シナリオⅣ 3 後章 第10話〈前編〉
(^ー^)ノヤマさんの物語…最終話前編w
シナリオⅣ 3.20〈私が変わったときに変わり、私が頷いたときに頷くような友は必要ない。そんなものは、私の影がずっとうまくやる〉
I don’t need a friend who changes when I change and who nods when I nod; my shadow does that much better
草創歴0449年9月(9/22) 〈前編〉
…宵闇が来りて、勝敗の行方は決した。
都市内部の掃討は時間の問題であった。
クリシュナ派の突入部隊を率いるタッキーノ・アルジェントムニツィオーネもまた、陣頭指揮にて先陣を切る。
南ソルティア内部は格納通路が複雑に絡み合い、迷宮かと見紛う。
されど多対一の戦場と成りにくく、包囲殲滅される危険性は少ない。
元より、クリシュナ派は手練れが多く、遅れを取る者は少ないのだ。
故あって、後顧の憂いなく、タッキーノは駆け抜ける。
構造に関しては、労せず「金眼の社」のケンタ・ウルス・タングマアイからもたらされていた。
だが、そこで目撃した光景に唖然とし、怯んだ。
「やめろっ!サン!!」
怯みはすれども、旧友の暴挙に手をこまねいている訳にはゆかない…。
タッキーノは、その身を灼熱と化し、刃と渾然一体のままに追突する。
魔法戦士の秘技「ダンテの魔剣」(ダンテ・スパーダ・インカンテージモ)である。
ガキィィィ…ィィィンンン!!
だが、サン・アガスティアの翳す左手の障壁によって、無造作にも撥ね付けられた。
『痴れ者め…それ以上、近付く事は許さぬ。』
その「蛇の印」(エリクトニオス)によって妨げられ、進路を絶たれている。
これ以上、進むことが叶わない…。
その先では、茫然自失のまま、ユウラーレ・ル・ドゥスは、眼前で繰り広げられる饗宴に慄き凍りついている。
「……。」
忽然と現れた「赤き蛇の王」(オウロボス)によって、葛藤の最中にあった兄弟の絆が断ち切られてしまった…。
ユーキ・オンベリーコの背から胸を貫くは、サン・アガスティアの右手の凶爪。
禍々(まがまが)しいまでの赤き鱗がその肌を覆い、「紅蓮の鱗気」と交わりてその身を血色に彩っている。
ユーキの心臓がサン・アガスティアの右手の中で脈動していた。
ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…。
降りしきる血潮がユウラーレを赤く染める。
何が起こったのかも分からぬままに、ユーキが吊り上げられる様を眺めやった。
『微弱なれども、この者もまた生命の樹 (セフィーロト)の一部…我から奪われし物に遠く及ばぬも、我の力の礎になれる事を有難く思うがよい。』
その心臓が明滅し、その凶爪によって引き裂かれた。
「…お兄ちゃん…間に合わな…かった…」
「ユーキぃぃいっ!!」
我が弟の名を叫びども、その声は届かず…。
項垂れしユーキ・オンベリーコの四肢から力が抜けてゆく。
…時間が無いと言っていた。
それは、これを意味していたと言うのか?
だが、言うに及ばず、自分には出来なかった。
「ああ…ユーキ、どうしてこんな事に…。」
『嘆く必要は無い。この者の魂は我と共に永遠を生きるのだ…む…おお、何という僥倖か?』
思いもかけず、凄まじき生命力の奔流がサン・アガスティアに注ぎ込まれる。
ユーキ・オンベリーコの魂を起点として、その本体たる「比類なき銀の台地」(アルジェント・ウィルダネス)と結合した結果であった。
『フッハッハッハッハッ…!!!』
サン・アガスティアの哄笑が響き渡る。
「き…貴様、許さんぞ…。」
ユウラーレを奮い立たせるは憎しみの感情のみ。
されども歯牙にも掛けず、サン・アガスティアの身は更なる覚醒を迎えようとしていた。
よもや、銀の種族 (アエテルニタス)と言えども「赤き蛇の王」(オウロボス)にとっては地を這う虫に等しい存在…。
口惜しくも、ユーキの亡骸に近付くこともままならぬ不甲斐なさ。
鱗気による障壁が更に、一段と強くなりつつある。
「くっ…くそおぉぉぉ!!」
異変に感づき、ヤーマンターカ・ハヒキがその場に駆け付けた時分には、既に事は終わっていた…。
数刻の間にすれ違ってしまったようだ。
亡骸を抱え、慟哭するユウラーレにかける言葉も無く、ヤーマンターカは立ち尽くした。
だが、何が起きたのかは理解出来る。
それはヤーマンターカに宿る「猛き黎明」(ネツァク・アズヴォガ)…即ち「霆の刻印」が教えてくれた。
「…だが、まだ今なら間に合う。ユーキの魂を救い上げるには、お前達2人の力が必要だ。そうだろ?」
まるで未来さえも見定めているかのように、ヤーマンターカは心強くも言い放った。
そう、ユーキの魂はまだ救い出せると…。
「タッキーノ・アルジェントムニツィオーネよ。その目で最善の道を指し示めせ。」
それはタッキーノの有する「第三の目」(アージュニャー)を以って、未来の事象を読み取れと暗に告げるものであった。
「…確かに、未来は多数の分岐点の上に成り立つものであると知った…しかしっ。」
タッキーノは言い淀んだ。
最善の道を選択すると言う事は、言い換えるならば、切り捨てるものも多いと言う事だ。
何を選び取り、紡ぎ、その果てに自らの生命までもが関与するとなれば、そう易々(やすやす)とは選べぬもの。
「ユーキの魂を救い出せるならっ、俺は何だってする!!」
されども、ユウラーレの決意の言葉がタッキーノを後押しする。
何よりも、躊躇している間も、事態は悪化を辿りながら分岐点が消滅して行くのだ…。
「ならば…一刻の猶予も無い。我々は今直ぐにも、蛇の都へ向かわなければなりません。」
タッキーノの「第三の目」(アージュニャー)が未来視の惨劇の中心地を透過した。
同時に、その地にサン・アガスティアが逃れた事をも意味する…。
「蛇の都」(セルペンス・ウルブス)とは、北ソルティア直下80メートルに位置する、大空洞内部に現存する遺跡都市の名称である。
かつてはラ・ウル公家が管理し、思い出深くも一時期はクリシュナ派が拠点として利用していた場所であった…。
北ソルティアそのものは、火山灰に埋れていた都市上部に蓋をし、その上に造られたものであるが、先の7月8日、ライ・ム率いる「豹牙」新設奇兵隊の襲撃を受けて半壊したままの姿であった。
…現在、同時刻。
北ソルティアは「カエルム・キルクルス(天宝輪)」によって占拠されていた。
これは、レイアーン公王国を奇襲せし第肆(四)帝国総軍に同調し、同盟を結びし教皇会の尖兵として加わった後の惨状である。
戦力の半数を消失し、キルクルス・ウルブス(円座の都市)への帰還もままならず、メデューズ海峡 沿いからの妨害を受けた。
これは曰くつきの「古都グローリー王国」艦船団からの集中砲火である。
彼等を率いていた「赤き蛇の王」(オウロボス)たるサン・アガスティアの行方も分からず、然りとて何の偶然か、彼等は北ソルティアの地に追い立てられていた。
しかしながら、北ソルティアと南ソルティアはメデューズ海峡を挟み、立地的に非常に近い位置に当たる。
南ソルティアを攻めている最中、背後から加勢に加われてはクリシュナ派の計画に支障をきたす恐れあり。
クリシュナ派はレイアーン公王国並びに、ロン・タオ公国に協力を要請した。
これはサクトリフ・ヴォルフォルターの先を見越した立案である。
だが、戦力の大半を戦に傾けては、領土の護りが危うくなると、閣僚ケイスケ・ソリッドシメールは承諾を渋った。
折しも、隣接する「フレーグ騎士団領」(フレーグ・カヴァッレリーア・テッリトリオ)領土内に於いて、「天杯の滴(元第参帝国総軍)」と「自由都市連合」の熾烈な争いも佳境を迎えようとしている。
そして、第3勢力として台頭する、ハルト・ロマーノ・ミスト率いる「狼星党」。
こちらとしては「カエルム・キルクルス(天宝輪)」の動向だけが気掛かりであったが、その為、後衛の陣を動かす事もままならぬ情勢でもある。
ハル・ロン・タオ公子が率いる「勝利の旗(ヴィクトワール=ドラポォウ)」を配置し、後衛に当たらせるも止む無しであった。
しかしながら現在、北ソルティアを包囲しつつ 、牽制を仕掛けるは、レイアーン公王国が擁する「ヴァンジャンス(王立洗礼騎士団)」総員600騎。
北ソルティア市内を眼前に、シンティラ旧墓所側面にて中隊歩兵陣形を張る。
先の戦いでも首都「ルードマージュ(狼の傷)」に引き籠り、表の舞台に立たぬ張り子の虎と揶揄されたが、公王家の勅命のみに従うが誓約。
夕刻をはるかに過ぎれども、燦然と規律の取れた統率。
彼等は王位騎士とは様相を異なる白衣の装いである。
白き羽織りによって統一されているが、内側に装着する甲冑は総じてまちまちであった。
彼等は、ほぼ総員が「双児」と呼ばれる強者である。
その名の通り、人と魔界族を主とする混血で構成されていた。
本来は「永劫種」を駆逐する為に設立された公的機関である。
そう言った家系の者を受け入れる為の器としても機能しているのだ。
それはレイ・アン公国建国に遡り、その母体となった「黒狼軍」に端を発するとされる。
尚、公王家の血筋も暗に黙しているが言わぬが花か…。
現在、空位のジェネラル(団長)を長とし、ユルティムソルダ(極致兵)6名がそれぞれの中隊を率いる。
そんな「ヴァンジャンス(王立洗礼騎士団)」が、ここに至って動いたのには理由あった。
それは負傷の身を押しながらも、レイアーン公王国の第一 公王子にて、「賢者の称号」(ハイ・ダァト)を有する「ノーヴァル・ハウ・レイアーン」の勅命である。
ノーヴァル・ハウ・レイアーン自身もまた、この指揮を取る為に戦線に加わっていた。
「…隊列を崩さず、その場に待機せよ。都市内部には決して踏み入るな。」
予感させうるものがあるのか、公王子は指示を徹底させるべく、馬上よりユルティムソルダ(極致兵)に号を飛ばす。
「阿閦宮」の有する練丹道を用いて、寄生型「永劫種」による疲弊した細胞の活性化を果たした。
とは言えども、まだ顔色は青白く本調子とは言い難い。
だが、この封印されていた「蛇の都」に公王家も関わっているとされ、冬歴4418年に人々の記憶から抹消されたと、公王典には記載されている。
忘れ去られたこの地に、ガーランド家(我園家)が都市を築いたのがソルティア創設の始まりであった。
地下空洞に都市を建設し、奉る一族は既にその呪縛から解放されたとされている…。
現在、ギディエールを名乗る一族はこの地を離れ、鉱山都市「タウマトゥルギー」を中心とし、ギディエール商会として勢力を拡大している。
レイアーン公王国領土内に存在するこの都市は、彼等を導きし英雄の名を冠しているとされるが、その真偽は定かでは無い。
なれど封印は健在であり、ラ・ウル公家はこれを監視する為に興された。
それは英雄が、己が命を捧げた封印術式。
およそ472年の月日を経ても寸分変わりなき「甲殻類の王の守護力」(フラガルズ)である。
だが今、都市中央に位置するコロッセウム(円形闘技場)広場跡。
その床面を飾る赤き蛇のモザイク画に降臨せしは、ユーキ・オンベリーコを内に取り込みし「赤き蛇の王」(オウロボス)であった…。
目に見えぬ封印術式の圧力に抗い、サン・アガスティアの四肢は砕け、あらぬ方向へと折れ曲がる。
メキィ…メキメキィ…バキバキィッッ…。
されど、猛々(たけだけ)しき哄笑に包まれ、紅蓮の鱗気は絶えること無くより一層、強く呼応し瞬き始める…。
『…生命の樹 (セフィーロト)と一体となりし今の我ならば…この地に封じられし我が頭蓋とも一つになれよう。』
その最たる障害も、もはや障害なり得ず、その侵入を防ぐこと叶わず。
「甲殻類の王の守護力」(フラガルズ)は打ち砕かれ、次元間 幽閉されし「赤き蛇の王 (オウロボス)の頭蓋」を白日の下に曝け出す。
…それは封鎖されし空間。
抉じ開けたとなれば、その亀裂が及ぼす異変は計り知れない。
大地が振動し、空が裂ける…。
ノーヴァル・ハウ・レイアーンの眉間に汗が滲み出た。
大賢者シサイア・ヴァジャンの宿曜(星見)により予見していたとは言え、この未曾有の事態を収める事が真に可能であるのか?
「私1人の力では…どうする事もできまい…。」
案じた刹那に、北ソルティアは崩壊の一途を辿った。
ゴゴゴゴ…ゴゴゴ…ゴゴゴゴォォォ…ンンン!!!
地表を押し割り、鱗を生やした巨大な胴体が波打ち振動する。
傍目には赤き津波かと見紛う現象である。
それは全体像を捉えきれない程に長大且つ、異質さからもたらされたものだ。
とぐろを巻く赤き蛇は、無論のこと、ここを占拠する「カエルム・キルクルス(天宝輪)」の軍勢をも下敷きにして押し潰した。
逃げ惑うエクスオルキスタ(魔祓士)達の生命を無慈悲にも奪う。
「なっ、何だ、あれはっ!?」
蛇の頭部は天を突き、暗雲を纏わせ、その眼下に地を這う虫ケラを見下ろす。
侮蔑極まる眼光が発せられ、都市の残骸を一凪ぎに毛散らかした。
ガシャーーーーン!!
それだけで、ヴァンジャンス(王立洗礼騎士団)の過半数が死傷者となり退避を余儀無くされた。
降り注ぐ残骸は巨大であり、大砲並みの破壊力を生み出す。
そんなモノを見上げ、絶望的な感慨が周囲に拡がってゆく…。
その畏怖は、人が産まれながらに持つ、人知を越える神性に抱く感情に他ならない。
陣形の混乱は必至。
それを諌める手段をノーヴァルは持たなかった。
「…ここまでなのか。」
そんな暗雲を穿ち、碧き雷光が弧を描く。
光の速度で来臨せし者。
ヤーマンターカ・ハヒキが戦場に降り立つのであった…。
(^ー^)ノ次回…クライマックス☆




