シナリオⅣ 3 後章 第10話〈後編〉
(^ー^)ノ後編
シナリオⅣ 3.20〈私が変わったときに変わり、私が頷いたときに頷くような友は必要ない。そんなものは、私の影がずっとうまくやる〉
I don’t need a friend who changes when I change and who nods when I nod; my shadow does that much better
草創歴0449年9月(9/22) 〈後編〉
ヤーマンターカ・ハヒキが戦場に降り立った。
伴いしは、右にタッキーノ・アルジェントムニツィオーネ。左にユウラーレ・ル・ドゥスの2名のみ。
「霆の刻印」を以ってしても、共に連れて行けるのは、この2人が限度であった。
「いやぁ~。にしてもっ、でっかい蛇だよなぁ~。」
第一声。
素直な感想が口を突いて出た。
眼前の脅威を前に出た言葉としては、まるで緊張感が無い。
そこが彼らしいと言えば彼らしい。
彼ならば何とかしてくれるのでは?そんな淡い期待が広がっていく。
「ヤーマンターカ卿、よろしいか?」
馬上より不躾ではあったが、待ち人まで歩を進ませ、一礼を拝す。
「私は公王国の第一 公王子、ノーヴァルと申します…。」
「おっ!じゃあ、ちゃっちゃっと、やっちゃおうかぁ?」
引き合い同調する力は、言葉を交わさずとも解り切っているかのようで、頼もしい背中を振り向かせることは出来なかった。
ヤーマンターカの額に、一際強く輝く「霆の刻印」。
呼応し、ノーヴァルの眉間に藤色の紋様が浮かび上がる。
同時に、彼の瞳の光彩は紫紺に染まった。
深く深く知性に彩られた双眸だ。
「…我は深淵からの門 (パーゴット・コクマー)なり。」
騎乗したまま、騎馬をも藤色の霊子が包み込む。
ノーヴァルの両足首から発生した美しき翅が、まるで天馬のごときシルエットを騎馬に与えていた…。
まず先陣を切り、迸る碧き雷光を帯びたまま、ヤーマンターカが飛び立つ。
「先に行かせてもらうぜぇぇ!!」
重力を無視し、弧を描きて赤き蛇の顎と対峙したまま、虚空に留まる。
これに追随するは、天馬を御するノーヴァルである。
碧き光と、藤色の光。
二つの光が交差しながら、「赤き蛇の王」(オウロボス)を威嚇し、牽制し続ける…。
この虫ケラごときに煩わされ、赤き蛇は身を捩った。
瓦礫が粉微塵に弾け、大地が陥没し、地下空洞は崩壊した。
とは言えども、いまや大した問題でもない。
『…我を裏切りし一族もろとも、この大陸を滅ぼしてやろう。』
赤き蛇が咆哮を上げた。
ギシャァァァーーーーァァァアアア!!!
それを待っていたとばかりに、毒煙吹き上げる口腔に吸い込まれる碧き雷光。
「いやっほおぉぉぉーーーーー!!」
雄叫びを上げて、ヤーマンターカは蛇の口に飛び込んでいた。
その突撃を遮る力及ばず、実体化を果たしたが故の内部的弱点を白日の元に晒け出す。
それは即ち、「赤き蛇の王」(オウロボス)の心臓である…。
ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…。
巨大なる心臓は脈打ち、赤く明滅を繰り返す。
白骨化した頭蓋のみがこの地に封ずられ、ここまでの質量を伴った再生を果たした。
それは生命の樹たる「比類なき銀の台地」(アルジェント・ウィルダネス)から流入する精霊力の顕現である。
「…かつて、世界の始まりの地より追放されし人類の始祖は、赤き蛇にそそのかされ、知識の実を食したと言う。」
「赤き蛇の王」(オウロボス)は怒り狂い、怒号を上げる。
なれど、天馬と共に宙を駆けるノーヴァルを捉える事は出来ない。
赤き蛇には未だ、あるべき翼は剥奪されたままであったのだ…。
「…そうして自らは生命の実を食し、七つの大罪 (セプテム・アラストール)にあって、それを大きく上回る存在となった。」
それは、ノーヴァルの内にある「識の刻印」がもたらす過去の情景であった。
『…我こそが本来、お前達、人間を愛し、導く者であったのだ…故に、お前達は我を崇め讃えるが道理。』
「だが、お前が愛した者はお前の愛を受け入れなかった…ゆえに、お前はその男を己が物にせんと欲した。」
『それの何が悪い?それを、あやつらが妬み、この我から力を奪い取ったのだ。』
憎しみの奔流がノーヴァルに突き刺さる。
「七つの大罪」(セプテム・アラストール)に対する復讐のみが、この渇いた妄執を癒やしてくれよう。
「そんなテメぇ勝手な都合を押し付けんなぁ。そんな後悔は、過去に遡って自分でやり直せやっ!!」
神だって言うなら、それぐらい出来るだろうと言わんばかりに、ヤーマンターカが吠えた。
「然り…この次元は既に、人の手に委ねられた世界。神の介在する余地はないっ!」
ノーヴァルもまた、その道理を拒絶する。
「識の刻印」は、ありとあらゆる意思伝達機能の共有化を果たす。
人と人との意識を結合し、それぞれをシナプスとして、膨大な意識の統合を経て、ニューロン神化へと至る。
それは、例え相手が神性のものであろうとも同様だ。
「何故ならば…あらゆる神性もまた、人間の信仰という心から生まれたものであるからだ。」
ノーヴァルのニューロン神化が著しく発現し、輝きが増す。
この瞬間、北ソルティア周辺、生き残り、赤き蛇を見上げる人々の意識が共有化された。
からくも、残骸から抜け出したサスティン・インデックスもまた、その一シナプスに組み込まれていた。
そもそも、鉄鎖騎士団を見限り、サン・アガスティア不在のカエルム・キルクルス(天宝輪)の指揮官に収まった直後の惨劇である。
驚くべきことに、その瞬間、自己とも言うべき概念が消失し、その他大勢もまた一人一人が自身であるかのような、そんな超越感覚を味わう事となった。
それを統括して、一段高い高次元にノーヴァルの意識と融合した「識の刻印」が存在している。
何よりも、サスティン・インデックスが慄いたのは、自身の中にもう一人の自分が存在していた事だ。
「…お前は誰だ?」
顔形は同じなれど、思慮深い眼差し。
「私はお前であり、お前は私でもある…。」
その言葉は真実であると知れたが、全ての意識は今や統合され、「赤き蛇の王」(オウロボス)という神性を拒否する為の意思統一に至った。
『またしても…我と言う存在を消し去るつもりか?だが…実体を得た今の我が易々(やすやす)と封印されると思うな…。』
そう。口惜しくも封ずられた、あの刻とは状況が違う。
我を裏切りし「火の一族」(ギディエール)め…。
だが、状況が違うとは言い得て妙だ。
「俺がここにいるって事をなぁ、忘れるなよぉ!?」
ヤーマンターカから迸る碧き雷光が、全身を透過し、周囲の霊子を喰らい尽くす。
「俺の雷が、お前の心臓を止めるぜぇぇ!!」
血煙を上げ、心臓細胞を蒸発させる。
ドドドドォォォ…ォォォオオオンンン!!!
激しい鼓動と苦悶とが、赤い蛇を絶叫させていた。
文字通り、その動きを止めさせる事に成功している。
その間隙を突き、ノーヴァルのニューロン神化が極まった。
「人の記憶より消えよ…赤き蛇の王 (オウロボス)よ!!」
その刹那、「赤き蛇の王」(オウロボス)との意識接続を経て、膨大な情報量が上書きされてゆく。
記憶容量には限界があり、存在を空間に留める為の許容量も定められている。二つの摂理は同義である。
それを上書きし、記憶共々消去する「オーバーウェルム」。
シナプスとして取り込まれたタッキーノとユウラーレの両名は、この刻、「赤き蛇の王」(オウロボス)の意識の内側、深層心理の深淵に紛れ込んでいた…。
急がなくては、自分達も「オーバーウェルム」によって、存在を消去されかねない。
その前に…目的のものを見つけ出さねばならない。
『…私の第三の目 (アージュニャー)で必ずや見つけ出す!!』
記憶が混在し、激しく移ろうこの場所で、タッキーノは記憶に紛れ、幽閉された人格を探し求める。
『頼む…。』
続くユウラーレの懇願を背に、底へ、底へと沈んでゆく…。
だが、未来の事象を読み取る禁断の力…それは選び取れる選択肢が二つある事を示唆する。
…分かり切っていた事だ。
何を選び取り、紡ぎ出す事が最も最善であるのか。
『ユウラーレ、そこだっ!!』
タッキーノがその場所を指し示す。
ユウラーレの全身を「照日月主」の禍紋が彩り、煌めきと共に「捕縛光鎖結界(タルタルクス系)」の鎖が伸びる。
キュルキュル…キュルキュルッ!!
光鎖が標的を絡め取ると同時に、「赤き蛇の王」(オウロボス)と言う存在が崩壊の刻を迎えた。
『…ここまでかっ!』
止む無く、タッキーノはユウラーレを送り出そうと、外界への道を強行的に探し当てる。
「第三の目」 (アージュニャー)から血潮が流れた…。
雪崩のごとく渦巻く「オーバーウェルム」の口蓋に引き摺られ、潮流に足を取られる。
『行け!!振り返るなっ!真っ直ぐ進めっ!!』
私は…お前を選べなかった。
ならば、友である私も共に行こう…サンよ。
ユウラーレは静かに眠り続ける我が弟の魂を、両手でしかと抱えたまま、タッキーノを振り返る。
足を止めるなと叱咤され、駆け抜けたその先に、突如として足元に大地を感じた。
「!?」
いつの間にやら、実体をもって超感覚から解き放たれていた。
寸前まで見上げていた赤き蛇は虚空の果てに消え去り、光差す天を見つめる己を取り戻していた…。
「…戻って…来たのか?」
あの暗雲は千々(ちぢ)に乱れ、天変地異の予兆は人々の記憶と共に薄すれてゆく。刻さえも超越したかのように、日が登っていた…。
残されたのは、北ソルティアの崩壊した大地だけか?
それでも、天より降り立つ2つの輝きがその証拠だ。
一つは藤色の輝き…。
もう一つは碧き輝き…。
ノーヴァルとヤーマンターカは共に、ユウラーレの元に降り立った。
慟哭の涙を流す彼の両手から抜け出し、その魂が瞬く。
『ありがとう…お兄ちゃん…。』
その魂は儚く微笑む。
…消えるわけじゃない。
元の自分に戻るだけの事。
ユーキ・オンベリーコの魂は、「比類なき銀の台地」(アルジェント・ウィルダネス)と言う名の樫の木が、長い年月を経て精霊に昇華したもの。
「ユーキ…また、いつかきっと…会えるよな?」
ユウラーレの肩をヤーマンターカが叩く。
見送る者達を背に、幼き魂は遠ざかって行った。
光差す廃墟の美しさが、門出のようにも見えた。
この世界はまだ、人による可能性を秘めていると、そう確信させてくれたのだ。
ありがとう…。
シナリオⅣ 3 後章 完
(^ー^)ノ10話…完結。
とりあえず、ヤマさんの物語もここで終了。
明日は終章をちょちょっと書いてみますw




