である!」


海を裂き、法王院(ファゴンスンディアン)領カーラルトより離れんとする戦船(いくさぶね)

法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)(ほこ)る無敗の「鉄甲船(ティエ・スウイスオ)」甲板上より、メディウム・パオシアオは豪語(ごうご)する。


(ゆえ)に、我等は武者(ジジアンスオ)矜恃(きょうじ)など持ち得ておらぬわっ!!」


(しば)られた身では身動きかなわず、ヒカルは(なげ)いた。

(あざ)むかれたと知った。

撤退すると見せ掛け、鉄甲船(ティエ・スウイスオ)の半数は動かず。

取って返した甲冑武者の軍勢が「漆箔曼荼(ウトバン)城郭(じょうかく)」に押し寄せる。


その(さま)を甲板から眺めやるしかない屈辱(くつじょく)


「おのれ!メディウム・パオシアオ!かような事が許されると思うなっ!」


「…時代は変わったのですよ、ヒカル殿?これこそが今のケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)の姿!何より、他人の心配よりも御自身の身を(あん)じられては?無事に本国に戻れる保証などありますまい?」


なれば、今のケルーナー法治国家(ファズペイゴジャ)に何が起きていると言うのか?


それにつけても、その鬱屈(うっくつ)した感情は、今の今まで(おさ)え封じ込めていた、一族郎党(いちぞくろうとう)怨執(おんしゅう)か。

我が配下として、武者(ジジアンスオ)の先人として、よく()くしてくれた副大将であった。

無愛想ではあるが、真摯(しんし)な眼差しの御仁(ごじん)であったものを…。


それを見抜けぬとは、このヒカル・マデュスティック・リユセ、一生の不覚である。

なれども後悔あとを()たず。


城門に押し寄せる軍勢が散開し、戦力を分散させるや何事かと、石垣の城壁を打ち砕く砲弾の雨霰(あめあられ)


ドドドォォォ…ン!ドドドォォォ…ン!!


波止場(はとば)(とど)まる鉄甲船(ティエ・スウイスオ)からの一斉砲火が始まっていた。


その()を狙いて侵入を開始するつもりであろう。

さりとて曠野虎軍(ウアンイェフウ・ジュンテウアン)総勢500名。多勢に無勢であろうとも、レオ・カーラルト・バイセを将として一歩も引き下がる気配無し。


「例え、最後の一兵になろうとも、我らにこそ法王院(ファゴンスンディアン)加護(かご)があらんことをっ!!」


レオの号令に怒涛(どとう)(うな)りが(つら)なる。


加護があらんことをぉぉぉおおお!!!


…だがこの(とき)、戦場に異変が生じた。


戦場に介入(かいにゅう)せし、ひとつの影。

一部では小競り(こぜりあ)いも生じている。

それは敵味方の区別なく、むしろより強き敵を求めての乱入にも見えた。


その身のこなしは人のそれを大きく上回るように見えた。

武者(ジジアンスオ)の振るう(やいば)を紙一重で(かわ)し、刃の縫い目を見極め、一撃で脳震盪(のうしんとう)させ地に沈める。

まるで(たの)しむかのような、死を背に感ずる遊戯(ゆうぎ)と等しい。


…何者だ?


それは()きたようで、次なる獲物を探し求める。

砲弾を打ち続ける戦船(いくさぶね)の群れが目に入った。


あそこに(とら)われの者がいる。


心の声に押され、影が地を飛ぶ。

飛ぶように駆け抜け、障害物は容赦(ようしゃ)無く打ちのめす。

法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)武者(ジジアンスオ)が構成する陣容をいとも簡単に突破し、言わば本丸たる波止場(はとば)に到達していた。


逃すわけにはゆかぬ。


『いいんだな?ならば、ひとつ(あば)れさせてもらおうかぁ。』


それが、ほくそ()んだ。

(まぎ)れも無く、それは私の顔であった。

私の顔が邪心(じゃしん)()まる。


眼下(がんか)で次々と鉄甲船(ティエ・スウイスオ)(ぼっ)してゆく。

その身から伸びた黒き影が鋭き刃となり、波間(なみま)諸共(もろとも)に引き裂く。

(さまた)げるもの無く、紙切れのようだ。


ガシャーーーン!!!


その影の刃は際限無(さいげんな)く伸び、また物質化し、手足の(ごと)く身を(ささ)える。

海上にあって、まるで蜘蛛(くも)のように六つの刃が蹂躙(じゅうりん)を開始する。


『何たる不甲斐(ふがい)なさよ。人の子はここまで退化(たいか)せりかぁ?』


(あざけ)りつつも、標的の鉄甲船(ティエ・スウイスオ)を見定める瞳は一刻(いっとき)も離れず。


突如に降り立ちた存在に、メディウム・パオシアオは(おのの)いた。


「…ヒビヤ・ホスアンか!?」


深き闇のごとき影に(おお)われてはいたが、間違い無くその横顔は筆頭 摂政官(ダツン)たる男のものである。


「何と、宮廷魔術士殿かっ?」


ヒカルの声に反応し、ヒビヤ・ホスアンの身体が硬直(こうちょく)する。


『馬鹿め、こんな所で目覚めるとは…仕方あるまい。』


…だが、これは私の身体だ。貴様の好きにはさせぬ。

急激な覚醒に目眩(めまい)を覚え、(ひざ)を折る。


これぞ(さいわ)いとばかりに、メディウム・パオシアオが己が愛刀、「迦陵頻伽羅妙音刀」を引き抜きて迫り来た。


「宮廷魔術士殿!お逃げくだされっ!!」


身動き出来ぬヒカルの苦鳴(くめい)木霊(こだま)する。


ガキィィィ…ン!!


(ひらめ)く刃…ヒビヤの首筋を狙いた刃は、しかし寸前で止められていた。

ヒビヤの身から離れた影が、一つの形を成し、人の姿を()って立ち(ふさ)がる。


『やれやれ、そんな(なまく)ら刀で俺の大事な契約者を殺してもらっちゃ困るんだよねぇ。』


言い()(みょう)か。

「迦陵頻伽羅妙音刀」の刃を(つか)み取った指先は、押すことも引くこともままならない。


「き、貴様、魔物かっ!?」


メディウム・パオシアオが()()ずく。

太々(ふてぶて)しくも剛毅(ごうき)な笑い声を上げ、これを一笑(いっしょ)()した。


『はーはっはっはっ。俺様の名は、ウリュウ・テウズスウだ!よーく、覚えときなっ!』


豪放磊落(ごうほうらいらく)、掴み取った刃諸共(もろとも)にメディウム・パオシアオを投げ飛ばし、海の藻屑(もくず)とす。


ドボ〜〜〜〜ン


「おおっ!実に見事なり!」


感嘆(かんたん)の声を上げたのはヒカルのみ。


居合(いあ)わせた武者等は驚愕(きょうがく)に打ち震える。

なれども、その姿は威風堂々(いふうどうどう)として、花鳥風月の(ごと)無頼漢(ぶらいかん)

頼もしき印象を与える。


「君達、こっちだ!この船に移りたまへ!」


隣接する鉄甲船(ティエ・スウイスオ)から声を投げ掛けるのは、見知った姿の異邦人。

レーヴ・ソムニウムの巨漢(きょかん)がそこにあった。


「レーヴ殿、有難(ありがた)い!」


ウリュウ・テウズスウに(かつ)がれたまま、ヒカルは感謝の言葉を()べた。

ヒビヤ・ホスアンはと言うと、彼もまた気を失ったまま、ウリュウの(わき)(かか)えられている。


『しっかり捕まってろや、大将ぉ!』


「承知した!」


だが、その(なわ)は未だ健在。


軽々と(ふち)(ふち)とを(へだ)てる波間を飛び越え、甲板に飛び(うつ)りしウリュウ・テウズスウの剛脚(ごうきゃく)を見せ付ける。


それを追い掛ける戦船(いくさぶね)の姿無し…。


とりわけ戦意喪失(せんいそうしつ)()むなしにて、その被害は甚大(じんだい)であった。

(すみ)やかに、法王院棺護軍(ジダンジュンテウアン)鉄甲船(ティエ・スウイスオ)群は法王院(ファゴンスンディアン)領カーラルトを離れる事となる。


混迷(こんめい)只中(ただなか)、その渦中(かちゅう)に飛び込む小さき船の行く先とは如何(いか)に…。

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