シナリオⅣ 3 後章 第9話〈後編〉
(^ー^)ノ南ソルティア決戦編…後編w
シナリオⅣ 3.19〈私が変わったときに変わり、私が頷いたときに頷くような友は必要ない。そんなものは、私の影がずっとうまくやる〉
I don’t need a friend who changes when I change and who nods when I nod; my shadow does that much better
草創歴0449年9月(9/22)〈後編〉
そんな頭上の戦いに手は届かぬものの、地上の攻防戦は終息を迎えようとしていた…。
それはとりもなおさず、旗艦「イーンスルターレ」上より霊糸を操り、南ソルティアの砲塔を陥落せしめた「左近の橘」…リュー・シュレンメイの奥義なればこそだ。
アター・ラ・ラセンも加わる公国王位騎兵団もまた、ここぞとばかりに、この流れに乗る。
既に北側配置のクリシュナ派陣営は都市内部に突入の報あり。
騎馬を駆り、一気呵成に王位騎士が駆け抜ける。
さながら甲冑の色、黒き狼の群れとなって。
そんな中にあって、ふと、アター・ラ・ラセンは騎馬を踏み止まらせた。
「…!?」
耳元に囁き掛ける声は、この世の常なるものではない…。
「墓守」因子を持ち得るラセンの血族なればこそ、「韻律の梯子」(スーカーラ)を通じて冥府の魂と触れ合う事も可能であったのだ。
「…それは、しかしそんな事をすれば、あなたの魂…存在そのものが維持出来ず、生まれ変わる事も出来なくなりますよ?」
例え、そうであろうとも、その者の決心は変わらぬようで、アターも承服せざるを得なかった。
つまりは、状況は切迫していると言うことか…?
「…分かりました。俺の力であなたを送り込みましょう。」
アターの遺伝子に刻まれた因子が無念の鎖に結びつき、その魂を選別し引き上げる。
冥府の淵より瘴気が踊り出し、その者を現世へと蘇らせる秘儀。
更には、限定的ではあるが「扉」を開き、その者を遠く遠方の所縁ある座標点へと送り届ける奥義。
…瘴気が弾けた。
それは忽然と、唐突にもユウラーレ・ル・ドゥスと、ユーキ・オンベリーコとの戦いの合間に割って入っていた。
「これはっ!?」
奇しくも、ユウラーレの魔剣「ウィズダム(知恵)」が断ち折られた寸前の、まさに危機一髪の瞬間であった。
その者こそは「七隠者の印」の禍紋を有する「銀の種族」(アエテルニタス)、アターの使役する死人と化した「ガープ・ヒュー」、その人である。
…彼は、まるでユーキの刃から、ユウラーレを護ろうかと言わぬばかりに立ち塞がる。
「何故だ?あなたも僕と同様、銀の種族 (アエテルニタス)から呪われし混沌の血肉を一掃するべく、帝国に与する事を選んだ者の筈。何故、僕の邪魔をする?」
そう。それこそが我が一族の悲願。
故に、今や忌まわしき「ルーンの塔」を再生する手段を求め、あらゆる手を尽くしたガープ・ヒュー。
そして辿り着いた答えこそが、初代帝位ラシュア・エクナスの保有する知識。即ち、ラーマス族の霊子科学である。
そもそも、「ルーンの塔」はラーマス族が建造の途中で放棄した遺構であった。
だが死して後、慚愧の念は、それもまた銀の種族 (アエテルニタス)としての存在意義なのではないのか?との自問自答。
そして振り返りて見やる我が弟の姿…。
「…ガープ?」
出来損ないの我が弟よ…。
思えば、お前がこの者と兄弟ゴッコをしているのも思い当たる節がある。
なればこそ、今を生きる貴様に我が禍紋を託そう。
それは拘束魔道に特化した「照日月主」の禍紋であった。
「…こ、こんな事がっ…!?」
その血肉がユウラーレ・ル・ドゥスと重なり合い、ガープの身を彩る異質な禍紋が転移する。
「どうして…お兄ちゃん…。」
ユーキは慄いた。
ユウラーレの顔相を禍紋が覆い、それが煌めき発光するや、即座に「捕縛光鎖結界(タルタルクス系)」が発動した。
「うあっっ!?」
光の鎖がユーキの身を縛り付け、雁字搦めに拘束を果たす。
「もうやめよう…ユーキ。戻って来てくれ…。」
「ダメだよ…時間が無いんだよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんの手で、僕をあの樫の木に戻して欲しかったんだ。」
それはドルイド(自然崇拝者)ゆえに、我が身に起こる未来を予期したものか。ユーキの魂は精霊と化した樫の木から生まれたもの。
「ユーキ、何を言っているんだ?」
「比類なき銀の台地 (アルジェント・ウィルダネス)が見る夢が消失する前に…僕は戻らなければならない。だから、お兄ちゃんの手で僕を解放して欲しい…。」
ならば、元より我が手にかかるつもりで挑んできたと言うのか?
ユウラーレは愕然とし、跪いた。
されど、それが望みであるならばと、 ユウラーレは失った魔剣に代わり、弓の弦を引き絞る。
「さあ、僕を解放して…。」
魂の解放を願う我が弟を前に、視線が滲みぼやけた。
「……。」
矢を放つ指が力なく緩み、やはり俺には出来ぬと断念した。
ガープよ…袂を分かたりし、我が異父兄弟よ。
血の繋がりだけが全てでは無いとは言え、今はあなたの熱き血潮を確かに感じ、受け継いだ。
ならばこそ、これ以上、何も失いたくはなかったのだ…。
…そんな眼下の葛藤をいざ知らず、銀の帆船群は混乱の最中にあった。
重さにより身動きを封じられたガチャトーレが為、ヒロトとKは手をこまねいていた。
ヴロンズ・ナン・ナの剛剣が唸り、脚を止めさせようとオクト・ニーヲァの紅き円環の結界が煌めく。
「おい、大将!!何とかならないのかっ!?」
とは言え、劣勢と言う程でも無い。
Kが操る6つの「剣の英霊」(スピリトゥース)に遮られ、ヴロンズ・ナン・ナの剣は届かない。
「強行突破する他あるまい。任せるぞ!」
「おいっ、待てって!!」
ヒロトの制止を振り切り、Kが駆け抜けた。
6つの「剣の英霊」(スピリトゥース)が聖剣「イスマイール」に重なり合う。
ガシャン…ガシャン…ガシャャャャ…ン!!
まさしく、一点突破の衝撃がオクト・ニーヲァの「円環重力型防壁結界(ヘドロン系)」を打ち砕き、防壁を次々と切り裂く。
紙切れのように切り裂き間合いを詰める。
「貴様っ、ふざけた事をっ!!」
ヴロンズ・ナン・ナが雄叫びを上げ、追走すべく踵を返す。
だが、彼女の前に立ちはだかるヒロトの妨害を受けて、その憤怒は頂点へと達した。
「すまんが、ここから先は行き止まりだぜっ。」
「ふざけた事を…なれば、我が大底主の禍紋の真なる力、その身を以て味わうがいい!」
ヴロンズ・ナン・ナの大剣「ヴィクティム・ヲォーパル」は魂を喰らう。
それ即ち、魂を喰らう事で力を得る剣精である。
生前の名を「ヲォーパル・ナン・ナ」と言う。
それがナン・ナ家の宿業…。
この大剣もまた「大底主」の禍紋を受け継ぐ、「銀の種族」(アエテルニタス)の1人であった。
己が魂を増幅し、魂の力を浪費する事で自らの剣に力を与える。
それは自らが剣精と化すと同義である。
ゴキィィン…ゴキィ…ゴキゴキィィィ…ン。
ヴロンズ・ナン・ナの肉体は今や、その大剣「ヴィクティム・ヲォーパル」と半ば同化し、異形と化しつつある。
左手から左半身にかけて融合し、異形の甲冑化を果たす。
「回避不可たる魂の断絶」の一撃!!
これを打ち崩さんと、ヒロトは長刀「オルサ・マッジョーレ」に渾身の力を込める。
なれど、その一撃は魂そのものを打ち砕き、物理的な妨害は意味を成さぬ。
それはヒロト・グラーティア・ドゥーロにとって、まさに青天の霹靂であった。
それでも刃は微塵の躊躇いもなく交差する。
ガシュッッ…ッッ!!
血潮が宙を舞った。
深々と、胸を貫き刃が突き刺さる。それは双方共に同時であった。
…だが、ヒロトは弾き飛ばされ、気が動転し、血に染まった甲板を転がった。
「…な、なぜ、あなたがっ…!?」
絶句して見上げる。
その者は聖剣「クルクスメーンス(十字の心臓)」を携え、まさに神業のように駆け上がり、走り抜けた。
それは、Kがリューの操る霊糸を辿り至ったと同様に、人工島「アルキストラテゴス」に通された霊糸を経て、地上より100メートル上空にまで到達。
彼女は窮地と知るや、我が身を割り込ませた。
…打ち出される「宝ナル槍」の残光。
「禁忌の極現力」に宿る多重結界の斬撃が、ヴロンズ・ナン・ナの魂を異形の甲冑もろとも打ち砕いた瞬間、彼女もまた、剣精と化したその刃を身に受け入れていたのだ。
「どうして、彼女が!?」
Kもまた、ヒロトの動揺を受け、交戦の場を退きつつも、唖然として駆け寄る。
「馬鹿なっ…なぜ、あなたがここに?」
とは言え、この相討ちはその業あっての事。
結果を見れば、ヒロトの剣では相討ちも果たせぬであった事だろう…。
代わりに討たれはせども、敵将の首を討つとは、さすがは「ラミナ=プロクルサトール(剣聖)」と言えた。
「…マリティネーテ・ディギトゥスメディウス!?」
「…K・アルザードキングよ…私の魂もまた…我が聖剣に宿ろう…これを貰ってくれるか?」
マリティネーテは微笑んだ。
しかし、その血の気のない顔は儚げに揺れた。
たおやかに、騎士である事に疲れきったその身は、もはや裏切り者の汚名から解放されている。
「誇り高きラミナ=プロクルサトール(剣聖)にして、我が同胞たるハイランダー(貴戦士)よ。その気高き志し、このK・アルザードキング、しかと受け継ぎましょう…。」
ハイランダー(貴戦士)の儀式剣技の所作を見届け、マリティネーテは瞼を閉じて崩れ落ちる。
咄嗟に受け止めはすれども、ヒロトの腕の中で急速に、マリティネーテは体温を失いつつあった。
失血の量が尋常では無い。
「…なんで、こんな俺の為に…身代わりに…。」
ヒロトの苦鳴に、今際の際に彼女が瞳を開いた。
視線は定まらぬも、その呟きをしかと聞き取った。
「…これは…卿にしか頼めぬ…鉄鎖騎士団の皆の事…任せ…る…」
「マリティネーテ様っ!」
力無く彼女の瞳が閉じられ、息を引き取った。
ああ、戦いを強いられ続けた美しき戦乙女よ。
安らかなる冥府の眠りにつかれることを願わずにはいられぬヒロトであった。
だが、失ったものは「銀の種族」(アエテルニタス)も同様、それ以上である。
少なくとも、苦しまずに絶命したヴロンズ・ナン・ナは僥倖か。
しかし、三眷士の一角を失ったレヲン・ギ・ルの怒りや治まる事は無かった。
「貴様等…たかが人類種の分際で、よくも我らが同胞を…。」
それは側に控えるオクト・ニーヲァをも怖じ気つかせる、まさしく憎しみに満ちた波動であった。
Kは警戒しつつ、一歩、退く…。
その刹那、碧き雷光が視覚を覆い奪った。
バチッ…バチバチッ…バチバチッ…。
何事が起きたのかと見渡すや、レヲン・ギ・ルもまた驚愕の眼差しのまま、一歩と怯んだ。
…この私が、気圧されただとっ??
碧き雷光と化して帰還せし者。
「ちきしょぉ、間に合わなかったかっ…。」
なれど些か刻足りず、悲痛な心情を吐露した。
共に光の速度で帰還したリンベル・カセンショウもまた、憮然としてレヲン・ギ・ルに立ち塞がる…。
同じく、ホウギョク・メノウダイは自らの上衣を解き脱ぎ、血に染まりしマリティネーテの肢体を覆い隠す。
ヒロトは、それをいたく感謝した。
「…銀の種族 (アエテルニタス)よ、ここは引けっ。この戦い、このヤーマンターカ・エクナスが一時、預かる。」
「貴様の指図は受けぬっ!!」
レヲン・ギ・ルは怒声でヤーマンターカを牽制した。
そもそも、帝国に於ける次期帝位継承者など、お飾り以外の何者でも無い。
だが、そうと侮った報いを予感させるに足る、静寂に満つる紋様が明滅する。
それはヤーマンターカの額に生じていた。
「…引かなきゃ、今ここで、俺がお前の首を取るぞ?」
実力行使も辞さぬ、凄烈なまでの星辰の霊子が集束され、レヲン・ギ・ルはたじろぐ他はなかった。
ここに、第弍帝国総軍たる「銀の種族」(アエテルニタス)の軍勢は無条件撤退を強いられ、ラミナ=プロクルサトール(剣聖)の死と引き換えに、帝国の最前線都市たる南ソルティアは陥落した…。
それは、ヤーマンターカ・ハヒキの帝国への謀反並びに、クリシュナ派の劣勢を覆す圧倒的な勝利を世に標榜する事となる。
だが、情勢は刻一刻と移り変わろうとしていた。
…ここより先は歴史に語られぬ物語。
それはユウラーレ・ル・ドゥスと、ユーキ・オンベリーコ兄弟の葛藤から始まる。
(^ー^)ノヤマさん、間に合ったw
次回10話は…クライマックスですっ。




