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シナリオⅣ 2 後章 第7話〈後編〉

シナリオⅣ 2.17〈愛は約束、愛は思い出の品。一度与えられると、忘れ去られることはない。決して愛を失くしてしまわぬように〉

Love is a promise, love is a souvenir, once given never forgotten,never let it disappear


草創歴0449年8月(8/28)〈後編〉


…新たな第三勢力の出現。


だが、戦速にて陣形を維持したまま前進するその騎士団は、カリスエクェス(聖杯騎士団)に対する警告の戦旗を鮮やかにかかげ上げる。


百人委員会(シエン・ジュズガド)」はフィデース・レグヌム(教皇國)キアの名に敬意を称し、対帝国同盟「カイト」への参加を固辞し続けてきた。

だが事ここに至り、あろうことか対帝国同盟「カイト」の帝国軍第弍新帝都攻略戦に横槍を入れるなどとは、騎士としての風上かざかみに置けぬ事は自明の理。


「モディアブル騎士団領(オルデン・デ・カバリュア・ドミニオ)」主力3000騎士(カバリェロ)


特使ディオニージ・アベデラピニャからの密報を検分した結果、カリスエクェス(聖杯騎士団)の動向をうかがう為、密かに派軍を決議した。

その判断を託されしは「水鳥家」の筆頭、百騎士団長(シエン・ヘネラル)たる「サクラ・アベアクアティカ」、その人である。


「…これより我等がモディアブル騎士団領(オルデン・デ・カバリュア・ドミニオ)は、対帝国同盟「カイト」への参加を表明する!!」


高らかにサクラ・アベアクアティカが宣言すると共に、ときの声がき上がる。


「「モディアブル騎士団領(オルデン・デ・カバリュア・ドミニオ)ぉぉぉ!!水鳥家に栄光をぉぉぉ!!」」


予期せぬこの加勢に「黒の兵団」(チョールヌィ・コルプス)の士気は上がり、挟撃きょうげきしているつもりが、退路を断たれかねぬ状況に陥るカリスエクェス(聖杯騎士団)。

連携も取れず、足が乱れて行く。


「ええいっ!!隊列を崩すなっ!未だ戦力は五分であろうがっ!!」


セルペンスの叱咤も効果が薄く、自身もテサウルス・プルウィアの護衛に気を割くあまりに、どうも後手に回った感が強い。


「離れるなよ、テサウルスっ!!」


「はっ!」


若き騎士が巧みに騎馬スタリオンを操りつつ、後続に就く。


「…陣形を保ちつつ後退っ!レーギナ(王女)に連絡を取れっ!!」


一端、崩れ始めた陣形はもろい。

ましてや、最も戦慣れをしているとされるモディアブル騎士団領(オルデン・デ・カバリュア・ドミニオ)の「百騎士団(シエン・エヘルシト)」が相手である。


「フルヴィイ・トランシトゥス(河を越えし者)」を介して光転送される聖杯鎧。硬質「セイクレッド(貴煇石)」を使用し、涙滴形大型結界防盾、通称「カリス・アスピス(聖杯の盾)」と同様、強靭な魔道結界を有する、聖杯騎士の防衛能力。


これに匹敵するのが百騎士(シエンカバリェロ)の有する、攻防一体障壁特化「超越器(スペリオール・エスパダ)」である。

エニグマ(幾億の剣)の因子が組み込まれた半生体兵器の制御には、定期的な因子制御ワクチンの投与が必要であり、免疫力の維持が絶対条件である。


この「超越器(スペリオール・エスパダ)」の捕食本能は使用者にも危険を及ぼす。

だが同調指数が高ければ高い程、捕食本能を呼び覚まし、個体としての戦闘能力を増幅する兵器でもある。


百騎士(シエンカバリェロ)の捕食行為時に変容する超越器(スペリオール・エスパダ)(あぎと)に気圧される一同。


中でも、南部内陸最強の「六翼将」たるサクラ・アベアクアティカの操る「ストレイシープ(迷える小羊)」は、規格外の「カンビオ(特異)個体」であり、超長距離射程の精密顎射に特化している。


撃ち出す顎弾は瞬時に自動生成され、連射可能。固有性能の追尾により、回避困難な代物である。


ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドゴォォォーン!!!


それが次々に聖杯鎧を射抜き、聖杯騎士達を落馬させてゆく…。


…もはや趨勢すうせいは決したかに見えた。


「マゥル様っ!もはや、これ以上の戦場の維持は困難!一端引いての後、陣形を立て直しましょう!」


アモル・ハヴァーキーにさとされ、やむ無くマゥルは、それに従う他なかった。

戦況はあきらかに不利であり、お飾りのレーギナ(王女)に決定権が無いことはわきまえている。


「分かりました…今は引きましょう。」


それは挟撃の選択が裏目に出た結果だ…。


だが、それをみすみす見逃す手も無い。

背を向けて逃走を開始する騎馬スタリオンを追い、リョウ・ギアラルもまた手綱を取り疾走する。


「…ここでレーギナ(王女)を押さえる事が出来れば、ソウマの後顧の憂いを断てる筈っ!」


少しでも早くっ!


その身に装着する、緋に染まった重鎧「プーニケウスアーラ(紅翼)」をフィニス(解除)し、光と共に霧散させる。


もっと早く!!


聖杯騎士の象徴でもあるカリス・アスピス(聖杯の盾)を捨て去るのに、もはや何の躊躇いも無し。

それが地に陥ち、駆け抜ける速度が跳ね上がる。


だが、後僅かで手が届くと思われたその刹那、レーギナ(王女)マゥル・ウァルティアン・キアの肉体が力を失い、騎馬スタリオンより崩れ落ちた。

リョウは驚愕に目を見開く。


…予定が狂ってしまったのだ。


本来であれば、混乱戦の最中に命を奪う計画であったものを…だが、この期を逸してはチャンスは二度と訪れぬ。

だが、機にはやった感もある。まさか、モディアブル騎士団領(オルデン・デ・カバリュア・ドミニオ)が敵対するとは、ハヴァーキー家の長老達の妨害工作がこうそうさずか?


とは言え、撤退戦に乗じ、何者かに命を奪われたとすればいい。

目撃者は後々、始末すれば問題は無い。

彼女さえ居なければ、ハヴァーキー家の正統な王位継承権を主張出来るのだから。


呪わしい「火の血」を持つ異端のレグルス(王太子)など如何様いかようにでも出来る。


並走するマゥルに、何の警戒心も無い。それはそうだ。常に彼女の身を案じる素振りを演じて来たのだから…。

その身を案じつつ、我らの障害たるドゥクスエクエス(騎士団統括長)アストラル・ヴィ・アンゲリ、またキアレークス(國王)ルゥライ・ウァルティアン・キアの画策する情報を教皇会(プロヴェデンティア)漏洩ろうえいせしめてきたのだ。


全ては、我等一族の永年の悲願達成の為に…。


ズサッッッ…!!


アモル・ハヴァーキーの細剣「ファウンテン(清き噴水)」がマゥルの胸を貫いていた。


信じられぬ顔のまま、マゥルは無造作にも落馬した。

我が身に何が起こったのかも定かではない。


「アトマ・イシム(麗人)」因子による過剰細胞活性化(毒)が全身を蝕み、呼吸困難とショック症状を引き起こす。血液が全身で凝固していた。


…ああ、そうか。

ただ、もう一度だけ、私はソウマ兄さんの顔を見たかっただけなんだ…。


「貴様あああぁぁぁ!!」


迂闊うかつ


引き離したと思われたリョウ・ギアラルの怒声が、アモル・ハヴァーキーの心臓を鷲掴みにした。


まさか、あやつに目撃されたと言うのかっ!?


あろう事か、南部内陸最強の「六翼将」に数えられる男。鬼の形相で突進をしてくる。

勝機があるとすれば、奴は防具を身に付けていないと言う一点のみ。


「私の剣を覆う霊質は…ほんの一掠ひとかすりでも全身を麻痺させる。貴様を倒せば、私が次の六翼将だっ!!」


水滴(クリスタロス)の剣陣。


アトマ・イシム(麗人)因子を以って、澄み切る心を水面に転化し、踏み入る害悪を水滴に見立て、その攻撃の波を見切り防ぐ。

防ぐと同時に、過剰細胞活性化(毒)による致命傷を繰り出す。


「貰ったっ!!」


ガシャャャ…ンン!!


だが、アモル・ハヴァーキーのカリス・アスピス(聖杯の盾)は破壊点を突かれて粉砕され、その衝撃にあがらえきれず吹き飛ばされ、落馬した。


「ぐえっっっ!?」


体勢を立て直す前に、その細剣「ファウンテン(清き噴水)」は右手首と共に、易々と切り飛ばされていた。


ズシャャャャッ!!


「あああぁぁぁ…私の右手がぁぁぁ!?」


リョウの細剣「シルヴァヌス(荒地の精)」はまだ止まらない。

常人にその刃速を読むことなど能わず。読めたにせよ、人の反射神経と感応を上回る応酬に対応出来る筈も無い。


「やっ、やっ、やめろぉぉおおお!!」


アモルの左腕が半ばから断ち切られ、血潮を撒き散らす。


「その罪、死しても償えると思うなっ!!」


グシャッッッ!!!


馬上よりの断罪の剣を受け、紫紺に彩られた重鎧「オクトトロヌス(八座)」が朱に染まった。

だが、物言わぬ(むくろ)に応える言葉は無い。


それはマゥル・ウァルティアン・キアも同様。

抱き上げるリョウの(かいな)の中で、悲運のレーギナ(王女)を夕陽が赤く染め上げていた…。

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