シナリオⅣ 2 後章 第10話〈後編〉
シナリオⅣ 2.20〈愛は約束、愛は思い出の品。一度与えられると、忘れ去られることはない。決して愛を失くしてしまわぬように〉
Love is a promise, love is a souvenir, once given never forgotten,never let it disappear
草創歴0449年8月(8/30)〈後編〉
杢のフレウレッティ・ガーランドは、今度こそは本当に粉微塵となり消えた…。
だが、救われた陽のファーサイト・ローレライに何の感慨も浮かぶ事はない。
彼女は今や、ただ一つの生ける「生命の木」(セフィーロト)であり、それ以上でもなく、それ以下でもなかった。
「…そう、そんなモノに護られる価値など無いわ。」
安息者の遊技場 (マルアブ・レクイエム)台形広間に踏み入るラーシャ・ヴィ。
その肉体に絡み付く生命の木 (セフィーロト)の枝木は「轟炎の気」によって弾け飛ぶ。
と、ラーシャ・ヴィの肉体から魂魄がスルリと抜け出し、ファーサイト・ローレライとの接触を果たす。
…だが、その魂魄はラーシャ・ヴィのものでは無い。
その肉体は海岸に流れ着いた時分には、既に死した骸であった。
これに彼女の魂と轟炎の気、即ち魂魄が宿りて融合した偽りの生であり、その存在こそが奇跡であったのだ。
だが今、魂魄のみの彼女の強さの根源は、母としての慈愛である。
今はただ、鄷都山のギケイ・シーヴァとして、「ヴァルヴァトスの眼」を開眼した。
その瞳はあらゆる事象を透過する。
透過するとは、その偽りを偽りとして、世界の理に問い質し、魔道の現象を消失させる術である。
そして、その瞳はしかと見た。
化石から抽出された遺伝子、そこに術式を刻み込み、結合部に転嫁増殖された幽体構成を。
『…なれば結合を解く。』
ギシィギシィギシギシィィィ…。
ギケイ・シーヴァの「ヴァルヴァトスの眼」が生命の木 (セフィーロト)の根幹を揺るがす。遺伝子の結合部が紐解かれてゆく…。
「リョーガ、お前の出番だ。」
サーガイアが肩を押した。
修行の成果を見せろと言わんばかり、追って広場に突入したリョーガ・アベミグラトリアを促がす。
「…や、やってみますっ!!」
今こそ、不甲斐無き自身を奮い起こす時。
もう二度と後悔はしない。
顔付きも真に迫る。
これを見守るサーガイア、邩のシュルベルトもまた彼の中に、若いからこそ生み出せる奇跡を見出だしていた。
…走る。
何も考えずにただ、ひたすら標的に向かう。
それは名もなき無銘の鋼剣。
そこに宿る一点の輝き。
「でやあああぁぁぁ!!!」
リョーガの一撃が、生命の木 (セフィーロト)を見事に打ち砕いた。
捕食本能による破壊が、ファーサイト・ローレライの幽体を再生不能なまでに喰い尽くす。
それはリョーガの中の、内なる「エニグマ(幾億の剣)」の因子が覚醒した瞬間であった。
同刻…大深度地下150m。
ジオフロントは異彩な原始空間の森を内包し、まるで巨大な生物の胸中にあるかのような化石的外観を模している。
眼下に目視可能となった「暗の城 (ドゥンケルハイト・シュロス)」。
だが城とは名ばかりの、朽ちて崩壊した魔窟の玉座であった…。
かつては優雅で軽妙で官能的な雰囲気を宿していたであろう、ロココ調建築の無惨な残骸。
曲線を多用する繊細な装飾も、今では面影も無い。
未だ降下の最中、激しい鍔迫り合いは続いている。
ソウマとポ・チダムーの攻防は一進一退。双方引かずにいた。
だが到達した最下層、その玉座に座す残留思念の幻影に、彼等は思わぬ動揺を受け、その攻撃の手を一旦、止めた。
「…!?」
何故ならば、その玉座に座す者の雰囲気は異なれど、その風貌は、あの忘れもしない我が友、「カイト・オセアノ・シュルン」そのものであったからだ…。
「…カイ君っ?」
この城が崩落したのが335年も過去の事。
残留思念の波動に巻き込まれ、ソウマは華麗な宮殿の、情緒的でやわらかく繊細な空間に佇んでいた…。
「こ…ここは…?」
玉座に座すのは、暗の眷族「七つの大罪」(セプテム・アラストール)が1柱。その姿は紛れもなく…。
「それは昔の…俺の残した力の欠片だよ。それがこのジオフロント、化石となったオーガルスキュルから龍脈のエネルギーを循環させ、アルピュタス聖不可侵域を覆う結界を制御しているんだ。」
照れくさそうに姿を現したのは、誰であろう、カイト・オセアノ・シュルンその人であった。
「カイ君っ!?本当にカイ君なのっ?」
残留思念が成す空間の中で、互いの邂逅に駆け寄り、再開を果たし喜び合う二人。
「うん。ソウマの、その刻印の力が近くにあったから、一時的にイムメモラーティオ(忘却)の力が薄れたみたいだよ。」
カイトの姿形は、あの時分と何も変わらない。
アギラ(鷹)の間にて、あのミーラークルム・マヌス(奇跡の御手)の指導者であったシャリアロンド・アールデンスを、共に打ち倒した時分と寸分違わぬ。
「…僕が必ず、カイ君を元に戻してみせるからねっ!絶対だよっ!!」
ソウマの言葉に、はにかむ笑顔は変わらずだ。
「ソウマ、一緒に彼を…ポ・チダムーを止めよう。」
「うんっ!」
そう、何よりも今は、眼前の脅威を止めるのが先決だ。
そして、カイ君と一緒なら、どんな不可能な事も実現できる気がした。
カイトの「妖精の剣」(アイヲーン)と、ソウマの偃月刀「砂漠の青」(アズラク)が頭上で交差する。
…それはあの刻の再現か?場面は急速に転じた。
対角線上より、魔人ポ・チダムーを挟み、この挟撃を止める手立ては無い。
ソウマの天の刻印「繋がれし涙 (ケプラー・ダート)」の原子回帰が一点に集約される。
瑠璃色の閃光が、魔人の障壁に亀裂を生じさせた。
片や、妖精の剣 (アイヲーン)を通じ、ポ・チダムーを介して「神の卵」(アニマ・オーヴァル)から禍を吸収し続けるカイト。その許容量は底知れぬ程だ。
それがポ・チダムーを弱体化させ続ける…。
信じられぬとばかりの形相で、ポ・チダムーはカイトを凝視した。
その眼差しには憎しみとまた、憧憬が複雑に同居している。
「…なぜだっ?父よ、あなたは死んだ筈なのにっ…!?」
「…すまないとは思っている。こんな事の為に、お前を遺したつもりは無かったのだが、それも今世では縁無きことだ…。」
それはかつての「六英雄」の1人、魔道士ローランド・ヴァーニとしての感傷の言葉か?カイトは一気に刃を突き放つ。
全ての禍を奪われ、無慈悲な刃がポ・チダムーの心臓を貫き、交差した。
ドスッッ!!
「きっ…貴様の為に…どれだけ母が苦しんだと思っている…悪魔め、呪われるがいいぃぃい…。」
ポ・チダムーの怨嗟は、世辞の言葉となって轟いた。
儚くも散っていった生命達。
彼等に何の感慨も得なかったと同様、それは自身も同じく無価値なのだろう。
その境遇ゆえに彼等を愛したものの、その愛は本質を捉えていなかった。私が真に求めたのは、父母の情愛であったのか?
もはや真偽の程は定かでは無い。
…元より、この汚れた手で掴める愛など無かったのだ。
消えて行く意識に孤独な自嘲のみが重なり合う。
そんなポ・チダムーを引き上げる二つの手があった。
『アネモス…フュリエル?お前達…私を恨んでいないのか…?』
ああ、私は1人では無かったのか…と。
シナリオⅣ 2 後章 完




