シナリオⅣ 2 後章 第10話〈前編〉
シナリオⅣ 2.20〈愛は約束、愛は思い出の品。一度与えられると、忘れ去られることはない。決して愛を失くしてしまわぬように〉
Love is a promise, love is a souvenir, once given never forgotten,never let it disappear
草創歴0449年8月(8/30)〈前編〉
「アルピュタス聖不可侵域」の中央、アイゴケロス(角獣の座)宮。
荒廃甚だしいも元来、この地は草創歴115年に崩壊した「天杯騎士団」の所有領であった。
聖杯を体現する「四像宮」は、大深度地下200mに位置するジオフロントを封印する為の要であり、山岳地帯そのものを、立体空間型積層結界と見做して「眠りし者」を封印してきた。
この結界を再利用し、「神の卵」(アニマ・オーヴァル)を封じたのが草創歴412年に勃発した「英雄戦争」である。
故あって、魔人ポ・チダムーがこれと物理的接触を叶える為には、この封印を解かねばならないと知れた。
『彼をジオフロントの最下層「暗の城 (ドゥンケルハイト・シュロス)」に到達させてはならない。』
そう、その声はソウマに語りかける…。
だが、ポ・チダムーは無尽蔵なエネルギー源とも言うべき神の卵 (アニマ・オーヴァル)から禍を引き出し、己が力に転用している。
その力たるや凄まじいばかりであった…。
一因子「ルベン(人間)」の間を崩壊させ、ジオフロントへ至る扉を容易に開いてしまったのである。
降下を開始する魔人形態は、もはや人の形を成してはいない。
何者かも知れぬ我が父の血が、ここへ導いたのか?
それは魔界族よりも禍々しく、「七つの大罪」(セプテム・アラストール)に近しい異貌と化している。
降下しながらも対峙するソウマ・ヴァストック・キアは、「天の刻印」を発動し、瑠璃色の光に包まれ、陽炎状の翅を雄々しく羽ばたかせた。
その眉間には陽炎の紋様が浮かんでいる。
「…お前は僕が倒す。」
偃月刀「砂漠の青」(アズラク)に力が集約され、その斬撃に原始回帰の光が加わる。
加えて、全距離間合いの天賦の才。
相手の挙動、予測線を見極め、ソウマの間合いに一分の隙も無い。
その結果、ポ・チダムーは思いのほか、防御に尽力するしかなかった。
ソウマの一撃受ける毎に、防御に回す禍の消費は計り知れない。
やはり奴の「天の刻印」は危険だと実感する。
「…だがっ、幾ら攻撃しても無駄だっ!私には無限の力があるのだからなあ!!」
注ぎ込まれる禍の大奔流。
それを強靭な障壁に転化し、ソウマの斬撃を跳ね除ける。
ガキィィィーーーィィィン!!
剣の応酬を防ぎ切り、お返しに障壁の刃を射放つ。
「どうしたぁ!?そこまでかぁぁぁ???」
術式を必要ともせぬ、凄まじき雷光にも似た閃光。
ズドドド……ドドド…ドドドドォォォ
ジオフロントに降下しながらの、激しい攻防戦が繰り広げられていた。
「そんな攻撃、僕には通じないぞっ!!」
偃月刀から生み出される青き刃を防壁に転じ、閃光を遮断する。
…これでいいのか?
その声は、「神の卵」(アニマ・オーヴァル)に注がれた禍を、あえてポ・チダムーに引き出させ続けろと言う。
『それが、角獣の座の活性化を止める手立てにはなる筈だ』と。
そして、魔人と言えども、その器となる許容量には限界がある為だ。
一方、時を遡り、無防備な上空を貫きて「アグネヤストラ(銀色の円盤)」が急襲を仕掛けるよりも前に、彼女達は四像宮入り口の渓谷「セプテントリオーネス(七星)の谷」に侵入していた。
「セプテントリオーネス(七星)の谷」は、かねてより体調が悪化した法王ラハ・スィドロフォスが「アイゴケロス(角獣の座)宮」にて療養に臥せており、その護衛役として教皇会の「ミーラークルム・マヌス(奇跡の御手)」がその任に就いている。
だが、皆がみな魂を抜かれたかの如く、恍惚の表情を浮かべて惚けていた。警備の目はザルも同然。
谷全域を豊かな芳醇の香りが満たしていた…。
しかしながら、ラーシャ・ヴィには確と見えている。
陽のファーサイト・ローレライによって為された「生命の木」(セフィーロト)が、彼等の幽体に根を伸ばし、その精神を幸福と言う感情で統合している様を…。
つまりは、不可視の根が侵入者を捉えようと蠢いているのだ。
「ふん。儂は大丈夫だぞ。」
言わずもがな、邩のシュルベルトはその存在自体が火のエレメント(結晶体)。
幽体の根は触れただけで焼け落ちるだろう。近寄りもしない。
「…あの、師匠?何かあるんですか?僕には何も…。」
同行するリョーガ・アベミグラトリアも、事前に施した右手の甲の「火の眷族召還」術式と、対になる左手甲「水の眷属召還」術式の相乗作用により、丁度良い障壁を生み出しているようだ。
「馬鹿もん!目で見るに非ずじゃ!!」
「は…はぁ…。」
だが真紅の蛇と、この水色の蛇は相性が悪いらしく、顔を突き合わせては威嚇を繰り返している。
リョーガはどうしたものかと困惑顔。
もう一人の同行者に至っては、心配する必要もなさそうである…。
先導するラーシャ・ヴィの身に纏うのは「轟炎の気」。
物理耐性に起因する、特有の障壁である。
可視的には炎を身に纏っているよう見えるが、発現時には世界の摂理として、個体の生存率を引き上げる。
それが物理強化、身体能力の超常化に変換されている。
ラーシャは迷う事なく、一行を「四像宮」へと導いていた…。
まるで一度は通った道だと言わんばかりに、その歩みに淀みは無い。
と、頭上の闇雲を切り裂きて、それが来襲を果たす。
それは「アイゴケロス(角獣の座)宮」直上。
もはや狂気さえも生ぬるい存在…魔人。
凄まじき雷光の迸りが、アルピュタス聖不可侵域を覆う立体空間型積層結界を縦に揺らす。
「うわっ!?なっ、何なんですかっ!!地震っ??」
「…落ち着け、ここはまだ大丈夫だ。」
先生と慕うサーガイアの言葉は、リョーガにとっては絶対であるらしい。
全く、面白い師弟よね。
それにしても…あれが「神の卵」(アニマ・オーヴァル)から禍を引き出しているように感じる。いや、間違い無いのだろう。
ならばそれを利用し、破壊するリスクを犯さず、活性化を抑える事も可能かも知れない。
…ともあれ、封じられたアイゴケロス(角獣の座)に行かねばならない。それを見定める為にも。
だが、彼女達がそこに辿り着くよりも早く、既に闘いは繰り広げられていた。「アグネヤストラ(銀色の円盤)」が壁を突き破り、突入していたのである。
それは「魔王の亡骸」を奉る旧時代の宮殿。
「安息者の遊技場 (マルアブ・レクイエム)」台形広間。
さながら魔窟にも似た異彩は、その全てが「闇物質」によって構成され、その外部をバロック調の建築物に偽装されている。
陽のファーサイト・ローレライは、ここで輪舞を紡ぎ続けていた…。
鳴り響く軽やかな鈴の音。
その全身をあり得ぬ神々しい輝きが包み込む。
元より「生命の木」(セフィーロト)の化石から抽出された遺伝子を培養し、造られた幽体。
これを移植された肉体もまた、200年前の伝説的な踊り子の蘇生体だ。
その境地に至り、生命の木に自我が突入し崩壊した。
…適合する素体が皆無の中、彼女の細胞だけが、その幽体との融合を果たしたのである。
故に、自らを生命の木 (セフィーロト)へと化生し、アプサラス(天女)の舞いを以って、その幽体の枝木を拡散し続けていた。
そんな妖艶なファーサイト・ローレライの美貌に心奪われそうになるも、「キアの三悪人」は何とか踏み止まる。
「こいつぁ、やばい女を相手にしちまったもんだぜぇ!!」
テオの軽口ほど、容易い相手ではないのは百も承知。
テクノ曰く、自身の最高傑作との前評判。
前衛に就くのはタマウガード・スパエラだ。
「いいですか?チャンスは一回ですよ!!」
タマウガードは内なる「千輻輪」を最大限に回転させ、経絡頸の命脈を細胞遺伝子の隅々にまで浸透させる事で、「獣気」の真髄「獣相」に到達する。
獣気の由来とは、先祖帰りによる猛々しいまでの生命力の向上。
そして、その特性は個々で異なる。
「はあああぁぁぁ!!!」
それは脈々と受け継がれてきた、スパエラ家特有の遺伝子から導き出された先祖の血「百虎」。
「賢者の称号」(ハイ・ダァト)を持ち得た者の神技。タマウガードの「虎面化」。
虎面と化しての、掌中よりの輻射波動。
ドドドオオオォォォーーーン!!!
過剰放出される生命力の奔流が、陽のファーサイト・ローレライが生み出す、生命の木 (セフィーロト)の枝木を貫き通し、その道を開く。
…道は出来た。
一直線に駆け抜けるはテオ・スティーリア・タクナリ。
精霊迦楼羅の朱の翼。
古カルラ王国の途切れた「焔翼部」の遺伝子がテオの中で覚醒する。
双剣に転移した朱翼の霊質が「焔風」に変容し、その剣を彩る。
これぞ「迦楼羅の剣」(ヴァイナティーヤ)!!。
シュドドド……ドドド…ドドドォォォ!!!
逃れえぬ双斬の灼熱波が、ファーサイト・ローレライの肢体を打ち砕き、焼き尽くしてゆく。
全てを消し炭と化すまで消えぬ、呪いの業火。
「行けっ!リョウっ!!」
更なる追撃の手は、リョウ・ギアラルに託された。
肉体を消失し、剥き出しの幽体を破壊する最後の一手。
「幽境の極地」(ヒエラ・ホドス)が導き出す「終局点(ポストレームム=プンクトゥ)」。
テオの背中を越え、その一太刀がファーサイト・ローレライに突き付けられる!!
ザシュッッッ!!
「…!?」
だが、それを庇うように割り込む幼い幽体に遮られ、予期せぬことに、その一手は不発に終わった。
「しまった!?」
リョウが慄くよりも早く、ファーサイト・ローレライの幽体「生命の木」(セフィーロト)が肥大膨張化し、一気に枝木を伸ばす。
「…がっ!?」
リョウは元より、テオもタマウガードとて、瞬時にこれに絡み取られ、その身動きを封じられていた。まさしく一瞬の隙だ…。
「…い、いかん、このままではっ!?」
テオの内側に潜り込み、幽体を浸食してゆく枝木の強靭さ。
抵抗を試みるが、精神を統合せんとあがらう意思に対し、彼等に垣間見せつける甘い幻影があざとい。
未だ知らぬ母の微笑みが、リョウを慈愛に包み込む…。
タマウガードを心和ませる、特に出来の悪い弟弟子のミッドガルダーの笑顔…。
「リョ…リョウ…タマっ!!目を覚ませっ!!」
彼等は完全に囚われつつあった。
こいつら、何だかんだ言って純粋だからなぁ…なんてテオは不謹慎にも思う。
そして、あの瞬間に割り込んだのは、杢のフレウレッティ・ガーランドであった。
幼子の幽体はボロボロで、今にも朽ちんがばかりだ…。
『あぁ…お母さん…良かっタ……。』
もはや、その存在は希薄となりつつある。リョウの放った「終局点(ポストレームム=プンクトゥ)」に貫かれ、それは致命傷となっていた。
遅かれ早かれ、その消滅は免れぬを、最期の瞬間に母と慕うそれを護ってフレウレッティ・ガーランドは散るのであった…。




